トリメチレンメタンのESRスペクトルがDowdによって種々の条件で観測され (1966~68年), 基底状態において縮重した三重項であることが明らかになり, 以前に行なわれた多くの理論的計算結果が裏付けられた。
それ以来, トリメチレンメタンの構造は平面三重項と信じられて来たが, 最近のDoering, GajewskiおよびDolbierらのメチレンシクロプロパン類の熱異性化の機構の研究によって, アリルラジカル部の作る平面に対して直交した平面内にあるメチレンラジカルが, 中央の原子に結合している一重項のトリメチレンメタンが中間体として仮定され, それによってかなりの事実を説明出来ることが示されてきた。
本稿では, 4-メチレンーΔ
1-ピラゾリン類の光および熱分解によるトリメチレンメタン類の生成と反応性, およびメチレンシクロプロパン類の熱異性化の機構について述べる。
1969~70年に筆者がフロリダ大学のDolbier教授のグループでシクロプロピリデンシクロアルカン類の熱異性化の研究をする機会を持ち, その結果として, 筆者らは直交した一重項のトリメチレンメタンを中間体とする機構を提出し, 本稿に関する事柄に興味を持ったことを付記しておきたい。したがって, 筆者の立場に立って種々の事柄を説明している傾向が強く, 他の説明法の解説を省略している場合が多くあると思われるので, 読者の御批判を頂ければ幸いである。
なお, トリメチレンメタンとFe (CO)
3の錯体生成とその反応など興味ある分野があるが, それらは割愛させて頂いた。本稿の依頼をお受けした後にDowdによる総説が
Accounts of Chemical Researchにあらわされ, また1970年にはWeissの総説があるので, これらを参考にして頂ければ幸いである。
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