日本作物学会紀事
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86 巻, 2 号
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研究論文
栽培
  • ―密植適応性が異なる新潟県ダイズ奨励品種の比較―
    藤田 与一, 川上 修, 黒田 智久, 服部 誠, 樋口 泰浩, 南雲 芳文, 高橋 能彦
    2017 年 86 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    密植適応性が異なる新潟県ダイズ奨励品種「エンレイ」および「あやこがね」を用いて,重粘土質水田転換畑におけるダイズ耕うん同時畝立て狭畦栽培の適正な栽植密度を検討した.ダイズ群落内の相対光合成有効放射 (相対PAR) 量は,両品種ともに狭畦栽培では密植になるほど低くなるが,開花期頃にはいずれの栽植密度でも10%以下となり十分な雑草抑制効果が得られた.成熟期の生育は両品種とも密植になるほど徒長気味の生育となり,倒伏程度は「エンレイ」では栽植密度17.8株m–2以上で,慣行栽培 (条間75 cm,栽植密度8.9株m–2) より大きくなった.「あやこがね」は狭畦栽培と慣行栽培とで倒伏程度に差がなかった.収量は両品種とも密植になるほど増加する傾向となり,「エンレイ」では栽植密度17.8株m–2以上で,「あやこがね」では栽植密度13.3株m–2以上で,慣行栽培より有意に増加した.本研究結果において,狭畦栽培の場合「エンレイ」では倒伏軽減の観点から栽植密度8.9~13.3株m–2,「あやこがね」では増収効果の観点から13.3~26.7株m–2が適正栽植密度と判定された.

  • 林 怜史
    2017 年 86 巻 2 号 p. 129-138
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    寒地である北海道の水稲移植栽培では,出穂始めから終わりまでの期間を短くし,整粒歩合を確保するため,密植栽培が推奨されているが,経営の大規模化を背景に,省力化,低コスト化を目的とした疎植栽培への要望が高まっている.そこで,本研究では,水稲品種「ななつぼし」を用いて疎植栽培を行った際の生育,収量,品質について調査を行った.2013年から2015年にかけて,北海道農業研究センター (札幌市) 内の水田において,条間30 cmの田植え機を用いて,株間4段階,植え付け本数2段階を組み合わせた8条件で移植した.試験を行った3か年は,いずれも平年並み以上の気温,日射量となったが,植え付け本数の削減は登熟歩合の低下による有意な減収や未熟粒の増加を招いた.株間を広げることによる減収は認められなかったが,整粒歩合が低下し,未熟粒が増加する傾向が見られた.一穂籾数と整粒歩合との間には有意な負の相関がみられ,登熟期の気温が低い (出穂後40日間の積算気温800℃未満) 条件では一穂籾数が70粒を上回ると整粒歩合が70%を下回った.植え付け本数標準区では,株間22 cmで一穂籾数は70.7粒であったことから,整粒歩合70%以上を確保するという点では,株間22 cmまでの疎植にとどめることが望ましいと考えられた.

  • 西尾 善太, 内川 修, 西岡 廣泰, 杉田 知彦, 岡見 翠, 松中 仁, 塔野岡 卓司, 中村 和弘
    2017 年 86 巻 2 号 p. 139-150
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    北部九州のコムギ収量について,2000~2014年の旬別の平均気温,降水量,日照時間との関係を解析した.標準播種期である11月20日に播種したコムギ収量に対する気象条件の影響は,①分げつ始期の12月中旬の降水量との負の相関,②分げつ前期の1月上旬の気温との正の相関,③頂端小穂形成期の2月下旬の気温との負の相関,④登熟期後半の5月中旬の気温との負の相関により生じていた.平均収量の低い市町の収量は,12月中旬の降水量および5月中旬の気温と強い負の相関を示し,分げつ始期の土壌過湿条件に加えて,登熟後期の高温が減収を引き起こすとみられた.一方,1月上旬の高温により穂数が増加して幼穂形成始期が早まり,出穂期までの幼穂形成期間が確保され増収を示した.従って北部九州のコムギの収量向上には,①分げつ始期の多雨による穂数減少を防ぐため播種前から排水対策を徹底すること,②凍霜害を回避する播種早限の11月5~10日頃以降に播種を前進し幼穂形成始期を早めること,③登熟後期の高温による減収を防ぐため生育期間全体を通した排水対策と追肥により植物体の活性を維持することが重要であると考えられた.さらなる収量向上には,これまで改良を進めてきた登熟期の雨害耐性(穂発芽や雨濡れによる粒色の溶脱)に加えて,幼穂形成を安定して早めるため秋播き性に依らない凍霜害耐性の改良,着粒数を増加させるコムギVrs1遺伝子の利用,生育初期の多雨と登熟期後半の高温の両方に対する耐性の付与が必要であると考えられる.

  • 篠遠 善哉, 松波 寿典, 大谷 隆二, 冠 秀昭, 丸山 幸夫
    2017 年 86 巻 2 号 p. 151-159
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    黒ボク土の水田転換畑にて,プラウ耕がトウモロコシの生育および子実収量に及ぼす影響を明らかにした.試験は,黒ボク土の水田転換畑にロータリ区およびプラウ区を設け,2014年および2015年の5月下旬にトウモロコシ2品種を播種して実施した.絹糸抽出期がプラウ区で1~2日早まったが,草高,葉色値および葉面積指数に耕起法による顕著な差はみられなかった.2ヶ年ともに根長密度に耕起法による差は認められなかったが,雄穂形成期から乳熟期までプラウ区でやや大きい傾向がみられた.地上部乾物重は,2014年のみ乳熟期および糊熟期にロータリ区よりプラウ区で大きい傾向がみられた.子実収量について,2014年はロータリ区と比較してプラウ区で高い傾向が認められたが,2015年は耕起法による差はみられなかった.しかし,2015年の子実収量は2014年より22%高かった.これは絹糸抽出期から絹糸抽出後2週間の積算日照時間が2014年で平年比48%と寡照であったこと,2015年は気象条件に恵まれ子実収量が多くなったことによると推察された.以上のように,黒ボク土の水田転換畑におけるプラウ耕は慣行耕起法であるロータリ耕と比較して生育の抑制や子実収量の低下を引き起こさないことから,水田転換畑における子実用トウモロコシ栽培ではプラウ耕でも十分に対応できることが明らかとなった.

  • 唐 星児, 黒崎 英樹, 林 哲央, 中村 隆一
    2017 年 86 巻 2 号 p. 160-168
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    虎豆栽培の土壌管理に関する知見を得るため,北海道北見地域において2005年に地上部生育の推移と収穫期の根の垂直分布を,2005~2007年に黒ボク土9,台地土14,下層泥炭の低地土2カ所の各圃場における土壌中の窒素量,および土壌硬度1.5 MPa出現深 (有効土層深) と子実重との関係を調査した.虎豆の地上部生育量は7月の開花始めより急激に増加し,増加速度は開花盛期後に最大となった.黒ボク土と台地土を込みにした場合,播種直後の深さ0~20 cmの作土の熱水抽出性窒素含量と子実重との間に有意な正の相関関係が認められ,熱水抽出性窒素含量が多い圃場では,開花期以降に作物体が吸収可能な窒素の供給も多くなるためと考えられた.黒ボク土では収穫期の土壌無機態窒素量と子実重との関係が低地土と異なり判然としなかったが,これは窒素が速やかに無機化され作物体に吸収,利用されたためと推察した.また,開花盛期における有効土層深が50 cmまでの範囲では,それが深い圃場ほど子実重は重い傾向にあった.一方,台地土の子実重が200 g m–2未満と軽い圃場では作土の熱水抽出性窒素含量が0.05 g kg–1未満であった.また,下層泥炭の低地土の子実重は,他の土壌区分で熱水抽出性窒素含量や有効土層深から推定される値に比べ明らかに軽かった.以上のことから,土壌の種類や土壌中の窒素量は虎豆の子実重に大きく影響を及ぼすが,作土の熱水抽出性窒素含量が0.05 g kg–1以上の場合に,有効土層を拡大する効果が顕れやすいことが明らかとなった.

品質・加工
  • 谷中 美貴子, 高田 兼則, 船附 稚子, 石川 直幸, 高橋 肇
    2017 年 86 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    本研究は,Glu-A1座とGlu-D1座の対立遺伝子の違いによりグルテニンサブユニット構成が異なる4種類の日本麺用コムギの準同質遺伝子系統を,異なる開花期窒素施肥量で栽培し,得られた小麦粉を用いて,サブユニット構成,タンパク質含有率の違いが製麺適性に及ぼす影響について解析したものである.Glu-A1座に支配されるサブユニットが欠失し,かつ,Glu-D1座に支配されるサブユニット2.2+12を持つ系統では,製麺時の生麺の引張強度が小さく,ゆで麺の破断強度と変形量が小さくなり,生麺が切れやすく,ゆで麺が軟らかく,細くなったことを示した.これは生地物性の弱さに由来すると考えられた.高タンパク質化すると,生麺の引張強度が小さく,変形量が大きく,ゆで麺の破断強度と変形量が大きくなり,生麺が伸びやすく,ゆで麺がかたく,太くなったことを示した.この結果は,高タンパク質化により吸水率が高くなり,生地物性が質的に弱くなった生地特性を反映していると考えられた.また,高タンパク質化により,既報と同様,小麦粉の色相は悪くなった.以上の結果から,日本麺の製麺適性において重要である,生麺の作業性とゆで麺の食感,色相を保持するためには,グルテニンサブユニット構成がGlu-A1座支配のサブユニットが欠失し,かつ,Glu-D1座支配のサブユニット2.2+12を持つ組合せではないこと,タンパク質含有率を適度に高めることが望ましいと考えられた.

品種・遺伝資源
  • 柏木 めぐみ, 村田 和優, ペルマナ ハディアン, 山田 哲也, 金勝 一樹
    2017 年 86 巻 2 号 p. 177-185
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    化学農薬を使用しない水稲の種子温湯消毒法は,クリーンな技術として注目され,「60℃で10分間」という処理条件が広く普及している.しかし,この条件では完全に防除できない病害もある.したがって,この消毒法を安定した技術とするためには,多くの品種に高温耐性を付与し,より厳しい条件で処理できるようにすることが重要である.温湯消毒時の種籾の高温耐性には明らかな品種間差があり,この形質は育種学的な手法で改善できる可能性がある.例えば,日本型品種の「ひとめぼれ」の種籾は強い高温耐性を有することが示されている.一方で,インド型品種や糯米品種は一般に種籾の高温耐性が弱く温湯消毒に適さないことも報告されている.これらのことを踏まえて本研究では,「ひとめぼれ」のような有用な遺伝資源となりうる品種を見出すことを目的に,農業生物資源ジーンバンクが確立した「世界のイネコアコレクション」の種籾の温湯消毒時の高温耐性を評価した.その結果,日本型品種の「Rexmont」と「Tupa 729」,インド型品種の「Badari Dhan」の3品種の種籾が,極めて強い高温耐性を有していることが明らかになった.さらに,「Badari Dhan」以外のインド型品種や,糯米品種の中にも「ひとめぼれ」と同等,あるいはそれ以上の高温耐性を示す種籾が存在することが明らかとなり,温湯消毒時の高温耐性に関して有用な遺伝資源となり得る複数の品種を特定することができた.

研究・技術ノート
  • 石川 哲也, 佐久間 祐樹, 齋藤 隆, 江口 哲也, 藤村 恵人, 松波 寿弥, 太田 健, 高橋 義彦, 木方 展治
    2017 年 86 巻 2 号 p. 186-191
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    交換性カリ含量が低下した条件での玄米への放射性セシウムの移行リスクを評価するため,2015年に福島県内21地点で採取した水田土壌を1/2,000 aポットに充填し,カリ肥料を施用せずに水稲品種「天のつぶ」を移植栽培した.収穫時の土壌中交換性カリ含量と,土壌中およびわら・粗玄米中放射性セシウム濃度を測定し,交換性カリ含量が土壌から粗玄米への放射性セシウム移行係数に及ぼす影響を検討した.収穫時の土壌中放射性セシウム濃度には有意な地点間差が認められ,134Csと137Csの合計値における上位7地点はいずれも中通りであり,1050〜2940 Bq kg–1の範囲となった.収穫時の土壌中交換性カリ含量には有意な地点間差が認められ,12地点で5 mg 100 g–1を下回った.粗玄米中137Cs濃度は2.8〜68.3 Bq kg–1の範囲で,有意な地点間差が認められた.わら中および粗玄米中137Cs濃度を土壌中137Cs濃度で除して算出した137Cs移行係数は,収穫時土壌中交換性カリ含量が圃場試験より大幅に低下したため顕著に高まり,土壌中交換性カリ含量の範囲を揃えても,既往の圃場試験で得られた値より高くなる傾向を示した.さらに,粗玄米中137Cs濃度とわら中137Cs濃度の比率は栽培前土壌中交換性カリ含量が低いほど高まり,稲体カリウム濃度の低下が粗玄米への137Cs移行を助長する可能性が示唆された.

  • 松波 寿典, 齋藤 秀文, 大谷 隆二, 関矢 博幸, 篠遠 善哉, 冠 秀昭, 中山 壮一, 西田 瑞彦, 高橋 智紀, 浪川 茉莉, 林 ...
    2017 年 86 巻 2 号 p. 192-200
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    東日本大震災による津波被災農地では,震災後,離農者が急増する一方で,限られた担い手農業者に農地が集積され,営農規模の拡大が進展している.このため,少ない担い手で大規模経営を永続させる省力的な安定生産技術の開発が急務となっている.そこで本研究では,津波被災復興後,1 ha以上の大区画圃場として整備された宮城県名取市と東松島市の現地圃場において乾田直播水稲,コムギ,ダイズの2年3作水田輪作体系下におけるチゼルプラウ耕グレーンドリル播種体系によるダイズの晩播狭畦密植栽培に適した品種と条間を明らかにすることを目的とした.その結果,「タンレイ」に比べ,耐倒伏性に優れ,青立ちが少なく,成熟期と収穫適期が早い「あきみやび」は着莢期以降の莢実の乾物増加量が多く,成熟期の地上部乾物重と百粒重が重く,収量性が優れていた.また,グレーンドリルにより晩播狭密植栽培した「あきみやび」では条間24 cmから36 cmの範囲では,生育量,収量,品質に明瞭な差はなく,条間24 cmで倒伏が少ない傾向が認められた.以上のことから,宮城県津波被災後の1 ha規模の大区画圃場での2年3作水田輪作体系下におけるチゼルプラウ耕グレーンドリル播種体系による晩播狭畦密植栽培には,耐倒伏性に優れ,青立ちも少なく,生育期間が短い特性を備え,着莢期以降の乾物生産能と莢実への乾物蓄積能が優れる「あきみやび」が適し,播種時の条間を24 cmとすることで倒伏が少ないことが明らかとなった.

  • 原 嘉隆, 秀島 好知
    2017 年 86 巻 2 号 p. 201-209
    発行日: 2017/04/05
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    水稲湛水直播では苗立ちの確保が重要で,このために過酸化カルシウム粉粒剤 (以下,過酸化Ca剤) による種子被覆が実施されてきた.過酸化Ca剤による被覆は資材費や手間がかかる.これらの負担を軽減するために,新たな種子被覆法としてべんモリ被覆を考案した.この方法は,三酸化モリブデンと酸化鉄とポリビニルアルコールの混合粉末で種子を被覆する.そこで,2013~2015年に,これまで過酸化Ca剤被覆種子で代かき同時打ち込み点播を実施してきた佐賀県上峰地域の農家水田において,過酸化Ca剤被覆種子とべんモリ被覆種子を直播する区を設けた.その結果,苗立ち,生育,収量において,種子被覆の違いによる有意差はなかった.また,収穫期の水稲地上部と玄米,および栽培後の土壌のモリブデン含有率に,種子被覆の違いによる有意差はなかった.さらに,試験水田の周辺の農家水田でべんモリ直播の普及がみられたので,それらの水田の苗立ちと収量を調査したところ,十分な苗立ちが得られ,栽培においてべんモリ直播による不都合はみられなかった.以上から,暖地における代かき同時打ち込み点播では,過酸化Ca剤被覆の代わりにべんモリ被覆での代替が可能であり,これによって資材費が安く,被覆作業も容易になると期待された.

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