鶏卵の選別•包装施設(Grading and Packaging Center:以下,GPセンターと略)と不特定な複数の養鶏場との間で鶏卵輸送に使用されているプラスチック製のトレイ(1枚に卵30個を収納:以下,トレイと略)の一般生菌と大腸菌群の汚染を調べ,トレイを消毒液及び酒精酢に浸漬して汚染の除去を試みた。
トレイの肉眼観察で汚れの程度が低いもの,塵埃などが付着した中等度のもの,卵内容物や鶏の排泄物などが付着し固化した高度のものに分けられた。汚れの低いトレイは使用の都度,GPセンターにおいて水洗消毒されたトレイであったが,その数は少なかった。汚れが低度のトレイ1枚の表裏各面を汚染した一般生菌数は10
4.3と10
4.0,大腸菌群数は10
3.9と10
3.7で,汚染が高度のトレイでは順に10
7.7と10
7.6, 10
5.8と10
5.8で,トレイ裏面の菌数は表面に比べて少なかったが,有意差は認められなかった。肉眼的な汚れの程度について一般生菌数および大腸菌群数で,高度のものは低度のトレイに比べ,有意(P<0.01)に多かった。なお,汚れの高度な1枚のトレイの表裏両面から
Salmonella Infantisが分離された。複合塩素剤と逆性石鹸をそれぞれ1:500に希釈し,汚れの高度なトレイを5分間浸漬して汚染細菌を除去した。両消毒液の効果に差は認められず,菌の減少率(浸漬後の菌数/浸漬前の菌数)は一般生菌が1/10
1.0-1/10
1.7,大腸菌群が1/10
1.3-1/10
2.0で,浸漬後も10
4.7-10
6.1の一般生菌,10
2.1-10
3.4の大腸菌群が検出された。
トレイは鶏卵と直接接触するので消毒液が鶏卵に付着することが考えられる。鶏卵の食品としての安全性に配慮して酒精酢で汚染細菌の除去を試みた。酒精酢に含まれる有機酸は10-12%で,そのほぼ全量が酢酸である.酢酸濃度を0.08, 0.12および0.16%に調整した液に,前記した汚染の高いトレイを5分,30分,3時間および18時間浸漬した。浸漬後に検出された細菌数,浸漬による細菌数の減少率には酢酸濃度と浸漬時間の影響はともに認められなかった。浸漬後に1枚のトレイから10
3.8-10
6.5の一般生菌,10
1.6-10
4.6の大腸菌群が検出され,浸漬による細菌の減少率は一般生菌が1/10
1.2-1/10
2.7,大腸菌群が1/10
0.5-1/10
3.1の範囲にあった。
なお,酒精酢の酢酸濃度を変えて汚染細菌の除去を試みた際,浸漬前の2枚のトレイから
Salmonella Braenderupが分離されたが,酢酸濃度0.08%液に浸漬後は検出されなかった。また,浸漬時間を変えた実験では浸漬前の2枚のトレイから
Salmonella Infantisが分離されたが,5分および30分浸漬後には検出されなかったことから,酒精酢浸漬は食中毒の防止対策となり得ることが示唆された。
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