以上の調査結果について要約する.
1) 両地域とも, 出産見舞, 香典, 結婚祝, 病気見舞.入学祝 (小学校), 歳暮の6種が共通してもっとも基礎的な交際費と考えられていた.同時に, これら6種が「やめられない交際費」として意識されている.
2) 利尻島では, 「交際費にお金がかかりすぎて困る」と回答した世帯が調査菊象の7割以上を占め, また札幌市にくらべても交際費に対する負担感が非常に強い.一方, 札幌市では, 交際費の負担感はむしろ弱く, 教育費や食費に対する重圧感のほうが強い.
3) 利尻島の場合, 「やめたい交際費」としてお返しや進学祝があげられたが, 現実にはこれまでの慣行上, 簡単にやめるわけにもいかず, それがかえって負担感を強くさせていた.
4) 意識調査上, 月別交際費の負担感は利尻島では3月がもっとも強く, 支出の実態では12月が最大となって, 意識と実態のずれがみられた.これに対し札幌市では, 意識・実態ともに12月が最大であった.
5) 交際費支出の件数・金額は, 利尻島では年間1世帯あたり119.9件, 622,865円, 札幌市では47.7 件, 176,992円で, 両地域に共通する項目についてみても利尻島のほうが件数で約2倍, 金額では約3倍上まわっている.
6) 支出相手は, 利尻島では半数以上が “夫” を中心とした親せき, 仕事上, および友人・知人で占められており, “イエ” を軸とした親せき関係や漁家同志の相互協力関係が交際の中心となっている.この点札幌市では, “妻” を中心とした親せき, 友人・知人のほうが “夫” の親せき, 友人・知人関係よりも多くなった.しかし今回の調査では, 夫の仕事関係が職業費として分類されている場合が多く, 他調査による検討が必要である.
今回の調査結果をもとに, 今後とくに社会の発展と交際費の内部構造の変化について考察するにあたっては, さらに以下のようないくつかの仮説の枠組みが必要であろう.
第一に, 贈答研究における互酬性の問題と同様, 交際費に関しても家計から支出した分と同様, 受けとった分の評価をすること.また受けとったさいの負担感や返礼のしかたについても明らかにすること.
第二には, 社会的地位の上下関係と交際費支出額について.とくに人間関係の深さと経済的評価の軽重とは必ずしも一致しないと考えられ, この点に関して支出金額と交際関係の親密さを相互評価することも必要である.
第三には, 現金と物との比重について.今回の調査では現物を市価相当額に換算して記録する方法をとったが, 一般に都市型になるほど贈答における貨幣への信頼度は高くなり, 現金そのものを使用する傾向が強まるとされる.この点についての郡部と都市での比較も興味深い.最後に, 贈答を中心とした形式的な交際費だけではなく, たとえば手伝い, 留守番などに対するだ賃だとかおすそわけなどを含め, 広い意味でのもののやりとり関係に発展させて考えていくことも必要であろう.
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