トウモロコシを主原料として養鶏用飼料を配合するとトリプトファンが不足することがある。本研究においては,トリプトファンの不足または過剰が鶏の産卵にどのような影響を与えるかを調べることを目的とした。
供試鶏は約9か月齢の白色レグホーンで,85%産卵しているものを8羽ずつの6区に区分した。これに1区より5区までトリプトファンを0.066%, 0.097%, 0.128%, 0.221%, 0.721%含有するトウモロコシ•大豆粕タイプの飼料を,また6区には市販飼料を25日間給与し,トリプトファンのレベルが産卵に及ぼす影響を調査した。なお上記試験飼料のトリプトファン含量は日本飼養標準の60%, 88%, 116%, 201%, 655%であり,対照の市販飼料はトリプトファンを0.16%含み,これは標準の145%であった。試験前20日間にわたり各区とも市販飼料を1日1羽当り100gずつ給与して供試前の産卵成績を調べ,その後は試験飼料を自由摂取させ,対照飼料のみは100gの定量給与とした。
試験開始後5日間は各区間に産卵率では差がみられなかったが,その後1区と2区は産卵率が急激に低下し,21~25日の産卵率は,それぞれ15%, 48%, 70%, 75%, 78%および85%となった。
卵重は試験開始前に比して1, 2, 3区では試験の経過とともに減少したが,4, 5, 6区では逆に若干増加した。以上の結果から1日当り産卵量を計算すると,1区では開始前の49gから最終期(21~25日)には8gと非常に減少し,ついで2区(減少量25g), 3区(18g), 5区(9g), 4区(7g), 6区(0g),の順となり,とくに1~3区の減少量が大きかった。
飼料摂取量は第2期(6~10日)に一時的な減少がみられ,その後は漸次回復の傾向がみられたが,21~25日では試験前のレベルにまでもどらず,また減少量はトリプトファンの含量に応じて低くなった。対照区は常時給与量の100gを摂取していた。なお期間中平均飼料摂取量はそれぞれ67g, 80g, 87g, 93g, 97gおよび100gで,トリプトファンの摂取量はそれぞれ0.04g, 0.08g, 0.11g, 0.21g, 0.70g, 0.16gとなり,標準に示された摂取量の0.12gに比して1~3区では低い摂取量となった。
供試前に比して平均体重はすべて減少し,その量はそれぞれ260g, 220g, 190g, 160g, 80g, 30gとなり,1~4区の減少量は有意であったが,5区と6区では有意な減少量を示さなかった。
摂取飼料に対する産卵量は3~6区では全期間を通じてほとんど差がなく約50g/100g飼料の値を示したが,1区と2区では効率の低下が著しかった。以上の結果を総合すると,飼料中のトリプトファン含量が0.13%より低下すると,飼料摂取量の低下と産卵成績の低下がみられ,また0.2~0.7%の含量では悪影響は全くみられなかった。以上の点から,日本標準に示されたトリプトファンの要求量0.11%では産卵に対して適当であるとは考えられず,MORRIS and WETHLIの示した0.17%はより適した推奨量であると思われる。
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