ヘキサフルオロベンゼンをはじめとする多フッ素化芳香族化合物が1960年代になって比較的容易に合成できるようになった結果, それらの誘導体の化学もいちじるしく発展した。そのなかでも金属およびメタロイド誘導体は, 通常のハイドロカーボン系の有機金属化合物はもちろん, 脂肪族フルオロカーボン系のそれと比較しても熱的, 化学的に安定なものが多いことがわかり, ハイドロカーボン系ではえられない型の金属化合物も合成されるに至った。このようにして多フッ素化芳香族金属化合物の化学はさいきん多くの研究成果が発表され, 有機および無機フッ素化学における新しい分野の1つとして注目されている。
この方面の総説のおもなものとして, 1966年にChambersとChiversがペンタフルオロフェニル金属化合物についてまとめており, またさいきんでは1970年にCohenとMasseyが金属およびメタロイドのポリフルオロ芳香族誘導体について執筆している。とくに後者は1969年はじめまでの引用文献332を含む200余ページにおよぶ詳細なものである。わが国ではいまだこの分野について書かれていないようなので, 著者らはなるべく上記のものとの重複をさけ, さいきんの報告をとりいれて紹介したい。もちろん現在までに発表された研究結果を網らするレビューをつくることは与えられた紙数では不可能であり, 材料を重点的に取捨したことをおことわりしておく。
抄録全体を表示