日本呼吸器外科学会雑誌
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37 巻, 5 号
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巻頭言
症例
  • 滝 雄史, 山本 真一, 坪地 宏嘉, 遠藤 俊輔
    2023 年 37 巻 5 号 p. 420-425
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    症例は80歳代男性.頸部痛と発熱を主訴に前医を受診し,CTで第1-2胸椎の両側に液体貯留が認められた.また,MRIのShort TI inversion recovery(STIR)画像とT2強調画像で,第1-2及び第2-3胸椎の間の椎間板の高信号が認められたほか,STIR画像で第一胸椎に高信号を認めた.血液培養でMethicillin susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)が検出された.菌血症,胸椎化膿性脊椎炎とそれに起因する上縦隔膿瘍と診断した.抗菌薬投与で改善なく,発症後14日目に縦隔膿瘍に対し両側胸腔鏡下ドレナージ術を施行した.術後も抗菌薬投与を継続し炎症反応の改善がみられ,術後55日目に合併症無く転院した.

    化膿性脊椎炎は四肢麻痺など重篤な合併症を引き起こすことがあるため,傍脊椎の縦隔膿瘍が認められた場合には,その背景に化膿性脊椎炎が存在する可能性に留意する必要がある.CTでは化膿性脊椎炎の所見が明らかではないことがあるため,傍脊柱に膿瘍形成がある場合にはMRIによる化膿性脊椎炎の確認が望ましい.

  • 諸星 直輝, 川原 洋一郎, 田尾 嘉浩, 林 浩三, 細川 誉至雄
    2023 年 37 巻 5 号 p. 426-431
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    63歳男性.3年前に多発脳転移や右副腎転移を伴う右下葉肺腺癌の診断で,脳腫瘍摘出術,全脳照射の後,pembrolizumab療法を開始した.1コース目に右上葉肺炎を発症し治療後に不整形のすりガラス陰影が残存した.9コース後,原発巣は0.6 cmへ縮小し転移巣は消失した.48コース後,右上葉肺炎後に残存したすりガラス陰影が急速に増大し,経気管支生検で右下葉肺癌と形態の異なる腺癌の所見が得られ,第二癌を疑った.右下葉肺癌に関しては免疫療法により部分奏効を維持しており,長期生存が得られる可能性を追求して右上葉肺癌に対し手術を施行した.初診時に腫大していた#12Lリンパ節が瘢痕様となり右上葉および肺動脈に固着し剥離困難で,肺動脈に沿って同リンパ節を横断して右上葉を摘出した.5日目に一過性心房細動を認めたがその他の合併症は認めず10日目に退院した.病理結果で右上葉肺腺癌ypT1cN1MXと診断した.

  • 三股 頌平, 上田 雄一郎, 白石 武史, 佐藤 寿彦
    2023 年 37 巻 5 号 p. 432-436
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    症例は53歳男性.1ヵ月間持続する背部痛の増強を主訴に前医に受診し,造影CTで3.5 cm大の奇静脈瘤と大量の右胸水貯留を認め,奇静脈瘤破裂と診断された.手術目的に同日当院に転院搬送され,緊急で奇静脈瘤切除術を施行した.奇静脈瘤の壁は菲薄化しており,肺の展開にて噴出性に出血した.止血困難であったため,開胸手術にて奇静脈瘤を切除した.術後経過は良好であり,術後8日目に自宅退院となった.奇静脈瘤は非常に稀であり明確な手術適応基準は定まっていない.血栓を合併した報告はあるものの,破裂した症例報告はない.破裂のリスクとして静脈瘤が増大傾向であること,形態が囊状であること,結合織疾患の既往があることが指摘されており,本症例は囊状の形態が破裂リスクであった.いったん破裂すると止血に難渋する可能性があることから,たとえ血栓や出血がなくても発見時に積極的な手術を検討すべきと考える.

  • 鈴木 仁之, 伊藤 大介, 庄村 心, 井上 健太郎, 島本 亮
    2023 年 37 巻 5 号 p. 437-441
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    今回我々は異所性心囊内甲状腺腫の1手術例を経験したので報告する.症例は76歳女性.腹痛精査中の胸部CT検査で,縦隔腫瘍を指摘されたため当院紹介となった.胸部CT検査では,上行大動脈基部前面に隣接する2.5 cm大の充実性腫瘍を認めたため,診断および治療目的で手術を施行した.当初ロボット支援下に右胸腔からアプローチして心膜を切開したが,腫瘍は大動脈壁に広く浸潤している可能性が示唆されたため,胸骨正中切開で腫瘍を摘出した.心膜との癒着は認めず,腫瘍左端に被膜が確認できたため,上行大動脈の外膜を損傷することなく腫瘍を摘出できた.病理診断は被包化された腺腫様甲状腺腫であった.

  • 飯村 泰昭, 高桑 佑佳, 井上 玲
    2023 年 37 巻 5 号 p. 442-447
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    部分肺静脈還流異常は肺静脈の体循環への還流異常と定義される先天異常である.また,気管気管支は気管支が気管分岐部より中枢で直接分岐する気管支分岐異常の1つである.それらを合併した肺癌症例に単孔式胸腔鏡手術を施行した1例を経験したので報告する.

    症例は68歳,女性.近医で施行されたCTで増大傾向にある右上葉肺結節を指摘され,紹介となった.胸部造影CT右肺上葉S3末梢に1.6 cmの部分充実型の結節を認め,V1からV3は上大静脈に還流していた.右B1気管支は気管に転位しており,右主気管支からB2とB3が分岐していた.右上葉肺癌疑いの診断で単孔式胸腔鏡下右上葉切除を行った.

    気管気管支に部分肺静脈還流異常を合併した症例はまれである.気管気管支には部分肺静脈還流異常以外の血管走行異常の合併も報告されている.気管気管支は比較的発見しやすいため,気管気管支を認めた場合には血管走行異常の有無を確認しておくことが重要である.

  • 石川 真仁, 溝口 敬基, 岩井 俊, 飯島 慶仁, 本野 望, 浦本 秀隆
    2023 年 37 巻 5 号 p. 448-454
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性.32歳時に子宮内膜癌に対して子宮全摘術が施行されている.その36年後に子宮内膜癌の転移性肺腫瘍として右肺部分切除術を施行された.さらに4年後に背部痛を訴え,CTで左胸壁背側の第9から11肋骨の位置に腫瘤性病変を指摘された.病変と第10から12肋骨を一塊に切除し,病理検査で子宮内膜癌の転移と診断された.子宮内膜癌の胸壁転移は1%程度で,術後3年以内の再発が大半を占めると報告されているが,本症例は原発巣切除から36年後に肺転移が,その4年後に胸壁転移が指摘されており,検索した範囲で最長の晩期再発例と考えられた.

  • 渡邊 敦子, 白鳥 琢也, 岡本 圭伍, 片岡 瑛子, 大塩 恭彦, 花岡 淳
    2023 年 37 巻 5 号 p. 455-460
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.他疾患治療時に撮像された胸部CTで前縦隔結節を指摘,胸部MRIで胸腺上皮系腫瘍が疑われたため紹介となった.造影CTで左腕頭静脈の低形成および副半奇静脈へ流入する側副血行路を認めた.手術は右胸腔アプローチで胸腔鏡下胸腺腫・胸腺右葉摘出術を施行した.術中所見では,解剖学的に左腕頭静脈を観察できる胸腺左葉頭側の剥離時には,細い径の左腕頭静脈とそれに伴走する細い血管が多数認められた.これらを温存しながら胸腺静脈を切離し,胸腺を摘出した.術後病理検査ではB2型胸腺腫で正岡分類I期であった.術後経過は良好で,第5病日に退院となった.心疾患を合併しない成人例での左腕頭静脈の低形成は極めて稀である.左腕頭静脈の低形成例では,胸腺剥離時の損傷や胸腺静脈との誤認の可能性もあり,注意を要する.本症例は術前造影CTで血管の走行異常を把握することで,安全に腫瘍切除を施行することができた.

  • 小島 史嗣, 難波 俊文, 森 信好, 鹿股 直樹, 板東 徹
    2023 年 37 巻 5 号 p. 461-465
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    症例は40代の白人男性.X-7年,両側ニューモシスチス肺炎を契機に後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome,AIDS)と診断された.治療経過良好であったが,X年5月,初発の左気胸を生じ当科を受診した.胸腔ドレナージを行ったが,肺の完全な再膨張が得られず,X年7月に手術を行った.術中所見では,肺尖部の囊胞から少し離れた位置の気漏と,臓側胸膜・壁側胸膜全体に散在する微小結節を認めた.結節の細菌培養検査ではAchromobacter Sp.が陽性となった.病理組織診では,結節の表層は中皮細胞で覆われ,内部には炎症細胞浸潤や線維芽細胞の増生がみられた.ニューモシスチス肺炎に関連した気胸は,急性期に重症化することが知られているが,遠隔期に治療経過良好なAIDSを背景とし,アクロモバクター属の日和見感染との関連が示唆された症例は稀と考え報告する.

  • 桑原 博昭, 植田 隆太, 木内 静香, 鈴木 昭
    2023 年 37 巻 5 号 p. 466-471
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    後縦隔に発生するミュラー管囊胞は良性の疾患で非侵襲的手術のよい適応と考えられる.我々は単孔式胸腔鏡手術で摘出した後縦隔ミュラー管囊胞を経験した.症例は36歳の女性.Body Mass Indexは39.2であった.背部痛があり近医を受診した.精査では背部痛の原因となる明らかな病変は認めなかったが,左後縦隔に囊胞性病変を認め当科紹介となった.囊胞性病変は第7胸椎と下行大動脈に接して存在した.当院での経験から神経原性腫瘍や胸腔内髄膜瘤などを疑い,単孔式胸腔鏡手術で切除を行った.病変は薄い被膜に覆われた囊胞性病変で神経や椎間孔の関与は認めなかった.免疫学的病理結果からミュラー管囊胞との診断となった.

  • 並木 賢二, 丸井 努, 山本 裕崇, 白橋 幸洋, 岩田 尚
    2023 年 37 巻 5 号 p. 472-478
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    神経鞘腫は胸腺腫,奇形腫についで高頻度に見られる縦隔腫瘍であり,後縦隔に発生することが多い.また,腫瘍は交感神経,あるいは肋間神経より発生することが多く,横隔神経から発生した神経鞘腫は稀である.症例は40歳代女性.2021年のCT健診で4 cm大の縦隔腫瘤を指摘されたため手術目的で当科へ紹介となった.2017年からのCT健診では経時的に腫瘤の増大を認めた.胸部MRIではT1強調画像で低信号,T2強調画像では辺縁が高信号,内部は不均一な低信号であった.PET-CTでは局所的にFDGの集積(SUV MAX 3.95)を認めた.これらの画像検査から胸腺腫疑いとして,ロボット支援下胸腺胸腺腫摘出術を施行した.悪性腫瘍の左横隔神経への浸潤も否定できず,合併切除した.迅速病理では神経鞘腫の診断であった.術後経過は良好で6PODに退院となった.稀な横隔神経発症の神経鞘腫の手術例を経験したので文献的考察を交えて報告する.

  • 宮田 剛彰, 比嘉 花絵, 吉松 隆, 小山 倫浩
    2023 年 37 巻 5 号 p. 479-485
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    78歳,女性.転倒した際に左前腕擦過傷,後頚部痛,前胸部痛を生じ,前医を受診した.左前腕蜂窩織炎,第2/3胸椎辷り症,さらに,methicillin-susceptible Staphylococcus aureus感染での前胸部膿瘍・胸骨体部骨折および骨髄炎・縦隔炎,右膿胸の診断となった.当院転院となり,胸骨体部切除および胸腔鏡下膿胸腔掻爬術を施行した.術後正中創部に周期的持続灌流併用陰圧閉鎖療法(negative-pressure wound therapy with instillation and dwelling:NPWTid)を行い,2期的に有茎肋骨付き広背筋弁で胸壁再建を施行した.第39病日,自宅退院となった.胸骨骨髄炎・縦隔炎に対してNPWTidと有茎肋骨付き広背筋弁での再建術が有用であったため報告する.

  • 豊原 功侍, 武田 翔, 佐藤 澄, 桑原 宏子, 花岡 伸治, 勝間田 敬弘
    2023 年 37 巻 5 号 p. 486-492
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    2022年7月時点で新型コロナウイルス感染者数は我が国において累計約1000万人以上となった.感染者が多数いる中,治療後の後遺症が問題となっている.感染後の回復期間は一様ではない中,我々は重症COVID-19肺炎後の原発性肺癌に対して消極的縮小手術を行った1例を経験した.症例は71歳男性,発熱を契機に新型コロナウイルス感染が判明し,呼吸状態の増悪傾向を認めたため加療目的に当院に入院となった.胸部CT検査で両肺底部優位のすりガラス陰影と偶発的に右上葉に1.6 cmの結節影を認めた.重症COVID-19肺炎加療後にCTガイド下生検を行ったところ,原発性肺腺癌の診断が得られた.酸素飽和度の低下かつすりガラス陰影の残存を認めたため部分切除術を施行し,術後合併症なく退院した.重症COVID-19肺炎後の原発性肺癌手術に対する手術介入時期も含めた治療戦略に着目し,文献的考察を加え考察する.

  • 中 麻衣子, 河合 秀樹, 石井 良明, 髙嶋 祉之具, 今井 一博, 南谷 佳弘
    2023 年 37 巻 5 号 p. 493-499
    発行日: 2023/07/15
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    呼吸器外科手術の中でも気管分岐部切除再建は非常に稀な術式である.また高度な技術を要することから特に麻酔科との連携を図りながら手術に臨むことが多い.今回我々は気管分岐部再建を伴う手術を救命目的に緊急で施行せざるを得なかった気管癌の症例を経験したので報告する.

    症例は76歳男性.気管癌の診断で当科に転院搬送後,術前精査中に左側の完全無気肺を認めたため救命目的に緊急手術の方針となった.手術は体外式膜型人工肺導入下に施行した.右開胸にて気管分岐部切除を施行し,double barrel型にて再建を行った.術後は誤嚥性肺炎や間質性肺炎,気管分岐部の吻合部離開など術後合併症を引き起こし,周術期管理は決して容易ではなかったが,術後約4ヵ月後に無事転院となった.緊急で気管分岐部再建まで要した手術は稀であり,文献を交えて検討する.

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