本研究は,アメリカにおける鶏卵市場を事例とし,卵価形成における加工卵の影響とその役割を究明したものである。
本研究の背景として,既に杉山(1993)が指摘するように,先進国における鶏卵消費は,従来の殻付卵のみの消費形態から,割卵された鶏卵のウェイトが増大しつつあり,加工卵の割合は35-40%に到達する様相を呈している。特に,この傾向は,アメリカにおいて顕著に認められることから,それを他の諸国と比して先行的な事例と見なしつつ,加工卵のウェイトが大きい市場における卵価形成のメカニズムを解明することとしお。
本研究の分析方法は,永木による計量経済モデルに依拠しつつ,逐次方程式モデルによって卵価と,それに影響を与える採卵鶏飼養羽数,鶏卵生産量,出回量等との関係を計測した。関数形は両対数関数とし,最小二乗法(ordinary least squares method)を適用した。故に,係数は直ちに弾力性を示す。関数体系は,構造方程式5本(採卵鶏飼養羽数関数,鶏卵生産量関数卸売卵価関数,小売卵価関数,生産者卵価関数),定義式1本(出回量)である。殻付卵の価格,および採卵鶏飼養羽数,鶏卵生産量,出回量,飼料価格,国民一人当たり鶏卵消費量,輸出入量などのデータは,アメリカ合衆国農務省(USDA)"Poultry Yearbook"より1984年1月~1995年12月までの月次データとした。
分析の結果,殻付卵の卸売卵価の規定関係を示す式では,加工卵の価格の係数が0.434となり,両者の間に強い関係が認められた。本関数の中で最も強く作用する要素であった。また,殻付卵の小売卵価がその卸売卵価に強く影響を受けていることは容易に推測出来たが,国民一人当たり鶏卵消費量の影響はほとんどなく,鶏卵の価格形成がsupply sideで決定されていることを明示する結果となった。以上のことから,殻付卵の卵価形成において加工卵が重要な要素となり得ることが明らかになった。
市場関係者によれば「加工卵が殻付卵需給の緩衝(buffer)機能を果たしているのではないか」という旨の指摘がなされている。本分析の結果は,明示的にこのことを検証するものではないが,現状を併せ見れば,加工卵が殻付卵の卵価形成に及ぼす影響は今後ますます大きくなるものと考えられる。
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