日本作物学会紀事
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研究論文
栽培
  • 羽生 優花, 大川 瑞生, 高田 佳歩, 小早川 紘樹
    2025 年94 巻4 号 p. 347-354
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,ダイズ(品種:「おおすず」)の収量,収量構成要素,生育および乾物生産に及ぼす亜リン酸肥料の影響を調査し,亜リン酸肥料がダイズの収量に貢献するか否かを検討した.2021年には,散布濃度を決定するために,亜リン酸肥料を100倍希釈で散布する100倍区,500倍希釈で散布する500倍区を設けた.2022年および2023年の2年間に散布時期を検討するために,亜リン酸肥料を開花始期に処理する前半区,子実肥大始期に処理する後半区を設けた.2021年では,100倍区で粗子実重が増加し,2023年では,前半区(R1,開花始期)の精子実重および後半区(R5,子実肥大始期)粗子実重と精子実重が増加した.このことから,亜リン酸肥料を葉面散布することで,ダイズの収量が増加することが明らかになった.この増収には,莢数の増加が寄与していた一方で,生育期の地上部乾物重およびSPADは亜リン酸肥料の影響を受けなかった.以上のことから,亜リン酸肥料を生殖成長期(開花始期から子実肥大始期)にダイズに散布することで,ソース能よりもシンク能が向上し,莢数が増加することで収量の向上に繋がると考えられた.

  • 水田 圭祐, 諸隈 正裕, 豊田 正範
    2025 年94 巻4 号 p. 355-364
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    生育診断とその結果をもとに窒素を可変的に追肥する施肥体系 (可変施肥) は,コムギの収量や品質を高い水準で安定させるために有効であるが,知見は限られている.本研究では,コムギの品質評価において重要な子実タンパク質含有率 (GPC) を止葉抽出期 (GS37) における窒素追肥量を増やすことによって高められるか2作期にわたって検証した.また,安価な生育診断手法としてGS37の群落画像から算出した生育診断指標値が利用可能かも検証した.GPCは,GS37の窒素追肥量を5 g m–2増やすことによって0.2~2.3ポイント有意に高まった.GPCが高まった原因は,5 g m–2の増肥によって子実の窒素蓄積量が約2 g m–2多くなったためであった.播種量や節間伸長開始期の窒素追肥量はGPCに影響しなかった.群落画像から算出した生育診断指標値はGS37の地上部窒素蓄積量と有意な相関があり,解析に供した38種類のうち6種類については2作期とも同一の傾きかつ切片を示した.3作期目には,生育診断指標値を基準としたGS37の可変施肥はGPCの高位安定化に有効であるか検証試験を行った.検証試験区では,節間伸長開始期に無作為量の窒素を追肥してGS37の地上部窒素蓄積量がばらつくようにした.その後,GS37の地上部窒素蓄積量を生育診断指標値で推定し,子実の窒素蓄積量9.43 g m–2を目標値として窒素を追肥した.その結果,収量は180~509 g m–2の範囲でばらついたが,GPCは11.6~11.8%とほぼ同値となった.群落画像から算出した生育診断指標値を基準としたGS37における窒素の可変施肥は「さぬきの夢2009」で品質の高位安定化を達成するために有効な栽培技術であると考えられた.

  • 福嶌 陽, 森本 晶, 澤田 寛子, 岡崎 圭毅, 馬橋 美野里, 大友 量
    2025 年94 巻4 号 p. 365-374
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    水田の畑地化における地力維持および作物の安定的生産のため,堆肥の有無,および休閑の有無を組み合わせた3年間のダイズ・コムギ輪作体系試験を実施した.堆肥処理により,土壌中の熱水抽出性窒素,可給態リン酸,交換性カリウムが増加した.しかし,堆肥の有無によって,ダイズやコムギの乾物生産や収量が大きく異なることは無かった.ダイズ作においては,コムギ作後は休閑後と比較して,2年目,3年目ともに,播種時の土壌中の硝酸態窒素が低く,根粒重は増加する傾向が認められた.しかし,前作の有無によりダイズの乾物生産や収量が異なることはほとんど無かった.コムギ作においては,ダイズ作後と休閑後の間には,初年目,3年目ともに乾物生産や収量に差異はほとんど認められなかった.ただし,コムギ作の3年目においては,ダイズ作後は休閑後と比較して,土壌中の硝酸態窒素が低く,登熟期間の葉色値が低く,子実蛋白が低かった.土壌中の全窒素は,窒素施肥,窒素固定,子実蛋白からの推定によると,堆肥有区で増加し,堆肥無区で減少したが,実際の土壌の分析値によると,堆肥有区で増加したが,堆肥無区で大きく変化しなかった.結論として,堆肥は土壌の化学的特性に変化をもたらしたが,前作や堆肥は作物の収量にほとんど影響しなかった.

  • 赤木 浩介, 近藤 始彦
    2025 年94 巻4 号 p. 375-385
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    高知県における酒米品種「吟の夢」の1等米および高い蒸米酵素消化性を確保するための登熟期間平均気温を明らかにするために,作期移動試験を実施し,「吟の夢」における検査等級および蒸米酵素消化性と登熟期間の気温条件との関係や収量および蛋白質含有率の作期移動による変動を検討した.試験は,2016年では5月中旬,6月上旬,6月中旬,6月下旬に移植する4作期,2017,2018年では上記に7月中旬を加えた5作期を設けて行った.その結果,「吟の夢」において,作期を遅くすることにより登熟期間の平均気温が低くなれば,千粒重,整粒割合,心白発現率の増加や背白粒等の白未熟粒割合の減少によって検査等級が,デンプン特性の変化によって蒸米酵素消化性が向上することが認められた.そして,検査等級および蒸米酵素消化性と登熟期間の平均気温との相関関係における回帰式から,1等米および高い蒸米酵素消化性を確保するための登熟期間の平均気温は23.6℃以下であることを示すことができた.ただし,作期を遅くすることにより減収や蛋白質含有率の増加が認められたため,それらを緩和するための適正な栽培法を検討する必要がある.

品質・加工
  • 高田 兼則, 飯田 桃子, 山田 大樹, 木村 友音, 中村 正
    2025 年94 巻4 号 p. 386-395
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    近年,優良なパン用小麦品種が開発され国産小麦を使用したパンの製造販売も増加している.国産小麦を使用したパンは輸入小麦のパンよりおいしいという評価があるが,具体的な報告は極めて少ない.本研究は,小麦品種とパンの食味との関係を明らかにすることを目的に行った.北海道産小麦3品種「ゆめちから」「春よ恋」「キタノカオリ」の小麦粉各3製品と市販強力粉「カメリヤ」を供試してノータイム法でパンを製造し,クラム(パンの内相)中の各種糖含量,アミノ酸含量,有機酸含量,リン酸含量の測定および官能試験と味認識装置による呈味測定によりパンの食味を評価した.その結果,品種や小麦粉製品によってパンの食味に差があることが明らかになった.主成分分析により示された各品種の食味の特徴は以下の通りである.「ゆめちから」は3品種のなかで最も「カメリヤ」に類似しており,旨味と甘味に偏りが少なかった.「春よ恋」は遊離アミノ酸が多く旨味が強いと評価される傾向があったが,製品間でバラツキが大きかった.「キタノカオリ」はクラム中のマルトースが多く,クラムの甘味が強いと特徴づけられた.成分分析,味認識装置の結果は官能試験の結果に必ずしも一致せず,各分析方法には一長一短があることが示された.しかし,本研究で使用した味認識装置はパンの呈味の違いを数値化することができ,官能試験や成分分析と組み合わせることでより正確な食味の評価が可能になると考えられた.

研究・技術ノート
  • 福嶌 陽
    2025 年94 巻4 号 p. 396-400
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    水稲の乾田直播栽培における出芽の安定化に役立てるため,水稲,コムギ,ダイズ,およびトウモロコシの同時深播き試験を畑作物用の播種機を用いて実施した.播種深度は標準播区3 cm,深播区7 cmを目標とした.水稲は他の3作物と比較して,いずれの播種深度においても,出芽日数が長く,出芽率が低く,特に深播区の出芽率が極めて低かった.深播区において,コムギでは第1節間が3.9 cm伸長し,ダイズでは下胚軸が標準播区より2.9 cm長くなり,トウモロコシでは中茎が5.0 cm伸長したのに対して,水稲では中茎,第2節間の合計で2.3 cmしか伸長しなかった.このように他の3作物と比較して水稲においては,深播きによる茎の伸長の促進が少ないことが,深播きの出芽率が低いことと関連していると推察された.水稲の乾田直播栽培においては,深播きとならないことが推奨される.

  • 松波 寿典, 及川 聡子, 小山田 絢子, 加藤 大輔, 小笠原 篤, 柳村 大地
    2025 年94 巻4 号 p. 401-407
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    融雪が遅い寒冷地の乾田直播栽培では春作業の適期が短いため,規模拡大のためには春作業の分散化が重要である.本研究では,プラウ耕鎮圧体系により11月中旬の初冬に乾田直播したイネ(以下,初冬播き)の生育,収量,品質について慣行的な春に乾田直播したイネ (以下,春播き) と比較し,その特徴を明らかにすることを目的とした.春播きに比べ初冬播きでは苗立ち率と苗立ち本数は劣ったが,出芽始期が早く,苗の葉齢の進展も早く,生育も優れていた.初冬播きの生育量は7月上旬では春播きよりも旺盛であったが,7月下旬は有意な差は認められなかった.初冬播きの出穂期,成熟期は春播きよりも,それぞれ7日,15日早く,初冬播きと春播きで収量,品質に明瞭な差は認められなかった.これらの結果から,寒冷地におけるプラウ耕鎮圧体系による初冬乾田直播栽培は春播きの播種や収穫などの作業時期の分散化に適していることが明らかとなった.今後は,初冬播きの旺盛な初期生育を活かした高品質,安定生産のために,7月中下旬の生育を確保するための施肥体系の確立が重要であると考えられた.

  • 高橋 行継, 戸塚 悠介, 雑賀 正人, 塚田 耕一, 星野 未奈美, 穴澤 拓未
    2025 年94 巻4 号 p. 408-417
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    水稲育苗箱全量基肥技術と水稲疎植栽培は共に育苗の省力・低コストを狙った栽培技術である.水稲疎植栽培では単位面積当たりに必要な育苗箱数は減るが,その一方で同時に水稲育苗箱全量基肥技術を用いると,育苗箱内の1箱当たりの施肥量を増やす必要性が生じる.1箱当たり施肥量の増加に伴い,苗の徒長が生じ,その苗を移植することによって移植後の活着不良,初期生育の遅れやそれに伴う穂数不足等による収量低下が発生する可能性が懸念されている.そこで,群馬県館林市の6月上・中旬移植で「あさひの夢」を供試して,水稲育苗箱専用肥料「苗箱まかせ」NK301-100を施用し,本田での栽植密度を疎植11.1株/m2,中間18.1株/m2,密植24.2株/m2の3段階に設定して栽培試験を実施した.それぞれ単位面積当たりに必要になる育苗箱数と減肥率から箱当たり施肥量を決定した.2010,2011年は減肥率50%として,2012年は減肥率40%として算出した施肥量分を育苗箱内に投入して育苗し,慣行区として化成肥料による分施方式の試験区も設定した.3か年にわたる本田試験の結果,1箱当たり施肥量が最も多かった疎植区では,既往の報告にみられる標準的な栽植密度との比較で株当たり茎数や穂数の増加傾向に対して,単位面積当たりでは茎数や穂数がやや劣る特徴があったものの,全籾数が確保されたことによって総じて中間や慣行区との収量・品質に遜色はなかった.群馬県を中心とした北関東の稲麦二毛作地域での6月上中旬移植の水稲作期でも疎植栽培と箱全量を組み合わせた栽培に実用上の問題点がないことが明らかになった.

  • 提箸 祥幸
    2025 年94 巻4 号 p. 418-424
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    北海道の水稲品種63種を用いて幼苗期の低温耐性および低温順化処理後の低温耐性(順化型低温耐性)を測定した.それぞれの試験で低温処理後の幼苗の生存率が,0%から90%以上まで品種により様々な結果を示した.順化型低温耐性試験において,近年に育成された系統はどれも低い生存率を示した.順化型低温耐性の高い「キタアケ」と低い「ほしのゆめ」の組換え自殖系統を用いて,順化型低温耐性の量的形質遺伝子座(QTL)の検出を試みた.その結果,9番染色体上に寄与率の高いQTLが検出された.本研究により,順化型低温耐性のQTLを利用した幼苗期の低温ストレス耐性強化の可能性が示された.

  • 大平 陽一, 石丸 努
    2025 年94 巻4 号 p. 425-439
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    多収,良食味,高玄米品質の水稲品種「にじのきらめき」について,湛水直播栽培における諸特性を品種比較により把握するとともに,播種量ひいてはm2当り苗立ち本数と窒素施用法を変えた試験を実施し,食味を考慮しながら一定の多収にするための条件を検討した.表面散播と表面点播の試験結果から,窒素施用法が同じ条件で「にじのきらめき」は同熟期の既存品種「コシヒカリ」,「キヌヒカリ」より多収になりやすく,玄米の整粒割合が高く胴割れ率が低いことで玄米外観品質に優れた.また,「にじのきらめき」は短稈で耐倒伏性に優れた.土中条播と表面散播の試験結果から,「にじのきらめき」の精玄米収量はm2当り苗立ち本数の影響がほとんどなく,窒素施用量が大きく影響した.同試験地・同年次に行われた「にじのきらめき」の移植栽培に関する既研究結果と,本研究の表面散播,表面点播および土中条播の結果を含めて検討し,「にじのきらめき」のm2当り籾数と精玄米重との関係は湛水直播栽培と移植栽培とで大きな差異はない一方,同レベルのm2当り籾数に必要な穂数は湛水直播栽培の方が多く,葉色は移植栽培より薄く推移しやすいことが明らかになった.湛水直播栽培では移植栽培と同レベルの収量を得ようとするとタンパク質含有率がやや高くなるため,精玄米重660 g m–2を目標とし,その際の籾数は31千粒 m–2,穂揃い期の葉色がSPAD値34程度で玄米タンパク質含有率は6.5%になると推察された.

速報
  • 原 貴洋, 島 武男, 中野 恵子, 渕山 律子, 鈴木 達郎, 手塚 隆久, 神山 拓也
    2025 年94 巻4 号 p. 440-442
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    春まき栽培ソバの低収要因を探るアンケートの結果,雑草害が問題の一つとして認識されていた.現地圃場データから重回帰分析で低収要因を調べた結果,決定係数0.896で4つの説明変数が選択された.これらの変数のうち最も標準化偏回帰係数の高い雑草乾物重と収量との間には有意な負の相関関係が認められた.また,中耕培土により雑草乾物重は77から25 g m–2まで有意に減少し,子実重は73から103 g m–2まで有意に増加した.以上より,中耕培土により雑草量を減少させることでソバを増収できることが示唆された.

  • 猿谷 琳斗, 相馬 悠基, 齋藤 唯人, 藤 晋一, 松波 麻耶, 下野 裕之
    2025 年94 巻4 号 p. 443-444
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    殺菌剤であるチウラム水和剤(以下,チウラム)は,水稲初冬直播き栽培で出芽率を向上させることが報告されている.しかし,前年の冬から翌春の出芽までの長い越冬期間のうち,効果が発揮される温度環境や作用機構が不明である.本研究では,初冬直播きで播種から出芽までの間に種子が遭遇する2段階の温度条件でチウラムによる種子生存率への影響を評価した.積雪中を想定した–1℃条件ではチウラム無処理区(対照)で処理開始後の生存率が10日で8.9ポイントの速度で低下し,チウラムによる低下抑制の効果は認められなかった.一方,播種から積雪までの期間を想定した10℃条件では対照では10日で5.0ポイント低下したが,チウラムはその低下を有意に抑制し,チウラムにより種子内部への病原菌の侵入が抑制されることを確認した.以上,寒冷地の水稲初冬直播きにおいて,チウラムは10℃の条件では種子への病原菌の侵入を抑制することで種子の生存率を高めることが明らかとなった.

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