日本呼吸器外科学会雑誌
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37 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 三品 善之, 野間 大督, 禹 哲漢
    2023 年 37 巻 4 号 p. 160-166
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    近年,基礎疾患をもたない膿胸患者の報告が散見され,一部に口腔内常在細菌の関与が指摘されている.本稿は2012年から2022年の10年間に当院で急性膿胸に対し胸腔鏡下膿胸腔掻爬術を施行した31例を対象とし,特にその要因として歯性感染症に注目して臨床・細菌学的因子について後方視的に集計,検討した.31例の内,口腔内感染症に起因すると考えられる症例は7例(22.6%)であり,既報告の12.0~33.3%と概ね同等であった.これらの症例はいずれも糖尿病やステロイド内服の既往は無く,齲歯や重度の歯周炎を放置している症例が目立った.急性膿胸の一因として歯性感染症が一定の割合を占めており,口腔衛生環境を含めた病歴の聴取,口腔ケアの重要性について改めて認識すると共に,日常生活から予防の実践,啓蒙に努めることが重要であると考える.

症例
  • 小佐井 孝彰, 三好 圭, 大薗 慶吾, 崎濱 久紀子, 小田 義直, 中村 雅史
    2023 年 37 巻 4 号 p. 167-171
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    57歳女性.前医CTで左肺下葉に25 mm大の結節と30 mm大の前縦隔腫瘤を認めた.気管支鏡下生検で肺結節は腺癌の診断であり,画像上は前縦隔腫瘤は縦隔腫瘍や肺腺癌リンパ節転移などの可能性が考えられた.他にリンパ節転移を認めず,肺癌の前縦隔のみのリンパ節転移は稀であるため,胸腺腫瘍などの縦隔腫瘍の可能性が高いと考え,胸腔鏡下左下葉切除術及び縦隔腫瘍切除術を施行した.病理組織学的にはいずれも腸型腺癌で,免疫染色ではCK20(+),CDX2(+),CK7(-),TTF-1(-)であった.下部消化管内視鏡検査で大腸癌を疑う所見を認めず,腸型肺腺癌pT2bN2M0 stageIIIAと診断した.術後3ヵ月目に肺転移・脳転移を認め,化学療法を行ったが,術後14ヵ月目に永眠された.今回術前診断に苦慮した前縦隔リンパ節転移を伴う腸型肺腺癌の一切除例を経験した.若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 岡本 紗和子, 杉山 燈人
    2023 年 37 巻 4 号 p. 172-176
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は73歳女性.自動車乗車中に単独事故で受傷し救急搬送された.胸部単純CTで両側多発骨折,軽度左血気胸,外傷性肝損傷を認め入院となった.入院2日目に呼吸状態が悪化,左胸腔ドレナージを行い呼吸状態は改善したが,入院3日目に痙攣及び遷延する意識障害を認めた.血液検査で著明な血清ナトリウム値低下を認め,中枢神経系疾患や副腎機能異常を認めなかったことから抗利尿ホルモン分泌異常症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)と診断した.補液による電解質補正にて血清ナトリウム値は速やかに正常化し,意識も改善した.

    外傷性気胸による胸腔内圧の変化でもSIADHを発症する可能性がある.急激な低ナトリウム血症は痙攣や意識障害の原因となるため,外傷性血気胸があり意識障害を来した場合は,頭部外傷だけでなく当疾患を鑑別にあげる必要がある.

  • 目黒 大吉, 豊福 篤志, 榊原 秀樹, 岩浪 崇嗣, 花桐 武志, 永田 直幹
    2023 年 37 巻 4 号 p. 177-184
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は47歳の女性で,息切れを主訴に当院を紹介受診した.CTにて両側多発肺囊胞に加えて両側気胸の診断となり,両側胸腔ドレーンを留置した.右側からのエアリークの改善なく胸腔鏡下にて右気胸の原因部分の肺囊胞を切除した.両側多発肺囊胞であり,鑑別診断としてLymphangioleiomyomatosisの可能性もあり,切除標本を免疫染色したところ否定的であった.家族歴はなかったが,4年前に下顎部皮膚の線維毛包腫を疑わせる過誤腫様病変の手術歴があり,Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群を疑った.遺伝学的検査を施行したところ,FLCN遺伝子エクソン11に病的バリアントを認め,BHD症候群の診断となった.家族歴情報では可能性が低くても,その臨床像よりBHD症候群の可能性があれば,十分なインフォームドコンセントの下,遺伝学的検査による確定診断を行うことは重要である.

  • 古賀 大靖, 永島 琢也, 禹 哲漢, 増田 晴彦, 大野 祥一郎, 利野 靖
    2023 年 37 巻 4 号 p. 185-191
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は52歳男性.大腸癌肺転移に対して前医で胸腔鏡下左肺下葉切除と2度の左肺上葉部分切除を施行後,切除断端再発を認め当院を受診した.画像では腫瘍と肺切離断端が下行大動脈と接していた.前回手術時に大動脈周囲の縦隔胸膜が合併切除されていたことも踏まえ,再発部が大動脈浸潤もしくは高度癒着していると判断し,大動脈ステント内挿後に肺手術の方針とした.術中は想定通り左肺S1+2区域と下行大動脈に強固な癒着を認めたが,ステントのため安全に剥離でき,予定通り左肺S1+2区域切除を施行した.術後14病日に退院したが,1ヵ月半後に外出先で犬に驚き転倒し,背部痛が出現した.ステントグラフト中枢をエントリーとするStanford B型大動脈解離の診断となり,血圧管理による保存的加療で改善した.本症例のように大動脈ステントは重篤な合併症を引き起こすことがあり,肺手術のための適応は慎重に検討する必要がある.

  • 黒田 鮎美, 奥村 好邦
    2023 年 37 巻 4 号 p. 192-197
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は40歳代,男性.健康診断の胸部X線写真で異常陰影を指摘され当院を受診した.胸部CTで前縦隔に長径10 cm大の分葉状の腫瘤を認めた.前縦隔腫瘍として完全切除を目的とした手術を行った.腫瘤は一部心膜と強固に癒着しており,心膜を切開し心囊内を確認したところ,肉眼的に腫瘍は心膜腔内に向かって鶏冠状に突出しており,心膜浸潤を疑う所見であり,心膜を合併切除した.組織学的所見と免疫染色の結果を総合し孤立性線維性腫瘍Solitary Fibrous Tumor(SFT)と判断された.SFTは画像上境界明瞭な腫瘤として描出されることが多く,肉眼的にも表面平滑で境界明瞭な腫瘤として認めることが多い.本症例のように心膜腔内に向かって鶏冠状に突出したという報告は検索の範囲では認めず,多彩な臨床像をとるSFTの一所見として貴重な一例と考え報告する.

  • 大迫 隆敏, 福田 章浩, 多久和 輝尚
    2023 年 37 巻 4 号 p. 198-204
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は32歳男性.突然の左胸部痛を自覚し,救急搬送された.既往として1歳時に神経線維腫症1型の診断がある.胸部CTで左緊張性血胸を認め,ショック状態であったため緊急で開胸止血を施行した.左鎖骨下動脈近傍から胸腔内へ動脈性出血を認めた.血管組織が非常に脆弱で,止血に難渋したためガーゼパッキングで圧迫止血を行い,経皮的動脈造影を行った.内胸動脈からの出血を認め,同部位を塞栓し止血した.良好な経過で回復していたが,第12病日に左頸部痛と同部位の膨隆が急激に発症した.頸部血管からの再出血が疑われたため緊急で経皮的動脈造影を行うと左椎骨動脈と左甲状頸動脈から出血を認めた.同部位の経皮的動脈塞栓術を行い,止血した.神経線維腫症1型の血管組織脆弱性とそれに伴う動脈出血の合併は稀ではあるが,過去にも報告されており,迅速な対応,治療介入を行うことが重要である.

  • 平塚 昌文, 宮原 尚文, 手石方 崇志, 甲斐 敬太
    2023 年 37 巻 4 号 p. 205-209
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は4歳男児,嘔吐症状を主訴に近医を受診し,胸部CTで右中葉の腫瘤影を指摘された.画像上,粗大な石灰化病変を伴っており,縦隔奇形腫や肺過誤腫を疑い,診断的治療目的に,胸腔鏡補助下に中葉切除を施行した.肉眼的には充実性の病変であり,組織学的には腫瘍性病変,炎症性病変ともに否定的であった.先天性囊胞性肺疾患関連の病変を考えたが,確定診断困難であった.先天性囊胞性肺疾患には,様々な病態が含まれるが,自験例の様に確定診断に難渋する症例が一定数存在する.

  • 赤尾 恵子, 平原 正隆, 森野 茂行
    2023 年 37 巻 4 号 p. 210-214
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    胸壁穿通性膿胸(Empyema necessitans)は膿胸腔内に貯留した内容物が胸壁を貫き,胸腔外の周辺組織に膿瘍を形成する病態である.原因は結核菌や放線菌の慢性感染が多く報告されている.今回,Porphyromonas gingivalisによる胸壁穿通性膿胸を経験した.症例は72歳の女性.左側腹部の皮下腫瘤に気づき前医を受診した.CT,MRIで左膿胸を認め,膿胸に連続する左側腹部皮下の液体貯留を認めたため胸壁穿通性膿胸と診断した.入院後早期に胸腔鏡下膿胸腔掻爬ドレナージ術,皮下膿瘍ドレナージ術を施行した.P. gingivalisは歯周病の原因菌で,蛋白質の分解産物を栄養源としているため強力な蛋白質分解酵素を有しており,重篤な膿瘍形成をきたす傾向が強い.今回,手術により良好な結果が得られたため,文献的考察を加え報告する.

  • 安田 健悟, 吹野 俊介, 髙木 雄三
    2023 年 37 巻 4 号 p. 215-219
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    両側胸腔に接する縦隔腫瘍の手術アプローチとして腹臥位胸腔鏡手術を施行した上後縦隔囊胞の1例を経験したため報告する.症例は60歳代男性で,夜間の胸部圧迫感を主訴に医療機関を受診した.精査にて気管・食道を圧排する両側胸腔に接した上後縦隔囊胞を認めた.腫瘍主座は左縦隔優位であったが大動脈弓にも接しており,腹臥位・右胸腔アプローチにて炭酸ガス送気下胸腔鏡手術を施行した.術中に食道との強固な癒着を認めたが,体位と送気による良好な視野で囊胞を切除できた.病理組織学的に発生原基は不明であったが,経過や術中所見から囊状リンパ管腫が考えられた.乳び胸を含む術後合併症は認めなかった.両側胸腔に接する上後縦隔囊胞への腹臥位手術は,操作スペースの拡大に加え,側臥位時の対側胸腔への囊胞の沈み込みがないため,対側胸腔に近接した切除操作での視野が良好になることで安全な手術を行うことが出来る可能性がある.

  • 熊谷 陽介, 長 博之, 小林 萌, 平山 安見子, 尾田 博美, 黄 政龍
    2023 年 37 巻 4 号 p. 220-223
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,男性.検診の胸部CT検査にて右肺下葉に腫瘤影を認め,経過観察されていたが,15年の経過で緩徐に増大傾向を示したため,手術目的で当科紹介となった.右肺下葉に腫瘤影および結節影を認め,胸腔鏡下右肺下葉切除術を施行した.腫瘤はたらこ状の組織で,病理組織検査では胎盤絨毛様組織を認め,placental transmogrification of lung(PTL)と診断された.術後6ヵ月現在,無再発経過観察中である.

  • 松井 雄介, 鈴木 潤, 渡辺 光, 捧 貴幸, 佐藤 開仁, 塩野 知志
    2023 年 37 巻 4 号 p. 224-228
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は73歳男性.肺扁平上皮癌に対する治療目的で入院したが,入院時に意識障害があり脱水と腎機能障害も認めていた.精査を行ったところPTHrP(Parathyroid hormone related protein),血清カルシウムが高値であった.このため意識障害はPTHrP産生肺癌による高カルシウム血症が原因と診断した.全身状態が不良で肺癌の治療は困難と判断し,高カルシウム血症に対する治療を開始した.輸液,利尿剤,カルシトニン投与で症状は改善し,右下葉切除術および縦隔リンパ節郭清を施行した.術後26ヵ月経過したが無再発生存中である.

    高カルシウム血症を合併した肺癌において,精神症状や腎不全などの症状を認めた場合の予後は不良と報告されている.本例も全身状態が不良で,意識障害をきたしていたが,高カルシウム血症の改善により根治切除が可能になった.高カルシウム血症が併存している肺癌であっても,全身状態を改善させることにより根治治療が可能であると推察された.

  • 垣淵 大地, 石原 駿太, 下村 雅律, 池部 智之, 井上 匡美
    2023 年 37 巻 4 号 p. 229-235
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    63歳女性.胸部X線写真で左無気肺を指摘された.胸部CTで左主気管支に腫瘍性病変を認め,左全無気肺を呈していた.室内気で血中酸素飽和度62%と酸素化不良を認め,人工呼吸管理となった.気管支鏡検査では左主気管支を完全閉塞する隆起性病変を認め,組織生検の結果,肺粘表皮癌と診断した.喀痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が検出され,画像診断にて閉塞性肺炎を合併しており,肺温存術式では感染巣遺残による合併症が懸念され,かつ,左主肺動脈閉塞試験にてPaO2/FiO2比が208から420まで改善したことを確認した上で開胸左肺全摘術を施行した.手術後に酸素化能は改善し合併症なく術後24日目に退院した.片側全無気肺を呈し人工呼吸管理を要した肺粘表皮癌に対して左肺全摘術が有効であった.肺動脈閉塞試験による酸素化能改善は肺換気血流不均等の解消によるもので,片肺全摘術適応の妥当性を支持する根拠となりうる.

  • 青木 耕平, 山口 雅利, 杉山 亜斗, 羽藤 泰, 福田 祐樹, 中山 光男
    2023 年 37 巻 4 号 p. 236-241
    発行日: 2023/05/15
    公開日: 2023/05/15
    ジャーナル フリー

    56歳女性.呼吸困難と体重減少を主訴に受診した.CTで前縦隔から両側胸腔の大半を占拠する30 cm大の腫瘤を認めた.画像所見から脂肪肉腫と診断し,手術の方針とした.巨大な腫瘍であるため麻酔や手術中の換気不全,循環虚脱のリスクを考慮し,膜型人工肺をスタンバイした.Clamshellアプローチで手術を行い,腫瘍を切除した.腫瘍の最大径は38 cm,重量は2855 gであり,病理学的診断は脱分化型脂肪肉腫であった.術後2年経過し再発なく経過観察中である.

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