日本小児アレルギー学会誌
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原著
  • 中川 亮佑, 高島 光平, 國津 智彬, 野々村 和男
    2025 年 39 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    症例は7歳男児.幼児期より軽症持続型あるいは中等症持続型の気管支喘息に対して無治療であった.前医に意識障害を伴う呼吸不全のために受診し,集中治療目的に当院に転院した.両親はステロイドに限定して使用を拒否したが,救命のために不可欠と説明し同意を得た.ステロイドの全身投与に加えて,筋弛緩下での人工呼吸管理,プロカテロール反復吸入,硫酸マグネシウム持続注射などが開始された.その後もステロイドの速やかな中止を希望していたが,説明と傾聴を連日行うことで,急性増悪時に限定した使用を容認するようになり,最終的にはステロイドを使用してこなかったことへの後悔の発言もみられ,葛藤しながらも受容していく様が見受けられた.第6病日に抜管し,確実に長期管理に繋ぐためアレルギー外来のある前医に転院した.以降6か月間吸入ステロイドを継続し,急性増悪はみられていない.致死的気管支喘息増悪の経験はステロイド受容の契機となりうるが,受容のための時間を設けないままにステロイド治療を開始するため,両親の心情への配慮がより重要である.

  • 國上 千紘, 今井 孝成, 佐々木 郁哉, 関 沙和, 山下 恒聖, 大川 恵, 髙木 俊敬, 本多 愛子, 岡田 祐樹, 神谷 太郎
    2025 年 39 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    【目的】日本における小児を対象としたヘーゼルナッツ食物経口負荷試験(oral food challenge:OFC)の報告は1報のみで,陽性率は10%とされている.当科のヘーゼルナッツOFCを集計し,その特徴を評価した.

    【方法】2013年1月から2022年12月に実施したヘーゼルナッツOFC(負荷目標量1g・10g)を対象とした.診療録からOFC結果と患者背景,ヘーゼルナッツ特異的IgE値の関係などを後方視的に検討した.

    【結果】対象は96件,負荷目標量は1 g 48件,10 g 48件であった.OFC陽性は1 gが19%,10 gが15%で,アナフィラキシー誘発率は1 gが6%,10 gが4%であった.単変量解析でOFC陽性と関連する因子は認めなかった.ヘーゼルナッツ特異的IgE値の95%陽性予測値は算出できなかった.

    【結論】ヘーゼルナッツOFCは,重篤な症状が起こりうる.実施する際は十分に事前準備を行い臨むべきである.

    単施設で行った総負荷量1gと10gのヘーゼルナッツ食物経口負荷試験を後方視的に検討した。OFCの陽性率は1g群19%、10g群15%で、アナフィラキシー誘発率は1 gが6%、10 gが4%であった。単変量解析でOFC陽性と関連する因子は認めなかった。 Fullsize Image
  • 田中 由起子
    2025 年 39 巻 1 号 p. 14-23
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
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    【目的】保育所等における食物アレルギー対応について,実態調査を行うこと.

    【方法】2023年,神戸市保育所等の450施設にメールによりアンケートを送付した.

    【結果】回答数135施設.112施設に食物アレルギー児は在籍していた.食事は自園調理が85.9%,アレルギー食対応が132施設中の93.2%で行われていた.アレルギー原因食は鶏卵,牛乳,木の実,ピーナッツ,果物,小麦の順で多く,だし・味噌・調味料等の制限がある児は14施設でみられた.食物アレルギー児の給食対応の困難さに関しての回答は「安全管理」が一番多かった.一方,栄養士の38.9%は「栄養バランス」を回答していた.誤食について71施設は経験があり,施設児数や食物アレルギー児数で差を認めた(P=0.04).誤食対応の1つに調理者と保育者の情報共有が挙げられていた.

    【結論】医療者は保育所での安全管理を支援すると共に,日常の食事での栄養不足を考慮した食事・栄養指導も行う必要がある.

    神戸市保育所等における食物アレルギー対応について調査した。 結果、アレルギー原因食物は鶏卵、牛乳、木の実、ピーナッツ、果物、小麦の順で多かった。 食物アレルギー児の給食対応の困難さに関しての回答は「安全管理」が一番多かったが、 栄養士の38.9%は「栄養バランス」を回答していた。 Fullsize Image
  • 三山 智史, 林 優佳, 桃井 貴裕, 西本 創
    2025 年 39 巻 1 号 p. 24-31
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
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    【背景】食物蛋白誘発胃腸炎(food protein-induced enterocolitis syndrome,FPIES)は近年世界的に増加傾向にある.今回当院で経験した症例の臨床的特徴を明らかにする.

    【方法】13年間でFPIESが疑われ当院を受診した患者のうち,国際ガイドラインの診断基準を満たす症例の臨床的特徴を後方視的に検討した.

    【結果】対象は35名.全例で嘔吐を認め,その他に活気不良,顔色不良が多く認められた.複数抗原に反応した症例は1名おり,原因抗原は計36例であった.鶏卵が21例と最多であり,全例が卵黄に反応し,卵白のみに反応した症例はいなかった.2017年以降,症例は増加傾向にあり,特に鶏卵の増加が顕著であった.卵黄18例中12例(67%)が耐性獲得し,50%が月齢中央値27か月に耐性獲得した.

    【結語】国内のFPIESは鶏卵,特に卵黄を中心に増加傾向である.卵黄FPIESの半分は月齢24か月で耐性獲得する可能性があり,定期的な食物経口負荷試験で評価する必要がある.

    当院単施設でFPIES症例計35名を対象に後方視的検討を行った。その結果,原因抗原は鶏卵が最多で,全例卵黄に反応を認め,2017年を境に増加傾向であった。卵黄FPIESは月齢24か月前後で耐性獲得する可能性があり,定期的な食物経口負荷試験で評価する必要がある。 Fullsize Image
シンポジウム 1:食事指導・免疫療法を極める
  • 永倉 顕一, 海老澤 元宏
    2025 年 39 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    経口免疫療法(oral immunotherapy:OIT)は食物アレルギー児における脱感作や持続的無反応を期待できるが,安全性,有効性,治療継続性に課題が残る.本稿では日本と海外のOITの対象選択や実施方法の違いを中心に概説する.

    日本では少量からの段階別の食物経口負荷試験(oral food challenge:OFC)をもとにOIT対象者として重症者が適切に選択されるが,海外ではOFC未実施の症例も多く含まれる.

    幼児期早期からのOITや抗IgE抗体(オマリズマブ)併用による試みは副反応や治療中断リスクが課題として挙げられ,欧米で承認されたピーナッツOIT製剤であるPalforziaは日本での適応の見込みはなく,安全性や治療継続性に関する課題も未解決である.

    国内外で少量を目標量とするOITが実施され,日本では誤食予防を初期の目標としつつ,中等量・日常摂取量への増量,その先に耐性化を最終目標とする.

    OITは長期間に渡る治療を前提に患児と保護者への個別化医療と支援体制構築が求められる.

  • 西本 創
    2025 年 39 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
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    経口免疫療法と食事指導に共通するのは主治医が明確に食べる量,具体的な方法を指示し,その結果に対して責任を持つべきことである.その中でリスクが高いものを経口免疫療法と考えるのが妥当である.安全性を確保するには症状発現閾値に十分な安全域を確保した負荷量を設定し,自宅で継続するための指導や安全対策を行わなくてはならない.完全除去が長く遷延した場合には原因食物の摂取が不自然なことになり,医学的に食べられるようになっても社会的・心理的な要因で継続できず耐性獲得に至らない.「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例」となる前に,出来るだけ早く完全除去を回避し,自然に安全に年齢相当の摂取を開始することができる方法(自然経過)を,主治医は時間と闘い,時間を味方に食事指導と呼べるうちに考えていく必要がある.

  • 杉浦 至郎
    2025 年 39 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    経口免疫療法のreal world dataとしてピーナッツ経口免疫療法薬PALFORZIAを用いた報告があるが,治療開始前の食物経口負荷試験(OFC)による症状誘発閾値確認は必ずしも行われておらず,本邦では参考にしにくい.そこで当センターで行われた非ランダム化比較試験であるslow low-dose oral immunotherapy(SLOIT)のリクルート期間内に行われたOFCの結果,重症アレルギー(総負荷量ゆで卵白,ゆでうどん8.7g以下もしくは牛乳8.7mL以下で明らかな誘発症状あり)と診断された合計259名の患児を対象として,OFCからおおよそ9年後の抗原摂取状況に関して調査を行った.期間内に一度は日常摂取量(鶏卵1個,牛乳200mL,うどん200g)の脱感作状態に到達した患児は,鶏卵94/148(63.5%),牛乳31/60(51.7%),小麦40/51(78.4%)であったが,初回のOFCで重症除外と判断された患児(鶏卵56.3%,牛乳27.3%,小麦66.7%),当初SLOITを希望しなかった患児(鶏卵51.7%,牛乳33.3%,小麦60.0%),SLOITを選択したが計画通りの摂取ができなかった患児(鶏卵55.6%,牛乳44.4%,小麦63.6%)の到達者割合は低い傾向が認められた.脱感作後の運動誘発症状は鶏卵で1/94(1.1%),牛乳で6/31(19.4%),小麦で8/40(20%)に認められた.

シンポジウム 2:アレルギー発症予防を極める
  • 崎原 徹裕
    2025 年 39 巻 1 号 p. 48-55
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルギーの発症予防戦略は,アレルゲン食物の「摂取を遅らせる」から「摂取を遅らせない」,そして「早期摂取」へと変遷してきた.鶏卵とピーナッツの早期摂取は,複数のランダム化比較試験でアレルギー発症予防に有効であることが示されており,実臨床でも一定の効果が報告されている.しかし,乳児の食物アレルギーによるアナフィラキシーの報告が増えており,より安全で実用的な発症予防戦略を考案する必要がある.アレルゲン食物の早期摂取だけでは食物アレルギーの発症を防ぐのに不十分であり,最近の研究では,早期摂取後も定期的に継続して摂取することが発症予防に重要であることが実証されている.今後は,介入やスクリーニング検査の対象を考慮したさらなる研究が必要と考える.

  • 山本 貴和子, 大矢 幸弘
    2025 年 39 巻 1 号 p. 56-61
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    本シンポジウムでは,現時点での経皮介入によるアレルギー予防法について概説する.入浴は皮膚洗浄については,今まで通りの日本式入浴と洗浄スタイルを継続する.ハイリスクには新生児期から保湿剤を塗布するとアトピー性皮膚炎の発症を抑制することが期待できるが,質の高い保湿剤を選ぶ.また,アトピー性皮膚炎発症を予防できなくとも,発症を遅らせることも食物アレルギー発症リスクが下がる可能性がある.湿疹の治療については,早期介入が重要であり,早期介入でサブクリニカルな炎症もターゲットにした治療を継続し,皮疹をしっかりコントロールできると,鶏卵アレルギー発症リスクを下げることが期待できる.お肌トラブルを放置しないこと,湿疹を保湿剤のみで治療しないことに留意する必要がある.皮膚介入だけで100%予防できるわけではないので,経口介入を含めたほかの介入も併用して予防対策を行う.

シンポジウム 4:食物アレルゲンを極める
  • 高瀬 貴文, 長尾 みづほ, 藤澤 隆夫
    2025 年 39 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    食物アレルゲンのほとんどは食物に含まれるタンパク質で,複雑な高分子構造中に複数のIgE結合エピトープを有する.一方,単純な構造をとる低分子物質にはIgE分子が結合しにくいため,アレルゲン性が低いと考えられている.しかし,稀ながらアレルゲンとなり,糖アルコールであるエリスリトールや多糖類であるペクチンを含む食品の経口摂取によるアレルギー症状の報告がある.これら低分子物質の非タンパク質アレルゲンは食品成分の一部,あるいは添加物として用いられ,原材料表示などがないことも多く,ある食品でアレルギー症状を起こしたとしても原因として同定されにくい.多くが測定システムの中での固相化が難しい物質であることより特異的IgEの検出は困難であるが,皮膚テストや好塩基球活性化試験が有用である可能性はある.本稿では,非タンパク質アレルゲン,特にエリスリトール,ペクチンを中心に概説し,非タンパク質アレルゲンが原因となるアレルギー診断の一助としていただく方策を説明したい.

  • 安戸 裕貴, 安藤 智暁, 北浦 次郎
    2025 年 39 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    近年,種子貯蔵タンパクの新しいアレルゲンとして,システインの特徴的配列を有するビシリンN末タンパクが注目されている.この新しいタンパクファミリーが食物アレルギーの臨床病態に関与する可能性や,アレルゲンコンポーネントとしての臨床応用の可能性を評価するためには,IgEエピトープの抗原性とタンパク質としての特性を分けて考えると,より理解しやすい.本稿では,種子貯蔵タンパクであるビシリンN末タンパクと食物アレルギーの病態との関連性,ならびにアレルゲンコンポーネントとしての臨床応用の可能性について,最新の知見も踏まえながら解説する.

  • 内藤 宙大, 松井 照明, 伊藤 浩明, 和泉 秀彦
    2025 年 39 巻 1 号 p. 74-79
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    鶏卵の主要アレルゲンは卵白に存在するオボアルブミン及びオボムコイドである.これらのタンパク質のアレルゲン性やIgEエピトープはこれまでにも幅広く研究されているが,我われは加熱調理による鶏卵アレルゲンの変化について深く掘り下げた.鶏卵タンパク質は加熱によりアレルゲン性が低下するといわれているが,オボムコイドは熱耐性を有し,加熱卵でもオボムコイドのアレルゲン性は残存している.近年の臨床現場ではベイクドエッグの導入が普及し,加熱卵で症状を誘発する児でもベイクドエッグであれば摂取できる症例が報告されている.一方で,卵ボーロでは,十分に焼成されていたとしてもアレルゲン性は低下していない.これまで鶏卵タンパク質の低アレルゲン化には「変性」が重要だとされてきたが,我われは「溶解性」の低下が重要だと考え,卵白タンパク質の加熱による変化を解析した.本稿では,ベイクドエッグのアレルゲン性の解析から着想を得て,最終的にはゆで卵中のタンパク質の溶解性を解析した内容をまとめた.

特別講演 1
  • 石田 靖雅
    2025 年 39 巻 1 号 p. 80-83
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    最近の研究により,活性化されたT細胞上に発現が誘導されるPD-1分子の機能を抗体で阻害すると,がん細胞中のゲノム変異に起因する変異タンパク質への免疫応答が有意に回復することが分かった.このことは,裏を返せば,がん患者の体内では,PD-1によってゲノム変異由来抗原への免疫応答が強く抑制されていることを意味する.では,一体なぜ,PD-1はがん細胞に対する特異的な免疫応答を抑制しなければならないのだろうか? はたして,PD-1は人類の味方なのか,それともがん細胞の味方なのか? PD-1は免疫応答を負に制御する分子だと言われるが,一体どのような免疫応答を負に制御しているのか? これらの素朴な疑問に答えるため,本総説では,まずPD-1研究の歴史を概観し,PD-1の生理機能に関する新しい仮説を提出した上で,その妥当性を考察する.

特別講演 2
  • 中山 健夫
    2025 年 39 巻 1 号 p. 84-88
    発行日: 2025/03/20
    公開日: 2025/03/20
    ジャーナル 認証あり

    EBM(evidence-based medicine)とは,「臨床研究によるエビデンス,医療者の熟練・専門性,患者の価値観・希望,そして患者の臨床的状況・環境を統合し,よりよい患者ケアのための意思決定を行うもの」である.研究成果としてのエビデンスと,一般論であるエビデンスを尊重しつつ,臨床場面の多様性・個別性を考慮した総合判断であるEBMの区別を意識することは重要である.診療ガイドラインは「健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書」であり,EBMの実践に役立つ.近年,注目されているSDM(shared decision-making)は,「患者と医療者が,対話を通して,ご本人の考え方や価値観,医学研究によるエビデンス,医療者の専門的経験を合わせて,患者自身が納得できる治療方針を決めていく」とされ,上記のEBMの定義と関連づけた理解と臨床倫理の視点が必要とされている.

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