AUDIOLOGY JAPAN
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52 巻, 6 号
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総説
  • —最近の動向—
    細井 裕司
    2009 年 52 巻 6 号 p. 563-570
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/20
    ジャーナル フリー
    語音聴力検査に関する研究の最近の動向を知る目的で, 最近10年間の内外の原著論文を分析検討した。検討対象は, 掲載誌, 研究目的, 研究対象, 研究方法, タイトルに含まれる用語などである。その結果, 研究の目的は補聴器や人工内耳の評価が最も多かった。次いで, 症例報告の中で語音聴力検査結果を示す場合のような単純記載が多く, 語音聴力検査結果を深く分析する研究は少なかった。大部分の研究が語音聴力検査をことばの聞き取り, 聞き分け能力を測定することによって社会生活における不自由度を推定するために行われており, 難聴の鑑別診断のために使用された研究は少なかった。この10年間の研究動向を30年前の語音聴力検査研究動向と比較すると, 難聴の鑑別に資する目的が大幅に薄れたことがわかる。社会の高齢化に伴い難聴者の増加が予想され, 語音聴取能力の評価法としての重要性はますます増していくと考えられる。
原著
  • —自己評価と家族による評価—
    鶴岡 弘美, 増田 佐和子, 臼井 智子, 服部 琢, 竹内 万彦
    2009 年 52 巻 6 号 p. 571-579
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/20
    ジャーナル フリー
    成人人工内耳装用者12名に語音聴取検査, きこえについての質問紙2002, アンケート, 難聴者としての位置づけに関するVAS (visual analog scale) による評価を行った。家族にも同様のアンケートとVASを行った。語音聴取成績と失聴期間との間には負の相関が認められた。聴取成績と質問紙の評価点では聴覚のみでの単音節聴取と「わるい条件」のきこえにくさとの間に正の相関, 聴覚と視覚併用の単語聴取と「行動」との間に負の相関が認められた。アンケートではほとんどの装用者と家族が人工内耳は有効で満足であるとしたが, 維持費や騒音下での聴取などへの不満もみられた。VASは個人差が大きかったが聴取成績良好群の家族に評価は装用者に比べ有意に高く, 不良群では多くの家族が装用者より低い評価をした。装用者と家族の評価のギャップや現実的な問題が明らかになり個々の状況に即したきめ細かい対応の必要性が示された。
  • 中津 愛子, 橋本 誠, 菅原 一真, 下郡 博明, 廣瀬 敬信, 池田 卓生, 山下 裕司
    2009 年 52 巻 6 号 p. 580-587
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/20
    ジャーナル フリー
    新生児聴覚スクリーニングを経由しない難聴児28名の診断に至る経緯を調査し, 問題点を検討した。リスクファクターのない重・高度難聴児13名のうち, 親が難聴に気づき, 0歳代で診断されたのは3名にすぎなかった。しかし, 親がことばの遅れに気づき, 1歳6か月児健診や3歳児健診で精査を勧められた児は8名であった。これらの結果から, 新生児聴覚スクリーニングを受診していない児にはとくに聴覚発達チェックリストの活用と1歳6か月児健診や3歳児健診における聴覚チェックが重要であると考えられた。
    リスクファクターのある児のうち, 小児科からの紹介で定期的に聴覚検査を受けた8名は早期に診断されていた。とくに, 先天性横隔膜ヘルニアの3名には定期的な聴覚検査によって進行性難聴を検出することができた。リスクファクターのある児には遅発性・進行性の難聴の可能性も考えられるため, 早期からの定期的な聴覚検査が重要であると考えられる。
  • 鈴木 恵子, 岡本 牧人, 鈴木 牧彦, 佐野 肇, 原 由紀, 井上 理絵, 大沼 幸恵, 上條 貴裕, 猪 健志
    2009 年 52 巻 6 号 p. 588-595
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/20
    ジャーナル フリー
    『きこえについての質問紙2002』のうち “聞こえにくさ” に関わる10項目を, 補聴器適合のための主観評価法として応用することを目指し, 補聴器装用者232例 (軽~高度難聴), および補聴器適合を行った軽中等度難聴82例 (補聴器装用前・装用後ともに資料あり) の回答を解析した。解析結果をもとに, 軽中等度, 高度の群別に得た各項目の回答スコアの中央値, および装用前からの1以上のスコア軽減を評価基準とする補聴器適合のための評価表を試作した。中央値以下のスコアを得た項目数が, 補聴器に対する全体としての満足度, および装用時の語音明瞭度と有意な正の相関を示し, スコアの中央値を評価基準とすることの妥当性が示唆された。以上から, “聞こえにくさ” 10項目と評価表を, 適合評価のために応用できると結論した。
  • —健聴者と難聴者の雑音下の語音了解閾値を用いての検討—
    上前 牧, 松平 登志正, 井上 ひとみ, 関谷 芳正
    2009 年 52 巻 6 号 p. 596-601
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/20
    ジャーナル フリー
    指向性マイクを有する補聴器を装用すると, 雑音環境下の語音聴取が改善する利点がある反面, 側方や後方からの呼びかけや警告音, 環境音などが聞き取りにくくなる欠点がある。この問題点の改善策として, 片耳のマイクを指向性, 対側耳を無指向性とする非対称指向性補聴器フィッティングが提案されているがその有効性の評価は報告により異なっている。そこで今回, 難聴群13例と健聴群28例を対象に, 両耳に補聴器を適合し, 両耳無指向性, 両耳指向性, 非対称指向性の3つ (健聴者は裸耳条件を含めた4つ) のマイクロホン条件について, 語音が前方から雑音が側方と後方から入射する場合の雑音下の語音了解閾値 (SRT) を測定し比較した。その結果, 非対称指向性条件では, 両耳無指向性条件に比べた雑音下のSRTの改善度が平均1~1.5dB低下したが, 依然として約3dBの指向性効果が認められた。この結果は, 非対称指向性の補聴器フィッティングにより, 指向性の効果を維持しつつ環境音などの聴き取りも改善できる可能性を示唆する。
  • —補聴器装用児1例との比較—
    森 尚彫, 森 壽子, 川崎 美香, 黒田 生子, 藤本 政明, 伊藤 壽一
    2009 年 52 巻 6 号 p. 602-611
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/20
    ジャーナル フリー
    人工内耳 (以下CI) 装用児4例と比較対照の補聴器 (以下HA) 装用児1例の長期的な発達経過から, CI装用児の構音能力に関する知見をえた。
    今回の症例では, CIを2歳代で早期に装用した症例は, 健聴児と同様な構音発達がみられ, 6歳代でCI装用開始した症例は, CI埋め込み術時の言語・知能の状態によって構音の発達速度に差がみられたが, 構音能力は改善した。7歳代以降にCI装用した症例は, CI装用後の構音の改善は緩やかであり, 構音困難な音が残存した。
    これらから, CI装用効果には, CI装用年齢とCI装用年数の与える影響が大きいと考えられた。また, 構音能力は言語能力を基盤に発達していると考えられ, CI装用児の構音の獲得については, 健聴児の構音が完成するとされる6~7歳頃までに多くの聴覚情報が得られているかが重要であると考えられた。
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