化学工学論文集論文賞委員会は,2017年(43巻)に掲載された53編の論文について審査を行い,次の4編の論文を2017年化学工学論文集優秀論文賞に選定した.それらの論文タイトルは「放射線前照射乳化グラフト重合法を適用したタンパク質を高容量に吸着するためのカチオン交換繊維の作製」,「塩基性DMAPAAゲル内部での金属水酸化物形成と新しい重金属捕集分離法」,「分子拡散領域における細孔内での気体の非等モル相互拡散のモデル」および「Langevin動力学法によるエアロゾルの円管内通過率の評価」である.
303.2 Kの液化プロパン+エタノール混合系の揮発性および極性の調査のため,沸点および誘電スペクトルを測定した.沸点は静置法により測定し,誘電スペクトルは周波数0.5–18 GHzの範囲で測定し,静誘電率(比誘電率)および誘電緩和時間を算出した.沸点はプロパン組成の増加にともない増加し,ラウール則に対して正に偏倚した.さらにNRTL式を用いて混合系の沸点を相関し,気液平衡関係を予測した.静誘電率はプロパンのモル分率Xpの増加にともなって単調に減少し,誘電緩和時間はXp=0.2付近で極大をとる傾向を示し,Xp=0.2以上の領域ではプロパンの組成の増加にともない減少する傾向を示した.誘電物性の過剰量を算出したところ,溶液中の双極子–双極子相互作用は,エタノール分子間の水素結合による相互作用またはプロパンとエタノールのヒドロキシ基間の斥力的な相互作用に起因することが示唆された.
流動層の操作において分子量が小さなガスから大きなガスに流動化ガスを切り換えるとチャネリングが発生し,一時的な非流動化が起きる.原因はエマルション相と気泡との間の非等モルガス交換によってエマルション相のガス速度が流動化を維持するために必要な速度より小さくなるためである.この現象の程度に影響をおよぼすのはそれぞれのガスの拡散速度の差であるが,ガス切り換えの際に非流動化が起きる可能性を事前に評価するために,本研究では粒子径および粒子密度を変化させた実験により,現象が起こる可能性のある粒子物性の範囲を明らかにした.ガス切り換え後,チャネリングによって圧力損失が急激に低下し,その後,回復する.この変化を3つの過程に分けて,それぞれの現象に対する粒子物性の影響を求めた.このようにして得られた相関式に基づいて非流動化が起きる粒子物性の範囲を表した.その結果,粒子径が数十μmの流動触媒層ではこの現象が宿命的に避けられないことがわかった.さらに,切り換え後のガス速度を一時的に高くする方法やガス組成を徐々に変化させるような操作が非流動化を避ける,もしくは緩和する方法として有効であることを示した.
大気圧プラズマによる粒子の連続表面改質処理が可能な噴流層プラズマリアクターを開発し,流動化条件やプラズマ処理条件が粒子の表面改質に与える影響について実験的検討を行った.実験では,処理対象粒子(流動化粒子)としてポリプロピレン(PP)粒子を用い,プラズマ処理前後の粒子の濡れ性を指標として表面改質の評価を行った.その結果,噴流層プラズマリアクターにより層内PP粒子の均一な表面改質が可能であることが明らかとなった.流動化条件やプラズマ処理条件により,粒子ごとの濡れ性にはばらつきが見られたが,処理時間を長くすることで粒子ごとの濡れ性のばらつきを少なくすることが可能であった.また,印加電圧や粒子充填量にかかわらず,良好な粒子循環が得られるガス流量において層内粒子全体の均一な表面改質が可能であることも明らかになった.PP粒子の濡れ性向上の原因は,プラズマ照射によるC=O結合の生成であり,粒子衝突による物理的形状上の変化や温度変化による影響は小さいことも明らかとなった.
粒子混合物に含まれている各粒子の密度および混合比率の推定を目的として,浮力秤量法による沈降実験を行った.試料粒子として粒径分布が同じで密度の異なる2種類のガラスビーズ(JIS試験用粉体2, GBL30およびGBM30)を使用した.分散媒としてグリセリン水溶液を用いた.浮力秤量法で測定されたガラスビーズそれぞれの密度は,ピクノメーターで測定された値とほぼ一致した.ガラスビーズ混合物について密度測定を行ったところ,浮力秤量法による密度分布の推定が可能である.
コンブを介したヨウ素の過剰摂取による健康被害が懸念されている.本研究では,陰イオン交換樹脂を用いた競争吸着法によるコンブのヨウ素低減方法の開発を試みた.陰イオン交換樹脂とコンブによる競争的なヨウ素の吸着平衡によって,コンブと溶出溶媒からヨウ素を同時に除去することができる.溶出溶媒によるコンブからのヨウ素溶出速度を検討した結果,溶出速度はコンブの葉厚を考慮したヨウ素の透過係数とよくしたがった.ヨウ素の吸着実験では,実験値と吸着モデルから算出した値との相関が高く,コンブの質量損失を抑制するために用いた0.9 Mマンニトール溶出溶媒においても,コンブからのヨウ素除去率は95%以上であった.
活性汚泥の沈降性能を向上させる効率的な前処理法を開発するため,超音波の照射と無機塩の段階的添加からなる複合プロセスを提案した.破砕汚泥への二価カチオンのCa2+の添加に続いて三価カチオンのFe3+を添加することにより,極めて大きな凝集フロックが形成され,回分重力沈降における沈降速度も顕著な増大を示した.添加順序を逆にして得られた結果との比較から,先にCa2+を添加することが沈降特性の向上に重要であることを明らかにした.10 mMのCa2+添加濃度に対して種々のFe3+添加濃度について初期沈降速度を調べた結果,3 mMの添加濃度で沈降速度は21.0 mm/minの最大値を示し,元の汚泥で得た沈降速度の350倍となった.さらに,このFe3+添加濃度では,Ca2+添加濃度を0.3 mMという極めて低い値まで減じても,10 mMの場合と同程度の沈降特性の向上が見られた.次いで,Ca2+とFe3+の段階的添加の効果を,破砕汚泥を遠心沈降することにより分離した上澄液と圧密沈積層のそれぞれに対して調べた.その結果,提案する破砕汚泥へのCa2+とFe3+の段階的添加によって得られた極めて著しい凝集効果が,破砕汚泥からバルク中に放出された細胞内高分子代謝物質ではなく,破砕細胞自体に由来するものであることが明らかとなった.
サトウキビを原料としたバイオエタノールの生産は,温室効果ガス排出低減に効果があるといわれる一方で,砂糖生産との原料の取り合いによる食料競合の問題が指摘されている.既往研究では,製糖工場に多収性サトウキビ品種と砂糖・エタノール複合生産プロセスという2つの新技術を同時に導入することによって,砂糖とエタノールの同時増産が可能であることがシミュレーション上で示されている.しかしながら,実際に技術を導入するためにはプラント規模での実証試験が必要である.本研究では,沖縄県伊江島において,サトウキビ栽培から砂糖・エタノール複合生産までの実証試験をパイロット規模で実施し,7種類のサトウキビを原料とした場合の物質収支データを取得した.そして,サトウキビの原料組成が各工程に与える影響を明らかにするとともに,砂糖とエタノールの同時増産が達成可能であることを実証した.
磁性メソポーラス酸化鉄(MMIO)の構造に及ぼす合成条件の影響を検討すること,およびMMIOのブロモフェノールブルー(BPB)吸着性能を評価することを目的とした.界面活性剤溶液のpHを5.5に調整することで比較的比表面積が大きい(70 m2/g)Fe3O4の単一相を得ることができた.MMIOの焼成温度(250–500°C)の上昇に伴い,比表面積は小さくなった.これは,焼成温度が上昇することでFe3O4粒子の焼結が進行しメソ孔のサイズが増加したためであると考えられた.比表面積が大きくメソ孔を有し,Fe3O4の単一相で構成されるMMIOを合成するためには,300°C程度の低温で焼成することが必要であると分かった.また,添加した界面活性剤は,分散剤として作用していることも分かった.MMIO(溶液pH:5.5,焼成温度:300°C)を用いたBPB吸着実験では,溶液のpHが4.0の時に最も吸着した.飽和吸着量は,34 µmol/gであった.MMIOのBPB吸着機構を検討するため,吸着等温線の測定をした.Langmuir式とFreundlich式を検討した結果,Langmuir型であることが分かった.したがって,MMIOのBPB吸着は単分子層吸着であることが明らかとなった.
世界的なエネルギー需要の増加や国際的なCO2排出量削減の流れにともない,再生可能資源のバイオマスをBTXやプロピレンなど化学基礎原料へ転換する手法が注目されている.本研究ではバイオマスである廃糖蜜を発酵処理して含酸素炭化水素を生成した後,触媒反応によりバイオ燃料や化学原料に転換する2段階操作を提案し,その実装可能性を検討することを目的とする.特に,酸発酵を用いて廃糖蜜から含酸素炭化水素の酪酸を製造するプロセスにおいて高選択性と製造時間を短縮できる条件を探索した.発酵液の溶存酸素濃度,pHおよび原料基質の濃度を調整することで,原料に含まれる糖類のスクロース,グルコースとフルクトースを全量消費して目的の中間生成物である酪酸が73.5 C%という高い達成率で得られ,発酵日数を13.5 dから1.5 dまで短縮した.生成物を分離精製した酪酸水溶液を用いてゼオライト触媒による改質反応実験を行い,プロピレンが収率25 C%で得られ,廃糖蜜原料からプロピレン生成までの一貫製造の実装可能性が確認された.