日本作物学会紀事
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71 巻, 1 号
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  • 幸田 泰則
    2002 年 71 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    バレイショの塊茎形成は日長に左右され,短日条件は促進的に働き,長日条件は反対に阻害する.筆者らは塊茎形成を引き起こす塊茎形成物質として,バレイショの葉からチュベロン酸とそのグルコシドを単離した.一方,ジベレリンは塊茎形成を強く阻害し,その減少が塊茎形成の必要条件であることが知られている.したがって直接的に塊茎形成を引き起こすのは,植物体内で生じたチュベロン酸類の増加とジベレリンの減少であると考えられる.チュベロン酸はジャスモン酸(JA)の酸化物の一つであり,JAもまた強いバレイショ塊茎形成活性を示した.JAは表層微小管の配列方向の変化,細胞内のショ糖蓄積による浸透圧の増加及び細胞壁多糖類の合成促進を介して細胞肥大を促進し,それにより塊茎形成を引き起こす.JAはまたナガイモやキクイモの塊茎形成,及びダイズの茎の伸育停止にも関与していることが判明した.更にJAやチュベロン酸などのJA類は,タマネギやニンニクの鱗茎形成,巻きひげのコイル形成,二年生植物の貯蔵根の形成とロゼット型の維持,及び花粉の発育などの様々な形態形成にも関わっていることが示唆されている.JAは遊離のリノレン酸から合成され,12-oxo-PDAまでの生合成経路の前半部の代謝は色素体で行われると考えられている.また植物体内のJA含量は傷害によって急速に増加し,それによって様々な防衛反応が生じることも知られている.
  • 松島 憲一, 脇本 賢三, 吉永 悟志, 田坂 幸平, 大森 博昭
    2002 年 71 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲栽培において苗を食害するスクミリンゴガイ(Pomacea canaliculata (LAMARCK))防除に効果のある石灰窒素が湛水土中直播水稲の出芽に及ぼす影響をポット試験で調査した.酸素発生剤(カルパー粉粒剤16)無被覆の種子の場合,石灰窒素の散布により出芽阻害が見られたが,被覆した種子では障害は見られず,むしろ,石灰窒素の量が増えると最終出芽率が高くなる傾向にあった.また,土壌溶液中のカルシウムシアナミド濃度を測定し経時変化を調べたところ,代かき直後に比べて,4日後ではカルシウムシアナミド濃度が27%~17%まで減少した.さらに,麦稈を鋤込んだ土壌に石灰窒素を散布した場合も,無被覆種子では麦稈および石灰窒素の影響を受け,出芽が悪くなったが,被覆種子は若干の差はあるものの,概ね高い出芽を得られた.以上の結果,石灰窒素を散布した土壌において湛水直播を行う場合は酸素発生剤の被覆により薬害(出芽障害)を回避できることが判明した.
  • 三浦 邦夫, 和田 義春, 渡辺 和之
    2002 年 71 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    コンニャク各器官の乾物と葉面積の増加に着目しつつ,1年生種球茎,2年生種球茎から発育した個体の生育経過を調査した.また地下部の肥大器官である球茎重と生子重の関係を個体当たり生子数に着目して検討した.1年生個体の葉面積は開葉後43日頃最大となったが,比葉重は生育後期まで増加した.個体当たり生子数は開葉後約20日頃に決定した.全重は開葉後90日までほぼ直線的に増加したが,地上部重は葉面積が最大となった開葉後43日頃に最大となった.一方,球茎重は全重と同様,開葉後10日頃からほぼ直線的に増加した.生子数は1,2年生とも品種間でほとんど相違なかったが,どの品種でも2年生種球茎の方が多かった.平均生子1個重は1,2年生種球茎それぞれ10.4g,15.4gであった.開葉後の葉面積およびその後の各器官の生育量は1年生種球茎に比較して2年生種球茎で著しく大きいが,基本的な生育パターンは類似していた.生子重と球茎重との関係から,個体当り生子数が多くなると生子重が大きくなり,球茎重が減少することがわかった.これらの結果は,地下部肥大器官である球茎と生子との間に競合関係が存在することを示唆した.開葉後7日後に新球茎に着生する側芽を切除処理すると,葉面積や地下部重には相違がなかったが,球茎重は無処理区に比べ有意に大きくなった.これらの結果から,生子数を減少させることにより球茎重を増加させることが可能なことを示唆した.
  • 三浦 邦夫, 和田 義春, 渡辺 和之
    2002 年 71 巻 1 号 p. 24-27
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    コンニャクの地下部重増加が光合成産物生産に規制されるか否かについて調査した.小葉柄を切除して葉面積を減少させると,地下部重の増加は葉面積が小さいほど少なく,葉面積当りの地下部増加重は葉面積には関係なく,約0.2gdm-2-1でほぼ一定であった.遮光処理により葉面積は相対照度15%で約1.5倍になり,地下部重は相対照度50%までは100%区と大差なかったが相対照度25%以下では地下部肥大は低下した.開葉後1週間後から43日間にわたり夜間にも葉面位置で16kLxの光を14時間照射処理して昼夜光合成を行わせると,全重と地下部重は対照区に比べ各々約1.5倍に増加した.このようにコンニャクの地下部器官の乾物重の蓄積には光合成産物の量が関係していると推察された.
  • 和田 義春, 尹 祥翼, 佐々木 裕樹, 前田 忠信, 三浦 邦夫, 渡辺 和之
    2002 年 71 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    日印交雑品種水原287と水原290が畑栽培下で多収となる要因を乾物生産と窒素吸収から日本の代表的な水,陸稲品種であるコシヒカリ,トヨハタモチと比較し解析した.畑栽培条件下では,いずれの品種も水田条件に比べ全乾物生産に占める穂揃期までの乾物生産の割合が高くなったが,コシヒカリでは穂揃後の乾物生産の割合が大きく低下したのに対し,水原287と水原290の低下程度はトヨハタモチと同程度であった.水原287と水原290は供試した日本型品種に比べ,水田条件でも畑条件でも穂揃期までの窒素吸収量が多くシンク形成やソースであるLAIの拡大を有利にし,さらに穂揃後成熟期までの登熟期間中の窒素吸収量が多く,葉の老化が遅く,登熟期の平均LAIが高いことで登熟期のCGRを高く保っていた.また水原287と水原290は,窒素利用効率(乾物重/窒素吸収量)が畑栽培でも水田栽培でも日本型品種より高かった.この日印交雑品種は,畑栽培条件下で窒素吸収量が多いにもかかわらず,葉身,葉鞘と稈および穂の各器官別窒素含有率が日本型品種よりも低い傾向にあった.供試した日印交雑品種は,畑栽培下で草丈が低く,倒伏がみられなかったことも器官の窒素含有率が低かったことと関連すると考えられ,これらの品種の窒素利用効率を高くした要因と考えられた.さらに,水原287と水原290は無降雨続きの土壌水分低下のもとで供試した日本型水,陸稲品種よりも高い光合成速度を示し,これらの品種の高い耐乾性が示唆された.
  • 三浦 重典, 渡邊 好昭
    2002 年 71 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    マメ科牧草のアルファルファ,アカクローバ,シロクローバをリビングマルチとして利用し,除草剤を用いずに不耕起栽培したスィートコーンの生育,収量と雑草の発生状況を2ヶ年にわたって調査した.1998年,1999年とも全てのリビングマルチ区で雑草の発生は顕著に抑制された.しかし,スィートコーンの収量はリビングマルチ牧草の種類によって異なり,スィートコーンの株立ち率の高かったシロクローバリビングマルチ区(WC区)では収量,品質とも慣行栽培区(CV区)と有意な差がなかったが,株立ち率の低かったアルファルファリビングマルチ区(AL区)では収量が著しく低かった.WC区のスィートコーン株立ち率が高かった原因は,シロクローバの草高が低く乾物生産量も少なかったため,出芽や初期生育においてシロクローバとの光や養分に対する競合が小さかったことによると推察された.また,株立ち以降もWC区ではシロクローバの草高が低く,シロクローバの窒素吸収量がスィートコーンの生育にともなって減少したことから,スィートコーンとシロクローバとの間に窒素や光に対する競合はほとんどなかったと推察された.これらのことから,シロクローバによるリビングマルチを利用することで除草剤を用いずにスィートコーンを栽培することが可能であると考えられた.
  • 中野 敬之
    2002 年 71 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    静岡県菊川町における茶芽の生育ステージと耐凍性について,冬から春にかけての推移を10年間調査して,年次間の違いを明らかにするとともに,気温との関連性について検討した.その結果,生育ステージを表す指標としたDTS(25℃ 14時間日長下において茶芽が萌芽するまでの所要日数)は,1月に最も長く15日間以上の値を示したが,その後は採取日が遅いほど短くなり,3月下旬頃には数日間になった.1月下旬の平均気温と2月中旬のDTSには正の相関が認められたが,2月中旬以降の平均気温とその後のDTSには負の相関係数を示すことが多くなった.一方,茶芽の耐凍性を表す指標としたLT50(3段階の低温処理で判定した半数致死温度)は,1月に最も低かったが2月中下旬頃から上昇を始めて萌芽期間近には-5℃以上になった.1月上旬の平均気温とその後のLT50との間には負の相関係数がみられたが,2月下旬以降は正の相関係数を示すことが多くなった.以上の結果,静岡県菊川町では,茶芽の生育ステージの進展は2月中旬以降の気温上昇によって,耐凍性の低下は2月下旬以降の気温上昇によって促進される傾向が認められた.なお,個々のDTSに対するLT50は年次によって異なり,耐凍性の高低は生育ステージの早晩とは別の要因にも影響されていた.
  • 前田 忠信
    2002 年 71 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本田初期に除草剤1回と殺虫剤1回の農薬使用という低農薬水稲栽培条件で,コシヒカリを用いて堆肥連用水田と化学肥料(化肥)連用水田で1991~1994年に栽植密度(密植約25株/m2,疎植約17株/m2)の違いが生育,収量と穂いもち発生に及ぼす影響を検討した.4年間の平均で,堆肥連用・化肥無施用区で密植は穂数が多かったものの,1穂籾数が少なかったため,m2当たり籾数が同程度となって,収量は疎植と同じであった.堆肥連用・化肥少肥区と化肥連用・少肥区では,いずれも密植は穂数が多かったことによるm2当たり籾数の増加によって収量は高かった.化肥連用・多肥区では,密植で穂数の増加によってm2当たり籾数は多かったものの,登熟歩合が低く,玄米千粒重が軽かったことによって,収量は低かった.穂いもちはいずれの生産年においても密植で多く発生し,特に化肥連用・多肥区で発生程度が高かった.害虫の発生程度は密度間には明瞭な差は見られなかった.不良天候年と好天候年で比較すると,両年とも,堆肥連用・化肥少肥区の密植で収量が最も高く,特に好天候年で密植と疎植との差が大きかった.化肥連用・多肥区の密植は,好天候年でも過繁茂で乾物生産の低下,種いもちの多発生で,疎植に比べ収量は低かった.低農薬栽培条件では,密植は堆肥連用・化肥少肥および化肥連用・少肥で穂数の増加によるm2当たり籾数確保に有利に働き収量が高い傾向であった.一方,化肥連用・多肥では,密植は過繁茂,乾物生産の低下および穂いもちの多発生をまねいて収量は低かったことから,低コスト・安定性からも疎植で収量向上を検討する必要があると考えられる.
  • 松江 勇次, 内村 要介, 佐藤 大和
    2002 年 71 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    早晩性を異にする水稲もち極早生2,早生2および晩生2品種の計6品種を供して,餅硬化速度とアミログラム特性の糊化開始温度および出穂後20日間の平均気温(登熟温度)との関係を検討し,糊化開始温度を利用した餅硬化速度の評価方法の適否と餅硬化速度からみた糊化開始温度と登熟温度を明らかにした.いずれの品種も餅硬化速度(数値が小さいほど速度が速い)と糊化開始温度との間には強い有意な負の相関関係が認められ,餅硬化速度が速いほど糊化開始温度は高いことを示した.この結果から,同一品種においても餅硬化速度は糊化開始温度で評価できることが判明した.また,糊化開始温度が62℃以下になると餅硬化速度が1.0以上と著しく遅くなって加工適性は劣った.よってこの糊化開始温度62℃は硬化速度の優れるもち品種育成・選定のための簡易な選抜技術の指標形質として活用できることが示唆された.次に,登熟温度は餅硬化速度との間に強い有意な負の相関関係が,糊化開始温度との間には強い有意な正の相関関係が認められ,登熟温度が高いほど糊化開始温度が高く,餅硬化速度は速くなることを示した.さらに,登熟温度が24℃以下になると糊化開始温度が62℃以下となって餅硬化速度が1.0以上と著しく遅くなった.餅硬化速度の生産年次間と品種間の分散成分の値を比較すると,生産年次間の分散成分の方が品種間の分散成分より大きかったことから,餅硬化速度は生産年次,すなわち登熟温度の影響が大きいことが示唆された.
  • 赤澤 經也, 白岩 恵美子, 佐藤 ノリコ, 笹原 健夫
    2002 年 71 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    収穫後のエダマメの貯蔵形態(生と茄で)および貯蔵温度を変えた場合の食味,香り,莢色の変動および3形質の品種間差異を検討した.材料は,エダマメ6品種と普通大豆2品種の8品種を供試した.圃場で生マメの状態で咀嚼し,市販のエダマメと同等の「堅さ」になった段階で収穫した.生貯蔵の場合は,収穫後低密度ポリエチレン袋に入れて5,15,25℃で24時間貯蔵した.茄で貯蔵の場合は,収穫後沸騰水で3分間茄で,同様に貯蔵した.その後,生貯蔵の材料は沸騰水で3分間茄で,茄で貯蔵の材料とともに食味,香りおよび莢色に関して,10~15人のパネリストによる5段階評価によって,絶対評価を行った.生および茄で貯蔵とも,3貯蔵温度で食味と香りは高い有意の相関を示し,両形質に関して品種間差異が存在した.生貯蔵の場合,5と15℃貯蔵で香りは茄で貯蔵の場合の食味(それぞれ,r=0.807,0.864,p<0.01)および香り(それぞれ,r=0.728,0.778,p<0.05)と有意の相関関係を示し,この貯蔵温度で食味と香りに関して品種間差異が存在した.生貯蔵の場合の食味は,茄で貯蔵の場合の食味および香りと15℃貯蔵で(それぞれ,r=0.743,0.726,p<0.05)有意の相関関係を示し,この貯蔵温度で食味と香りに関して品種間差異が存在した.これらのことから,本実験の貯蔵温度の範囲では,生と茄で貯蔵でともに食味と香りに関して品種間差異が存在することが示された.ただし,生と茄で貯蔵では,生貯蔵における食味,香りが茄で貯蔵の場合より1ランク高く評価される傾向が見られた(食味:t=3.786,香り:t=3.687ともにdf=51,p<0.001).また,茄で貯蔵の25℃の場合,莢色は食味および香りと相関を示した(それぞれ,r=0.813,0.867,p<0.01).
  • 猪谷 富雄
    2002 年 71 巻 1 号 p. 68-75
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    わが国では香り米の栽培は面積,品種数とも激減したが,外国では南,東南アジア諸国を中心に広く栽培され,輸出も行われている.近年,わが国でも香り米のブレンドによる食味改善効果に注目した育種が始まっており,香り米に関する知見の整理は急務である.本研究では日本産香り米品種71,外国産香り米品種21および普通米新品種18の計110品種を同一条件下で栽培し,収量(1株籾重)および収量関連形質ならびに芒性,着色性を調査した.さらに,日本産香り米品種44および普通米旧品種6,普通米新品種12の計62品種を栽培して,葉の形質を調査した.その結果,(1)日本産香り米品種は,普通米新品種に比べ長稈・穂重型で,わら重は大きいが収穫指数が低く,籾重も低かった.また,多芒,着色籾の例が多かった.(2)日本産香り米品種は,形態的に東北,関東・北陸産を含む東日本産品種と近畿,四国,九州産を含む西日本産品種の2群に分かれた.前者は後者に比べて早生,短稈,小穂,少収,細茎,倒伏易であった.(3)外国産香り米品種は,日本産香り米品種と同様,長稈,穂重型で籾重も低いが,日本産より晩生で,穂は長く,1株全重,籾重ともに低く,収穫指数も低かった.(4)日本産香り米品種は普通米新品種に比べ止葉が大型で着生角度が大きく,早く退色し,穂も止葉から長く抽出した.普通米旧品種は,香り米と新品種との中間的な値を示した.(5)香り米品種は古い時代のイネが持っていたであろう形質を多く残し,かつ変異に富むので,栽培や育種母本としての選択には十分な検討が必要である.
  • 白土 宏之, 大平 陽一, 高梨 純一
    2002 年 71 巻 1 号 p. 76-83
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    巨大胚水稲品種はいみのりにおける田植機適応性のある苗の育苗方法の開発を目標として,出芽・苗立ち不良要因を解析し,出芽・苗立ち,苗丈,苗マット形成の向上方法を検討した.はいみのりは発芽率は96.7%であったが,出芽率は69.2%,苗立率は33.0%と低い場合が見られ,発芽後の生長が悪い場合があることが示された.その原因の一つとして,はいみのりは奇形発生率が50.2%と高いことがあげられた.また,はいみのりは種子から溶出する全糖量が多いことも一因と考えられた.一方,はいみのりの出芽率・苗立率は手脱穀種子も機械脱穀種子と同様に低く,脱穀時の衝撃は出芽・苗立ち不良の原因ではないと考えられた.はいみのりの出芽率・苗立率は浸種温度,緑化温度,収穫時期,育苗資材,播種量を変えても改善出来なかった.苗丈はもみがら成型マットを用いると平均11.9cmになり,育苗培土の平均10.3cmより長くなった.もみがら成型マットを用いた苗マットの引張強度は0.46N(ニュートン)で育苗培土での0.23Nの2倍強くなり,苗取り板が不要とされる値と同程度になった.また,播種量を270g/箱とすることで,一般品種の中苗程度の苗立数が得られた.以上,はいみのりの低出芽率,低苗立率は発芽後に問題があること,その原因は高い奇形発生率と種子から溶出する全糖量の多さによる可能性があることが明らかになった.さらに,もみがら成型マットを使用し,270g/箱播種することにより田植機適応性のある苗が得られた.
  • 荒瀬 輝夫, 鈴木 綾子, 丸山 純孝
    2002 年 71 巻 1 号 p. 84-90
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    地下結実性の食用マメ類であるヤブマメの圃場栽培を試み,生育や収量を検討した.実験1の栽培法は株間30cm,畝幅45cmで3種類の支柱を設けた畝立て栽培とし,野外で発芽した地下種子由来個体を移植した.つるの回旋の始まる出芽約30日後を境に,支柱の有無によって主茎葉数の増加率に有意な差が生じた.ヤブマメの収量は地下子実で約20gm-2,地上子実も含めた総子実収量は約40gm-2であった.総葉数と総子実収量との間には高い正の相関があったが,120枚m-2を越えると地下部よりも地上部の子実の生産が増大する傾向が認められた.実験2では地上種子由来個体(A区)と地下種子由来個体(S区)の生長を比較した.2系統を用い,栽植密度は均平な圃場にm2あたり1個体(1×1m)とした.その結果,栄養生長期間を通じて主茎葉数の増加率がA区=S区,総葉数の比成長率がS区>A区であった.地下子実収量を増大させる方策として,播種期,栽植密度,およびつるの仕立て方の改善による総葉数の増大と,栽培環境の改善や育種技術によって子実生産を地下部に集中させることが挙げられる.
  • 磯部 勝孝, 村上 学, 立石 亮, 野村 和成, 井上 弘明, 坪木 良雄
    2002 年 71 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    アーバスキュラー菌根菌(以下AM菌)の感染によって宿主作物の生育が促進されるのは主にAM菌の外生菌糸が吸収したミネラルを宿主作物に供給するからと考えられている.しかし,AM菌の感染によって根系の形態が変化し,養水分の吸収が盛んな根端が増え,根の生理活性に変化が生じると仮定すると,必ずしも外生菌糸を通じて吸収された養水分だけが宿主の生育促進をする要因とは考えにくい.そこで本報ではインゲンマメにAM菌が感染した際,根系の形態と生理がどのように変化するかを明らかにした.リンを施用したりAM菌が感染するとインゲンマメの地上部乾物重,葉面積および地下部リン含有率が高まった.さらに,AM菌が感染すると主根,一次根および二次根が短くなり,個体あたりの一次根数,二次根数が少なくなった.ただし,単位根長あたりの一次根数と二次根数は,AM菌が感染しても変化しなかった.また,根系の形態変化はリンを施用した際には生じなかった.このことからAM菌の感染による根の形態変化はAM菌が根に感染することが影響していると推察された.さらにAM菌が感染すると単位根量あたりの出液速度とTTC還元力が高まった.しかし,AM菌が感染すると全根長が短くなるため,個体当りの出液量は対照区と差がなかった.ただし,AM菌の感染に伴う出液速度とTTC還元力の上昇は根の生理活性の変化によるものかAM菌の吸水や還元力によるものかは明らかにできなかった.以上のことからAM菌の感染は根系の形態を変化させるが,根の生理にも影響を及ぼすかは今後の課題である.
  • 楊 知建, 佐々木 修, 下田代 智英
    2002 年 71 巻 1 号 p. 96-101
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    インド型品種(浙 9248,湘 24号)と日本型品種(胆振早稲,はやゆき)を供試し,低温下における苗の生長に及ぼす土壌水分の影響を検討した.水分条件として湿潤(最大容水量の70%)および湛水の二処理区を設け,苗の第3葉展開期から12日間,低温処理(11℃)を行った後,常温(20℃)に戻しさらに14日間生育させた.低温時においては地上部乾物増加量はいずれの品種も湿潤区の方が大きく,品種間差がほとんど見られなかった.根の諸形質についてみると,根の乾物重,根数,種子根長および種子根における側根の増加量はいずれも湿潤区で多く,インド型品種に比べ日本型品種で大きかった.一方,出液速度は日本型品種よりインド型品種で著しく抑制されたが,いずれの品種においても湛水区より湿潤区で高く維持され,このことから根の生理活性の維持能力の差は湿潤区と湛水区における根の生長量の差と密接な関係を有するものと考えられた.常温回復後の反応についてみると,地上部乾物重,根乾物重,根数の増加量および出液速度の回復程度はいずれも湛水区より湿潤区で大きかった.また,常温回復後の根活着能力も湿潤区で勝っていた.このことと前述した低温時における根の生長および出液速度との関係から,湿潤処理によって低温時における根の生長および根の生理活性がともに高く維持されたことが常温回復後の生長回復の優勢につながったと考えられた.以上のことより,湿潤土壌条件下での育苗はインド型品種水稲二期作の第一作目の苗代期における低温障害を軽減し,苗質を維持する上で有効であると考えられた.
  • 森田 敏, 白土 宏之, 高梨 純一, 藤田 耕之輔
    2002 年 71 巻 1 号 p. 102-109
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    従来,水稲の高温による登熟不良現象については多くの研究が行われたが,高夜温と高昼温のどちらが主因であるかについては一定の結論が得られていない.本研究では,人工気象室を用いて,34/22℃(昼温/夜温)の高昼温区に対して,これと日平均気温が同じである22/34℃の高夜温区を設定し,22℃一定温度あるいは28/20℃(日最高気温/日最低気温)を対照区として,玄米1粒重と良質粒歩合について比較解析した.その結果,玄米1粒重は高夜温区においてのみ対照区より有意に低下した.一方,玄米の良質粒歩合は高夜温区と高昼温区の両者で低下した.したがって,高温による玄米1粒重の低下の主因は高夜温にあること,および高夜温と高昼温のいずれもが外観品質を低下させることが明らかになった.高夜温区における玄米1粒重の低下は,いずれの着粒位置でも観察されたが,試験年によっては,弱勢穎果である3次籾での低下程度が大きかった.各試験区間の玄米1粒重の違いは,玄米の3つの粒径(粒長,粒幅,粒厚)を乗じた玄米体積の指標値の違いにほぼ一致した.高夜温区では対照区に比べて主に玄米の粒幅と粒厚が減少し,高昼温区では粒幅が減少したものの粒厚は明らかに増大した.これらのことから,高夜温区では玄米の粒幅の減少を粒厚で補えずに玄米1粒重が低下するのに対し,高昼温区では玄米の粒厚の増大が粒幅の減少を補償して玄米1粒重が低下しないとみることができた.
  • 平井 儀彦, 津田 誠, 江内田 篤
    2002 年 71 巻 1 号 p. 110-115
    発行日: 2002/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    栄養生長期のイネでは維持呼吸速度が小さいと純光合成速度が大きくなると考えられる.そこで,飢餓法により栄養生長期のイネ26品種における茎葉部の維持呼吸速度の品種間差異を調査するとともに,維持呼吸速度に差がみられた8品種については自然条件下における乾物生産と暗呼吸速度との関係を調べた.その結果,茎葉部の維持呼吸速度には品種間差異が認められた.自然日射条件における暗呼吸速度は,飢餓法による維持呼吸速度が低い品種(台農67号,江曽島糯,Binato,Mangasa)の平均値が,高い品種(坊主,Dular,マンゲツモチ,Alborio)の平均値よりも低い値を示した.また,総光合成速度は,飢餓法による維持呼吸速度の低い4品種の平均値が,高い4品種の平均値よりも低かったにもかかわらず,純光合成速度は逆に維持呼吸速度の低い品種で高かった.これは,総光合成速度の5%に相当する維持呼吸速度の品種群間の差が,維持呼吸速度の低い品種の純光合成速度の向上に貢献したためと考えられた.以上より,維持呼吸速度の品種間差異の評価には飢餓法は有効であること,栄養生長期のイネの維持呼吸速度には品種間差異が認められること,さらに,栄養生長期では維持呼吸速度の差異が乾物生産の品種間差異をもたらすことが定量的に示された.
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