日本外科系連合学会誌
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41 巻, 2 号
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原著
  • 徳永 行彦, 佐々木 宏和
    2016 年 41 巻 2 号 p. 143-146
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    直腸脱は高齢者に多い疾患で,Gant-三輪法やDelorme法は手術侵襲が少なく普及した手術法である.再発例では術式選択が難しいことがある.2009年1月から2013年12月まで,高齢女性の完全直腸脱50例(年齢67~91歳)にDelormeを施行した.50例中45例は初発患者で,残り5例は他院での手術歴や治療歴がある再発患者であった.成績について排便機能を含めて評価した.直腸脱の長さは平均8.3(5~12)cmで,手術時間は平均100(78~125)分であった.出血量は平均8.5(4~30)gmであった.術後の観察期間は平均13(5~61)カ月で,便失禁は術前,および術後の平均6(3~149カ月で評価した.便失禁スコアーは術前12.6±3.5(mean±SD)から術後7.3±5.2へと有意に改善した.再発は1例(2%)に認めた.Delorme手術の留意点は切除粘膜の長さと脱出腸管長で,脱出腸管長の2倍以上にすることが重要である.本術式は再発率が低く術後合併症も少ない方法で,選択枝のひとつにしてもよい方法である.
  • 飯ヶ谷 重来, 西村 泰司, 遠藤 勇気, 柳 雅人, 鈴木 康友, 濱崎 務, 近藤 幸尋, 秋元 成太
    2016 年 41 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    高齢者,特に85歳以上の超高齢者は合併症や全身状態を考慮すると,薬物療法抵抗性の排尿障害に対する経尿道的前立腺切除術(TURP)は議論がある.よって今回われわれは薬物療法抵抗性の排尿障害を有する超高齢者に対するTURPの有効性と安全性について検討した.対象は8症例で,平均年齢90歳であった.全例腰椎麻酔下でTURPを施行.平均手術時間は61分,平均前立腺切除重量は25g,輸血症例は2症例であった.全例において術中,術後の合併症はなく,術後カテーテル抜去が可能となった.また平均観察期間37.6カ月においても全例でカテーテルは留置されていない.以上より麻酔可能である場合の超高齢患者において,投薬にてカテーテルが抜去できない場合は有効性と安全性の面からTURPは検討してよい治療法と思われた.
  • 濱崎 務, 西村 泰司, 飯ヶ谷 重来, 遠藤 勇気, 柳 雅人, 鈴木 康友, 近藤 幸尋, 秋元 成太
    2016 年 41 巻 2 号 p. 152-156
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    近年,前立腺全摘術に関する論文は鏡視下およびロボット支援手術がほとんどであるが,術中開腹手術への移行に備えて開腹前立腺全摘術の高等な技術をレジデントのうちに習得しておくことは必要である.今回那須赤十字病院において,経験の少ない(泌尿器科経験平均3年程度)医師3人と1人の指導者のもと,64例の開腹前立腺全摘術を施行したので,治療成績について検討した.平均手術時間は261分,平均出血量は1,270mlで全例自己血800mlを用意し使用し,1例のみ自己血以外に同種血輸血を必要とした.断端陽性率は64例中4例(6.25%)で,平均観察期間32.0カ月でPSA再発は2例(3.1%)に認められた.パッドフリー症例は51症例(79.7%)であった.泌尿器科経験3年程度の術者が施行した開腹前立腺全摘術では,術中侵襲がやや大きいが,癌制御と機能温存の点では良好であった.
臨床経験
  • 村上 昌裕, 清水 潤三, 古賀 睦人, 川端 良平, 廣田 昌紀, 池永 雅一, 長谷川 順一
    2016 年 41 巻 2 号 p. 157-160
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下胆囊摘出術において尿道カテーテル留置を省略し,周術期管理への影響を後方視的に検討した.2011年4月から2013年5月まで当科で施行した腹腔鏡下胆囊摘出術260例を対象とし,尿道カテーテル留置を一定条件下に省略した.急性胆囊炎の症例などを除外し,ケースコントロール研究として,患者背景に統計学的に偏りのない尿道カテーテル留置群33例と省略群113例において,麻酔導入時間や排尿に関する合併症を比較した.両群で性別,年齢,手術時間,輸液速度に差はなく,麻酔導入時間は留置群24.1±0.7分,省略群21.7±0.3分と有意に短縮された.術後排尿に関する合併症は留置群の10例(30.3%)に認め,省略群で間欠導尿を24例(21.2%)に要したが,全例翌朝に自己排尿が可能であった.腹腔鏡下胆囊摘出術で尿道カテーテル省略は可能であり,周術期管理の効率化が期待できる.
症例報告
  • 及川 明奈, 佐藤 隆宣, 福富 隆志, 廣瀬 茂道, 向井 清
    2016 年 41 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は89歳女性.増大する左乳腺腫瘤を主訴に来院し,視触診にて左乳房全体を占める可動性良好の弾性軟腫瘤を認めた.乳房超音波検査にて巨大囊胞性病変と内部に不整形乳頭状の隆起性病変を認めた.穿刺吸引細胞診で乳管癌と診断した.囊胞内液のCEA,CA15-3はともに異常高値であり,血清CEA,CA15-3も上昇していた.遠隔転移,他病変は認めず,左乳房切除術,センチネルリンパ節生検を施行した.病理組織学的診断は浸潤性乳管癌,乳頭腺管癌,リンパ節転移なし,ER+,PR-,HER2 3+であった.囊胞内乳癌は稀な疾患で診断に難渋することも多いが,高ホルモン感受性が多く比較的予後は良いとされている.本例は術前の血清,囊胞内液のCEA,CA15-3がともに高値であり診断に非常に有用であった.また本例は浸潤を伴うER,HER2陽性囊胞内乳癌と診断したが,その診断定義について文献的考察を加えて報告する.
  • 福山 充俊, 小笠原 卓, 大塚 敏広, 山崎 誠司, 日野 弘之
    2016 年 41 巻 2 号 p. 167-171
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は63歳女性.3カ月前から急速に増大する左乳房腫瘤にて当科を受診した.来院時,左乳房全体を占める30×30cm大の腫瘤を認めた.外側は自壊し潰瘍を認め,悪臭のある滲出液がみられた.高度貧血を認め,輸血を施行するも貧血が進行するため,緊急的に左乳房切除術を施行した.術後経過は良好で,術後7日目には貧血も改善した.病理組織学的診断は良性葉状腫瘍であった.現在まで再発はみられていない.
  • 白井 雄史, 工藤 健司, 成宮 孝佑, 太田 正穂, 山本 雅一
    2016 年 41 巻 2 号 p. 172-178
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は87歳の男性で肺気腫,気管支喘息にて当院呼吸器内科通院中であった.2007年11月より嚥下障害,嘔吐が出現し,内視鏡検査にて胸部中部食道扁平上皮癌と指摘された.高齢,PS2,高度の肺気腫,気管支喘息があるため化学放射線治療を行った.その治療効果はCRであったが,食道狭窄のため経口摂取困難となりPEG造設を行い退院した.外来で内視鏡的拡張術を数回施行したところ通過障害が改善し,9カ月後にPEGを抜去した.その後食道裂孔部リンパ節に腫大を認めたため,再発部位のみの放射線治療を施行し,さらに鎖骨上リンパ節腫大あり局所のみ放射線治療を行った.その後通過障害は認めていなかったが,初回治療より3年2カ月後に再度食道裂孔部リンパ節の増大のため経口摂取困難となり入院となった.PEG再造設を行ったが,誤嚥性肺炎を生じ死亡した.今回われわれは高齢者であり重篤な併存疾患を有する進行食道癌症例に対して各種治療にて約3年と長期間にわたり在宅生活を維持できた症例を経験したので報告する.
  • 戸松 真琴, 礒垣 淳, 川辺 昭浩
    2016 年 41 巻 2 号 p. 179-184
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は84歳男性.進行胃癌に対し腹腔鏡下胃全摘術,Roux-en-Y再建術を施行した.食道空腸吻合は機能的端々吻合で行った.手術の1年7カ月後に食物のつかえ感と嘔吐が出現した.食道空腸吻合部に播種再発による屈曲および狭窄を認めた.外科的治療や化学療法が困難であった.Through-the-scopeタイプのself-expandable metallic stentを留置することにより経口摂取が可能となった.複雑な形態を呈した機能的端々吻合による食道空腸吻合部の悪性狭窄に対し,ステントを留置することによりquality of lifeの改善を認めた1例を経験したので報告する.
  • 杉田 浩章, 呉林 秀崇, 宗本 義則
    2016 年 41 巻 2 号 p. 185-190
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.8年前に多発胃癌に対して幽門側胃切除を施行し(pStage ⅡB),患者希望で術後補助化学療法は施行せず経過観察していた.術後8年の腹部CT検査で肝S2・S4に乏血性結節と横行結腸の軽度壁肥厚を認め,精査にて肝転移・腹膜播種再発と診断した.下部消化管内視鏡検査で横行結腸に内腔狭窄と粘膜浮腫,注腸造影では内腔狭小化を伴う粘膜不整像を認めたため,播種による横行結腸狭窄を考え,狭窄部切除のため手術を施行した.術中所見では複数の腹膜播種と肝転移の横行結腸間膜への浸潤と横行結腸の狭窄をきたしており,狭窄部は切除不能と判断し,結腸-結腸バイパス術を施行した.術後は全身化学療法開始とした.
    胃癌術後の晩期再発は,進行胃癌では比較的稀であり,転移性肝腫瘍の他臓器浸潤は稀な再発様式である.今回われわれは進行胃癌術後晩期に横行結腸間膜への浸潤を伴う肝転移再発をきたした症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 廣吉 淳子, 皆川 正己, 冨樫 順一, 片平 誠一郎, 児島 辰也, 竹田 泰
    2016 年 41 巻 2 号 p. 191-195
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性.体動時の倦怠感と黒色便を主訴に来院した.
    上部消化管内視鏡検査にて,幽門前庭部後壁側に20mm大の粘膜下腫瘍(以後,SMTとする)を指摘された.SMTは縮小傾向であったが,貧血の進行を認めたため,腫瘍摘出術および幽門形成術を行った.術直前のCT像と比べ,摘出した腫瘍はさらに縮小していた.病理組織検査にてInflammatory fibroid polyp(以後,IFPとする)と診断された.
    出血を認める胃粘膜下腫瘍の鑑別として,胃IFPを考慮する必要があると考えられた.
  • 本田 晋策, 川村 泰一, 幕内 梨恵, 大森 隼人, 高木 航, 平田 史子, 辰林 太一, 川田 登, 小野 裕之, 寺島 雅典
    2016 年 41 巻 2 号 p. 196-201
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は83歳男性.検診の上部消化管内視鏡検査で胃癌を指摘され当院紹介受診.精査の結果,早期胃癌(U,Post,0-Ⅱa+Ⅱc,18mm,tub2,cT1bN0M0 cStage IA)と診断した.ガイドラインに従って胃全摘術を提示したが,術後のactivities of daily living(ADL)の低下を危惧し,系統的胃切除術は拒否.代替案としてnon-exposed wall inversion surgery(NEWS)を提示したところ同意が得られた.手術は胃内腔側から内視鏡を用いてレーザー光を照射し,漿膜側から切離ラインをマーキングした.超音波凝固切開装置で漿膜筋層切開をおいた後,病変部を内反させるように漿膜筋層縫合を行った.その後胃内腔からITナイフで全層切離し経口的に標本を摘出した.術後3カ月を経過し,術前と同等の経口摂取が可能で,体重減少も認めていない.
  • 岡本 共弘, 王 孔志, 裴 正寛, 岡田 敏弘, 佐竹 真, 藤元 治朗
    2016 年 41 巻 2 号 p. 202-208
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.2005年より肝細胞癌および再発に対しラジオ波焼灼術を施行.2007年8月,門脈腫瘍栓(Vp3)を伴う再発に対し肝動注化学療法を施行後,肝右葉切除術および門脈腫瘍栓摘出術を施行.その後も繰り返す再発にラジオ波焼灼術や肝動脈化学塞栓術で治療しながら経過観察していたところ,2009年12月,上部消化管内視鏡検査で胃噴門部に易出血性の巨大な不整形の腫瘤性病変を認め,生検にて肝細胞癌の胃転移と診断され,胃全摘術を施行した.病理学的に胃壁内の静脈内に腫瘍栓が認められており,経門脈的に転移したと考えられた.術後経過は良好であり,術後21日目に退院となったが,その後肺転移,脳転移をきたし,胃全摘術後2年3カ月で脳転移巣からの出血により死亡した.肝細胞癌の胃転移は比較的稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 荒川 信一郎, 阪本 研一, 上松 孝, 岩田 孝太郎
    2016 年 41 巻 2 号 p. 209-214
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.特別な症状を認めなかったが,胃食道逆流症の経過観察目的で施行された上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部前壁に隆起性病変を指摘され当科に紹介された.生検にて鋸歯状腺腫様の上皮変化と核異型を認めGroup3腺腫と診断された.7年前の同検査では病変は認められていない.原発性十二指腸癌の併存を念頭におき病変部を含めた腹腔鏡補助下幽門側胃切除術による病変完全切除とリンパ節郭清を施行した.局所切除は術後狭窄などの偶発症発生と追加手術を回避する目的で選択しなかった.病理診断は深達度SMでN0であった.深達度SMの十二指腸病変に対しては,術前CTでN0であればリンパ節郭清を伴う腹腔鏡下幽門側胃切除も選択肢の一つと考えられた.
  • 上田 泰弘, 大原 忠敬, 長谷川 寛
    2016 年 41 巻 2 号 p. 215-220
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は60歳台,男性.平成25年7月腹痛,黒色便を主訴に近医を受診し,右下腹部に巨大腫瘤を触知した.CTにて巨大腹腔内腫瘍を認め,精査加療目的で当院紹介となった.
    上部消化管内視鏡検査所見で十二指腸下行脚に瘻孔がみられ,瘻孔を通じて広範囲に広がる潰瘍性病変を認め,生検でGISTと診断された.CTおよびMRI検査所見からは瘻孔形成を伴う巨大小腸GISTが疑われ,PET-CT検査所見では腹膜播種や遠隔転移を認めなかった.出血・発熱も伴っていたので手術を施行した.術中所見で腫瘍は膵および上行~横行結腸に浸潤が疑われ,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術+拡大右半結腸切除術を行った.腫瘍の大きさは19×14×11.5cmで摘出標本は2,800gであった.病理組織診断は結腸浸潤を伴う十二指腸原発GISTと診断された.
    今回,瘻孔を形成した巨大十二指腸GISTの1例を経験したので報告する.
  • 高橋 慶太, 藤崎 宗春, 梶 沙友里, 小郷 桃子, 篠原 万里枝, 谷田部 沙織, 藤田 明彦, 金井 秀樹, 篠原 寿彦, 羽生 信義
    2016 年 41 巻 2 号 p. 221-226
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例はPeutz-Jeghers症候群の既往を持つ27歳女性で,2014年8月に心窩部痛,嘔吐を主訴に当院救急受診となった.腹部CT検査にて小腸3カ所にPeutz-Jeghers型ポリープが原因と思われる小腸重積を認め,同日緊急手術を施行した.
    腹部正中切開にて開腹したところ,腸重積は2カ所認められ,1カ所は自然に解除されていた.空腸の腸重積は約15cmの小腸を切除して回腸の2カ所は腸管切開を行い,内部のポリープを切除した.病理組織検査ではPeutz-Jeghers型ポリープとして矛盾しない所見であった.
    Peutz-Jeghers型ポリープは過去の報告より,20mm以上で腸重積の原因となりうるとする報告が多い.また,10mm以上でポリープの癌化リスクがあるとの報告があり,今後1~2年おきの小腸および大腸内視鏡検査を行い10mm以上のポリープに関しては内視鏡的に切除することが望ましいと言える.
  • 宇根 範和, 吉福 清二郎, 加藤 博樹, 亀山 亨, 岸本 浩史, 笹原 孝太郎
    2016 年 41 巻 2 号 p. 227-232
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は43歳女性.腹痛,嘔気を主訴に来院した.身体所見,造影CT検査,採血結果などから非閉塞性腸間膜虚血症を疑い,腹腔鏡下に緊急手術を施行した.腸管に浮腫,発赤はみられたが,全層壊死には至っていないと判断し,観察のみで終了した.症状は改善傾向にあったが,しばらくして間欠的な腹痛が出現するようになり,保存的治療を行うも改善しなかった.ダブルバルーン小腸内視鏡検査を行うと回盲弁から50cm口側の回腸にヒダの消失,浮腫,びらん潰瘍があり,内視鏡は通過しなかった.以上から狭窄型虚血性小腸炎と判断し,腹腔鏡補助下に小腸部分切除術を施行した.術後の経過は良好で術後第8病日に退院した.虚血性小腸炎は比較的稀であり,急性期および狭窄形成期のそれぞれに腹腔鏡下に手術を施行した報告例は本症例が初である.腸管の虚血が疑われる症例に対して,早期に腹腔鏡で腸管のviabilityを確認することは有効と考えられた.
  • 渋谷 一陽, 永生 高広, 阿部 厚憲, 金沢 亮, 鈴木 崇史, 松澤 文彦, 森田 恒彦, 及能 健一
    2016 年 41 巻 2 号 p. 233-237
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡手術は低侵襲であり整容性に優れるという特徴から広く普及している.腹部術後の癒着性イレウスは日常診療でしばしば遭遇する疾患であるが,イレウスの程度や患者の状態は症例ごとに大きく異なるため,腹腔鏡手術の適応は施設により異なる.イレウスの中には保存的加療により一時的に軽快するものの短期間に再発を繰り返す癒着性イレウスが存在する.癒着性イレウスでは癒着剝離のための再手術により再び癒着の原因を作ってしまうリスクが存在するが,腹腔鏡手術では創が小さいため再癒着のリスクを減らすことができる.
    当科ではこのような繰り返す癒着性イレウスで,十分減圧が得られた症例に対し,症状軽快後に待機的に腹腔鏡手術を施行し良好な成績を得ている.イレウスに対する腹腔鏡手術の報告は多数あるが比較的早期に手術が行われている報告が多く,待機的に行っているという報告は少ない.待機的に手術を施行することで炎症期に手術することを避け,開腹移行のリスクや患者の精神的負担を軽減するとこができると考える.今回,われわれは繰り返す癒着性イレウス3症例に対して待機的腹腔鏡下癒着剝離術を施行し経過が良好であったので報告する.
  • 佐藤 理, 鈴木 善法, 加藤 航司, 才川 大介, 境 剛志, 奥芝 俊一
    2016 年 41 巻 2 号 p. 238-243
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は52歳女性.2010年12月に当科でS状結腸癌に対し腹腔鏡下S状結腸切除を施行し,その後術後補助化学療法を施行した.2012年4月に施行した造影CTでB7肝内胆管の拡張を認めた.同年8月の再評価ではB7肝内胆管の拡張の増強,内腔に腫瘍性病変を認めたため精査加療目的に当科紹介となった.明らかな肝内腫瘍を認めず,肝内胆管拡張の所見から肝内胆管癌の診断で肝後区域切除を施行した.病理組織学的には前回の大腸癌と類似した高分化型腺癌像であり,免疫組織化学染色検査の結果も併せて直腸癌肝転移と診断した.これまで大腸癌肝転移が浸潤性に発育することは少ないとされてきた.一方近年では,胆管内進展をきたす大腸癌肝転移は比較的高い頻度でみられるものとの認識に変わってきている.しかし本症例のように,転移巣がほぼ完全に肝内胆管内に発育し腫瘍栓を形成した症例の報告は少ない.
  • 遠藤 勇気, 飯ヶ谷 重来, 西村 泰司, 石井 直弘, 鈴木 康友, 濱崎 務, 近藤 幸尋
    2016 年 41 巻 2 号 p. 244-247
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    外傷性会陰部膿瘍,特に巨大なものは珍しい.43歳男性が会陰部の腫脹・疼痛を訴え当院救急外来を受診した.患者は24日前に橋から川に転倒し背部と臀部を強打した.同日,近医を受診し,腰椎横突起骨折・臀部打撲の診断を受けた.鎮痛剤が処方され背部痛は軽快したが,会陰部痛は徐々に増強したため当院救急外来を受診した.MRIにて11×6×6cmの会陰部膿瘍を認めたため,直ちに会陰部を縦切開し血性膿液を除去しデブリドマンを施行した.創部からの分泌物の細菌培養でEnterobacter aerogenesStaphylococcus epidermisが検出された.Cefotiamを10日間静脈投与後,ST合剤の経口投与に変更した.開放創を連日生理食塩水で洗浄し,ポビドンヨードシュガーを創部に投与した.本薬剤は感染のある創,浸出液の多い創に有用で,今回の創はそれに合致する状態であった.しかし創部の状況を評価することなく病院に長く居たいとの患者の希望があったため第53病日に退院となった.外傷に起因した会陰部膿瘍は極めて稀でありわれわれの検索した限りでは,過去50年間本邦報告例はなかった.このような症例の報告は本誌の特性から,泌尿器科以外の他科に知ってもらうことは有用ではないかと考え報告する.
  • 中嶋 慎治, 川村 紘三, 島本 強
    2016 年 41 巻 2 号 p. 248-254
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性.約30年前から痔瘻を指摘されており,2年ほど前にも手術もすすめられていたが放置していた.臀部の疼痛と排膿の増悪を認め受診し,肛門周囲に約9cm大の粘液を伴う腫瘤を認めた.精査治療目的で入院,2度の生検組織診断で悪性を認めず,診断および感染のコントロール目的に2期手術を選択,S状結腸の双孔式人工肛門造設術と膿瘍腔掻把術を施行した.病理組織学的検査で痔瘻癌と診断され,初回手術後34日目に痔瘻癌根治術として腹会陰式直腸切断術を行い,会陰部の広範な皮膚欠損部に対し,腹直筋皮弁による会陰部再建を施行した.術後経過良好で,術後41日目に退院した.
    左鼠径部リンパ節転移を認め切除を施行,現在3年経過し再発を認めていない.
    腹直筋皮弁は,広範な皮膚欠損部を覆うことができ,会陰部の再建に有用であると考えられた.
  • 原 仁司, 立川 伸雄, 佐藤 宏喜
    2016 年 41 巻 2 号 p. 255-261
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,女性.婦人科にて子宮内膜症と診断されていた.月経周期に一致する腹痛,腹満,嘔吐を繰り返し当科へ依頼された.精査にて回腸狭窄を認め,腸管子宮内膜症を疑い手術を行った.手術は腹腔鏡補助下に行った.手術所見ではr-ASRM(revised-American Society for Reproductive Medicine)分類にてStage Ⅱの子宮内膜症と回腸狭窄を認め,回腸部分切除術を施行した.病理組織学的に腸管子宮内膜症と診断された.腹腔鏡手術を施行した腸管子宮内膜症による回腸狭窄の症例を経験したので報告する.
  • 本庄 薫平, 塚本 亮一, 青木 順, 高橋 里奈, 宗像 慎也, 丹羽 浩一郎, 杉本 起一, 小島 豊, 五藤 倫敏, 坂本 一博
    2016 年 41 巻 2 号 p. 262-266
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は60歳台,男性.検診で貧血を指摘され,大腸内視鏡検査でS状結腸癌と診断され,紹介受診となった.腹部所見で右下腹部から側腹部に拡がる30cm大の巨大な腫瘤を認めた.腹部CT検査で,右鼠径部から側腹部に小腸の脱出がみられ,右鼠径ヘルニアと診断した.
    また,右鼠径部に精巣が同定され,右停留精巣と診断した.以上より,S状結腸癌に対するS状結腸切除術と同時に右鼠径ヘルニア修復術,右精巣摘出術を施行した.腹腔鏡所見では右外鼠径ヘルニアで,小腸がヘルニア門から脱出していた.まず,小腸の還納を試みたが癒着が強く還納不能であり,開腹移行し癒着剝離を行った.続いて,前方アプローチによるLichtenstein法で鼠径ヘルニアを修復し,精巣摘出術も行った.その後S状結腸切除術を施行した.自験例では停留精巣を伴っていたため,精索が陰囊まで続かず,右下腹部から側腹部の皮下までヘルニア囊が拡がったと考えられた.
  • 宮内 竜臣, 宮木 陽, 井田 在香, 山口 健太郎, 塩澤 俊一, 碓井 健文, 久原 浩太郎, 河野 鉄平, 成高 義彦
    2016 年 41 巻 2 号 p. 267-271
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/30
    ジャーナル フリー
    患者は54歳の女性.約半年前から右鼡径部の膨隆を自覚するようになり,徐々に増大してきたため,当科を受診.右鼡径部に40mm大の腫瘤を触知し,超音波検査およびCT検査にて,右鼡径部にcystic massを認め,Nuck管水腫疑いの診断となった.比較的短期間で増大してきており,子宮内膜症や悪性疾患の可能性が否定できないため,診断的治療目的に手術の方針となった.画像検査にて,Nuck管水腫が内鼡径輪より腹腔側へ広がっていることはないと判断し,前方アプローチにて手術を施行した.病理組織学的所見は,Nuck管水腫の診断であった.
    Nuck管水腫の治療は,外科的切除が第一であるが,近年,腹腔鏡アプローチでの報告例が散見される.しかし,腹腔鏡手術の合併症として,Nuck管水腫の増悪があることを考慮すべきであり,安易に腹腔鏡アプローチを選択するのではなく,術前にNuck管水腫の局在を画像検査にて確認し,術式を選択することが重要であると思われた.
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