日本呼吸器外科学会雑誌
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28 巻, 4 号
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原著
  • 伊坂 哲哉, 高橋 航, 前原 孝光, 益田 宗孝
    2014 年 28 巻 4 号 p. 420-426
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    鈍的外傷による外傷性気胸の経過観察中もしくはドレナージ療法後に遅発性外傷性気胸(LTP)を発症することが知られている.今回LTPのリスク因子を検討した.2006年11月1日~2012年12月31日に横浜労災病院で治療を行った鈍的外傷による外傷性気胸患者58人,61病変をLTP群と非LTP群に分けて患者背景および臨床背景を比較検討した.今回検討した肺嚢胞とは気腫性肺嚢胞および外傷性肺嚢胞とした.胸部CTにて,肺嚢胞は10病変(16.4%)検出された.LTPは7病変(11.5%)で発症した.単変量解析および多変量解析にて肺嚢胞の存在がLTPの独立したリスク因子だった.外傷性気胸の気胸側に肺嚢胞を有する場合LTPを念頭に厳密なフォローを要することが考えられた.
  • 坪島 顕司, 若原 鉄平, 的場 保巳, 眞庭 謙昌
    2014 年 28 巻 4 号 p. 427-432
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    原発性自然気胸の術後再発率について統一された記載基準はない.当科で手術を施行した原発性自然気胸96症例を対象としKaplan-Meier法(K法),単純法(S法)による再発率を各々算出し検討した.算出方法,患者背景からみて最も再発率が低かったのが25歳以上の群と喫煙歴のある群のK法で2.9%,最も高かったのが25歳未満の群のK法で26.6%であった. またS法では喫煙歴のない群が最も高く20.8%であり,再発率の大きな相違が判明した.再発率の算出方法に優劣はないものの標準化することが重要であり,その正確性などからK法は有用と考えられた.初回手術症例の患者背景において「25歳未満」が有意な再発因子であった.再発因子に応じて低リスク群と高リスク群に分類するとK法で術後2年時の再発率はそれぞれ0%,22.0%と有意差を認めた.将来,リスク分類に応じた治療方針立案が可能となるかもしれない.
  • 楠本 英則, 新谷 康, 川村 知裕, 舟木 壮一郎, 中桐 伴行, 井上 匡美, 澤端 章好, 南 正人, 奥村 明之進
    2014 年 28 巻 4 号 p. 433-438
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    大血管浸潤を伴う非小細胞肺癌に対する手術適応について統一された見解はない.当院にて手術を施行した大血管へ浸潤を示す非小細胞肺癌T4症例の臨床像・治療成績を検討した.2000年から2009年の原発性肺癌手術症例のうち病理診断にて大血管浸潤によるpT4と診断された大血管合併切除症例13例を対象とした.臨床病期はIIIA期が8例,IIIBが5例で,術前治療は10例に施行され,浸潤臓器は大動脈6例,上大静脈2例,他の大血管が3例,右心房1例,左心房1例であった.組織型は腺癌8例,扁平上皮癌5例で,pN0が9例,pN1,pN2が2例ずつであった.在院死を1例に認めた(7.7%).5年生存率は31.2%で,pN0症例では48.6%,pN1-2症例で0%,腺癌で51.4%,扁平上皮癌で0%であった.pN0症例において長期生存が得られる可能性がある一方,扁平上皮癌が予後不良である可能性が示唆された.
手技の工夫
  • 佐藤 雅昭, 山田 徹, 青山 晃博, 陳 豊史, 園部 誠, 板東 徹, 伊達 洋至
    2014 年 28 巻 4 号 p. 439-445
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    われわれが行っている生体肺移植ドナー手術の工夫を紹介する.①左房クランプ滑脱への備え:切断前に予めクランプよりグラフト側の左房両端に糸針をかけ,切断後に万一クランプが滑脱しても断端を引き出し再クランプできるようにする.②気管支鏡的な気管支切離部位決定:右側ドナーでB6と底区がメガネ状に分かれるのを防ぐため,切離予定部に25 G針を術野から刺し,気管支鏡で気管支開口部との位置関係を確認する.③心膜パッチによる肺動脈形成.④簡易心嚢閉鎖法:ドナー手術では,胸水関連合併症が多く経験される.切開した心嚢の縫合閉鎖は困難なので,心嚢前縁と,食道または下行大動脈を覆う後縦隔胸膜を連続縫合する.後ろ向き検討では,心嚢閉鎖群は開放群と比べ術後胸水が有意に少なかった.これらの生体肺移植ドナー手術における工夫は,一般呼吸器外科手術における左房合併切除,気管支血管形成にも有用である.
症例
  • 渡邉 元嗣, 上野 剛, 末久 弘, 澤田 茂樹, 山下 素弘, 高畑 浩之
    2014 年 28 巻 4 号 p. 446-450
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は67歳の女性.3ヵ月前より右の側胸部に腫瘤を自覚.咳嗽が持続するため近医を受診し,胸部Xpで右下肺野の腫瘤陰影と胸水貯留を指摘.CTで右第7・8肋骨を破壊し,胸腔内に突出する腫瘍を認め,当院へ精査・加療目的に紹介となった.生検の結果は悪性末梢神経鞘腫瘍で,遠隔転移を認めなかったため手術を施行.断端までの距離を確保する目的で第6-8肋骨,前鋸筋を部分的に合併切除した.腫瘍は肺に浸潤しておらず,en blocで切除可能であった.胸壁はGORE® DUALMESH®で再建した.術後の病理診断では,悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma,MFH)との診断に至った.MFHは四肢の軟部組織に好発し,胸部領域での発生は比較的稀である.治療の機会を逃さず,必要十分な広範囲切除を行うこと,必要に応じて胸壁の再建を行うことが重要であると思われ,文献的考察を加え報告する.
  • 土井 健史, 松岡 英仁
    2014 年 28 巻 4 号 p. 451-455
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は75歳男性,一次性骨髄異形成症候群を当院内科で加療されていた.検診で胸部異常陰影を指摘され,胸部CTと気管支鏡検査で肺腺癌(cT1bN0M0,cStageIA)と診断され右上葉切除術が施行された.術前に白血球890/μl(好中球280/μl)と高度の好中球減少,およびヘモグロビン9.6 g/dlと貧血を認め,手術前日から術後2日目までG-CSF製剤を使用した.また,術前より蛋白同化ホルモン,活性型ビタミンD3,ビタミンK2の投与も行った.入院中に明らかな感染徴候を認めず,G-CSF製剤投与による白血球増加は3,030/μlに留まり白血化は認めなかった.術後経過は良好で術後7日目に軽快退院となった.一次性骨髄異形成症候群に原発性肺癌を合併した報告は少なく,原発性肺癌手術における一次性骨髄異形成症候群の周術期管理を経験したので文献的考察を含めて報告する.
  • 重松 義紀, 岸田 翔子, 高橋 守, 松倉 規
    2014 年 28 巻 4 号 p. 456-460
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は57歳女性.検診で胸部異常影を指摘されて受診した.胸部CTで右S6/9に4.5×4.0 cmの腫瘤とリンパ節(#7,#11i)の位置に薄壁嚢胞状結節を認めた.嚢胞はT2WI/MRCPで著明な高信号を認め,PET-CTでは集積はなかった.気管支鏡検査にて右下葉腫瘤は腺癌と診断を得た.薄壁嚢胞は気管支嚢胞を疑い胸腔鏡下右肺下葉切除,リンパ節郭清を施行した.術中所見でも薄壁な嚢胞を認めた.病理診断は混合型腺癌で,嚢胞は乳頭型腺癌のリンパ節転移が嚢胞状に変化していたものであった.非常に稀な嚢胞状リンパ節転移をきたした肺腺癌の1切除例を経験した.所属リンパ節に一致する嚢胞状病変を認めた際は転移も鑑別に入れる必要があると考えた.
  • 栃井 祥子, 芦刈 周平, 栃井 大輔, 須田 隆, 高木 靖
    2014 年 28 巻 4 号 p. 461-465
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は76歳の女性.原発性肺癌に対し胸腔鏡下右上葉切除術と縦隔リンパ節郭清を施行した.術後早期より酸素化が悪く,気管支狭窄音があり,CTにて右中葉の無気肺と下葉の一部に無気肺がみられた.気管支鏡にて中間気管支幹の狭窄と中葉支の閉鎖を認め,残存肺の偏位による気管支屈曲を疑い,術後9日目に再手術を施行した.術中所見は,中葉が頭側に持ち上がり中間気管支幹が内側に屈曲していた.このため,胸腔鏡下にpolytetrafluoroethylene sheet(ePTFEシート)を用いて隔壁を形成する胸腔形成術を施行した.再手術後の気管支鏡検査では気管支の狭窄はなく経過は良好で,再手術後12日目に退院した.右上葉切除後の中間気管支幹屈曲に対し胸腔鏡下胸腔形成術が有効であった.
  • 下川 秀彦, 松本 崇秀, 浦本 秀隆, 宗 知子, 花桐 武志, 田中 文啓
    2014 年 28 巻 4 号 p. 466-470
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    肺癌症例において,異時性に多発する病変を認めた場合,それが多発肺癌なのか転移なのかを厳密に診断することは時に困難である.また再手術であっても根治性を十分考慮した術式が選択されるべきである.今回我々は両側肺癌術後経過観察中,左残存肺の完全無気肺を呈した異時性原発性肺癌を経験した.腫瘍をレーザー焼灼することで,左上葉支の再開通による縦隔偏位及び患者の呼吸状態を改善した後,残存肺全摘(completion pneumonectomy)を施行した症例を報告する.
  • 増田 佳子, 山田 竜也, 丸塚 孝, 最勝寺 哲志
    2014 年 28 巻 4 号 p. 471-476
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    81歳女性.右肺癌に対し,右下葉切除術を施行した.術中,中葉から気漏を認めたため,縫合後,フィブリノゲン加第13因子(ベリプラストP®)と吸収性組織補強材(ネオベールシート®)を使用した.しかし気漏が止まらなかったため,フィブリノゲン配合剤(タココンブ®)を使用して手術を終了した.術後6病日に38℃台の発熱があり,CTにて右中葉にすりガラス陰影を認めた.術後肺炎を疑い抗菌薬投与を開始したが病状が改善しなかったため,気管支鏡検査を施行した.気管支肺胞洗浄液中の好酸球分画が66.2%と著明に上昇していた.急性好酸球性肺炎と診断し,投与中の薬剤をすべて中止したが改善がみられなかったため,ステロイドを開始した.ステロイド開始2日後に解熱し,炎症所見および酸素化の改善を認めた.その後再燃はみられていない.片側性に発症する好酸球性肺炎は稀であるが,術後肺炎の鑑別診断の一つとして念頭に置くべきである.
  • 新井川 弘道, 大浦 裕之, 小野寺 賢, 石田 格, 半田 政志, 近藤 丘
    2014 年 28 巻 4 号 p. 477-482
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    胸腔ドレーン留置がデスモイド型線維腫症発生に関与したと考えられる稀な症例を経験したので考察を加え報告する.症例は37歳女性.潰瘍性大腸炎と医原性気胸の既往を有していた.左乳房下の違和感から前医を受診し乳腺腫瘍疑いとして乳腺外科に紹介となるも,胸部CTで左前胸壁の腫瘤を認め,針生検にてデスモイド型線維腫症との診断から当科紹介となった.手術は腫瘍から切離断端まで十分な距離をとり,第5,6肋骨合併切除のうえ切除,摘出,胸壁再建を行った.腫瘍は胸腔ドレーンが挿入されていた第5肋間近傍から発生しており,臨床的にドレーン挿入処置が発生因子と考えられた.この様な比較的単純な手技でも,潰瘍性大腸炎のごとく炎症性素因を有する症例ではデスモイド型線維腫症が発生し易い可能性があり,外科手技の必要性をよく検討のうえ,より愛護的な手技に努めることが重要と考えられた.
  • 栁澤 純, 永田 旭, 平塚 昌文, 山下 眞一, 白石 武史, 岩﨑 昭憲
    2014 年 28 巻 4 号 p. 483-487
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    緊張性肺嚢胞症とは,肺嚢胞の急激かつ過度な増大のため,胸腔内臓器が圧排され重篤な呼吸循環障害をきたした際の病態である.新生児期から乳児期にかけて発症し,急速に呼吸循環不全を来すため緊急手術となることが多い.症例は7ヵ月の男児で,生下時に人工呼吸管理を受けていた.生後7日目に嚢胞が出現し,経過とともに増大し呼吸循環障害を来すようになり当科に紹介となった.胸部CTでは左胸腔を占める嚢胞と,縦隔の偏位を認めた.予定手術として,左後側方切開による嚢胞切除術が行われた.麻酔導入時に呼吸循環動態が不安定となったが,速やかに嚢胞内の減圧を行ったことで安定した.嚢胞以外の肺実質は健常で,嚢胞切除後の残存肺の膨張も良好であり,術前にみられた呼吸循環障害も解消された.新生児や乳児において嚢胞の自然消褪がみられない場合には呼吸循環不全が重篤になる前に外科手術を考慮することが重要と考えられた.
  • 長谷川 剛生, 岡部 直行, 柳沼 裕嗣, 大杉 純, 樋口 光徳, 鈴木 弘行
    2014 年 28 巻 4 号 p. 488-494
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.毎年検診を受けていたが異常は指摘されなかった.2005年7月の検診で胸部異常陰影を指摘され当院呼吸器内科を受診.胸部X線検査では左下肺野に2 cm大の類円形腫瘤陰影を認め,胸部CTでは左S8に内部に石灰化を伴う結節像を認めた.気管支鏡検査では擦過細胞診でclass Iであり,石灰化を伴う腫瘤であることから良性腫瘍と考え経過観察とした.2006年3月の画像検査で腫瘤は3 cm大へ増大したため気管支鏡検査を再度実施した.生検でspindle cell sarcomaと診断され,2006年6月に左下葉切除を施行.凍結標本のRT-PCRでSYT-SSX1融合遺伝子が検出され,滑膜肉腫の確定診断を得た.術後2年目の全身検索で胸壁への再発巣を認め,放射線治療および胸壁切除を行うも病勢制御困難で術後4年2ヵ月で原病死となった.肺原発滑膜肉腫は比較的稀な症例であり,文献的考察を加え報告する.
  • 三窪 将史, 内藤 雅仁, 小川 史洋, 松井 啓夫, 塩見 和, 佐藤 之俊
    2014 年 28 巻 4 号 p. 495-500
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    乳癌術前に多発胸膜病変を指摘され,胸腔鏡下生検で胸膜サルコイドーシスと診断した症例を報告する.症例は64歳女性.人間ドックで右乳房腫瘤を指摘され,当院を紹介された.針生検で浸潤性乳管癌と診断されたが,術前の胸部CTで両肺および胸膜の多発結節と肺門・縦隔リンパ節腫大を認めた.腫瘍マーカー,ACE, lysozymeなどは正常であった.サルコイドーシスの他,乳癌の胸膜播種,悪性リンパ腫なども否定できず,胸腔鏡検査を施行した.肉眼的には壁側・臓側胸膜,横隔膜に白色の表面不整な結節が散在しており,癌の播種が疑われたが,病理組織学的にこれらの結節および前縦隔リンパ節のいずれにも非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が認められ,サルコイドーシスの診断に至った.以後,経過観察のみで肺・胸膜結節,縦隔リンパ節は縮小,消失を認めている.胸膜サルコイドーシスは稀な疾患であり,文献的考察を加え報告する.
  • 山中 澄隆, 友安 浩, 坂本 穆彦
    2014 年 28 巻 4 号 p. 501-504
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    石綿肺は,石綿を大量に吸入することによって発生する職業性の疾患であり,石綿肺癌は石綿肺を背景として生じる肺癌である.今回我々は,長期生存を得ている,画像上石綿肺所見を示さなかった石綿肺癌の1切除例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例は,50年間の左官工の職業歴,並びに40年の喫煙歴がある65歳男性で,高血圧にて近医にて経過観察中に胸部X線写真にて胸部異常陰影を指摘された.胸部CTにて右肺下葉に直径3 cmのスリガラス様陰影を認め,横隔膜上に胸膜プラークの存在も指摘された.気管支鏡検査にて確定診断が得られず,CTガイド下針生検を施行したところ,乳頭状腺癌の診断を得たため,リンパ節郭清を伴う右肺下葉切除術を施行した.病理組織学的検査では肺線維化所見並びに石綿小体を認め,アスベスト関連肺癌と診断された.現在術後7年を経過しているが,再発等の所見は認められていない.
  • 川野 大悟
    2014 年 28 巻 4 号 p. 505-508
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の男性で,左肺癌疑いにて当院紹介受診された.術前の気管支鏡検査にて右上葉気管支及び左舌区支の分岐異常を認め,3D-CTにて肺動脈の走行異常も認めた.手術を施行したところ,上区・舌区間は完全過分葉を認め,上大区域切除術を施行した.病理組織検査の結果,Squamous cell carcinoma,pT1aN0M0,stage IAであった.手術後18ヵ月現在,明らかな再発は認めていない.気管支分岐異常の頻度は0.4~0.6%といわれている.その多くが右上葉気管支の転位性分岐異常であり,左舌区支の転位性分岐異常は非常に稀である.気管支分岐異常には肺動脈の走行異常が合併することが報告されている.術前の3D-CTにて肺動脈の走行異常を検索することが,より安全な術中操作につながると考えられた.
  • 塚田 博, 手塚 康裕, 光田 清佳, 金井 義彦, 手塚 憲志, 遠藤 俊輔
    2014 年 28 巻 4 号 p. 509-514
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    大量の腹腔内臓器の脱出を伴う遅発性外傷性右横隔膜ヘルニアに対し,ePTFEパッチによる広範囲の修復を行った症例を経験したので報告する.症例は65歳の男性.15年前に交通事故にて打撲の既往あり.最近,労作時息切れを生じ,当科紹介となり,CT上,右胸腔内への腹腔内臓器の大量脱出を認め,遅発性外傷性横隔膜ヘルニアと診断した.手術は第7肋間胸腹連続切開にて行った.右胸腔内に肝臓全体をはじめ,胆嚢,胃遠位部より十二指腸,回腸,横行結腸が脱出していた.横隔膜欠損部はePTFEパッチを用いて補填した.術後,低換気,麻痺性イレウス等により人工呼吸器管理を含む集中治療が必要であった.術前60%の%VCは,73%に改善した.逸脱臓器,ヘルニア門の大きさ等の術前診断上,CTにおける冠状断,矢状断のMPRが有用であった.また,長期の肺の虚脱を伴う遅発性ヘルニアでは,術後呼吸管理に留意する必要があると思われる.
  • 角岡 信男, 平山 杏, 稲沢 慶太郎
    2014 年 28 巻 4 号 p. 515-520
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性,前胸部絞扼感にて当院受診,胸部CTにて心臓を圧排する85×44 mmの腫瘤を前縦隔左側に認めた.胸部MRIではT1強調画像で高信号,T2強調画像で軽度高信号,脂肪抑制T2強調画像で低信号であり,前縦隔脂肪腫疑いにて胸腔鏡下にて前縦隔左側の腫瘍を摘出した.病変は被膜を有し周囲脂肪組織とともに全摘出した.術後病理ではatypical lipomatous tumor(well differentiated liposarcoma)であった.しかし半年後のフォローアップ胸部CTにて心臓前面から横隔膜にかけての前縦隔右側に新たな腫瘤影出現あり,胸部MRIでは左側病変と同様の所見であった.胸腔鏡下に周囲脂肪組織を十分に含めて前縦隔下部右側の腫瘍を摘出した.腫瘍は同様に被膜を有し前縦隔左側の脂肪組織とは連続性が見られず,病理でも前回同様の所見で,多中心性発生と考えられた.
  • 椎野 王久, 三ツ堀 隼弘, 坪井 正博, 乾 健二, 益田 宗孝
    2014 年 28 巻 4 号 p. 521-525
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は67歳女性.当院で2009年5月に右乳癌,同年6月に左乳癌に対し,それぞれ乳房部分切除術を施行,同年10月に甲状腺癌に対し甲状腺全摘術を施行した.2012年1月胸部CT上,左肺S8に1.5 cm大の結節影,左肺舌区先端に径6 cm大の壁不整を伴う嚢胞病変を認めた.6ヵ月後のCTで左肺S8の結節影の増大傾向を認めたため,転移性肺腫瘍を疑い胸腔鏡手術を施行した.左肺舌区末梢の嚢胞病変,および左肺S8の結節性病変に対し肺部分切除を行った.病理組織学的に左肺S8の腫瘍は甲状腺癌肺転移,左肺舌区の嚢胞は嚢胞壁に結節を認め,嚢胞性変化を伴う肺脂肪腫性過誤腫,lipomatous hamartomaと診断した.
  • 松浦 陽介, 中尾 将之, 上原 浩文, 文 敏景, 中川 健, 奥村 栄
    2014 年 28 巻 4 号 p. 526-531
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は35歳男性.咳嗽・胸部単純X線異常で当院を紹介受診した.気管支鏡下生検により,肺MALTリンパ腫と診断された.病巣は右上葉~中葉を中心に広範囲に認められたため,まず化学療法が施行された.化学療法終了後,CT所見上病巣は右上葉に限局したが,PET検査にて活動性病変が残存したため,切除の方針となった.開胸時胸腔内所見にて,臓側・壁側胸膜面に播種を疑わせる病変の多発が認められた.完全切除不能と判断されたが,腫瘍減量目的に右上・中葉切除術を行った.術後化学療法が施行され,寛解を得た.術後病理診断では,術中に播種と考えられた病変は,胸膜内リンパ管への腫瘍細胞の浸潤で,播種は否定的と診断された.MALTリンパ腫が胸膜病変を呈することは稀とされているが,その胸膜進展形式を形態的に観察し得た,興味深い症例と考えられたため報告した.
  • 吉村 誉史, 張 吉天, 大畑 恵資, 伊東 真哉, 松原 義人, 寺田 泰二
    2014 年 28 巻 4 号 p. 532-537
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    肺ヒストプラズマ症は国内ではまれな真菌感染症であるが,輸入真菌症としてその報告が近年散見されるようになっている.今回我々は,中米滞在後の帰国時健診で発見された肺ヒストプラズマ症の1手術例を経験したので報告する.症例は55歳,女性.海外ボランティアとして2年間ホンジュラスに滞在し,帰国時健診で胸部異常陰影を指摘され,当科を受診した.胸部CTでは左肺下葉胸膜に接して26 mm大の腫瘤を認めた.気管支鏡検査では診断に至らず,胸腔鏡下左肺下葉部分切除術を施行した.病理組織所見は,同心円性層状構造がみられる類円形腫瘤で凝固壊死組織からなっていた.Grocott染色では腫瘤中心部に卵円形真菌を認め,肺ヒストプラズマ症と診断した.
  • 三澤 賢治, 三島 修, 高橋 祐輔, 谷 鎮礼, 小野 靖, 北野 司久
    2014 年 28 巻 4 号 p. 538-541
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    当院では,肺癌術前の検査としてCT angiography(CTA)に加え,CT bronchography(CTB)を作成し,血管走行および気管支走行に異常やvariationがないかを確認している.今回,気管支分岐異常を伴う右上葉肺に肺癌を発症した2切除例を経験した.術前に血管および気管支の走行を確認しておくことは,安全な手術を行う上で必要不可欠であり,CTAに加えてCTBを作成することで,血管や気管支走行の立体的な認識が容易になり,走行異常やvariationを認識し易くなるものと考えた.
  • 岡本 圭伍, 片岡 瑛子, 元石 充, 澤井 聡, 花岡 淳
    2014 年 28 巻 4 号 p. 542-547
    発行日: 2014/05/15
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.健診で胸部異常陰影を指摘され精査目的に当科を受診した.CT検査で縦隔腫瘍陰影を認め,病変は前上縦隔から心横隔膜角まで,左右方向は心嚢に沿って両側肺門部まで存在していた.経過観察中に,陰影の増大と,安静時胸痛および前胸部絞扼感が出現したため,初診より15ヵ月後に診断,治療目的に手術を施行した.胸骨縦切開で開胸すると,胸腺および周囲脂肪組織内に多房性嚢胞を広範囲に認め,嚢胞内には淡黄色の漿液性液体が充満していた.周辺臓器への浸潤はなく,両側胸腔鏡補助下に腫瘍を切除した.免疫染色検査でリンパ管内皮マーカーのD2-40が陽性であり,肉眼的所見と合わせ嚢胞性リンパ管腫と診断した.胸腺,周囲脂肪組織内の広範囲にわたって嚢胞性リンパ管腫を認め,腫瘍の進展形式とともに極めて稀な症例であると考えられた.
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