症例は53歳, 男性, 高血圧の既往がある.自然発作中の心電図変化は, II, III,
aV
FでST上昇, また, 発作によってはII, III,
aV
F及びV
4-6でのST下降がみられた.心臓カテーテル検査中, 冠動脈造影前に胸痛発作がおこった。心電図にはII, III,
aV
FとV
1-4で同時にST上昇がみられ, I,
aV
F, V
6ではST下降がみられた.この間, V
2でR波の消失, II, III,
aV
F, V
3, 4でR波減高, V
1-3でのT波の陰転, 電気的交互脈, short run, R on T現象, 多源性心室性期外収縮など, 種々の不整脈が観察された.発作はニトログリセリン2錠の舌下により寛解し, 発作後の冠動脈造影では正常冠動脈を呈した.この発作中, 経時的にベクトル心電図が記録され, QRS環後半部は前下方へ圧排され, open QRSを作り, STベクトルは前下方へ向かいダラダラとT環に移行するという特徴的な虚血性変化が認められた.多枝同時攣縮例は珍しく, また, 重篤な合併症を伴いやすく注意を要する.
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