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—リスク分類に応じた抗凝固療法—
羽田 裕司, 棚橋 雅幸, 森山 悟, 鈴木 恵理子, 吉井 直子, 西田 勉, 田中 宏紀, 丹羽 宏
2010 年24 巻2 号 p.
127-133
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
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【背景】肺血栓塞栓症,脳梗塞などの血栓症発症リスクの高い肺癌手術症例が増加している.【対象と方法】術後血栓症発症予防のため,肺癌に対する肺切除208例を評価群とし,術前のリスク評価に応じて周術期抗凝固療法を行った.直前同期間に施行した肺切除155例を対照群とした.【結果】評価群208例中28例に周術期抗凝固療法を行った.術中から抗凝固療法を施行したのは7例(未分画ヘパリン(UFH)2例,低分子量ヘパリン(LMWH)5例)で,残る21例は術直後から低用量未分画ヘパリン(LDUH)を用いた.対照群に3例(2%)の血栓症発症を認めていたが,評価群には認めず,発症率は有意に低下した(p=0.04).術中出血量は,UFH投与では平均よりも増加したが,LMWH投与では抗凝固療法非施行例と同程度であった.【結論】リスク分類に基づく抗凝固療法は血栓予防効果が高く,安全で,術中からの投与にはLMWHが,術直後からの投与にはLDUHが推奨される.
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木村 亨, 船越 康信, 竹内 幸康, 楠本 英則, 前田 元
2010 年24 巻2 号 p.
134-139
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
2001~2008年までの8年間に当科で外科的治療を施行した胸囲結核症例13例についてretrospectiveに臨床的検討を行った.術前の結核診断は,膿汁からの結核菌の塗抹・培養検査陽性が7例(54%),核酸増幅検査(PCR)のみ陽性が3例(23%),未診断が3例(23%)であった.術式は掻爬・開放した後2期的に筋弁充填を施行したものが2例,膿瘍切除または掻爬を施行したものが10例,ドレナージのみが1例であった.13例中9例に腐骨(肋骨または胸骨)の合併切除を施行した.2期的手術症例を含む7例に筋弁充填を施行した.結核化学療法(3剤または4剤併用)を術前は11例に2週間以上,術後は全例に3剤併用療法を6ヵ月以上施行した.平均観察期間22.3ヵ月において,10例(75%)が再発・再燃なく経過した.再発予防には膿瘍切除および腐骨切除等の充分な切除と術前2週間以上・術後6ヵ月以上の3剤併用化学療法が再発予防に重要である.
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大角 明宏, 野間 恵之, 橋本 新一郎, 大角 潔, 長澤 みゆき, 神頭 徹
2010 年24 巻2 号 p.
140-145
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
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原発性肺癌に対する肺葉切除およびリンパ節郭清施行後に,5例において一過性の肺陰影の出現を認めた.いずれの症例も術後2週間以内に,胸部単純写真上,術側に間質性陰影の出現を認めた.胸部CTでも,術側のみに背側および横隔膜上を中心に分布する広義間質の肥厚像を認めた.うち1例に対して体位変換を伴うCT撮影を行ったところ,陰影が重力に伴い移動したこと等より,リンパ節郭清による一時的なリンパ流のうっ滞による肺リンパ浮腫と考えた.5例とも呼吸器症状は乏しく,約2~5ヵ月の経過観察で陰影は消失した.リンパ節郭清後に肺リンパ浮腫による一過性の間質性陰影を呈し,無治療で軽快しうる症例が存在すると考えられた.
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—自験例の胸膜中皮腫との比較検討—
西 英行, 鷲尾 一浩, 間野 正之, 清水 信義
2010 年24 巻2 号 p.
146-150
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
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目的:悪性腹膜中皮腫の臨床像を胸膜中皮腫と比較し明らかにする.対象:1993~2009年3月までに診断・治療した悪性腹膜中皮腫12例と胸膜中皮腫96例を対象とした.結果:悪性腹膜中皮腫は,胸膜中皮腫と比較して,女性の比率が高く,上皮型が多く,治療は化学療法が中心であった.職業歴,石綿肺や胸膜プラークの合併より石綿ばく露の強い関与が窺われ,胸膜中皮腫と比較しても,短期間に高濃度のばく露例が多かった.予後は,悪性腹膜中皮腫および胸膜中皮腫の生存期間中央値は12.0ヵ月であり,同等に予後不良の疾患であった.結語:悪性腹膜中皮腫は女性が多く,上皮型が主であった.石綿ばく露が強く関与しており,石綿ばく露歴,腹水貯留がある場合には鑑別疾患のひとつと考えられた.治療に関しては,解剖学的に根治手術は困難であり,各種治療法の組み合わせによる,治療法の確立を急ぐ必要があると考えられた.
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術前・術中診断の困難さについて
高橋 守, 奥村 典仁, 大畑 惠資, 山科 明彦, 中野 淳, 松岡 智章, 亀山 耕太郎
2010 年24 巻2 号 p.
151-155
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
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肺硬化性血管腫9例の臨床・病理像を検討した.症例は男性1例,女性8例で手術時の平均年齢は61.8歳であった.胸部CT所見では8例が単発の結節影を呈し,1例は腫瘤影および無気肺像を呈していた.術前CTでの腫瘍径は8~45mmで平均は17mmであった.6例に対して経気管支生検での組織診断を試みた.組織診断がついたのは1例のみで,原発性肺癌(腺癌)の診断であった.全9例の術前画像診断は肺良性腫瘍6例,原発性肺癌2例,転移性肺腫瘍1例であった.術前未診断であった8例に対して術中迅速組織診断を行った.肺硬化性血管腫と診断されたのは4例で,正診率は50%であった.迅速診断では,乳頭状増生のみを認めた場合には腺癌と診断される傾向にあった.術後全例で再発を認めなかった.肺硬化性血管腫の術前・術中診断は困難であり,永久病理診断で免疫染色も加えた詳細な検討が必要となる.
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濱武 大輔, 宮原 聡, 吉田 康浩, 濱中 和嘉子, 加藤 文章, 柳澤 純, 白石 武史, 岩崎 昭憲
2010 年24 巻2 号 p.
156-161
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
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肺癌の中で稀な組織形態を示し予後不良とされる肺原発多形癌について手術成績を解析し臨床的意義を明らかにした.対象と方法:1999年1月から2008年12月までに当科で根治手術を施行した肺原発多形癌25例を検討した.結果:男性22例,女性3例で平均年齢は64.5歳であった.腫瘍径の平均は51.3mmであり,特に50mmを越えるものは44%を占め径の大きなものが多かった.腫瘍占拠部位は右上葉(56%)が最も多く,次は左上葉(28%)で上葉発生がほとんどであった.術式は肺葉切除術が22例,その他3例であった.病理病期はp I A期3例,p I B期10例,p II B期6例,p III A期2例,p III B期4例であった.治療成績は3年生存率が63.3%,5年生存率は43.6%であった.結語:多形癌は予後不良とされているが,リンパ節転移を伴わない症例は手術により良好な予後を得ることができると考えられた.
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鹿田 康紀, 斉藤 元吉, 金子 聡
2010 年24 巻2 号 p.
162-165
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
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74才男性.2007年9月に直腸癌に対し腹会陰式直腸切断術施行.全身精査目的に施行した胸部CTにて右肺上葉S2に径10mmの小結節影を認めた.気管支鏡下に行った擦過細胞診の結果はClass IVで,直腸癌肺転移もしくは原発性肺癌が疑われ手術目的に当科紹介入院となった.2007年12月に胸腔鏡補助下右肺上葉切除術+リンパ節郭清術を行った.病理組織学的には高度のリンパ球・形質細胞浸潤を伴う大型異型細胞の充実性増殖を認めており,リンパ上皮腫様癌の診断となった.EBVとの関連は腫瘍組織のin situ hybridizationを行ったが陰性で,EBV感染の関与は否定的であった.術後1年6ヵ月経過し無再発にて生存している.リンパ上皮腫様癌は本邦での報告例は少なく,稀な疾患であると考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告した.
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河北 直也, 滝沢 宏光, 鳥羽 博明, 監崎 孝一郎, 先山 正二, 近藤 和也
2010 年24 巻2 号 p.
166-169
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
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症例は57歳,女性.右上葉肺腺癌に対して右上葉切除術+ND2aを施行し病理病期IAであった.術後13ヵ月目に脳転移を認め,放射線および手術療法を施行した.原発巣,脳転移巣ともにEGFR遺伝子変異はExon 21にL858Rを認めた.術後62ヵ月目にPET/CTで左S
6に12mm大のFDG集積を伴う結節影を認め,肺転移と診断し64ヵ月目よりgefitinib(250mg/日)投与を開始した.68ヵ月目のCTで8mmまで縮小したが,その後は縮小傾向が認められず獲得耐性の可能性が考えられた.他に新たな病巣の出現を認めず,脳転移巣もコントロールされていたため,70ヵ月目に左S
6部分切除術を施行した.肺転移巣のEGFR遺伝子にはgefitinib耐性遺伝子変異であるT790Mを認めた.肺転移手術後12ヵ月経過したが新たな病巣の出現もなく生存中である.
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—本邦報告例を含めて—
飯島 慶仁, 山岸 茂樹, 揖斐 孝之, 岡田 大輔, 小泉 潔, 清水 一雄
2010 年24 巻2 号 p.
170-174
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
肺切除術後の肺血栓塞栓症(Pulmonary thromboembolism;PTE)は呼吸器外科術後合併症において,致死的な経過をたどることの多い極めて重篤な合併症である.今回我々は,10年前に左肺扁平上皮癌に対し左上葉切除術,縦隔リンパ節郭清術の既往のある,69歳の男性に対し,残肺全摘術,リンパ節郭清術を施行した.術後第10病日に突然PTEを発症したが,全身管理の末救命し得たので,文献的考察を踏まえ報告する.
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小林 敬祐, 後藤 行延, 石川 成美, 鬼塚 正孝, 南 優子, 野口 雅之
2010 年24 巻2 号 p.
175-180
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
症例は49歳女性.胸部CTにて左肺上葉のすりガラス陰影を指摘され,以後8年間定期的に経過観察中,2年前より緩徐に増大する前縦隔腫瘍を認めた.腫瘤は上行大動脈腹側に33×25×60mmで比較的均一な増強効果を示す腫瘤陰影として認め,MRIでは同部位にT1強調で中間信号,T2強調で低信号を呈し,Gd造影にて比較的よく染まる軟部腫瘤を認めた.表在リンパ節は触知せず,LDHおよび可溶性IL-2レセプターの上昇は認めなかった.画像上全身に他病変はなく,胸腺腫を疑い,胸骨正中切開にて腫瘤を含む胸腺摘除術を施行した.病理組織学的診断はanaplastic large cell lymphoma(ALCL;未分化大細胞型リンパ腫)であった.高悪性度群であるALK陰性ALCLであったが,病変は縦隔のみで,術前2年間無症状で緩徐に進行した稀な症例であり,放射線化学療法が施行され,現在まで術後6ヵ月無再発生存中である.
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上野 克仁, 室田 欣宏, 漆山 博和, 山田 嘉仁, 山口 哲生, 竹内 靖博
2010 年24 巻2 号 p.
181-186
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
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胸腺非定型カルチノイドの切除を契機に合併が確認された多発性内分泌腺腫症(MEN)1型の稀な1症例を経験した.症例:2型糖尿病を合併した40歳男性.健診発見の前縦隔腫瘍.重症筋無力症の合併なし.画像検査上悪性を示唆する所見は認めなかった.肉眼上も胸腺右葉の被包化された腫瘤であり,迅速診断でも胸腺カルチノイドまたはtype A胸腺腫とされたため,胸腔鏡下腫瘍切除術を施行した.病理組織検査では被膜外浸潤を伴う胸腺非定型的カルチノイドと確定され,後日胸骨正中切開による拡大胸腺全摘術と術後放射線治療を追加した.術前より存在した高カルシウム血症の精査にて,intact-PTH,プロラクチン,成長ホルモン,ガストリンの高値を,画像検査で副甲状腺腺腫,膵尾部腫瘍を認め,MEN1型と診断した.副甲状腺腺腫に対しては副甲状腺全摘術を施行.膵尾部腫瘍は経過観察中である.胸腺術後19ヵ月経過し再発の徴候はない.
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苅田 真, 武井 秀史, 松脇 りえ, 増井 一夫, 輿石 義彦, 呉屋 朝幸
2010 年24 巻2 号 p.
187-190
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
症例はアスベスト曝露歴のない55歳の女性.人間ドックでCTを撮影したところ右肺尖部に腫瘤影を指摘され肺癌の疑いで当科を紹介された.術中針生検で採取した標本は虚脱した肺組織であったが,確定診断のため右S1区域切除を施行した.永久標本では肺組織の虚脱と間質への炎症細胞浸潤を認め,胸膜が肥厚し一部に硝子化を認めたため円形無気肺と診断した.文献的に上葉の円形無気肺は極めてまれであり,診断に苦慮した1例を経験したので報告した.
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大角 潔, 濱路 政嗣, 大角 明宏, 田中 亨
2010 年24 巻2 号 p.
191-194
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
症例は63歳,男性.右肺癌術後の右胸腔頂部死腔の胸膜肥厚および内部に不整形の腫瘤形成がみられ,アスペルギルス抗体陽性であったことからアスペルギローマと診断した.抗真菌剤の投与を行ったが改善なく,胸腔鏡下菌球除去術を施行した.胸腔内容物から
Pseudomonas aeruginosaの菌塊を検出し,緑膿菌膿胸と診断した.術後,発熱が遷延したため抗生剤点滴投与のみでは感染のコントロールが不十分と判断し開窓術を施行し,外来経過観察中である.我々が検索した範囲内では肺内空洞および胸腔内に緑膿菌による菌塊形成を認めた症例は認めず,稀な症例と思われる.
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前田 愛, 清水 克彦, 湯川 拓郎, 平見 有二, 中田 昌男
2010 年24 巻2 号 p.
195-199
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
迷入性甲状腺腫は前縦隔腫瘍のなかでも稀な疾患である.今回我々は迷入性甲状腺腫の1例を経験したので報告する.症例は58歳の女性.検診の胸部レントゲンで胸部異常陰影を指摘された.CTでは頸部から前縦隔にかけて連続する巨大な前縦隔腫瘤と左肺に結節を認め当院に紹介となった.前縦隔腫瘍に対してCTガイド下針生検を施行した結果,腺腫性甲状腺腫で悪性所見は見られなかった.自覚症状は有さなかったが,腫瘍は大きく,気管支偏位を伴っていることから,前縦隔腫瘍摘出術を施行した.前縦隔腫瘍は頸部への連続はなく,容易に切除できた.病理検査の結果,前縦隔腫瘍は迷入性甲状腺腫と診断された.縦隔内甲状腺腫は比較的まれな疾患とされるが,なかでも甲状腺と連続性のない迷入性甲状腺腫は極めて稀であり興味深い症例と考えられた.文献的考察を含めて報告する.
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小林 成紀, 杉 和郎, 田尾 裕之, 松田 英祐, 岡部 和倫, 村上 知之
2010 年24 巻2 号 p.
200-205
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
急激に増大する悪性腫瘍に伴う強度の気管狭窄に対して,救命的にbare Expandable Metallic Stentを留置し,引き続いて行った根治的放射線治療が奏効し完治した患者が,治療後6年目にEMSに由来する大きな気管食道瘻を発症し,その気管食道瘻の治療に難渋した症例を経験したので,ステント治療に関連した考察を含め報告する.
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竹内 真吾, 平井 恭二, 川島 徹生, 小泉 潔, 別所 竜蔵, 清水 一雄
2010 年24 巻2 号 p.
206-209
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
症例は40歳男性.10年前に他院で未熟型奇形腫摘出術を施行し,経過観察中に再び前縦隔腫瘍を認めた.奇形腫の再発と考え胸骨正中左L字開胸にて摘出術を行った.腫瘍は頸部主要血管を取り巻くように存在していたが完全切除可能であった.切除後の病理組織学的所見で海綿状血管腫と診断された.
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橋本 昌和, 則行 敏生, 黒田 義則, 倉西 文仁, 加藤 清美, 米原 修治
2010 年24 巻2 号 p.
210-215
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
術後早期に再発をきたした肺多形癌を経験したので報告する.51歳女性,血痰を認め,近医受診した.胸部CTにて,右肺下葉に境界明瞭な腫瘤を認めた.血液・生化学所見では異常を認めなかった.2006年12月,右下葉切除術,縦隔リンパ節郭清を施行した.病理組織学所見では短紡錘形の腫瘍細胞と多核巨細胞が混在する像よりなり,一部で腺管状腺癌を認めた.気管支分岐部にリンパ節転移を認め,Stage III A(T2N2M0)であった.30日後,全身に多発転移を認め,90日目に原病死となった.国内報告例の検討からも本症例のように多形癌には極めて予後不良な一群が存在すると考えられた.
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坪島 顕司, 岸本 晃司, 織田 禎二
2010 年24 巻2 号 p.
216-219
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
肺ヘルニアは稀な疾患で術後や外傷後の肋間肺ヘルニアが報告されているが,胸骨正中切開創哆開部への肺ヘルニア(胸骨間肺ヘルニア)はこれまで報告がない.今回我々は縦隔炎ドレナージ術後に発症した胸骨間肺ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は76歳の男性.2005年12月に弓部大動脈瘤に対し人工血管置換術を施行された.その後,縦隔炎を発症し2回debridementを施行されたが,2006年2月に発熱,炎症反応増悪を認めるため胸部CTを施行したところ,胸骨間肺ヘルニア,皮下気腫を指摘された.保存的治療を試みたが血痰出現,皮下気腫増大するため当科に紹介され緊急手術となった.胸骨間に右肺中葉が嵌頓しており,胸膜損傷部よりair leakageを認めた.損傷部を含める形で中葉部分切除術を行った.また胸骨間のスペースには両側大胸筋皮弁を充填した.術後経過は良好で1ヵ月後に退院となったが,その2ヵ月後に縦隔炎が再発し敗血症にて永眠された.
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加藤 博久, 大泉 弘幸, 金内 直樹, 遠藤 誠, 深谷 建, 貞弘 光章
2010 年24 巻2 号 p.
220-224
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
乳糜胸は稀な疾患ではあるが心大血管手術後の重篤な合併症である.われわれは大血管術後の乳糜胸に対し胸腔鏡下胸管結紮術を行い軽快した症例を報告する.患者は70歳,男性.胸部下行大動脈瘤の人工血管置換術後,左胸水排液量が多く,第3病日には右側胸水貯留を認めたため右胸腔ドレナージを追加し,第6病日に両側乳糜胸の診断となった.左側は癒着療法で軽快したが,右側は第22病日まで持続的ドレナージを余儀なくされ,その後胸腔鏡下胸管結紮術を施行した.右側胸腔よりアプローチ,第11胸椎レベルの肥厚した胸膜を切開し奇静脈と大動脈の間に胸管を同定し結紮した.乳糜漏は軽快した.心大血管術後の乳糜胸に対する右胸腔鏡下胸管結紮術は安全で有用な術式と考えられた.
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上野 正克, 薄田 勝男, 佐川 元保, 田中 良, 相川 広一, 佐久間 勉
2010 年24 巻2 号 p.
225-228
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
フリー
症例は71歳の女性.1994年に右副咽頭間隙腫瘍に対し腫瘍摘出術を施行され,術後に化学療法および放射線療法が施行された.2004年時の胸部エックス線写真にて右中肺野に直径約4cmの腫瘤影を認め,2007年には直径約6cmにまで増大したため腫瘍摘出術を施行した.病理では類円形~紡錘形を示す異型の強い腫瘍細胞を認め,CD34免疫染色は陽性であることより悪性孤発性線維性腫瘍と診断した.以前に切除した右副咽頭間隙腫瘍を病理組織学的に再検討すると,同様の組織所見を呈していたことから,今回切除した腫瘍は転移と考えた.また,同時に右副腎の腫瘤も認め,摘出術を施行したところ,同様の組織型であった.SFTは一般的に良性腫瘍と考えられているが,本例のように悪性所見を呈し遠隔転移を来たしうるものがある.しかも腫瘍の増大速度は遅く,発見までの長期間を要することがあるため,長期にわたる慎重な経過観察をすべきである.
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長澤 綾子, 土田 正則, 橋本 毅久, 篠原 博彦, 林 純一
2010 年24 巻2 号 p.
229-235
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
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閉塞性換気障害を有する肺門型扁平上皮癌3症例に対して,気管支形成を伴う区域切除を行った.全例男性で年齢は66~72歳.術前1秒量(1秒率)は各々1,070ml(37.8%),1,020ml(41.0%),1,240ml(51.2%)で,標準手術では術後予測1秒量が700ml/m
2以下と予測されたため呼吸機能温存を目的として縮小手術を選択した.右下葉B
6病変には気管支形成を伴うS
6区域切除を,左上区病変には上区管状区域切除を,左B
1+2病変には左S
1+2管状区域切除を行った.術後病期は各々I B,II B,I Aで,予後は術後81ヵ月,50ヵ月非担癌生存,36ヵ月他病死で局所再発はなかった.
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宮原 佐弥, 杉山 茂樹, 中 佳一, 土岐 善紀, 仙田 一貴, 峠 正義
2010 年24 巻2 号 p.
236-241
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
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症例:57歳,女性.CTにて左横隔膜上に4cm大の腫瘤影が指摘され,血清CA19-9の高値を伴ったため,2008年2月に当科に紹介され受診した.腫瘍はFDG-PETで内部に集積を認めた.胸腔鏡下腫瘍摘出術を行い,術中腫瘍に流入する異常血管を認めたため肺葉外肺分画症と診断し切除した.術後,血清CA19-9値は減少した.結論:CA19-9高値を示した肺葉外肺分画症の一例を経験した.
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湯川 拓郎, 清水 克彦, 平見 有二, 前田 愛, 中田 昌男
2010 年24 巻2 号 p.
242-246
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
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症例は70歳代男性.1ヵ月前から前胸部の膨隆を認め,疼痛を伴うため近医受診.胸骨腫瘍を疑われ精査加療目的にて当院紹介受診となった.胸部CTにて胸骨柄部に6×6cm大の腫瘤を認め,骨の破壊像を伴っていた.PETでは腫瘤に一致してFDGの異常集積を認めた.胸骨原発の悪性腫瘍を考え,外科的治療を施行した.両側第1・第2肋軟骨切離,第2肋間レベルで胸骨横切,鎖骨は温存し胸骨柄を切除した.胸壁欠損は11×10cmとなり,メッシュと大胸筋弁を用いて胸壁再建を行った.術後は特記すべき合併症なく経過し,術後21日目に独歩退院となった.摘出標本の組織学的検査では胸骨骨髄に形質細胞様の腫瘍細胞の増殖がみられ,免疫染色で腫瘍細胞はCD79a陽性,CD38,CD138一部陽性,IgA一部弱陽性であり形質細胞腫と診断された.孤立性形質細胞腫は比較的稀な疾患であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
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日野 佑美, 山下 芳典, 向田 秀則, 多幾山 渉
2010 年24 巻2 号 p.
247-250
発行日: 2010/03/15
公開日: 2010/08/09
ジャーナル
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完全内臓逆位に合併した肺癌に対する胸腔鏡下切除術を経験したので報告する.症例は58歳男性.検診の胸部X線で左上肺野に異常陰影を指摘された.胸腹部CTで胸腹部内臓の完全逆位を認めており,さらに左肺上葉に2cm大の結節影を認めた.手術は腫瘍を胸腔鏡下に部分切除を行い,迅速病理検査で腺癌と診断されたため完全胸腔鏡下に左上葉切除を施行した.左肺は上中下葉の3葉に分葉し,肺動静脈は正常の鏡像を呈しており,その切除手技は通常の右肺上葉切除術の手順とまったくの鏡像での手順となった.
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