ヘテロ原子を含んだ大環状化合物は天然に数多く存在し, 重要な天然色素を形成している。そのほとんどはポルフィリン誘導体であり, 基本構造のポルフィン核をもっている。もっとも知られた例はクロロフィルとヘモグロビンの活性部分であるヘムであり, 他の多くの化合物をこの2つから導くことができる。この基本構造のポルフィン自体極めて興味ある物質であるが, また天然にも, 合成によっても非常にバラエティーに富んだ類似体が得られ, 分子量の異なるもの, 対称性の異なるもの, 反応性の異なるものなど研究対象によって幅広い選択が可能である。物理的にも非常に様々の興味ある性質をもっており, これら化学的, 物理的に変化に富んだ性質は生体内の複雑な現象と結びついているわけで, とりわけ生体内のエネルギー伝達と関連して, 触媒作用, 有機半導体, 光化学反応などに恰好のモデル物質を提供してくれる。またフタロシアニン類は美麗な色相と優秀な堅牢性によってすでに有機顔料の中でも際立った地位を占めているが, 構造がポルフィンに似ていることから前記モデル物質の1つとして非常にしばしば利用されている。フタロシアニンが非常によく取り上げられていることの1つには, フタロシアニンの合成が比較的容易なことが大きな理由であろうが, 逆にポルフィン合成がしばしば困難であり, また精製も容易でないことが材料としての大きな妨げとなっている。この分野で数多くの新しい化合物を合成しているLinsteadは, 1953年の講演でさらに多くの新しい環状化合物の出現を望むことをその結びで述べている。本稿では主としてこれまでのポルフィリン類似化合物の展望を試みるわけであるが, 一つの見方として芳香族性を中心として主に共役系大環状化合物について概観してみようと思う。
Sondheimer一門が種々のシクロポリオレフィン (アヌレン) を開発して以来, 大環状化合物とその芳香族性に関する研究は画期的な進歩をとげ, 特に現在芳香族性の実験的基準として最も威力を発揮しているNMRとの関連において新しい芳香族性の概念を導入している。ポルフィンは共役した大環状化合物であり, NMRスペクトルから芳香族化合物であることが確認されているが, ポルフィン等の性質, 反応性がπ電子の環状非局在性すなわち芳香族性と結びついていることから, ポルフィンに類似した形をもつ化合物を合成しようとする試みを芳香族性と結びつけて概観することも興味あることと思われる。
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