魚肉への食塩の浸透について, 魚の種類による相違と, 食塩浸透に影響を与える要因について検討した。タラ, タイ, カツオ, アジ, サバ, タチウオの6種類について, ふり塩を身側と皮側の2とおりに散布し, それぞれの食塩浸透量を測定し, その結果を魚の水分, 脂肪含量と組織構造との関係において考察し, 以下の知見が得られた.
1) 身側からのふり塩では, タラが最も浸透しやすく, ついでタイであり, カツオ, アジ, タチウオはあまり差がなく, サバは最も浸透しにくい.
2) 皮側からのふり塩では, 身側からの場合よりも魚種間の差が大きい.タラが最も吸塩しやすく, ついでタイ, カツオ, アジの順であり, これは身側からの場合の浸透順位と同じ傾向であるが, タチウオがサバよりさらに吸塩しにくいことが, 身側の場合と異なっている.吸塩量は全試料魚ともに身側からの場合よりも少ない.身側と皮側との吸塩量の差はタラが最も小さく, タチウオが最も大きい.
3) 魚肉中に食塩が拡散する速度は, タラが最も速く, ついでタイ, カツオ, アジ, サバ, タチウオの順で, タチウオを除き, 身側からの浸透度合いの順位に対応している.
4) 水分含量は, 身側, 皮側ともにタラが最も多く, ついでタイであり, アジ, カツオ, タチウオがそれにつづき, サバは最も少ない.これは食塩の浸透量とかなり対応しており, 魚肉の水分含量の多いものほど食塩が浸透しやすい.
5) 脂肪含量は, 身側, 皮側ともにサバが最も多く, ついでタチウオであり, アジ, カツオ, タイ, タラの順である.これは食塩の浸透量の順位と逆の関係でよく対応しており, 魚肉の脂肪含量の多いものほど食塩が浸透しにくい.
6) 筋繊維の太さはタラが最も大きく, タイがそれにつづき, アジとサバがやや小さいが, タチウオ, カツオとは大差がない.これは食塩の浸透量とかなり対応しており, 筋繊維の太いものほど食塩が浸透しやすいと推定される.
7) 皮下脂肪の厚さは脂肪含量とかなり似ており, 皮下脂肪層の厚いものほど食塩が浸透しにくいことが認められたが, タチウオだけは例外である.
8) タチウオの皮部は, サバよりも水分が多く脂肪が少なく, 皮下脂肪層もきわめて薄いのに, 食塩の浸透量はサバより少ない.タチウオの皮の組織構造は他の試料魚と異なり, 皮に多くの脂肪があり, さらに皮に結合している筋隔膜が多いため, それが食塩の浸透を著しく阻害しているものと思われる.
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