日本文学
Online ISSN : 2424-1202
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60 巻, 8 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
特集・〈文脈〉を掘り起こす—文学教育と〈語り〉Ⅱ
  • 山﨑 正純
    2011 年 60 巻 8 号 p. 2-12
    発行日: 2011/08/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    読書行為の本質は文脈形成行為である。そして文脈を形成する行為こそ、もっともプライベイトな私秘的領域において文学作品を私物化し、一体化をなし遂げる行為である。だがその一方で読書行為は、読者を取り巻く不可解な世界の説明行為に転化することで、文学作品の価値を再生産することができる。すなわち、読書という私的行為は公的領域による権威付けの誘惑と脅威とに同時にさらされることで持続可能な行為である。私的領域と公的領域とのこうした共犯性は、家父長制の下に置かれた女性の自己表現にもみられるが、同時に公私領域の再編成の可能性を示唆するテキストとして位置づけることも可能である。

  • —揺さぶられる〈わたしのなかの他者〉—
    佐々木 義登
    2011 年 60 巻 8 号 p. 13-23
    発行日: 2011/08/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    高等学校の国語教材である「みどりのゆび」について、〈語り、語られる〉関係から、コンテクストを掘り起こし、具体的な読みを提示することを試みた。「みどりのゆび」はこれまでのような「私」の感情に寄り添う解釈からはダイナミックな読みの動的過程は生成されない。〈語り〉の仕組みを念頭に据えることでこそ「わたしのなかの他者」を撃つような読みが発動するのである。それによって生徒たちが疑いなく抱いているパラダイム、共同体としての価値観・世界観を軋ませ、揺さぶる、そのような体験を促すことが授業の場においては肝要と考える。

  • —復活教材『トロッコ』を読み直す—
    角谷 有一
    2011 年 60 巻 8 号 p. 24-32
    発行日: 2011/08/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    平成二四年度から中学校の新指導要領が全面実施されることになる。それを前にして二四年度からの新教科書が各出版社から刊行され、鷗外や芥川などの近代小説の名作が、今まで以上に採録されている。これを、過去に多くの実践がある「定番教材」として同じように教えていたのでは文学教育の可能性を拓くことにはならないだろう。〈文脈〉と〈語り〉に着目しながら新たな読みの可能性を探る。それを、三社の教科書に採録されることになる『トロッコ』の読みを検討して探っていく。

  • —『鼻』小考—
    山田 伸代
    2011 年 60 巻 8 号 p. 33-42
    発行日: 2011/08/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    『鼻』の禅智内供は、類稀な長い鼻があることで傷つけられる自尊心のために苦しんでいる。彼は、周囲の人々の自身に対する評価によって生じる幸不幸のなかで生き、長い鼻を哂(わら)う周囲の人々に対して批評する力を持っていない。

    「気づけない」内供に対して〈語り手〉は優しいまなざしで包み、厳しく追い詰めることをしない。『鼻』の教材としての価値を障害のある人たちの生の課題として見出したい。

  • —「ごんぎつね」へ—
    橋本 博孝
    2011 年 60 巻 8 号 p. 43-51
    発行日: 2011/08/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    言葉の内部には均質に概念が詰まっているのではない。担い手ごとに固有の核がある。その固有であるべき言葉の核を統制しようとするかのごとき動きが、現在の小学校国語科の授業に見られる。物語の授業においてこの傾向を打ち破るには、物語がどう語られているかという次元での文脈を、子どもたちとともに築くことから始めなければならない。登場人物とできごとではなく、語りの次元で作品と向かい合う、という問題意識から出発すると、「ごんぎつね」で問われるべきは、ごんと兵十の物語ではなくなる。ごんと兵十の物語を語る「わたし」をこそ読まなければいけない。そのことは「ごんぎつね」の構造を解き明かすことにつながる。

  • —川端康成「金塊」の〈文脈〉—
    馬場 重行
    2011 年 60 巻 8 号 p. 52-61
    発行日: 2011/08/10
    公開日: 2017/05/19
    ジャーナル フリー

    田中実氏が提示する「読むこと」の理論を基に、小説作品の〈文脈〉を読むとはいかなることか、その具体的なあり方を、川端康成の「金塊」を素材に考察したのが本稿である。

    その結果、戦争へと傾斜していく国家の「地下性」に潜む暴力を語り手が暴き出す「金塊」の問題点を指摘し、この作品の重要性、および教材価値について示唆することができた。

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