化学工学論文集
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43 巻, 5 号
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編集ノート
粉粒体工学
  • 庄山 瑞季, 松坂 修二
    2017 年 43 巻 5 号 p. 319-326
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    電場を利用すると機械的外力を用いることなく帯電粒子に自発的な運動を行わせることができるので,粒子操作において静電技術が注目されている.本研究では,下部に平板電極,上部に網状電極を用い,下部電極に誘電性粒子(粒子径100 µmのガラスビーズ)を堆積させて+5 kVの定電圧を印加し,上部電極を接地して上向きの電場を与えた.粒子層には下部電極と同じ極性の電荷が誘導帯電によって付与され,上層の粒子はクーロン力によって浮揚した.粒子の挙動および浮揚過程を高速度カメラで観察した結果,一次粒子だけでなく凝集粒子も浮揚することがわかった.誘電性粒子は静電場で分極し,静電相互作用によって鎖状凝集粒子を形成した.粒子の比電荷が小さく,十分なクーロン力が得られない場合,粒子は浮揚しないが,凝集粒子を構成する一次粒子のクーロン力の総和が粒子間付着力および重力を超えると凝集粒子は浮揚した.電場解析および浮揚した粒子の運動解析によって粒子帯電量を求めた結果,構成粒子数の増加とともに浮揚凝集粒子の比電荷は小さくなるが,粒子間付着力は増加することがわかった.

分離工学
  • 入谷 英司, 片桐 誠之, 湊 純平, 西川 匡子
    2017 年 43 巻 5 号 p. 327-335
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    活性汚泥への超音波照射と塩添加による協奏凝集効果を明らかにするため,超音波照射汚泥への添加無機塩のカチオン価数と濃度が,その回分重力沈降挙動におよぼす影響を調べた.その結果,Ca2+やMg2+の二価カチオンが超音波処理汚泥の沈降特性の改善に最も効果的であることが明らかとなった.たとえば,Ca2+のわずかな添加においても高い見掛け密度をもつ極めて大きなフロックが形成され,それが沈降性能を向上させた.10 mMのCa2+濃度で沈降初期の定速沈降期間における沈降速度は,未処理汚泥の40.4倍を示し,300 min後の沈殿率も23ポイント減じた.Mg2+の添加も同様の傾向を示すことから,これらの結果がCa2+に特異的なアルギン酸とのエッグボックス構造の形成として知られるゲル化によるものではなく,超音波破砕により微生物細胞の内部から放出された細胞内代謝ポリマー間への二価カチオンの非特異的架橋作用による凝集が生じたものと推察する.Na+やK+の一価カチオンでは,添加濃度の増加とともに超音波照射汚泥の定速沈降速度は増大したが,Fe3+やAl3+の三価カチオンの添加では,沈降性能はほとんど向上しなかった.一方,超音波を照射しない汚泥に対しては,三価カチオンの添加が最も効果的であった.超音波照射汚泥に対して,三価カチオンの効果がほとんど見られないのは,三価カチオンを介しての代謝ポリマー間の立体障害作用に負うところが大きいものと考えられる.また,未処理汚泥に対するカチオン添加の結果は,DLVO理論に基づく電気二重層の圧縮によって説明できるSchulze–Hardy則と傾向的に一致している.

反応工学
  • 白崎 義則, 佐藤 剛史, 伊藤 直次, 常木 達也, 西井 匠, 黒川 英人, 安田 勇, 島森 融, 高木 保宏, 彦坂 英昭, 田中 ...
    2017 年 43 巻 5 号 p. 336-341
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    天然ガスからの水蒸気改質器にPd系水素分離膜を組み込んだメンブレンリアクターの概念を適用した水素分離型リフォーマー(MRF: Membrane reformer)は,一つの反応器で改質反応と水素分離を同時に行い,化学平衡の制約を逃れた反応促進が可能なため,シンプル,コンパクト,高効率な水素製造技術として期待される.我々は,水素分離型リフォーマーのさらなるシンプル化,コンパクト化を目的として,触媒機能を付与した支持体とPd合金製水素分離膜が一体となった新しいコンセプトの水素分離膜モジュールである触媒一体化膜モジュール(MOC: Membrane on Catalyst)を開発し,都市ガスの水蒸気改質による水素製造性能の評価を行った.

    Ni担持多孔質YSZ管(外径10 mm,長さ300 mm,肉厚1 mm)に,無電解めっきによって膜面積93 cm2,膜厚7.3 µmのPd–Ag合金膜で被覆した触媒一体化膜モジュールを作成し,547°C,反応圧0.9 MPa,水素透過側圧0.04 MPaの条件で都市ガスの改質試験を行った結果,原料ガス流量3.0 N cm3/(min·cm2)に対して11.4 N cm3/(min·cm2)の水素製造量が得られた.この結果から,MOCが従来の固定床触媒充填型の膜改質装置と同等の性能を有しており,水素製造用の水素分離膜モジュールとして十分利用できることが明らかになった.

  • 織田 耕彦, 町田 洋, 堀添 浩俊
    2017 年 43 巻 5 号 p. 342-346
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    メタノールは薬品,燃料,樹脂などを生産するうえでの重要な工業基礎原料であり,一般にメタンの水蒸気改質で得られるCOとH2を触媒下で反応させることで合成する.しかし,このプロセスはエネルギー消費量が多く,直接合成法などの開発が望まれている.そこで,本研究ではメタンからのメタノール直接合成を目的として,H2O2を用いたメタンの流通式水熱部分酸化試験を行い,H2O2の予熱を予熱無,予熱有(120°C, 270°C以上)と,反応温度100–350°Cをパラメーターとして試験を実施した.その結果,反応温度350°C, 滞留時間31 s, H2O2予熱無では予熱270°C以上に比べメタン転化率が大幅に増大し,その結果メタノール収率も増加し類似研究より高い値を示した.H2O2の予熱無では,予熱段階でのH2O2の熱分解がなく,急速昇温によって強力な酸化剤である·OHの発生が反応場で起こり,メタン転化率が増大したと推察される.一方,H2O2の予熱270°C以上では反応管へ達する前にH2O2がすべてO2に分解したと推察された.

プロセスシステム工学,安全
  • 兼松 祐一郎, 大久保 達也, 菊池 康紀
    2017 年 43 巻 5 号 p. 347-357
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    近接した複数の産業間で廃棄物・副産物や未利用エネルギーを融通し,廃棄物低減や資源利用効率向上を目指す産業共生の取り組みは,工業地域を中心に発展してきたが,農林業地域への展開により農林業や関連産業への効果が期待できる.しかし,産業共生の計画的な推進についての方法論は体系化されていない.本研究では,農林業地域での産業共生を対象として,新たに計画プロセスを提案する.化学プロセス設計にアクティビティモデルを適用した既往事例を基礎として,工業地域型・農林業地域型の産業共生の計画との違いや課題を整理し,農林業地域における産業共生の計画プロセスを表すアクティビティモデルを構築した.また,この計画プロセス中で行われる,産業共生にともなう物質・エネルギーフロー変化のシミュレーションに焦点を当てて,そのデータ処理に関するデータモデルを構築した.これらのモデルに対して,既往の農林業地域における産業共生の計画事例との整合性を検証し,既往の計画における作業と情報の流れとデータ構造が表現できていることを確認した.これらのようなモデリングを通して,異なる地域や業種を対象とした産業共生の共通点と相違点を明確化していくことで,多地域,多業種への展開が可能となると考えられる.

環境
  • 庄司 良, 牧野 春香
    2017 年 43 巻 5 号 p. 358-366
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    フミン酸は動植物遺体が加水分解などの化学的作用を受けて生成される不定形の有機物である.フミン酸が生成される際の周辺環境の違いによってその性質が変化することはわかっている.しかし,フミン酸は有機物であるために微生物によってさらに分解され,フミン酸の性質が時間と共に変化していく可能性がある.本研究では山梨県大月市の一定箇所から定期に腐葉土を採取してフミン酸を抽出し,腐植時間が異なるフミン酸の性質調査を行った.フミン酸のカルボキシル基やフェノール基から放出される水素イオン量(交換性プロトン容量)および銅イオンとの結合性を酸塩基滴定,銅滴定およびカルシウム共存下銅滴定によって得られたデータをNICA-Donnan modelを用いて解析した結果,交換性プロトン容量は与えられた環境下の気温の積算が増加するごとに増加していった.また,銅イオン結合性は銅イオンと競合するようなカルシウムイオンが存在しない時は腐植時間との関係性が見いだせなかったもの,カルシウム共存下の場合は腐植時間が経過するごとに低濃度の銅イオンの吸着量が増加していった.このことからカルシウムイオンの吸着によってフミン酸の立体構造や配位数が変化する可能性や,銅イオンとカルシウムイオンの競合作用が小さくなることが考えられる.また,フミン酸の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸ジメチルアミンとの結合性を検討した結果,2,4-ジクロロフェノキシ酢酸ジメチルアミンの吸着はFreundlich型吸着等温線に当てはめることができ,腐植時間経過ごとに係数が減少,定数が増加していく傾向が見られた.したがって,腐植時間が経過するごとに低濃度の2,4-ジクロロフェノキシ酢酸ジメチルアミンを吸着しやすくなっていくと考えられる.

  • 西村 二郎
    2017 年 43 巻 5 号 p. 367-371
    発行日: 2017/09/20
    公開日: 2017/09/20
    ジャーナル 認証あり

    2012年9月,汽水湖の宍道湖において1200年に一度級の偶発事象がおきた.通常は形成されない異常に強い塩分成層が形成され,湖底付近は酸欠状態となり,大量の溶解性リンが浮上し,最終的には流出した.このため,常態化しつつあったアオコの発生が,2013年以降,事実上,見られなくなっている.湖底のリンがある限度以上に減り,藍藻類のレジームから珪藻類のレジームへシフトしたと考えられる.一連の現象は宍道湖の水質汚濁メカニズムを考える上でも重要である.たとえば,島根県が実施していた公共下水道の整備の効果は,溶解性リンの確率的発生と枯れたアオコの再生産サイクルの陰に隠れていた可能性がある.この仮説が正しければ,この好ましいレジームシフトには持続可能性がある.斐伊川以外の中小河川の寄与を含めてリン収支をとり,そのことを確かめるとともに,並行してすぐにできるリン対策を推進すべきである.

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