日本文学
Online ISSN : 2424-1202
Print ISSN : 0386-9903
64 巻, 10 号
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特集・〈世話〉的なるもの
  • ―― 与兵衛はなぜ蚊に喰われたか ――
    冨田 康之
    2015 年 64 巻 10 号 p. 2-12
    発行日: 2015/10/10
    公開日: 2020/10/21
    ジャーナル フリー

    近松門左衛門作『女殺油地獄』は難解な作品として議論が積み重ねられてきたが、特に議論の分かれた点は、下之巻、与兵衛の「いや隠さしやるな。さきにから門口に蚊に食はれ。長々しい親達の愁歎聞いて。涙をこぼしました」という発言にあった。この発言に対して与兵衛が「改心」したかどうかが問題となってきたのである。しかし、本稿ではこれを「世話物」としての演劇の言葉として読み取るべきと指摘し、『二十四孝』の呉猛の話をヒントとして孝行者に「改心」したことをしらせる仕組みがあることを論じた。

  • 木越 俊介
    2015 年 64 巻 10 号 p. 13-24
    発行日: 2015/10/10
    公開日: 2020/10/21
    ジャーナル フリー

    読本というジャンルは、中国の白話小説から、主題や思想性、文体、さらには小説そのもののあり方など多くを学ぶことによって成立した。実際、宝暦から寛政にかけて上方で板行された、短編を中心とするいわゆる前期読本群には、短編白話小説の翻案が多く含まれている。ただし、白話小説はそもそも講談などの話芸を元にしたものであり、とりわけ短編集である「三言二拍」が扱う素材は市井の雑事が多く、まさしく世話種であるとも言える。従来、前期読本は白話小説を高度に翻案した都賀庭鐘や上田秋成の功績をもって捉えられてきたが、彼ら以外の作者たちはむしろ白話小説本来の世話性を比較的素直に受容しているように思われる。本稿では具体的に、前期読本の諸作に夫婦もしくは男女が再会する話が繰り返し描かれていることを指摘しつつ、さらには、遊女の侠気を描いた作品の系譜をもたどりながら、この時期の読本に描かれた〈世話〉の問題を考察してみた。

  • 田中 則雄
    2015 年 64 巻 10 号 p. 25-35
    発行日: 2015/10/10
    公開日: 2020/10/21
    ジャーナル フリー

    文政期読本のなかに実録に依拠した作がある。『幼婦孝義録』は実録『西国順礼女敵討』を全体にわたって踏襲するが、人物間の情の遣り取りの内実を新たに描き込むなど細かな変更を行うことによって、作中に示された種々の事件や人物の伝などが相互に強い連関を保ちつつ、石井恒右衛門の人生という全編を統括する枠組に統合されるという構造が作られている。

    また『千代物語』は実録『山陽奇談』に拠る。この実録は、歴史と人物の命運とを関連づけ、強い仮作性をもつなど、既に読本と近接する性質を備えている。『千代物語』はこれらの要素をそのまま踏襲しながら、全編の構造を明瞭化するために幾つかの加工を施している。

    文政期作者の実録踏襲の方法は、享和から文化期前半の速水春暁斎の〈絵本もの〉の方法とも異なり、一見安易とも映る。ただしその裏に、実録と読本における様式の近接の在りよう、また、読本は全編の堅固な構造を志向すべしという意識が作者たちのなかに存したことなどを窺うことができる。

  • 今岡 謙太郎
    2015 年 64 巻 10 号 p. 36-46
    発行日: 2015/10/10
    公開日: 2020/10/21
    ジャーナル フリー

    江戸最後の狂言作者であり、また明治最初の劇作家とも捉えられる河竹黙阿弥の本領が、いわゆる世話狂言にあることは大方の認めるところであろう。

    四代目市川小団次没後に書き下ろされた黙阿弥作品は多岐にわたるが、そのなかで世話物と位置付けられる作品は、時代を江戸期にとった作と新時代の事物を扱った作とに大別出来よう。本稿では明治期における黙阿弥世話物の変遷をたどり、この二つの流れがどのように展開していったか、その様相を見ていきたい。

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