日本作物学会紀事
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77 巻, 4 号
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研究論文
栽培
  • 島崎 由美, 内田 智子, 小林 浩幸
    2008 年 77 巻 4 号 p. 395-402
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    オオムギをダイズの前作として刈り敷くカバークロップ栽培は, ダイズの不耕起栽培で問題となる一年生夏雑草の抑制や省力化のために開発された. 一方で, カバークロップ栽培にはダイズに増収効果が認められるが, その機構は明らかではない. 要因の一つとしてオオムギ残渣からの窒素の供給が考えられているが, 本研究では, カバークロップ栽培法におけるオオムギとダイズのアーバスキュラー菌根(AM)の形成の関係を検討した. その結果, カバークロップ栽培ではダイズのAM形成率が大きいことが明らかになった. また, オオムギの根長密度とAM形成率はオオムギの播種期が早いほど大きくなった. さらに, オオムギのAM形成率は土壌深層部ほど大きかった. オオムギの根長密度とAM形成率を掛け合わせることで求めたAM形成根長密度は, オオムギの播種期が早いほど大きかった. ダイズのAM形成率とオオムギの深さ0~20 cmのAM形成根長密度は有意な相関関係があった. これらの結果はオオムギを用いたダイズのカバークロップ栽培では, 土壌の深さ0~20 cmのオオムギのAM菌がダイズに対する接種源として機能し, ダイズのAM形成に関与したことを示唆している.
  • 岩渕 哲也, 田中 浩平, 松江 勇次, 松中 仁, 山口 末次
    2008 年 77 巻 4 号 p. 403-408
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    北部九州におけるパン用コムギ品種「ミナミノカオリ」の早播が生地物性および製パン適性に及ぼす影響について検討した. 早播(11月上旬)は標準播(11月中旬~下旬)と比べて, タンパク質含量には差がみられなかったが, 沈降量およびグルテンインデックスが低かった. 生地物性については, ファリノグラムにおける生地の形成時間や安定度が短く, バロリメーターバリューが小さくなり, パン比容積が小さいため製パン適性は劣った. また, 早播では, タンパク質組成のグルテニン含量と酢酸不溶性グルテニン含量が低かった. 年次, 播種期の異なるサンプルにおいて, グルテニン含量は沈降量との間に, 酢酸不溶性グルテニン含量は沈降量およびグルテンインデックスとの間に有意な正の相関関係が認められた. したがって, 早播で生地物性が弱く, 製パン適性が劣った要因は, グルテニン含量および酢酸不溶性グルテニン含量が低く, グルテンの質が低かったためであると考えられた.
  • 古畑 昌巳, 森田 弘彦, 山下 浩
    2008 年 77 巻 4 号 p. 409-417
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    短茎・早生ダイズ品種であるサチユタカの狭畦密植栽培における生育特性を明らかにするため, 異なる条間(30 cm, 40 cm, 60 cm, 80 cm)で栽培したサチユタカおよび日本の西南暖地において慣行となる条間80 cmで栽培したフクユタカを供試して乾物および子実生産特性の調査を行った. その結果, 条間を30 cmおよび40 cmとしたサチユタカの狭畦密植栽培では, m2当たりの莢数および粒数は増加し,子実収量は慣行栽培のフクユタカに比べて30 gm-2多かった. 開花期と子実肥大中期の葉面積指数(LAI)は, 狭畦密植条件では広い条間条件に比べて大きく, 子実肥大中期のLAIはフクユタカとほぼ同等となる5.0~4.4に高く維持された. また,狭畦密植条件では子実肥大中期の上層50 cmの吸光係数は小さく,受光態勢が優れていたと考えられた. 以上の結果, 狭畦密植栽培したサチユタカが慣行栽培したフクユタカに比べて同等かそれ以上の子実収量を得られた要因として子実肥大中期までLAIが十分なレベルで維持されたことが考えられた.
  • 大西 政夫, 門脇 正行, 松本 真悟, 山根 研一, 土本 浩之
    2008 年 77 巻 4 号 p. 418-423
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    チャ品種‘あさつゆ’と‘やぶきた’を供試し, 一番茶芽伸長中のキトサン溶液散布が一番茶および秋冬番茶の収量に及ぼす影響を調査した. 2002年と2003年に試験区間の収量の差異を調査し, 収量差異が小さくなるように処理区を決定した. そして, 2004年と2005年の一番茶芽伸長期に, キトサン含有率10%溶液の700倍希釈液を2000 L ha-1散布をした. キトサン処理前の一番茶生葉収量が対照区の110%(対照区より0.22t ha-1高い. 以下, 対照区+0.22t ha-1と表記)であった‘あさつゆ’では, キトサン処理後には対照区の115%(対照区+0.55t ha-1)と有意に高くなり, キトサン処理前の一番茶収量が対照区の89%(対照区-0.34t ha-1)であった‘やぶきた’では, キトサン処理後には対照区の100%(対照区+0.01t ha-1)とほぼ同等となった. また, キトサン処理の有無にかかわらず前年の秋冬番茶収量が多いほど, 翌年の一番茶収量が減少する傾向があり, キトサン処理により, その減少程度が小さくなる傾向が認められた. 以上のことより, キトサン施用はチャの一番茶収量の向上効果は認められたものの, その効果は大きくなかった.
品質・加工
  • 若松 謙一, 佐々木 修, 上薗 一郎, 田中 明男
    2008 年 77 巻 4 号 p. 424-433
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    暖地水稲において窒素施肥量が背白米の発生に及ぼす影響について検討した結果, 背白米は, 登熟温度(出穂後20日間の平均気温)27℃以上で発生がみられ, 28℃以上で多発した. 登熟温度28℃以下においては, 窒素施肥量の増加により, 背白米の減少傾向がみられ, 玄米タンパク質含有率(玄米窒素量)と背白米発生割合との間に負の相関関係が認められた. 玄米タンパク質含有率6.0%を下回ると背白米の発生割合が増加し, 7.0%を超えると食味が低下したことから, 食味を考慮した玄米タンパク質含有率は6.0~7.0%の間が望ましいと考えられた. 登熟温度28℃を超える条件下においては, 初星, ヒノヒカリといった高温登熟性「弱」品種では背白米が多発し, 玄米窒素量の増大による背白米発生軽減効果が小さかった. したがって, 28℃を超える条件下では窒素施肥量の増加のみによる背白米の発生軽減は困難と考えられ, 高温登熟性の強い品種の導入とともに, その品種に応じた適正施肥量の検討が必要である.
  • 大谷 和彦, 吉田 智彦
    2008 年 77 巻 4 号 p. 434-442
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    乳白粒, 基白粒, 背白粒等を総称した白未熟粒の発生要因を探った. 栃木県産米の1等米比率と気象, 水稲の生育の解析から, 出穂後6~25日の飽差と最大風速, 出穂前・後各20日間の気温, 出穂前30日間の日照時間, 一穂籾数が白未熟粒の発生要因であった. 基白粒, 背白粒は出穂後6~10日の登熟初期の送風処理により穂上着粒位置にかかわらず多く発生した. 一方, 乳白粒は出穂後21~25日の登熟中期の送風処理により, 上・中位の1次枝梗に多く発生した. 枝梗内では弱勢穎花の白未熟粒率が高かった. 白未熟粒率を, 出穂後0~20日の日平均気温と, 出穂後6~25日の[(100-最小相対湿度)×最大風速)]の平均値を用いて推定できた. 白未熟粒の発生には品種間差異があった.
  • 大澤 実, 井上 直人
    2008 年 77 巻 4 号 p. 443-448
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    米デンプンのα-アミラーゼによる消化特性とグリセミック・インデックス(GI)を簡易に測定するため, 近赤外分光(NIR)法による推定精度について検討した. 検量線の作成は, 部分最小2乗法による回帰分析(PLS)で行った. NIR法による推定の実用性評価は, 推定値の標準誤差を検定試料の分布範囲と比較したEI法, および予測標準誤差を検定試料の標準偏差と比較したRPD法を用いて行った. 米デンプンの消化特性は3つのパラメーターを持った非線形式で表現した. そのパラメーターは, 加熱前処理に由来する分解物の割合(パラメーターa), α-アミラーゼの作用に由来する消化物の割合(同b), 消化速度(同c)である. GIはin vitroで評価したGI(EGI)を用いた. NIR法による簡易測定は, パラメーターcおよびEGIの推定において実用性があると判断された. その精度は遺伝資源にランクをつけるような一次スクリーニングに適用できるレベルであった. このことから, NIR法による簡易測定は, 米デンプンの消化速度が遅く, GIの低いイネ品種を選抜するのに有効と考えられた. また, 推定精度の向上のためには, イネの生態型や生産地によって試料を分けることが有効なことも示唆された.
  • 藤田 雅也, 関 昌子, 松中 仁, 乙部 千雅子, 樋渡 亜土, 北野 順一, 神田 幸英, 宮本 啓一, 奥本 裕
    2008 年 77 巻 4 号 p. 449-456
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    温暖地で栽培できる高分子グルテニンサブユニット組成やアミロース含量の異なる硬質コムギ品種・系統を用いて, 官能試験により中華麺適性を評価するとともに, ファリノグラムなどの小麦粉特性を調査し, 中華麺に適した品質の検討を行った. その結果, 中華麺の色とタンパク質含量の間には負の相関があるが, タマイズミなどの白粒種は, 中華麺にした際のホシが少なく, 麺の色が良好であることが明らかになった. また, 極低アミロース系統は麺になめらかさがあり, つるつるとした独特の食感がある麺が得られた. 中華麺評価で重要な項目であるゆで8分後の硬さ, 粘弾性などの食感は, タンパク質含量, ファリノグラム特性, 切断応力と高い相関関係が認められ, 生地物性が強いとゆでのびが少なく, 食感が優れる傾向が認められた. このことから, 生地物性を強くする高分子グルテニンサブユニット5+10に対応する Glu-D1d遺伝子などの導入により強力粉的な小麦粉品質を持たせることで, ゆでのびをおさえ国産コムギの中華麺適性を改善できると考えられた. また, 栽培技術により高タンパク化することでも, ある程度中華麺適性を改善できることを示した.
  • 佐藤 徹, 服部 誠, 市川 岳史, 田村 隆夫
    2008 年 77 巻 4 号 p. 457-460
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    ダイズの亀甲じわ粒の立毛中の発生要因について子実の水分変動との関係から検討した結果, 剥離粒は単粒子実水分が13%以下に乾燥した粒が吸湿すると発生した. また, 種皮は子葉に比べ吸湿直後の水分吸収速度が速かった. さらに, 亀甲じわは剥離粒の乾燥と吸湿処理の繰り返しにより, しわの発生と消滅を繰り返しながら徐々に増加した. このことから, 立毛中に子実水分が13%以下に乾燥した粒が, その後, 吸湿すると子葉と種皮の水分吸収速度の違いから剥離を生じ, さらに, 水分を吸収することにより亀甲じわになると考えられた. その後, 日中の乾燥によりしわが消える粒もあるが, 夜露等により亀甲じわが再度発生し, その後も日中の乾燥と夜間の湿潤状態の繰り返しにより, 亀甲じわの発生と消滅が繰り返され, 種皮の弾力性が失われ, 亀甲じわが固定されると考えられた. 亀甲じわの防止のためには早めに刈り取ることが重要であり, 成熟期になったら, 刈遅れることなく, 直ちに収穫する必要があると考えられた.
品種・遺伝資源
  • 趙 仁貴, 塩津 文隆, 劉 建, 豊田 正範, 諸隈 正裕, 楠谷 彰人
    2008 年 77 巻 4 号 p. 461-466
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    短根性が水稲の収量発現に及ぼす影響を検討するため, 水稲品種オオチカラとその短根性準同質遺伝子系統IL-srt1の収量および収量構成要素を比較した. IL-srt1の収量は507g/m2, オオチカラの収量は745g/m2で, IL-srt1/オオチカラ比は68%であった. 収量構成要素のIL-srt1/オオチカラ比は, 穂数では91%, 1穂籾数では100%, 登熟歩合では80%, 1000籾重では95%であり, IL-srt1の低収性には登熟歩合が最も強く影響していた. 登熟歩合は稔実歩合と稔実籾登熟歩合に分けられる. 稔実歩合のIL-srt1/オオチカラ比は74%, 稔実籾登熟歩合のそれは108%で, IL-srt1の稔実歩合はオオチカラより低かったが, 稔実籾登熟歩合はオオチカラより高かった. これらより, IL-srt1の短根性は稔実歩合を通じて登熟歩合の低下に影響し, このためオオチカラよりも低収になると考えられた.
形態
  • 張 立, 高橋 肇, 松澤 智彦, 藤本 香奈, 山口 真司
    2008 年 77 巻 4 号 p. 467-473
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    山口県でコムギを早播栽培した時にみられる小穂数の増減の品種による違いが生じる原因を明らかにするため, 幼穂形成過程における小穂位置別の小花分化パターンを調査した. 試験は1999/2000年, 2000/2001年, 2001/2002年の3シーズンに実施し, 品種は, 春播性を示すものから強い秋播性を示すものまで育成地の異なる9品種を用いた. 小花は, 慣行栽培した標準区では, 供試したすべての品種において幼穂の中央部の小穂で早く分化し, 先端および基部の小穂ほど遅く分化した. 早播栽培した早播区でも, 春播性の品種および強い秋播性の品種では標準区と同様に, 中央部の小穂で早く, 先端および基部の小穂で遅く分化した. 一方, 中程度の秋播性を示す九州育成品種のイワイノダイチと関東育成品種のアイラコムギは, 早播区では先端の小穂で早く分化し, 基部の小穂ほど遅く分化した. 一穂小穂数は, イワイノダイチとアイラコムギでは3シーズンとも早播区が標準区よりも多く, 春播性品種の農林61号と春のあけぼのでは3シーズンとも早播区が標準区よりも少なかった. ただし, 小穂別の着生粒数は, イワイノダイチの早播区では, 先端の小穂が, 早く分化したにもかかわらず, これよりも遅く分化した中央部の小穂よりも少なかった.
作物生理・細胞工学
  • 浅沼 俊輔, 二戸 奈央子, 大川 泰一郎, 平沢 正
    2008 年 77 巻 4 号 p. 474-480
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    収量など複雑な量的形質の改良をめざしてDNAマーカーを用いた育種を行う上では, 改良しようとする形質やそれらの遺伝子座の機能を明確にしておくことが必要となる. 本研究では, QTL解析研究に用いられているインド型多収性水稲品種ハバタキが日本型品種ササニシキと比較して多収となる要因をソース能, いいかえると乾物生産能力の見地から解析した. ハバタキはササニシキに比較して収量は60~120g m-2高く, これは専ら高い収穫指数によっていた. ハバタキが高い収穫指数を示したことには出穂前に茎葉に蓄積され, 出穂後に穂に転流される同化産物量の多さに加え, 穂ばらみ期から登熟期に生産される同化産物の多さが関わっていた. ハバタキの同化産物生産量の多かった要因として上位葉で穂ばらみ期から登熟前期の午前における光合成速度(最大光合成速度)が高いことと, 蒸散の大きくなる午後でも高い光合成速度を維持することがあげられた. ハバタキは総根長, 根表面積のいずれもササニシキより大きく, 根から葉までの水の通導抵抗が小さかったことから, 高い吸水能力によってハバタキが午後でも高い光合成を維持することが推察された. 今後の多収水稲育成においてハバタキのもつ高い最大光合成速度と吸水能力に関わるQTLを見出し, 日本型品種に導入していくことが有効であることが示唆された.
  • 酒井 隆成, 今井 勝
    2008 年 77 巻 4 号 p. 481-488
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    伊勢いもの茎頂および節切片を材料として, 固形および液体のMS培地による組織培養によって多芽体を作成し, それらを分割して増殖・成長させ, さらにマイクロチューバーを作出した. 茎頂外植片はベンジルアデニン(BA)0.1~2 mg L-1とナフタレン酢酸(NAA)0.1~0.5 mg L-1, 節切片はBA 0.1~5 mg L-1の添加で多芽体を分化した. 多芽体はBAのみ5mg L-1を添加した培地に移植すると, そのまま維持し続けることができ, また, 植物成長調節物質無添加の培地に移植すると, 多芽体からシュートが伸長した. ある程度伸長したシュートにジャスモン酸(JA)を添加すると, マイクロチューバーは速やかに形成されたが, 無添加でも時間が経つと形成された. その形成数は暗黒下でより多く, 肥大は光照射下でより良好であった. 得られた生体重120 mg以上のマイクロチューバーは, 8℃に保った冷蔵庫内で1ヶ月貯蔵した後, 通常の栽培に用いることができた.
収量予測・情報処理・環境
  • 下野 裕之
    2008 年 77 巻 4 号 p. 489-497
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    地球温暖化がイネ生産に与える影響の正確な予測は極めて重要である. 本研究では将来の地球温暖化が北日本のイネの収量変動に与える影響について(1)過去の気温傾向, (2)過去のイネの収量傾向, (3)簡易なモデルによる予測から解析した. 過去70年間の日本の各地での気温傾向をみると, 年平均では0.2℃(10年換算)の上昇が認められた. しかし, 季節間で昇温傾向が異なり, 夏の昇温程度が他の季節に比べ, 特に北日本で小さかった. 品種ササニシキを北日本の同一栽培条件で生育させた収量の推移(26年間)をみると, 16g m-2(10年換算)の割合で増加するものの, その年次変動は近年やや増加する傾向にあった. 最後に, さらに温暖化傾向が進行した場合を想定し, 簡易なモデルを用い, イネが幼穂形成期間中に受ける低温程度の指標として冷却量を算出した. 「夏も春と同程度に昇温する」条件では既存の予測と同様に温暖化により冷却量を低下させたが, 観測された気温傾向を反映させた「春は昇温するが夏は昇温しない」条件では1℃の昇温で冷害強度を16%増加させることが予測された. 以上, 現在, 徐々に進行している春の昇温傾向は, 冷害強度の上昇を介し北日本の収量変動を高める可能性があり, 品種・作期を最適化させる必要を示した.
  • 張 祖建, 中村 貞二, 国分 牧衛, 西山 岩男
    2008 年 77 巻 4 号 p. 498-504
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    著者らは前報において, 地上部の量あるいは穎花数に対する相対的根量, さらに根の生理的活性がイネの穂ばらみ期耐冷性と相関関係があることを明らかにした. 本研究は, 一般に耐冷性と密接に関係することが知られている花粉数に着目し, 相対的根量(根/葉茎穂比あるいは1穎花当たりの根の乾物重)あるいは根の生理的活性が花粉数に及ぼす影響, さらに花粉数と耐冷性の関係を明らかにする目的で行った. 前報と同じ材料から得られた葯の花粉数を測定した. 施肥窒素量が増加すると, 常温区, 冷温区(小胞子初期に昼17℃ー夜12℃を5日間処理)ともに開花直前の花粉数が著しく減少すると同時に, 冷温区の受精率すなわち耐冷性は低下した. また, 前報において相対的根量は施肥窒素量の増加に伴い減少することが示されているが, その相対的根量が減少するにしたがい花粉数も直線的に減少する傾向が認められた. 一次枝梗分化開始期の剪根により相対的根量を人為的に減少させる, またはこの時期からの呼吸阻害剤処理により根の生理的活性を減少させると, 常温区, 冷温区ともに花粉数は減少し, 花粉数と冷温区の受精率の間には有意な正の相関関係が認められた. 以上より, 根の発達や活性は花粉形成を介して, 耐冷性に影響することが明らかとなった. また, 窒素多肥による耐冷性の低下は, 相対的根量の低下による花粉数の減少が原因の一つになっていることが示された. さらに, 相対的根量や根の生理的活性は冷温区だけでなく常温区の花粉数にも影響を及ぼしたことから, それらは体質的にイネの耐冷性を変化させ, 冷温に遭遇した際にその抵抗性に影響すると考えられた.
研究・技術ノート
  • 伊田 黎之輔, 富田 因則
    2008 年 77 巻 4 号 p. 505-510
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    十石に由来する半矮性遺伝子sd1を持つコシヒカリ同質遺伝子品種であるヒカリ新世紀の倒伏関連形質について, 堆肥施用条件下において検討した. ヒカリ新世紀の最長稈長や平均稈長はコシヒカリに比べていずれも短く, 短稈品種であった. 出穂期後26~30日に測定したヒカリ新世紀の第4節間(穂首節間を第1節間とする)の挫折荷重はコシヒカリと同等の強度を示した. このときのヒカリ新世紀の曲げモーメント(挫折荷重を測定した節間以上の長さと重さの積)はコシヒカリに比べて小さく, これは短稈化による地上部長の短縮による影響が大きかった. このため, ヒカリ新世紀の倒伏指数(曲げモーメント・挫折荷重-1・100)は127~100で, コシヒカリの173~148に比べて小さかった. 倒伏のみられた年次の収穫期におけるヒカリ新世紀の倒伏程度(0 : 倒伏無~4 : 倒伏程度甚の5段階表示)は1.1 で, コシヒカリの2.6 に比べて小さく, 倒伏指数の小さいことと対応した関係がみられた. 以上のことから, ヒカリ新世紀の耐倒伏性が優れた要因は, 倒伏関連形質からみると, 曲げモーメントの低下による影響が大きく, 第4節間の強度には影響されないと判断された.
  • -湿害の発生様相-
    小柳 敦史
    2008 年 77 巻 4 号 p. 511-515
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/01
    ジャーナル フリー
    茨城県では2006年の11月19~20日及び12月26~27日に100 mm 前後の降雨が記録され,コムギで出芽不良がみられた. そこで, コムギ農林61号に出芽不良と生育ムラが観察された茨城県稲敷市の1.4 ha の大区画水田で調査を行った. 2007年1月14日に圃場内に10 m 間隔で格子状に80箇所の調査地点を設け, コムギの出芽密度, 標高及び土壌水分を測定した. その結果, 土面が低い場所で土壌水分が高く, 出芽不良となっていたことが確認できた. また, 出芽不良部分を除く73箇所の調査地点で登熟期に土壌水分と草丈及び子実収量を調べた結果, 土壌水分と草丈に負の相関関係, 草丈と収量に正の相関関係がみられた. このことから, この圃場では出芽期だけでなく, それ以降も圃場内の土壌水分が高くなりやすい地点でコムギの生育が劣っていたことが分かった. なお, 圃場内の地点ごとの土壌水分の相対的な関係は, 生育期間を通して安定していた.
連載ミニレビュー
  • 坂 齊
    2008 年 77 巻 4 号 p. 522
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
     過去3年余にわたり,ミニレビュー「作物形態実験法」が本誌に掲載され(オーガナイザー:前田英三先生),多くの会員から大変な好評を頂いてきました.作物学研究の開始・展開を図る上での指針や各成果を纏め上げる際の参考資料として役立つだけでなく,何よりも著者の心情・本音が吐露されていて読み手を引き込んでしまうとの大方の評価でした.この線上で新たな企画を立て新ミニレビューとして作物生理研究法をやるべしとの意見が幹事会等で集約され,レビュー委員会委員長の白岩先生から,企画小委員長を仰せ付かりました.私自身は, イネの形態形成の化学制御という側面から長年作物学研究に取り組んできた経験から,現在の作物学研究の現場に幾らかでも寄与できるのではと考え,その任を引き受けました.
     もとより,作物学に係る研究および教育は,現場に根ざしたWhole Plantサイエンスをベースにおくものであり,播種から成長・分化を経て開花・結実,収穫・ポストハーベストに至る実に長い時間軸の,かつ幅広いテーマを包含する学術分野です.そこでの成果の大半は,再び農業の現場に還元されるべきもので,そこに切り込むためには栽培学,形態学,生理学,遺伝・育種学はもとより,生態学・環境科学や分子生理・分子遺伝学等の領域をも駆使することになります.その中で,作物生理学的に研究を遂行しようと構える際に必要なツール・手法について,造詣が深い研究者に心情・本音も含めて吐露して頂くのが本ミニレビューの主旨であります.
     作物学研究に本格的に腰を落ち着けて取り組むには確かに時間がかかります.例えば,イネのライフサイクルは5~6ヶ月もあり,微生物と比べると,もう無限という位に長い.イネの開花期以降のステージの生理学研究をするには,圃場レベルでは播種後100日位は待たねばならない.それまではひたすらイネが正常に育つように肥培管理をすることになる.いきおい自分の意図に反して発芽・幼苗期イネを材料にして短期間で終了する研究に留めてしまう場合もありましょう.また,研究者によっては,シロイヌナズナ等ライフサイクルが短く扱い易い研究材料を使うこともあります.しかし,イネとシロイヌナズナとを比べると,共に高等植物で子実植物とは言うものの,単子葉種と双子葉種という大きな違いがあり,形態学的・分類学的にはイネとは遥かに縁遠い.作物学研究者が取り組んでいる各論的研究は,普遍性を意図するのでなく,それ自体を研究対象にする場合が多い.従って,たとえ時間がかかっても,それに食らいつかねばと覚悟しておられる研究者は多いと思います.それだけに,そうした研究で早く良結果を出し,素早くペーパーにすることを常々思案するものです.他にも多くの意義付けをすることができましょうが,こうした日時がかかる試験研究への良質なヒントや簡便な今日的試験法があれば,どれほど試験を有利に進められることでしょう.
     これまで30年余,私が見聞してきただけでも,作物関連の生理生態研究分野には多くの実験書・成書があります.執筆担当者にはそうした過去の事例にも触手を伸ばす余裕も持って頂きながら,気軽な気持ちで執筆していただきたい.学会員諸氏におかれては,本ミニレビューへの強力な協力と容赦のない批判を宜しくお願いいたします.
  • —作物の器官, 組織, 細胞の水輸送能の量的解析
    平沢 正
    2008 年 77 巻 4 号 p. 523-526
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    水ストレスは茎葉や根, ひいては果実などいろいろな器官の成長, 光合成や窒素の吸収・同化など植物の重要な生理的プロセスに大きな影響を及ぼす. 水ストレスは, 吸水速度が蒸散速度(気孔開度が水ストレスの影響を受けていない時の)に追いつかない場合に発生する. 良く知られている条件が土壌水分の低下である. しかし, 水ストレスは, このような時だけでなく, 気孔の閉鎖機能が低下した時や吸水過程や体内における水輸送に対する抵抗が大きい時にもおこる. 水の通導抵抗の大きさと抵抗の大きくなっている部位の所在を明らかにすることが, 水ストレスの発生機構の解明とともに水ストレス耐性作物の育成戦略を考える上で重要となる. 対象とする問題, 対象とする植物の部位によって測定に用いる方法も異なる。本稿は水の通導抵抗の測定法を筆者の視点からまとめたものである.
  • 井上 眞理
    2008 年 77 巻 4 号 p. 527-532
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/23
    ジャーナル フリー
    作物はハウスで栽培されることの多い園芸植物と異なり, 気温や降雨など野外環境の影響を直接受ける. 温室効果ガスの影響は北アジアで最も大きく, 日本における環境ストレス耐性の作物の作出は急務である. ストレス耐性品種の選抜法のひとつである収穫後の収量・品質調査には膨大な時間を要してきたが, 近年の著しい環境変動に対応するための効率のよい選抜法が望まれる. 本稿では, 作物学の分野ではこれまであまり注目されていなかった水分子の運動性に焦点をあてた研究について紹介する. 温度ストレスを受けた作物における水分子の動的情報は生理活性をどのように反映しているのか, またストレス傷害の「早期発見」の応用の可能性について解説する.
情 報
日本作物学会ミニシンポジウム要旨
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