日本作物学会紀事
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74 巻, 1 号
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研究論文
栽培
  • 古畑 昌巳, 楠田 宰, 福嶌 陽
    2005 年 74 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    打込み点播機での播種を想定し, 湛水土中直播した水稲の出芽・苗立ちに及ぼす播種後の落水の影響を調査した. 過酸化カルシウム剤被覆種子を代かき土壌中に播種した後に落水を行うと (落水区), 表層土壌では, 土壌水分 (液相) が低下すると同時に土壌収縮によって固相が増加し, 気相が生じて通気性は向上した. また, 落水区では, 湛水状態とした湛水区に比べて出芽後, 鞘葉, 第1葉 (不完全葉) は早く伸長を停止し, 同時に第2葉の抽出は早まり, 茎葉部と根の乾物重が高く推移した. 一方, 湛水区では, 表層土壌の構造, 通気性に変化はなく, 鞘葉, 第1葉ともに出芽以後も伸長を続ける一方で, 第2葉の抽出は遅れた. 以上の結果, 過酸化カルシウム剤被覆種子を代かき土壌中に播種した後に落水を行うと, 土壌通気性の向上により, 出芽後の初期成長が促進され, 安定した出芽・苗立ちが可能になると推察された.
  • 古畑 昌巳, 楠田 宰, 福嶌 陽
    2005 年 74 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    打込み点播機での水稲湛水土中直播を想定し, ポットに湛水土中直播した水稲を用いて代かき程度が播種後の落水条件下における出芽, 苗立ちに及ぼす影響を検討した. 過酸化カルシウム剤を被覆した水稲種子を湛水土壌中に播種した後に落水すると, 落水後の表層土壌における三相分布と土壌構造は播種前の代かき程度によって大きく変化した. また, 標準代区の3倍の時間をかけて代かきを行った3倍代区では標準代区に比べて落水後の土壌の保水性は高く, 通気性は低かった. 3倍代区は標準代区に比べて落水2週間後の苗立ち率が低く, 茎葉部および根部の乾物重も小さかった. そして苗立ち率の低下, 乾物重増加の抑制は播種深が深い場合および麦稈施用した場合に顕著であった. 以上の結果, 実際の圃場において湛水土中播種後の落水によって安定した出芽・苗立ちを図るためには, 特に播種深が深い場合や圃場で麦稈が施用された場合には, 過度の代かきを避ける必要のあることが示唆された.
  • 荻内 謙吾, 作山 一夫
    2005 年 74 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    岩手県で秋播性コムギを根雪前に播種する冬期播種栽培において, 窒素肥料を播種と同時に基肥として土中に側条施用する方法 (以下, 播種時施肥という) と, 根雪期間が終了した融雪期に表面施用する方法 (以下, 融雪期施肥という) について, 「ナンブコムギ」を用いて検討した. 成熟期の生育量と子実収量は, 播種時施肥が融雪期施肥よりも多い傾向にあった. 播種時施肥において, 播種時の窒素施用量を増やすに従い子実収量は多くなり, 特に播種時 10 g/m2 施用では慣行の秋播栽培と同等以上となった. これは, 播種時施肥では越冬後に出芽した時点で十分な量の肥料が既に溶出しており, 窒素吸収が早まったために初期生育が促進され, 栄養生長量が増加したことが要因と考えられた. 播種時施肥における子実の粗タンパク質含有率は 11%以上と高く, 播種時の窒素施用量の増加や止葉期の追肥によりさらに高くなった. 播種時施肥は, 融雪期施肥に比べ外観品質がやや優り, また多肥にしても慣行の秋播栽培で問題となる倒伏がみられなかった. これらのことから, 冬期播種栽培の窒素施肥法は, 全量を基肥として側条施用する播種時施肥が適し, その量は収量性と品質を考慮すると慣行の秋播栽培と同量から 25%増の窒素成分で 8-10 g/m2 が妥当である.
  • 坂田 清華, 大澤 良
    2005 年 74 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    普通ソバ(Fagopyrum esculentum Moench)の水田転換畑栽培では湿害による減収が問題となっている. しかし, 同一品種・系統において発芽から収穫までの湿害の発生を把握した例は無く湿害発生の実態は不明である. 本研究では, 播種当日と播種後3日目, 本葉期, 開花期, 成熟期の各時期に, 夏型, 秋型, 中間型10品種・系統について, 湛水処理を受ける時期の影響ならびに湿害の程度と品種間変異について調べた. その結果, 草丈や種子数, 乾物重などは, 播種から本葉期までの生育初期の湛水処理で強く抑制され, 開花期以降の生育後期で受ける湛水処理では抑制されなかった. 出芽に関しては, 播種当日処理よりも播種後3日目処理で出芽率は低下し, 播種から出芽までの短期間でも湛水処理の影響は異なった. 15℃, 20℃, 25℃の各温度で湛水処理開始時の根長と出芽率との関係を調べたところ, 温度に関係なく根長30-70 mmで出芽率は低下した. また, 15℃, 20℃下の低温で処理期間の短い湛水処理では, 根長約3 mmでも出芽率は低下し, これらの状態が普通ソバにおける湛水処理に弱い状態だと分かった. 以上, 普通ソバでは生育後期に比べ生育初期での湛水処理が生育を強く抑制すること, 特に播種期での湛水処理は出芽率の低下に加え, その後の生長を抑制することが明らかになった. 耐湿性ソバ品種の育成には, 最も湿害の現れやすい播種期, 特に湛水処理に弱い根長約3 mm, もしくは30-70 mmで湛水処理に耐えるか回避する能力が必要となると考えられる.
品質・加工
  • 杉浦 和彦, 坂 紀邦, 工藤 悟
    2005 年 74 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    糯米は切り餅, 米菓に加工されることが多いため, 食味及び加工適性が重視されている. 加工適性のうち餅硬化性は, 製造時間の短縮につながる品質要因として重要視されている. そこで, 良品質な糯品種を簡易に育種選抜するために餅硬化性及び食味の簡易評価法を検討した. 餅硬化性の評価法にはラピッド・ビスコ・アナライザーを用いた方法がある. しかし糯米の場合, 内生α-アミラーゼ活性を抑えるため, 劇物である硫酸銅が主に使用されている. そこで, 劇物を用いない方法として塩化ナトリウムの添加を検討したところ, 硫酸銅水溶液と塩化ナトリウム水溶液の各糊化特性値に相関が認められた. 一方, 糊化開始温度及びピーク温度と餅硬化性との間に相関が認められたため, 両温度は餅硬化性の選抜指標となると考えられた. 玄米タンパク質含量は食味総合評価, 滑らかさ, うま味及び粘りとの間に有意な負の相関が認められた. このことから, 玄米タンパク質含量が低い品種・系統ほど切り餅食味が優れることが示唆された. 玄米タンパク質含量は, 近赤外分析計により少量で推定が可能であるため, 切り餅食味の優れる糯品種育成の一次選抜の指標となると考えられた.
  • 法邑 雄司, 鈴木 忠直, 條 照雄, 安井 明美
    2005 年 74 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    産地の明らかな日本産10点, 中国産5点の黒大豆「丹波黒 (新丹波黒の突然変異種1点を含む)」計15点の種子をマイクロ波試料分解装置により酸分解し, 1%硝酸により試料溶液を調製したのち, 誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS法) によって9元素 (Al, Mn, Ni, Cu, Zn, Sr, Ba, Rb, Cs) を定量した. 日本産, 中国産の産地の違いを反映し, 濃度に有意差があった7元素 (Al, Ni, Cu, Sr, Ba, Rb, Cs)の含量組成を階層型クラスター分析 (Ward法) 及び主成分分析で解析した結果, 日本産と中国産が良く分離し, 無機元素組成の差異によって「丹波黒」の産地表示の信憑性を検証できることが示唆された.
品種・遺伝資源
  • 間野 吉郎, 村木 正則, 藤森 雅博, 高溝 正
    2005 年 74 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    耐湿性には複数の要因が関与しており, そのうち湛水条件下において地表に不定根を形成する能力は過剰水分に対する重要な適応要因のひとつと考えられている. トウモロコシ自殖系統とその近縁種のテオシントの幼植物について, 湛水条件下において地表に生じる不定根量の変異を調査すると共に2つの交雑集団を用いて不定根形成能の遺伝解析を行った. 幼植物を2週間にわたって湛水処理を行った際の地表に生じる不定根の量には, 供試した43系統において系統間差異が認められ, テオシント2系統の不定根形成量はいずれも多かった. 不定根形成量の反復間相関係数は0.749と1%水準で有意であり, 再現性が認められた. 不定根が形成されにくいトウモロコシ自殖系統B64と形成されやすいテオシントZea mays ssp. huehuetenangensisのF2, F3交雑集団, およびB64と不定根が形成されやすいトウモロコシ自殖系統Na4のF2, F3交雑集団のいずれにおいても不定根形成量は連続的な変異を示し, 複数の遺伝子に支配されていると考えられた. B64とZ. mays ssp. huehuetenangensisおよびB64とNa4のF2とF3の不定根形成量の相関係数から推定した遺伝率はそれぞれ0.357と0.405, 回帰係数から推定した遺伝率はそれぞれ0.139と0.301であった.
  • 岡崎 和之, 大潟 直樹, 田中 征勝
    2005 年 74 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    テンサイ黒根病は, 肥大した根部に黒色の根腐れ症状や粗皮症状を引き起こす化学的防除が困難な土壌病害である. これまで, 黒根病抵抗性の選抜および評価は, 現地の発病ほ場を用いて行ってきたが, 発病程度に年次間差が大きく, 再現性の問題が認められていた. そこで, 本実験では, 安定的に黒根病抵抗性を検定するための遊走子を用いた人為接種法を検討した. 試験区は遊走子区, 多灌水区および対照区の3処理区を設け, 黒根病抵抗性が異なる3品種を用いて試験した. その結果, 遊走子区は品種の平均黒根症状指数が1.8と対照区より明らかに高かった. 一方, 多灌水区の平均黒根症状指数は0.7と低く, 多灌水処理による影響は小さかった. 遊走子区における供試材料の黒根症状指数は, 「カブトマル」 が2.6, 「モノホマレ」 が1.9, 「ユキヒノデ」 が0.9と, 明らかな品種間差が認められた. これらの品種間差は現地発病ほ場の結果と一致し, 現地ほ場に比べて均一な発病が認められた. 以上の結果から, 遊走子接種と多灌水処理を組み合わせた本手法は, 黒根病の抵抗性検定に用いる手法として有効と考えられ, 抵抗性品種の選抜・育成に貢献することが期待できる.
  • 藤井 敏男, 吉田 智彦
    2005 年 74 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    アマチャ新品種の育成ならびに栽培法の確立を目指すため, まずアマチャがアジサイ属の中で形態, DNA量, 染色体数, 分子マーカーなど多方面からみた総合的な特性でどのような特徴を持つのかを知ろうとした. 供試品種はアマチャ (Hydrangea macrophylla Ser. var. thunbergii Makino) やアマギアマチャ (Hydrangea macrophylla Ser. var. amagiana Makino) などのアマチャ群の4品種を含むアジサイ属の代表的な25品種である. 形態的特性, フローサイトメーターによるDNA量, 根端細胞観察による染色体の調査, およびSSR分析を行い, それらにもとづき主成分分析を行った. この結果, アマチャ群の品種を総合的な特性からみると, 他のアジサイ属品種と比較的似ており, アジサイ属のなかで特異的ではないことが認められた. しかしアマチャ群の品種間でも染色体数に変異が見られ, また収量を構成する葉数や生育に適する光の強さなど実用上意味のある差異が見られた. アマチャ群の品種間およびアジサイ属品種との交雑や倍数性育種による多収高品質の新品種育成の可能性を示唆した.
作物生理・細胞工学
  • 前田 忠信, 久保 二郎, 平井 英明
    2005 年 74 巻 1 号 p. 58-64
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    2001年から2003年にかけて堆肥連年施用有機水田において, 堆肥の施用量と水管理を異にして, 水稲の生育, 収量と, 温室効果ガスの発生について検討した. 化学肥料を全く用いないで堆肥を200 kg/a連年施用した堆肥標準区では, 化学肥料を使用した慣行多肥栽培の対照区と比較して生育と収量が劣ったが, メタンの発生は対照区と同程度かやや増える程度であった. 堆肥多量区では堆肥500~1000 kg/aを連年施用することによって生育量と収量を増加させることができたが, 同時に多量のメタンの発生を促進させた. 湛水制限を行った堆肥多量・制限区では酸化還元電位が高まり, メタンの発生を抑えることができた. 収量は堆肥多量区と比較して若干減少した. 極端な低温と日照不良の年では, 窒素の供給が多い堆肥多量区, 堆肥多量・制限区の生育は比較的よかったが, 穂いもちの発生が多く, 堆肥を多量に施用しても収量を増加させることはできなかった. 湛水制限を行った堆肥多量・制限区では, 酸化的な状態と還元的な状態が繰り返されることによって亜酸化窒素が発生する可能性が考えられたが, 本試験では発生はほとんど認められなかった. 以上の結果から, 無化学肥料の水稲有機栽培における収量は, 好天候の年であれば, 化学肥料を用いる慣行多肥栽培より劣るものの, 多量の堆肥施用により, 慣行多肥栽培に近い収量が得られた. メタン発生も多くなったが, 湛水を制限することによってメタンの発生を抑えられることが明らかとなった.
  • 楊 重法, 井上 直人, 藤田 かおり, 加藤 昌和, 萩原 素之
    2005 年 74 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    イネの登熟前期 (穂揃期から穂揃期後2週間までの期間) における茎葉部に貯蔵された物質の再転流速度と気温との関係を表す簡易なモデルを構築するために, タカナリ, IR72, 三桂草, Ch86, IR65564-44-2-2, 日本晴, 竹成, Banten, WAB450-1-B-P-38-HBの9品種を北上, 伊那, 松江, 京都, 中国の南京と雲南省永勝県濤源卿濤源村 (2002年のみ), タイのチェンマイとウボンで2001年と2002年に栽培した. 茎葉部に貯蔵された生理的に転流可能な物質の登熟前期における再転流速度を酵素分析法で測定し, その期間における気象要因との関係を解析し, 特に密接な関係が認められた気温および気温日較差との関係を検討した. (1) 最低気温, 最高気温および平均気温を比較すると, 最高気温と再転流速度との関係が最も深く, 再転流速度が最も高くなる日最高気温 (最適気温) は31℃付近にあることが明らかになった. (2) 気温日較差と再転流速度との間には有意な正の相関関係があった. (3) 再転流速度と日最高気温との関係は2つの指数関数を組み合わせた簡易な非線形モデルによって表現できた.
研究・技術ノート
  • 宮野 法近, 鈴木 保宏
    2005 年 74 巻 1 号 p. 72-75
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/28
    ジャーナル フリー
    低アミロース米品種「たきたて」では, 胚乳のアミロース含量や白濁程度などの品質変動が流通上の問題となっている. そこで, 品質安定化の指針にするために2003年に栽培した試料のアミロース含量や水分含量と, 精米白度との関係を検討した. 宮城県内10地点, のべ165点の平均アミロース含量は低温年のため, 12.4%と高かった. 15%前後の水分含量ではアミロース含量が変化すると白度が変化したが, より乾燥が進んだ14%以下の場合ではアミロース含量に係わらず白濁する傾向が高かった. また, アミロース含量がほぼ一定の場合では, 水分含量と白度の間に負の相関が認められた. これらの結果は, 白度はアミロース含量ばかりでなく水分含量にも大きく影響されること, そして米の水分含量の調整の徹底を図ることで, 栽培年度内の白度(品質)の変動を少なくすることができることを示している.
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