牛肉各部位 (肥育乳牛の, うちもも, ロインロース, かた, すね) の2時間加熱抽出液の味の濃さと緩衝能について検討し, さらにその緩衝能を構成する成分の検索を行った.
1) 牛肉加熱抽出液の味の濃さとおいしさについて順位法による官能検査を行った結果, 味の濃さの順位は, うちもも, かた, ロインロース, すねの順であり, 一方, おいしさの順位は, うちもも, かた, すね, ロインロースの順であった.
2) 牛肉加熱抽出液の緩衝能の強さは, 滴定曲線よりpH4~10における緩衝能 (β) を算出することによって比較した. その結果, 緩衝能の強さの順位は, うちもも, かた, ロインロース, すねの順となり, 官能検査の味の濃さの順位と一致した. このことから味の濃さと緩衝能の強さとの間に関連性があると考察した. また, とくに強い緩衝能が認められたpH域は各部位ともにpH10, pH7, pH4付近であった.
3) 牛肉加熱抽出液の緩衝能が強ければ, 緩衝物質であるリン酸や乳酸も多い傾向にあるが, アミノ酸などの窒素化合物に関しては量的なものに加えて, その組成も考慮しなければならないと考察した.
4) 牛肉加熱抽出液を, アミノ酸区分, 透析残留区分, 無機酸区分, 有機酸区分の4区分に分画し, pH4~10の緩衝能に対する寄与率を調べた結果, アミノ酸区分では40.3~46.0%, 無機酸区分では27.0~32.9%, 有機酸区分と透析残留区分については, すねがそれぞれ8.9%と17.9%, その他の部位ではそれぞれ18.6~19.6% と7.2%~9.3%であった. アミノ酸区分の寄与域はpH全域にわたっていたが, なかでもpH10付近のアルカリ域とpH5~6の緩衝能に大きく寄与した. また, 無機酸区分と有機酸区分はそれぞれpH7付近と pH4.4付近の緩衝能に大きく寄与した.
5) 牛肉加熱抽出液の緩衝能を構成する成分の検索を行った結果, pH4~6の緩衝能は乳酸を主体とする有機酸や酸性アミノ酸, pH6~8の緩衝能はリン酸を中心として塩基性アミノ酸やペプチッドなど, また, pH8~10の緩衝能は中性アミノ酸を主とした各種アミノ酸やアンモニアなどで構成されているものと推定した.
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