非虚血性拡張型心筋症 (DCM) 患者において, 心不全に対する治療の進歩によりその予後は改善してきたが, 突然死の予知はいまだ解決されていない重要課題である.近年, Microvolt-level T wave alternans (TWA) は致死的不整脈や突然死との関連が報告されている.我々は, TWAの発生因子は, 臨床的に左室拡張末期径の増大, 心室頻拍の存在であることを報告してきた.また, DCM患者の致死的不整脈の発生を予測するうえで, TWAの存在, 左室駆出率 (LVEF) の低下が有用であることを報告した.しかしながら, 以前から指摘されているように, TWA検査は, 従来の陽性基準では, 致死的不整脈の予知に対して感度は高いが, 特異度, 正確度が低いことが問題とされ, よりよい指標が求められている.また, TWAの発生は, 心拍数に依存しており, より低い心拍数でTWAが認められる患者ほど, 致死的不整脈の発生の危険が高いと考えられるが, TWAの出現開始心拍数と臨床指標, さらに, 予後との関連についての報告はない.そこで, 我々は, DCM患者の不整脈事故を予測するうえで, TWAの出現開始心拍数の臨床的重要性について検討した.【対象】Cambridge Heat社製CH2000を用い前向きにTWAを施行し得たDCM104例 (男性84例; 平均年齢52±15歳) である.【方法】心事故は, 突然死, 心室細動と持続性心室頻拍の発生とした.TWA陽性基準は, alternans voltage1.9μV以上かつalternans ratio3.0以上が1分以上持続する場合とし, 陽性患者をOHRにより2群に分け (Group A with OHR<100bpm; Group B with100<OHR≦110) , 陰性患者はGroup Cとした.【結果】 (1) TWA陽性は46例 (44%) で認められ, Group Aは24例 (23%) , Group Bは22例 (21%) , Group Cは37例 (36%) , 判定不能例は21例 (20%) であった.この21例は, 予後解析から除外し, 83例において経過観察した. (2) Group AとGroup Bの間に, 各臨床的指標には差は無く, Group BとGroup Cの間には, 非持続性心室性頻拍だけがGroup Bに多く認められた. (3) 経過観察期間は, 平均21±14カ月で, Group Aは3人の突然死を含む9例, Group Bは2例, Group Cは1例の計12例の心事故が認められた.また, TWAとTWA with OHR≦100bpm (TWA+OHR) の心事故に対する (感度, 特異度, 正確度) はTWA (92%, 51%, 57%, p=0.01) , TWA+OHR (75%, 84%, 78%, p=0.001) でTWA+〇HRはTWA単独に比較して感度は低くなるが, 特異度, 正確度において改善した.【結論】DCM患者の心事故を予測するうえで, TWAの出現開始心拍数 (OHR) は有用であった. (心電図, 2003; 23=168~173)
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