江戸時代の北村季吟『枕草子春曙抄』(以下、『春曙抄』)の章段区分方法を考察した。『春曙抄』の章段区分は同時代の他の注釈書と比較して曖昧とされてきたが、『枕草子』の章段区分を、より洗練された形でおこなっていた。『春曙抄』は頭注傍注という形式の特性をいかし章段を区分しており、特に「筆すさび」「物語」などとされる章段は、今日の随想的、日記的章段の理解に通じるものがある。『春曙抄』の章段区分方法は、今日の池田亀鑑による三分類の章段区分の源流と評価できる。
『源氏物語』の手紙は、第二部以降その文面が長く叙述されるものが目立ち、第二部には父、第三部には母の長い手紙が多く見える。父母の「長文」の手紙は、もちろん宛先であるわが子のことを思い遣って書かれているものの、それとは相容れない意識が文面に忍び込んでいる。このような書き手の自家撞着を読み取らせるために、物語の手紙の文面は長く叙述され、それを読む過程も長く描かれている。反復される解読行為を仕掛け、矛盾に気づかせようとしているのが『源氏物語』の「長文」の手紙の方法である。
『袖のみかさ』は近世期に書かれた擬古物語で、幕末の国学者朝田由豆伎の著作と推定される。内容は、ある帝に仕えた女官「新内侍のすけ」の物語であり、『源氏物語』桐壺巻の内容・表現を模倣して作られた作品である。ただし、本作には『源氏物語』には無い独自の内容も存する。その内容を検討した結果、本作の登場人物が実在の人物に基づいて造型されていることが分かった。すなわち、本作の帝は光格天皇、新内侍のすけは掌侍東坊城和子に基づく。
川端康成の小説『雪国』をめぐっては、従来「日本性」や「伝統性」といった枠組みで捉える評価が、肯定・否定を問わず広く示されてきた。本論文では、こうした研究史において閑却されてきた、雑誌への発表開始時である昭和十年前後の「観光」をめぐるコンテクストとの関連に注目して、テクストを再検討することを試みた。具体的には、同時代のスキーをめぐる状況や、登山ブームとの関連を踏まえてテクストの表現のありようを捉え直すとともに、直前まで連載されていた小説「水上心中」からの連続性について考察を行った。