日本作物学会紀事
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79 巻, 4 号
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総説
  • 島崎 由美, 渡邊 好昭
    2010 年 79 巻 4 号 p. 407-413
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    コムギの品質において重要な要素である子実タンパク質含有率を栽培的に制御することの可能性について議論することを目的とする.コムギ子実タンパク質含有率は実需の生産物に対する要望として重要であるために生産者にとっても非常に関心の高い事項である.子実タンパク質含有率を制御するために窒素施肥が行われるが,子実タンパク質含有率は子実のタンパク質の量だけでなく子実重によっても増減するため,その制御は簡単ではない.窒素施肥時期と子実タンパク質含有率や収量の関係についての過去の報告を取りまとめた結果,播種前や茎立期など,シンク容量がまだ決定していない時期の窒素施肥は主に収量を増やす方向に働くのに対し,穂孕み期以降のシンク容量が決定した後の窒素追肥は主に子実タンパク質含有率を高める方向に働くと考えられた.さらに子実窒素含有量は主にソースによって制御されていると考えられた.窒素追肥が子実タンパク質含有率や収量に影響を及ぼすメカニズムを明らかにすることは,現場で利用できるコムギ子実タンパク質含有率の制御技術の開発に際し重要になるだろう.
研究論文
栽培
  • 境垣内 岳雄, 寺島 義文, 松岡 誠, 寺内 方克, 服部 育男, 鈴木 知之, 杉本 明, 服部 太一朗
    2010 年 79 巻 4 号 p. 414-423
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    飼料用サトウキビ品種KRFo93–1の年2回収穫体系の導入を目的として,KRFo93–1と製糖用サトウキビ品種NiF8の年1回および年2回収穫区における生育と収量を株出し1年目,2年目について比較した.生育期間中の有効積算温度は,年1回収穫区で最も高く,次いで年2回収穫区の1番草,2番草の順であった.収穫時の諸特性で評価される生育ステージは,両品種とも有効積算温度と密接に関係し,有効積算温度が少ないほど若い生育ステージにあった.KRFo93–1はNiF8と比較して仮茎長が大きく,その品種間差は株出し後の初期生育時と生育期間に低温期を含む年2回収穫区の2番草において特に顕著であった.KRFo93–1は株出しの2年間を平均すると,年間生草収量,乾物収量は年1回収穫区でそれぞれ226 t/ha,56.1 t/haであったのに対して,年2回収穫区ではそれぞれ278 t/ha,57.7 t/haであり,年2回収穫区で収量性が高まる傾向を示した.一方,NiF8の年2回収穫区では,年1回収穫区と比較して年間乾物収量の減少が認められた.KRFo93–1は初期生育および低温期における茎伸長が旺盛なため,年2回収穫区でも高い収量性が得られたと推察される.
  • 名越 時秀, 内田 良太, 玉井 富士雄, 平野 繁, 廣瀬 友二, 元田 義春, 福山 正隆
    2010 年 79 巻 4 号 p. 424-430
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    水稲の散播栽培で苗立ち密度の不均一性のために生じる低密度状態を想定し,苗立ち密度が50本/m2条件下における,高位分げつの出現とその諸形質についてその母茎の各形質と比較した.その結果,高位分げつが出現した株は調査した253株の98.8%であり,そのうち22株について詳細な調査を実施し,59本の高位分げつから出穂を確認した.また,その出穂分げつは,1本を除き,すべて2枚の葉(前出葉は含まない)を保持していた.その分げつの出現節位は,ほとんど止葉節の直下の節であった.高位分げつの約半数からはさらに分げつが1本ずつ出現したが,出穂はみられなかった.高位分げつの1穂籾数(平均値18.9粒),登熟歩合(55.8%),玄米千粒重(17.0 g)および1穂玄米重(0.211 g)は,それぞれ母茎の20%,71%,84%および14%の値であった.また,その米粒はほとんどが青未熟粒などの未熟粒であった.以上より,高位分げつは,その母茎に比べ1穂玄米重が極めて小さく,さらにその米粒もほとんど未熟粒であり,玄米品質の劣化は顕著であると判断された.
  • 廣瀬 友二, 川村 いづみ, 平野 繁, 名越 時秀, 玉井 富士雄, 元田 義春, 福山 正隆
    2010 年 79 巻 4 号 p. 431-439
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    大量に輸入される食料や飼料の利用後には多量の有機性廃棄物が発生し,それらの農業分野での活用が喫緊の課題となっている.一方,チャの栽培は長年にわたり品質向上を求めて,化学肥料による多肥栽培が行われ,その過剰施肥は土壌環境に負荷を与え,茶樹へも悪影響を及ぼしている.そこで,本研究では化学肥料の削減と堆肥の活用を目指し,慣行施肥法の春・秋肥の化学肥料投与を畦間表面への堆肥投与(以下,堆肥区という)に代替する試験を行った.なお,試験は20年生の茶樹を供試して,実験動物舎から排出される糞尿から調製される堆肥を,春・秋肥とも1 tDM/10 aを投与し,5年間にわたり実施した.その結果,堆肥区の根は慣行区より深層土まで分布し,総細根数は前者の方が後者より1.7倍増大していた. 堆肥区の土壌硬度は,表層から深層土まで低下しており,堆肥表面施用は膨軟な土壌形成を促進した.慣行区のpHは地表から15cm深で,4.0以下まで低下したが,堆肥区では5.0-5.5を示し,茶樹栽培土壌としての最適pHを維持していた. 茶樹根圏外の100cm深における溶液中の硝酸態窒素濃度は,投下窒素量としては多い堆肥区が慣行区より減少していた.これらの結果から,現在の施肥基準に準拠した慣行区の春・秋肥を比較的多量の表面施用堆肥に置き換えることは,土壌の理化学性を改善し,新根の促進を図る上で有効な管理法であると推察された.
  • 丹野 久, 本間 昭, 宗形 信也, 吉村 徹, 平山 裕治, 前川 利彦, 沼尾 吉則, 尾崎 洋人, 荒木 和哉, 菅原 彰
    2010 年 79 巻 4 号 p. 440-449
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    北海道の主要稲作地帯にある中央北部,中央南部,南部で1994~2008年に,中生うるち品種の 「きらら397」 と 「ほしのゆめ」 の精米蛋白質含有率,アミロース含有率における年次間と地域間差異の発生要因を,生育特性から検討した.地域間では,分けつ期の6月の風速が大きく,生育後半に土壌中窒素が多く有効化するグライ土の中央南部が,褐色低地土の他地域よりも蛋白質含有率が高かった.また,同一の登熟気温(出穂後40日間の日平均積算気温)でも日較差が小さく夜温が高く,千粒重が軽い南部でアミロース含有率が低かった.さらに,蛋白質含有率は,全重と玄米収量が最も重い中央北部でのみ両形質との間に負の相関関係が認められた.また,千粒重とは南部で負の,中央南部で正の相関関係が認められ,この差異は土壌の違いによると思われた.3地域平均でみると,不稔歩合が低く,m2当たり稔実籾数が多く,千粒重が重く,登熟歩合が高く,全重が重く,収穫指数が高く,玄米収量が高いほど蛋白質含有率が低かった.不稔歩合のこれらの関係への影響を考慮して,不稔歩合22~50%の不稔多発データを除いて蛋白質含有率との関係をみると,蛋白質含有率と一定の関係が認められたのは不稔歩合と全重のみであった.登熟気温は不稔多発データの有無にかかわらず,843~852℃で蛋白質含有率が最低となり,さらにアミロース含有率と負の相関関係が認められた.登熟気温が852℃より高くなるにともない蛋白質含有率が高くなるが,同時にアミロース含有率が低くなるため食味が優れてくると考えられた.
  • 田中 浩平, 宮崎 真行, 内川 修, 荒木 雅登
    2010 年 79 巻 4 号 p. 450-459
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    水稲の玄米品質に及ぼす生育時期別の稲体窒素含有率や窒素吸収量の影響について土壌や施肥による窒素供給の観点から検討し,圃場の肥沃度に応じた施肥法や移植期との組合せによる対応策を明らかにした.単位面積当たり籾数が適正範囲である場合,乳白粒や基部未熟粒,背白粒の発生は幼穂形成期および穂揃期における窒素含有率や窒素吸収量が多くなると減少した.移植期を遅らせると地力窒素の吸収が多くなり,幼穂形成期および穂揃期における稲体窒素含有率が高くなった.肥沃度が高い圃場では,幼穂形成期から穂揃期の期間における窒素吸収量が多く,遅植と基肥窒素量の減肥の組合せにより検査等級が向上した.肥沃度が中庸な圃場では,穂肥に肥効調節型肥料を用いると検査等級,収量共に向上し,幼穂形成期における稲体窒素含有率を高く維持することで検査等級が向上した.玄米の外観品質の向上とタンパク質含有率の抑制を両立させるためには,最高分げつ期から幼穂形成期頃の稲体窒素含有率や窒素吸収量を高く維持することが重要であると考えられた.
  • 和田 義春, 大柿 光代, 古西 朋子
    2010 年 79 巻 4 号 p. 460-467
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    水稲では,登熟期が高温になると乳白米や背白米等の白未熟粒が多発することが知られている.近年,気温は平年より高まる傾向にあり,登熟期だけでなく栄養生長期の気温も上昇している.そこで本研究では,水稲品種コシヒカリを供試し,自然光ファイトトロンを利用して,出穂期以前の高温が水稲の生育と玄米外観品質に及ぼす影響を調査した.移植後7日目から50日間の栄養生長期における高温処理(32/27℃)は,中温処理(27/22℃),低温処理(22/17℃)に比べて,地上部の生育を旺盛としたが,根の生育促進は伴わず,根/地上部重比を小さくした.土壌溶液中のアンモニア態窒素発現は,高温区ほど多かったことから,高温が土壌窒素の発現を介して間接的に根の生育を抑制した可能性が考えられた.一方,水耕栽培で窒素濃度を一定として温度条件を変えた実験でも高温区ほど根/地上部重比が小さくなったので,栄養生長期の高温による根/地上部重比の低下には温度の直接的な影響と土壌窒素を介しての間接的な影響があると考えられた.出穂期前28日間の高温処理(32/27℃)により根/地上部重比を小さくした区では,低温処理(27/22℃)区に比べて出穂後の高温(32/27℃)による白未熟粒の発生が多かった.出穂前に高温処理した区では,葉面積は大きかったが,純同化率が小さかったため登熟期の乾物重増加が小さかった.このことには,株あたりの出液速度で示される根の生理活性の低下と葉の老化促進が関与していると考えられた.
  • 高橋 肇, 張 立, 松澤 智彦, 藤本 香奈, 山口 真司, Hossain Alamgir, 荒木 英樹
    2010 年 79 巻 4 号 p. 468-475
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    山口県では,コムギはふつう11月に播種するが,10月に早播きすると穂数と一穂小穂数が減少して収量が少なくなる場合が多いことが知られている.本試験は,幼穂形成期間における窒素追肥処理が,早播栽培により減少した収量をいかに増加することができるかを調査した.品種は,早播栽培において比較的多収を示す秋播性程度がIVのイワイノダイチと秋播性程度がIIIのアイラコムギ,さらに秋播性程度がVのあきたっこを供試した.これら品種は,2003/2004年,2004/2005年,2007/2008年の3シーズンに早播栽培した上で品種それぞれの二重隆起期あるいは頂端小穂期,止葉期に窒素追肥処理を行った.その結果,イワイノダイチとアイラコムギでは,早播栽培は収穫指数を低下し,穂数あるいは一穂粒数を減少することで収量を減少したが,幼穂形成期間に追肥することで,収穫指数あるいは穂数を増加して収量を増加した.あきたっこでは,早播栽培は収量が減少することはなかった.さらに,幼穂形成期間に追肥しても収量を増加しなかった.イワイノダイチとアイラコムギは,早播栽培が幼穂形成期を2カ月早めて12月から1月とし,一穂粒重が軽く,一穂粒数の少ない穂を多く発生した.これらの穂は,追肥することでイワイノダイチでは減少したが,アイラコムギでは増加した.あきたっこは,早播栽培が幼穂形成期を10日しか早めずに3月とし,粒数の少ない穂は少なかった.
  • 国立 卓生, 千田 洋, 島田 信二, 加藤 雅康, 濱口 秀生, 田澤 純子
    2010 年 79 巻 4 号 p. 476-483
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    土壌過湿条件下においてダイズの出芽率が低下する要因と調湿種子による出芽の安定化について室内と圃場において解析を行った.その結果,土壌過湿条件下における出芽率の低下では,吸水障害のほかに,土壌微生物と土壌表面硬度が大きく関与していた.また,調湿種子の出芽率は,播種時の土壌水分や出芽時の土壌表面硬度が高い場合には乾燥種子と比べて大幅に向上した.しかし,播種後も土壌の過湿状態が続いた場合は調湿種子を利用しても出芽率が低下し,この場合は種子粉衣殺菌剤の併用により出芽率が改善された.圃場における出芽率の低下の要因は気象条件や土壌条件によって異なったが,多くの場合で調湿種子と種子粉衣殺菌剤の併用により出芽率が高まった.それゆえ,この両者の併用は土壌過湿条件下におけるダイズの出芽の安定化に有効である.
  • 大谷 和彦, 和田 義春, 吉田 智彦
    2010 年 79 巻 4 号 p. 484-490
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    栃木農試の11~16年間の試験結果から,麦類の収量と外観品質の変動要因を検討した.その結果,ビール大麦「あまぎ二条」,「ミカモゴールデン」の収量は,千粒重及び整粒歩合との関係が強く,小麦「農林61号」の収量は穂数との関係が強かった.一方,六条大麦「シュンライ」の収量は穂数と正の相関関係にあるものの,相関関係は有意ではなかった.また,大麦3品種では,収量と稈長との間に有意な正の相関関係が認められた.子実の外観品質は,ビール大麦「ミカモゴールデン」では成熟期が遅いほど品質が優れ,小麦「農林61号」では出穂から成熟までの日数が短いほど品質が優れていた.なお,ビール大麦「あまぎ二条」及び小麦「農林61号」の茎数は2月の日最低気温が高いほど少なくなる傾向が認められ,茎立期前60日間の日最低気温が低いほど地上部乾物重は増加した.以上のことから,麦類の生育,収量及び子実の外観品質の関係は麦種や品種により異なることが明らかになった.
品質・加工
  • 藏之内 利和, 中村 善行, 高田 明子, 田宮 誠司, 中谷 誠, 熊谷 亨
    2010 年 79 巻 4 号 p. 491-498
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    代表的なサツマイモ蒸切干加工用品種「タマユタカ」と「泉13号」について,塊根収量やシロタ障害等蒸切干品質関連形質と,マルチ被覆および気象条件との関連性について2000年から2008年を通じて調査した.マルチ被覆による地温上昇効果は認められたが,シロタ障害発生に及ぼすマルチ被覆の影響には有意性が見られなかった.両品種とも,マルチ被覆栽培により塊根は多収となり,デンプン含有率は高まった.マルチ被覆栽培でシロタが増加せず,収量が増加したことは蒸切干加工用原料生産上で有利な点と考えられる.生育後期の降水量とシロタ障害発生程度との間に一部ではあるが有意な負の相関が見られたことから,収穫期直前の土壌水分の推移が本障害発生に関わっている可能性は高いと考えられる.
形態
  • 鴻田 一絵, 松田 智明, 新田 洋司
    2010 年 79 巻 4 号 p. 499-505
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    登熟期のコムギ子実において,同化産物は背部維管束から珠心突起,胚乳液腔,特殊化した糊粉細胞 (胚乳組織の転送細胞) を順に経由して胚乳組織へと至る.同化産物の転送と組織構造発達の関連について明らかにするため,登熟初期のコムギ子実を経時的に採取し,光学顕微鏡で観察した.茨城大学農学部圃場で栽培したコムギ品種農林61号の子実を供試した.採取した子実をグルタルアルデヒドと四酸化オスミウムで二重固定後,エタノール系列で脱水した.その後スパー樹脂に包埋し,準超薄切片を作成後,トルイジンブルーOで染色した.観察した子実において,胚乳組織 (シンク組織) の分化は開花後8日に完了した.同時期に,珠心突起から転送される同化産物をシンク組織に転送する構造 (特殊化した糊粉細胞および胚乳液腔) が発達した.開花後9日には,珠心突起の転送細胞において,細胞壁内部突起が発達した.また,胚乳組織では一次デンプン粒の蓄積が顕著に認められた.開花後5日と比較し,開花後16日の背部維管束では,木部と篩部の後生要素の数が増加し,維管束柔細胞が発達した.以上の結果より,珠心突起の転送細胞は,背部維管束から転送される同化産物をより効率的に胚乳液腔へ転送させると推察された.胚乳組織における一次デンプン粒の増加は,背部維管束からシンク組織への同化産物の転送量あるいは転送速度の増加によるものと示唆された.加えて,背部維管束の発達は,同化産物の転送が活発な時期と一致した.
収量予測・情報処理・環境
  • 中園 江, 大原 源二
    2010 年 79 巻 4 号 p. 506-512
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    日本のコムギ栽培では降雨によって引き起こされる品質の低下が大きな問題となっており,これを回避するためには子実含水率を指標として適期に収穫することが必要である.子実含水率の推移を,開花期から生理的成熟期(前半),生理的成熟期から収穫期まで(後半)の2相に分け,前半は登熟の進行に従い,後半は主に物理的過程により決定されると考えた.前半の子実含水率は,日平均気温から算出した発育指数(DVI)の関数で表せることを,農林61号を供試して前報で示している.本試験では,前半から後半への切り替え期間の設定および後半の推定法の検討を行った.その結果,生理的成熟期前後に3日間の切り替え期間を設定し,期間内に2つの推定式を併用した場合に,推定値と実測値の差が最小になることを示した.また後半の推定式を作成するために,蒸発および吸水による子実含水率の増減を測定して,気象要素との関係を解析した.蒸発による子実の毎時乾減率(1時間の子実含水率の減少量) と最も相関の高い気象要素は飽差であった.蒸発開始時の子実含水率 (初期含水率)と毎時乾減率との関係は子実含水率により異なり,30%未満では初期含水率が低いほど毎時乾減率が低下した.このことから,子実からの蒸発に対する抵抗が子実含水率に依存すると考え,毎時乾減率を飽差と初期含水率の2変数で表す式を作成した.また穂を浸水して測定した子実含水率の増加過程は自然降雨下での増加過程と一致し,浸水時間を降雨時間と見なして,任意の子実含水率を開始点とした降雨による吸水の式を作成した.上述の切り替え条件を適用して,毎時乾減率と吸水の式により2003年から2007年までの作期を対象にして子実含水率を推定した結果,後半の子実含水率の推定値と実測値の二乗平均平方根誤差は3.68%になった.検証に用いた子実含水率は,圃場全体の登熟の進度を把握するために現場で用いられている方法で測定した穂の含水率とほぼ一致しており,水分含量の予測を通して圃場単位の登熟進度を把握することにより,コムギの適期収穫に貢献出来る可能性が示唆された.
  • 籾井 隆志
    2010 年 79 巻 4 号 p. 513-517
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    愛知県農業総合試験場では,1926年から水稲の四要素(窒素,りん酸,カリ,石灰)及び堆肥連用試験と各要素連年無施用の試験を行っている.2002年までの77年間における試験結果において,これまで重回帰分析により,各施用要素等の効果から各試験区の収量の予測式を求め,また各施用要素等の収量への影響について考察が行われたが,必ずしも各施用要素等と収量との因果関係は明確になっていない.そこで,連用試験の中でも基本となる,窒素,りん酸,カリ,石灰が施用された四要素区について,年次経過が各施用要素等の効果に及ぼす影響,また各施用要素等が収量へ及ぼす影響についてグラフィカルモデリング(GM)を用いた因果分析を行った.分析の結果,説明変数間の連鎖独立グラフを作成することができ,各変数が収量へどのように影響を及ぼしているかについての因果グラフ(連鎖独立グラフ)についても作成することができた.因果グラフを作成した結果,地力の減耗は,年次経過により各施用要素の効果が影響を受けた結果もたらされていることが示唆された.地力,窒素,りん酸,カリの効果は収量へ直接に影響を及ぼしていることが考えられたが,品種変遷等を含めた年次経過も収量へ直接に影響を及ぼしていることが示唆された.また石灰の効果については,ほとんど直接的には収量へ影響を及ぼしていないことが示唆されたが,石灰の効果が他の施用要素の効果へ影響を及ぼすことにより間接的に収量へ影響を及ぼしていると考えられた.
研究・技術ノート
  • 小林 和幸, 城斗 志夫, 高橋 能彦, 福山 利範
    2010 年 79 巻 4 号 p. 518-527
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    新潟県が開発した紫黒糯米品種「紫宝」の収量,玄米品質・成分,ポリフェノール含量および餅加工特性の高位安定栽培技術を検討するため,2006~2007年に新潟県内で栽培試験と現地調査を行った.その結果,「紫宝」は,施肥窒素成分量が多く,出穂期が早く,登熟気温が高いほど,穂数が多く多収となった.餅加工特性は登熟気温が高いほど高かったが,ポリフェノール含量は登熟気温が高いほど低かったことから,収量および餅加工特性とポリフェノール含量とを同時に高めることは,栽培技術的に困難と考えられた.ポリフェノール含量を重視した「紫宝」の栽培では,その収量性と餅加工特性は低くなる可能性が高いという知見を現場に周知する一方,餅生地が硬くなりにくいという特性を活かした加工利用が重要と考えられた.「紫宝」の農業形質や玄米成分,餅加工特性には栽培地域間で差異が認められ,病害虫の種類や被害程度も多様であったことから,地域の気象条件や農法に応じた栽培指針を早急に整備する必要があると考えられた.
  • 五月女 敏範, 藤田 正好, 郡司 陽, 小川 雄大, 白石 淳夫, 小林 俊一, 高橋 行継, 吉田 智彦
    2010 年 79 巻 4 号 p. 528-535
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/08
    ジャーナル フリー
    原麦粗タンパク質含量の高いビールオオムギ生産が指摘されている栃木県那須地方において,ビールオオムギの高品質安定生産を目指し,生産現場の課題を調査した.はじめに,オオムギ縞萎縮病について調査を行った結果,その発生率は63.0%(抵抗性品種を除くと70.5%)と蔓延化していることが判明した.オオムギ縞萎縮病を回避し,収量および原麦粗タンパク質含量の安定のためには,スカイゴールデン等抵抗性品種の作付けを進める必要があると考えられた.次に,生産者履歴等を解析した結果,原麦粗タンパク質含量は播種期や収穫期と正の相関,リン酸施用量と負の相関が認められ,収量はpH改良資材施用,茎立期前の麦踏の実施等により向上することが明らかとなった.加えて,適期播種,リン酸改良資材やpH改良資材の施用等の基本技術の励行は約半分程度しか行われていないことが判明し,その結果,原麦粗タンパク質含量,子実重等のばらつきが大きくなり,また原麦粗タンパク質含量の高いビールオオムギ生産の原因となる可能性が考えられた.その改善と安定した生産の確保には,適期播種,リン酸改良資材やpH改良資材の施用,茎立期前の麦踏等の励行が必要である.
日本作物学会ミニシンポジウム要旨
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