日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
Print ISSN : 1340-2242
ISSN-L : 1340-2242
34 巻, 4 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
原著
  • 長縄 郁絵, 三輪 高也, 野村 尚弘
    2014 年 34 巻 4 号 p. 771-775
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    5年間に当院外科で経験した上腸間膜動脈閉塞症9例を対象として,診断・治療・予後について検討した。症例は男性5例,女性4例で,平均73.2歳であった。症状悪化から受診するまでに平均5.8時間を要した。全例が心血管系疾患を有し,心房細動の合併を8例で認めた。初診時に施行した造影CTにより全例で上腸間膜動脈閉塞症と診断できた。そして血液検査結果と全身状態の評価をもって,外科切除を行うか,血栓溶解療法や血栓除去に進むかを決定した。動脈相CT検査は動脈閉塞の部位を同定でき,また簡便に行えることから,上腸間膜動脈閉塞症の診断に有用な検査である。高齢のため治療に至らなかった1例を除き,治療を行った8例全例を救命できた。血栓溶解療法を4例で行い,外科切除を5例で行った。上腸間膜動脈閉塞症に対して早期診断と適切な多角的治療手段は,死亡率の減少と術後QOL改善につながると思われた。
特集:日本版敗血症診療ガイドラインの評価
  • 上田 敬博, 小谷 穣治
    2014 年 34 巻 4 号 p. 779-785
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    SSCGは重症敗血症の死亡率を5年間で25%低下させることを目的に立ち上げた国際的なプロジェクトであり,第3版がSSCG 2012として公表されているが,本邦では欧米にない独自の治療が行われていること,本邦と欧米で考えの異なる治療法があることや日本人やアジア人のエビデンスが考慮されていないことなどの問題点がある。よって,日本集中治療学会Sepsis Registry委員会は本邦の敗血症診療の調査(Sepsis Registry:以下,SR)の結果に基づいて,日本版敗血症診療ガイドラインを作成した。「敗血症の定義と診断」をはじめ13項目からなり,「DIC対策」「急性血液浄化療法」「タンパク分解酵素阻害薬」を本邦独自の項目として取り上げた。またSSCG 2012でも取り上げられた「栄養管理」では,SRで重症敗血症の転帰改善と有意に関連した経腸栄養の早期開始を推奨している。本稿では日本版敗血症診療ガイドラインの概要とポイントについて見解を述べる。
  • 山川 一馬, 相原 守夫, 小倉 裕司
    2014 年 34 巻 4 号 p. 787-793
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    近年,日本初の敗血症診療に関するガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン』が報告されたが,世界的な敗血症診療のスタンダードであるSurviving Sepsis Campaign Guideline(以下,SSCG)とはいくつかの項目において異なる推奨を提示している。ガイドライン間における推奨の乖離は,推奨の策定方法に起因するものであると考えられる。SSCGではGRADEシステムに準拠してエビデンスの質評価と推奨度を設定している。一方,日本版敗血症診療ガイドラインでは推奨の表記方法は,推奨度とエビデンスの質からなり,一見GRADEシステムに類似しているものの,その設定基準は大きく異なっている。本稿では,日本版敗血症診療ガイドラインについてIOM基準に従って評価するとともに,曖昧な推奨作成プロセスがガイドライン利用者の混乱をもたらす可能性がある具体例をあげ,その解決策について検討した。
  • 早川 峰司
    2014 年 34 巻 4 号 p. 795-799
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    敗血症は,病原微生物が生体に進入することから生じる。敗血症が重症化するにつれ,DICの合併率が上昇し,臓器不全の重症化,死亡率の上昇を認める。DICは敗血症の重症化の結果であるとともに,臓器不全を増悪させる一因でもある。微生物の生体への進入に対し,自然免疫反応の一環として炎症が生じ血栓形成が促進される。この血栓形成の促進は,局所で生じている限り,微生物を局所に封じ込めるための合目的な血栓形成,つまりimmunothrombosisとして捉えることができる。しかし,生体侵襲やそれに対する反応が過剰となった場合,炎症と凝固はその反応を互いに増強させつつ,炎症と凝固の活性化が全身に播種され,DICとなる。敗血症におけるDICは,凝固の活性化だけではなく,抗凝固能の抑制と線溶の抑制を認めることが特徴であり,消費性凝固障害とともに,重要臓器の機能障害をきたす。
  • 相引 眞幸, 馬越 健介, 菊池 聡, 松本 紘典, 大下 宗亮, 竹葉 淳
    2014 年 34 巻 4 号 p. 801-806
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012には,敗血症に合併するDIC (Disseminated Intravascular Coagulation) 治療に関しての記載はない。 期しくも同年に公開された日本版敗血症診療ガイドラインでは,そのような敗血症治療が盛り込まれている。欧米,とくに米国では,敗血症に合併する凝固障害への対応は,原病への治療のみである。一方,本邦の多くの施設では,敗血症に凝固障害が合併すると多臓器不全率や死亡率が高まるとし,原病への治療とDIC治療を行う。本邦では,その治療薬としてAT(anti-thrombin)製剤とrh-TM(recombinant human thrombomodulin)製剤が主なものである。AT製剤の多施設前向きの試験で,ヘパリン併用例で出血が悪化し敗血症の生命予後は改善できなかった。しかし,その後のsubgroup解析では,AT製剤の投与が予後を改善することが報告されており,当ガイドラインでは,AT製剤は,敗血症性DICに対して,弱い推奨としている。rh-TMに関しては,DIC合併の敗血症で,DIC離脱率がヘパリンより良好であること,またその後も臨床で追試が行われ,比較的良好な結果が得られており,AT製剤と同等の弱い推薦とした。最近の報告で,重症敗血症の生命予後が日本では,他国に比し良好であった。その報告では各治療の関連は検討していないが,重症敗血症にDICが合併した際の対応として,本邦では原病の治療および抗凝固療法の施行が一般的であり,同病態における抗凝固療法の役割についてさらなる検討が必要である。
  • 志馬 伸朗
    2014 年 34 巻 4 号 p. 807-813
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    2013年,敗血症診療に関連する二つの重要なガイドライン:日本版敗血症診療ガイドラインとSurviving sepsis campaign guidelines 2012(SSCG 2012),が発表された。本項では,これら2つのガイドラインの記載内容を対比し,特に記載が異なる点に重点を置いてそれぞれの背景を解説することを試みた。項目ごとに,①共通記載があるが,細部に差異がある項目,②日本版ガイドラインで,より詳細な記載がある項目,③SSCG 2012には存在するが,日本版ガイドラインに記載のない項目,④小児,に分けて,具体的な差異と臨床的意味合いについて解説を加えた。それぞれのガイドラインの差異を理解し,これに基づいて今後のエビデンスを集積する努力が必要と示唆される。
  • 平澤 博之
    2014 年 34 巻 4 号 p. 815-822
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    敗血症の病態生理に関しては近年大きな進歩があり,現在は病原微生物由来のPAMPsや内因性のDAPMs(alarmins)がpattern recognition receptors に認知され,cytokine の産生,さらにはhypercytokinemiaが発症することが病態生理の主座であることが判明してきた。さらにnecrosis,apoptosis,autophagyなどの細胞死,immunoparalysis,endothelial hyperpermeability,neutrophil extracellular trapなども病態生理上重要である。治療に関してはSurviving Sepsis Campaign guidelinesの普及や日本版敗血症診療ガイドラインの策定により成績は向上してきている。しかしながら遺伝子多型を認識したtailor-made medicine,immunoparalysisに対する対策などを介しての長期転帰の改善にむけてわれわれは今後も努力を続けなければならない。さらにはstem cell therapyなどを応用した臓器障害に対するより積極的なアプローチも検討されるべきである。
症例報告
  • 山口 圭三, 辻本 広紀, 平木 修一, 高畑 りさ, 小野 聡, 山本 順司, 長谷 和生
    2014 年 34 巻 4 号 p. 823-826
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,男性。持続する腹痛,嘔気を主訴に近医を受診し,腸閉塞の診断で当院に搬送された。既往歴として15年前に直腸癌に対して骨盤内臓全摘術,回腸導管造設,6年前に食道癌に対して開胸・開腹食道切除術を受けた。入院時,腹部は平坦・軟で腹膜刺激症状を認めず,血液ガス分析ではpH 7.175,Base Excess -17.9mmol/L,Cl 114mEq/Lと高クロール性代謝性アシドーシスを認めた。Anion gapは12.6mEq/Lと正常であった。腹部造影CT検査では血流障害は否定的であり,イレウス管挿入と輸液による保存的治療を行った。翌日には腹部症状が軽快し,4病日にイレウス管抜去,5病日に経口摂取を開始し,代謝性アシドーシスも改善したため11病日に退院となった。回腸導管術後には腸管虚血に起因しない代謝性アシドーシスを呈する場合があり,注意を要する。
  • 菅 和男, 佐野 信也, 田中 史朗, 千葉 憲哉, 古川 正人
    2014 年 34 巻 4 号 p. 827-831
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    閉鎖孔ヘルニアは,術前診断が困難とされていたが,現在ではCTなどの発達により嵌入時におけるその診断率は高い。しかしながら嵌入と自然整復を繰り返す症例においては,非嵌入時の画像診断は困難と考えられる。嵌入と自然整復を繰り返し診断に難渋した閉鎖孔ヘルニア症例を経験した。症例は78歳,女性。主訴は右下腹部痛,大腿部痛であった。多くの病院にてMRI,造影CTなどを施行され,原因の同定が不能であった。当院においても同様の症状にて来院。2回目の来院で,嵌入時の画像診断を得,確定診断を行えた。嵌入時は診断が比較的容易であるが,非嵌入時は診断が困難であり嵌入時を逃さない迅速な対応が肝要と思われた。原因不明の大腿部痛,下肢痛を認めた場合,本症の存在を念頭に置くことが肝要と思われた。また本症例のごとく,診断に難渋するような症例では,診断と治療を兼ねることが可能な腹腔鏡下手術は有用な方法と考えられた。
  • 毛原 啓, 上原 悠也, 小松 健一, 藤田 敏忠, 貝塚 真知子, 小林 義典, 山田 武男, 浜口 実
    2014 年 34 巻 4 号 p. 833-836
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    乳幼児腸重積症は大部分が特発性であり原因となる病変部が存在することはまれである。今回われわれは回腸異所性膵を先進部とする乳児腸重積症を経験したので報告する。症例は8ヵ月の男児。嘔吐が続くため当院小児科に入院となった。その後腹部膨満が著明となり,腹部超音波にてtarget signを認め,腸重積症が疑われた。注腸造影,腹部単純CTを施行し,回腸─回腸型の腸重積症と診断。高圧浣腸を試みたが,整復は不能であったため,同日緊急手術を施行した。開腹すると回腸─回腸型の腸重積を認め,Hutchinson手技にて整復すると重積先進部に10mm大の腫瘤を触知したため小腸部分切除術を施行した。病理組織学的にHeinrichⅡ型の異所性膵と診断された。高圧浣腸で整復されない腸重積症の場合,本症例のように原因となるような病変が存在する可能性を念頭に置き診療することが肝要である。
  • 里村 仁志, 佐々木 欣郎, 室井 大人, 高橋 雅一, 勝又 大輔, 山口 悟, 中島 政信, 加藤 広行
    2014 年 34 巻 4 号 p. 837-840
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    2010年4月から2013年3月までにシートベルトに起因する鈍的腸管・腸間膜損傷を6例経験した。損傷部位は十二指腸が2例,小腸間膜損傷に小腸損傷を伴うものが2例,小腸間膜損傷のみのものが2例であった。十二指腸穿孔の2例はいずれもBMIが低いため,シートベルトと脊椎に十二指腸水平脚が圧迫されて,内圧が急激に上昇したため穿孔したものと考えられた。腸間膜のみの損傷であった2例はシートベルトに直接圧挫されて間膜が裂傷を負ったものと思われた。腸間膜損傷に腸管の離断や穿孔が伴っていた2例は前述したメカニズムの複合による受傷と類推された。3例に開腹歴を認め腹腔内での癒着,組織の硬化が腸管・腸間膜損傷に影響した可能性が示唆された。シートベルト損傷はベルト痕を含めた腹部の視触診やFAST,CTなどの画像診断に加えて,開腹歴やBMI等も考慮して慎重に診断する必要があると思われる。
  • 山口 剛, 清水 智治, 小幡 徹, 園田 寛道, 赤堀 浩也, 三宅 亨, 田畑 貴久, 江口 豊, 谷 徹
    2014 年 34 巻 4 号 p. 841-844
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎の治療中に敗血症性ショックを合併した症例で新しいエンドトキシン測定法であるEndotoxin Activity Assay(以下,EAA)とEndotoxin Scattering Photometry(以下,ESP)の評価を行った。症例は65歳男性,3週前より潰瘍性大腸炎でステロイド治療などを受けていたが,大腸穿孔をきたし転院となった。緊急開腹で直腸穿孔を認め,大腸亜全摘を施行した。術前より敗血症性ショックであり,術前EAA 0.03であった。術後翌日の重症敗血症の状態でもEAA 0.48であり,臨床症状とEAAの乖離を認めた。術前ESPは306pg/mLと高値を示し,患者の循環動態の改善に伴い低下した。EAAは患者好中球活性酸素産生能を測定原理とするためステロイド使用患者では,正確にその病態を反映しない可能性がある。一方,ESPはこの様な患者でも評価できる可能性が示唆された。
  • 柚木崎 絋司, 島谷 昌明, 李 兆亮, 田村 公佑, 山﨑 之良, 田邉 淳, 中尾 珠希, 花咲 優子, 東 忠里, 東 大里, 糸原 ...
    2014 年 34 巻 4 号 p. 845-848
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性。2000年に胃癌に対し胃全摘術(Roux-en Y再建)が施行された。病理診断は胃癌(MU,Post,Type1,10.5×6.5cm,por2,INFγ,se,ly3,v0,pT3,N2,P0,H0,M0,stageⅢb;por)であった。術後18ヵ月間ドキシフルリジン600mg/dayが投与され再発なかった。 2012年9月に腹痛で受診し,魚骨による回腸末端炎が疑われた。終末回腸を含む右半結腸切除術を施行された。切除標本で回腸末端に魚骨と同部の限局性の腸管壁の肥厚を認めた。組織学的検査では,漿膜下から粘膜におよぶ広汎な低分化腺癌の浸潤・増殖を認め,胃癌の再発と診断した。その後癌性腹膜炎の増悪により2013年10月に死亡した。今回,筆者らは胃癌術後12年の経過で回腸への魚骨の刺入を契機に再発を診断できた症例を経験したので報告した。
  • 藤井 一博, 長嶺 弘太郎
    2014 年 34 巻 4 号 p. 849-853
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性。1年前に胃癌に対し胃全摘術を施行した既往があった。急激に発症した上腹部痛を主訴に当院救急外来を受診された。腹部CT検査にて著明に拡張した輸入脚を認め,急性輸入脚閉塞症の診断で同日,緊急手術を施行した。輸入脚は捻転し絞扼され,捻転部より口側の輸入脚は著明に拡張していた。あきらかな穿孔や壊死の所見を認めず,捻転解除術を施行した。術後,炎症反応高値が遷延し,精査にて広範囲にわたる後腹膜膿瘍の存在が判明した。第7病日に緊急開腹術を施行し,後腹膜膿瘍のドレナージを行った。術後の精査にて,遅発性十二指腸穿孔が後腹膜膿瘍形成の原因と考えられた。全身状態の改善を待ち,第19病日に膵頭十二指腸切除術を施行した。第49病日に軽快退院された。胃切除術後の輸入脚絞扼性イレウスは早急な外科的処置が必要とされる救急疾患である。遅発性の十二指腸穿孔に至った経緯を含めて,文献的考察を加え報告する。
  • 宮田 隆司, 中村 慶史, 藤田 秀人, 武居 亮平, 渡邉 利史, 岡本 浩一, 木下 淳, 尾山 勝信, 中川原 寿俊, 宮下 知治, ...
    2014 年 34 巻 4 号 p. 855-858
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    78歳男性。腹痛を認め近医を受診し,回腸末端腸炎として保存的加療を受けた。症状は一旦軽快するも,再燃を認め,加療開始3ヵ月後に精査加療目的紹介となった。経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡検査では,バウヒン弁から20cmの回腸に全周性狭窄を認め,内視鏡の通過は不可能であった。狭窄部より肛門側回腸粘膜は発赤やびらん,顆粒状隆起を認めた。生検や培養より悪性・結核所見は認めず,虚血性小腸炎が疑われ,病理学的診断目的も兼ね,発症より143日後に腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した。術後経過は良好で,第14病日に退院となった。病理所見は特異的炎症を示唆する所見や腫瘍性病変は認めず,虚血性小腸炎として矛盾しない所見であった。まれである狭窄型虚血性小腸炎に対し腹腔鏡下手術を施行した報告は少ない。今回,腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行し,良好な経過をたどった1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。
  • 山添 真志, 谷 眞至, 川副 友, 上田 健太郎, 川嶋 秀治, 國立 晃成, 酒谷 佳世, 岩崎 安博, 山上 裕機, 加藤 正哉
    2014 年 34 巻 4 号 p. 859-863
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    要旨:主膵管損傷を伴うⅢb型外傷性膵損傷に対して,空腸漿膜筋層パッチを追加した Letton-Wilson法を施行し良好な結果を得た1 例を報告する。症例は21歳の女性。乗用車の正面衝突によるシートベルト外傷で当科に緊急搬送された。腹部造影CT およびEndoscopic retrograde pancreatographyで膵周囲の血腫を認め,主膵管断裂を伴うⅢb型膵損傷と診断し,緊急手術を施行した。術中所見で,膵臓は膵体部門脈左側で完全に離断されており,また十二指腸水平脚で十二指腸損傷も認めた。頭側膵臓断端の主膵管は確認できず縫合閉鎖し,閉鎖部に挙上した空腸による漿膜筋層パッチを追加した。尾側膵臓はLetton─Wilson法で再建し,膵管空腸粘膜吻合を施行した。十二指腸は部分切除施行後,下行部で十二指腸空腸吻合を施行し,第21病日退院となった。
  • 丸屋 安広, 高槻 光寿, 曽山 明彦, 日高 匡章, 江口 晋
    2014 年 34 巻 4 号 p. 865-869
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,女性。胆道閉鎖症(葛西術後)の実子に対する生体肝移植における肝外側区域提供のため肝移植ドナー手術を施行された。手術中に原因不明の血圧低下および肝十二指腸間膜の浮腫性変化,茶褐色の腹水流出を認めた。術後1日目の血液検査で炎症反応上昇,血清アミラーゼ上昇,腹水アミラーゼ上昇を認め,腹部造影CTで急性膵炎と診断し,保存的加療で改善し術後38日目に退院した。術中・術直後は診断できなかったが,術中所見および腹水の性状から,膵炎は術中に発症していたと後方視的に判断した。膵炎の成因については原因不明であったが,術中の循環不全やプロポフォールによる薬剤性が疑われた。
  • 菅原 宏文, 福岡 健吾, 成田 知宏, 原田 ジェームス 統, 水野 豊, 岡本 道孝, 矢嶋 信久
    2014 年 34 巻 4 号 p. 871-874
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    要旨:Meckel憩室は時に腸閉塞や憩室炎などの合併症をきたす比較的まれな疾患である。今回われわれは潰瘍穿孔をきたした貧血合併Meckel憩室穿孔の1例を経験したので報告する。症例は13歳の女性で,来院1ヵ月前より間欠的右下腹部痛を自覚していた。下血の自覚症状はなかった。来院前日夜より腹痛増強,嘔吐が出現し,急性腹症として当院紹介受診となった。来院時,高度の貧血と腹部CT検査にてfree airと右下腹部の小腸の炎症所見を認め,回腸穿孔・Meckel憩室穿孔疑いの診断にて緊急手術を施行した。回腸末端より60cm口側に穿孔したMeckel憩室を認め回腸部分切除術を施行した。病理所見にて胃底腺を含む異所性胃粘膜と穿孔した潰瘍を認めた。Meckel憩室穿孔はMeckel憩室の合併症の中でも比較的まれであるが,小児の消化管穿孔や貧血の原因の一つとして念頭に置く必要があると考えられた。
  • 小島 博文, 田澤 賢一, 土屋 康紀, 山岸 文範, 塚田 一博
    2014 年 34 巻 4 号 p. 875-878
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性。右下腹部痛,発熱を主訴とし,当院を受診した。腹部CT検査で終末回腸および盲腸,上行結腸の著しい拡張と右側横行結腸の狭窄を認めた。横行結腸癌による大腸イレウスを疑い,緊急手術を施行した。術中所見では,胆囊底部に腫瘍性病変を認め,横行結腸狭窄部に一致して腫瘍の直接浸潤を認めた。また,小腸間膜に無数の腹膜播種性結節を認め,根治的切除不能の進行胆囊癌と術中診断し,腸閉塞解除目的に右半結腸切除術を施行した。病理組織学的所見では,横行結腸狭窄部の胆囊剥離面に腺癌がみられ,胆囊癌の直接浸潤による横行結腸狭窄であることが確認された。大腸イレウスの原因は主として大腸癌であるが,進行胆囊癌の直接浸潤も鑑別として考慮する必要がある。
  • 佐藤 拓也, 新井田 達雄, 大石 英人, 飯野 高之
    2014 年 34 巻 4 号 p. 879-883
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は84歳,男性。右側腹部痛で当院受診。腹部造影CTでfree airと腹腔内の液体貯留を認めた。経鼻胃管を挿入し,ガストログラフィンで造影した結果,十二指腸前壁と思われる部位より造影剤の腹腔内への流出を認めた。十二指腸潰瘍穿孔の診断で緊急入院となった。腹部所見が軽度であったことより保存的に経過観察をしたが,改善しなかったために,入院2日後に緊急開腹手術を施行した。胃幽門部前壁に2cm大の穿孔を認めた。さらに穿孔部の周囲に腫瘍性病変の併存を認め,胃癌穿孔が疑われたため,幽門側胃切除術を施行した。手術病理の結果は,悪性リンパ種,diffuse large B cell lymphoma(DLBCL)の診断で,臨床病期はLugano国際分類でStageⅡEであった。術後経過は良好で術後第20日目に退院となった。現在術後5ヵ月,無再発生存中である。
  • 青木 誠, 村田 将人, 金子 稔, 澤田 悠輔, 神戸 将彦, 萩原 周一, 大山 良雄, 田村 遵一, 大嶋 清宏
    2014 年 34 巻 4 号 p. 885-888
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性。意識障害を主訴に当院搬送された。来院時Glasgow coma scale10 (E3V3M4)の意識障害を認めるとともに,バイタルサインは体温40.8℃,心拍数140回/分,呼吸数30回/分であった。血液検査所見ではCRP 20.65mg/dL,PCT 25.46ng/mLと高値であり敗血症を呈していると考えられた。初診時あきらかな腹部症候を伴わなかった。精査目的で行った腹部CTで上行結腸に多発する憩室と周囲脂肪織濃度の上昇を認め憩室炎が疑われた。来院時に行った血液培養検査からはKlebsiella pneumoniaとBacillus spp.が検出された。入院後抗菌化学療法を行い状態は改善し,第13病日退院とした。経過中腹部症候は皆無であった。腹部症候を呈さない憩室炎から敗血症に至る可能性があり,感染源不明の敗血症に遭遇した際には憩室炎を鑑別の一つに取り入れるべきである。
  • 橋田 真輔, 佃 和憲, 浅野 博昭, 藤原 俊義
    2014 年 34 巻 4 号 p. 889-894
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は49歳男性。前医で虫垂切除術後に2回の縫合不全を生じ,当院に搬送された。汎発性腹膜炎に加え,右側腹部から腋窩に及ぶ壊死性筋膜炎を生じていた。壊死部のデブリドマンと開腹洗浄ドレナージ,ストーマ造設を行ったが,20×18cmの腹壁欠損を生じ,輸液バッグによるSilo Closureを行った。入院9日目にSiloを除去しVacuum Pack Closure(VPC)としたが,翌日に露出腸管の脆弱部に穿孔を生じた。一期的縫合閉鎖は再穿孔を繰り返すため困難であったが,反復縫合閉鎖で腸内容の流出は制御され,入院34日目に筋皮弁移植による腹壁再建を施行できた。皮弁は生着し,穿孔部も腸管皮膚瘻を形成後に閉鎖した。一般に開腹創管理にVPC法は有用だが,腸管の脆弱性等がある場合,陰圧による損傷のリスクがあり,またその穿孔に対しては,反復縫合閉鎖による腸内容流出制御が有効な治療法の一つと考えられた。
  • 爲廣 一仁, 靍 知光, 黒田 久志, 田中 将也, 今泉 拓也, 島 弘志, 荒木 恒敏
    2014 年 34 巻 4 号 p. 895-898
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    Fournier壊疽の治療では,壊死部および炎症の拡大部に対し,早期に,十分なデブリードマンを行うことが重要である。また,炎症の場所が肛門に近いため,術後の排便コントロールが問題となる。今回われわれは,75歳男性のFournier壊疽の治療過程において,下腹部に達するデブリードマンを行い,人工肛門の造設は行わず,術後に直腸用カテーテル(フレキシシール®:コンバテック社)を使用して,排便コントロールを行った。フレキシシール®は保険適応上29日間以内の使用期限があり,同程度の治療期間を念頭に入れる必要がある。そのため高気圧酸素療法を治療に追加した。高気圧酸素療法は,創部の治癒を早めることが期待できる治療法であり,本症例でも,創部の肉芽形成が良好で,第27病日に創閉鎖を行うことが可能であった。Fournier壊疽に対しフレキシシール®の使用と高気圧酸素療法の併用は有効な治療法の一つと考えられた。
  • 五十畑 則之, 遠藤 俊吾, 添田 暢俊, 大谷 泰介, 武藤 亮, 齋藤 拓朗, 冨樫 一智
    2014 年 34 巻 4 号 p. 899-903
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性。肛門痛と排尿障害を主訴に紹介された。初診時に肛門周囲から陰囊背側にかけて発赤,腫脹を認め,一部が自潰していた。なお,未治療の糖尿病の既往があった。肛門周囲膿瘍の診断で局所麻酔下に切開排膿を行った。入院時の血液生化学検査で敗血症,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:以下,DIC)の合併と診断した。抗菌剤とトロンボモジュリン製剤の投与とドレナージの追加で会陰部の炎症所見,DICは改善したが,発熱と炎症反応は持続した。第12病日のCT検査で左腸腰筋前面から後腹膜腔,S状結腸間膜,直腸周囲,腹直筋鞘にかけての炎症の拡大と膿瘍形成を認め,内攻型Fournier症候群と診断し,開腹ドレナージ,S状結腸切除,横行結腸人工肛門造設術を行った。術後に創感染,直腸皮膚瘻の形成を認めたが保存的に軽快し,第73病日に退院した。
  • 町田 智彦
    2014 年 34 巻 4 号 p. 905-909
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は73歳の女性。2008年8月に他院でS状結腸憩室炎,急性限局性腹膜炎,胆石症にてS状結腸切除術,胆囊摘出術を施行した。術後に縫合不全を発症し,腹腔内洗浄ドレナージ術,人工肛門造設術を施行した。約半年後に人工肛門を閉鎖した。2011年9月下旬に発熱と左上腹部痛を認め,当院に来院し,腹部CT検査にて左横隔膜下膿瘍を認めた。入院後抗生剤投与を開始し,入院後7日目に開腹ドレナージを施行した。膿瘍は左横隔膜下腔に存在し,肥厚した膿瘍壁を開放し,掻破した。膿汁は灰白色かつ粘稠で,膿瘍壁が除去された。膿汁および膿瘍壁からはBacteroides fragilisが検出された。術後経過は良好で,術後17日目に退院した。横隔膜下膿瘍は術後早期の合併症の一つであるが本症例のように術後数年経過した後に横隔膜下膿瘍を発症した報告はまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 石場 俊之, 円城寺 恩, 平岡 優, 吉野 内聡, 村瀬 秀明, 大野 玲
    2014 年 34 巻 4 号 p. 911-914
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は65歳女性。既往に37歳時に胃潰瘍で胃部分切除術を施行している。腹痛で当院受診し, 腹部造影CT検査でwhirl signを認め,絞扼性イレウスと診断した。症状出現より3時間後に緊急手術施行した。開腹すると乳白色の腹水を認め,腹水中のトリグリセリドは610mg/dLと高値で乳糜腹水と診断した。小腸は著明に拡張しており,180度捻転していた。捻転した小腸は乳白色調で用手的に整復し,切除しなかった。術後経過は良好で第7病日に退院した。乳糜腹水の原因はさまざまであるが,絞扼性イレウスによる乳糜腹水の報告は少ない。病態としては低圧のリンパ管のみが閉塞し,乳糜腹水となったと考えられる。本邦では15例の乳糜腹水を伴う絞扼性イレウスの報告があるが,腸管切除となった報告はない。乳糜腹水を伴う絞扼性イレウスは,腸管温存の可能性が期待できる興味深い病態と考えられ,若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 西村 潤也, 永原 央, 前田 清, 渋谷 雅常, 野田 英児, 平川 弘聖
    2014 年 34 巻 4 号 p. 915-918
    発行日: 2014/05/31
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性。慢性C型肝炎に対するスクリーニング検査のCTで小腸内に異物を認めたためダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行した。回腸末端から口側50cmの小腸に狭窄部位を認め,腸液の貯留と腸石数個の存在を認めた。内視鏡では摘出困難であり,通過障害の危険性があったため手術を施行した。開腹時の所見で既往の手術(約60年前の腸閉塞の手術,詳細は不明)による2ヵ所の腸管狭窄と,その間の腸管の囊腫状拡大がみられた。摘出標本で拡張腸管内に径2~4cm大の腸石を3個認めた。結石成分分析を行い,腸石は胆汁酸およびシュウ酸カルシウムを主成分とする真性腸石と判明した。真性腸石の報告例では,腸内容うっ滞を伴う狭窄・憩室・盲囊の併存例が多く,自験例は吻合部狭窄が原因と考えられた。今回,自験例を含めた真性腸石の本邦報告例62例に若干の文献的考察を加えて報告する。
feedback
Top