日本呼吸器外科学会雑誌
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37 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 茅田 洋之, 竹原 洋士, 天野 浩司, 池田 直樹, 臼井 章浩, 森田 正則
    2023 年 37 巻 2 号 p. 76-84
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    近年,外傷性肋骨骨折に対して早期外科的固定の有用性が多数報告され,早期固定の重要性が増している.当院では外傷性多発肋骨骨折に対する肋骨固定術を2017年1月から2022年1月までに13例経験し,その内7例で分離換気と胸腔鏡を併用した.胸腔鏡非併用例では術前には認めなかった肺瘻を術後に認め,術中肺損傷が疑われる症例を経験した.また,下顎固定用プレートを用いた症例の中で術後にプレート折損を認めた症例を経験し,肋骨専用プレートの使用を開始した.肋骨固定術の際に胸腔鏡を併用することで手術操作に伴う合併症の予防ができる可能性が示唆された.また,胸郭の特性を基に設計された肋骨固定用プレートの有用性が認識されたためこれらを報告する.

  • 柳光 剛志, 末久 弘, 酒井 伸也, 杉原 貴仁, 中島 匠平, 上野 剛, 重松 久之, 山下 素弘
    2023 年 37 巻 2 号 p. 85-92
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    当院のCTガイド下マーキングの有効性と安全性を調べる為,術前マーキングを実施した267病変の患者背景,合併症を後方視的に解析した.223病変にナイロン糸付き金属マーカー(VATSマーカー)留置,44病変に色素法(インジゴカルミン)によるマーキングが行われた.マーキング完遂率は98.5%,成功率は99.3%であった.合併症は気胸110例(41.2%),肺内出血76病変(28.5%),マーカー脱落14病変(マーカー留置の6.3%),空気塞栓1例(0.37%)であった.マーキング手技別に二群に分けた検討ではVATSマーカー留置群で気胸が有意に多かった.気胸と肺内出血を評価項目とした場合,1)年齢,2)穿刺ルートにおける臓側胸膜から腫瘍までの距離,3)マーキング手技の3項目が予測因子であった.肺実質への穿刺を伴うCTガイド下マーキングにおいては合併症に留意し,適切な症例・手技選択が必要である.

症例
  • 井上 雅哉, 稲垣 卓也, 佐藤 修二, 岡本 友好, 矢部 三男, 大塚 崇
    2023 年 37 巻 2 号 p. 93-98
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は87歳女性.健診の胸部X線写真で緩徐な増大傾向を示す肺腫瘤影を主訴に当院を受診.胸部CTにて右肺S7に40 mm大の腫瘤影を認めた.腫瘍マーカーでは,ProGRPが3650 pg/mLと異常高値を示した.気管支鏡下生検で肺カルチノイドと診断した.高齢であることから消極的縮小手術として胸腔鏡下右肺S7区域切除を施行した.摘出標本の病理検査で最終的に異型カルチノイドと診断した.ProGRPは術後基準値範囲内まで低下を認め,術後18ヵ月経過して無再発生存中である.肺カルチノイドでProGRP高値症例は報告されているが,検索した限りでは自験例は報告例のうち最も高値であった.さらに肺カルチノイドにおいてProGRPが治療効果判定に有用である可能性が示唆された.

  • 岡田 春太郎, 太田 紗千子, 髙橋 守, 渋谷 信介, 寺田 泰二, 青山 晃博
    2023 年 37 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代女性で,卵巣明細胞癌に対し子宮全摘と両側付属器切除を受け,術後1年が経過した頃より右前胸部痛が出現した.CT検査で胸骨右縁の第1~3肋間に各々辺縁明瞭な10 mm大の結節影と右肺上葉に結節影が認められた.PET-CTでも集積を認め,卵巣癌の胸壁転移と肺転移が疑われた.胸壁の腫瘍は比較的辺縁が明瞭で,骨シンチでも肋骨や胸骨に集積を認めないことから,3ポートの胸腔鏡下に肺部分切除と胸壁の腫瘍周囲組織を含めた摘出術を施行し,病理検査で卵巣癌の転移と診断された.連珠状の複数転移が認められた報告は無く,卵巣癌の胸壁転移部位はほとんどが傍胸骨リンパ節であるが,その転移経路について検討された報告は少ない.転移経路として,腹膜に播種した癌細胞が経横隔膜的にリンパ系に浸潤して横隔膜胸腔側上のリンパ節に転移し,傍胸骨のリンパ流路を介して,傍胸骨のリンパ節群に転移したものと考えられた.

  • 皆木 健治, 柳原 隆宏, 黒田 啓介, 小林 尚寛, 松本 信, 佐藤 幸夫
    2023 年 37 巻 2 号 p. 105-111
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    降下性壊死性縦隔炎は,口腔咽頭領域の感染を契機に発症し,死亡率の高い疾患である.今回我々は左扁桃炎から降下性壊死性縦隔炎・両側膿胸に至り,心膜炎と食道狭窄および喉頭機能不全を伴った症例を経験したので報告する.症例は41歳男性.咽頭痛の出現後1週間で胸痛が出現し,本院へ救急搬送された.CTで左扁桃から食道周囲にガスを伴う膿瘍と両側胸腔に液体貯留を認め,降下性壊死性縦隔炎と両側膿胸と診断し,経過で二度の外科的ドレナージを要した.来院時より心膜炎の所見があり,第11病日には心タンポナーデにより閉塞性ショックを呈し心囊ドレナージを行った.亜急性期には喉頭・食道周囲の炎症による瘢痕形成を生じ,食道入口部開大不全と喉頭挙上不良に伴う嚥下障害を認めたが,食道バルーン法等による嚥下リハビリが奏功した.降下性壊死性縦隔炎では炎症の波及に応じて種々の合併症が出現することがあり,適切に対処することが重要である.

  • 西村 友樹, 徳田 涼介, 上島 康生
    2023 年 37 巻 2 号 p. 112-117
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は28歳女性.繰り返す発熱を主訴に近医を受診し胸部X線写真で左下肺野に浸潤影,後日撮像した胸部単純CTで左下葉に過膨張した領域を認め当科紹介となった.胸部造影CTで胸部大動脈から起始する異常動脈を3本,半奇静脈に還流する異常静脈を有する肺葉内肺分画症(Pryce III型)と診断し手術の方針とした.

    術中左下葉の胸膜に毛細血管の発達,白色の色調変化を認めた.異常血管切離後にインドシアニングリーン(ICG)の静脈内投与を行った.不染域は通常想定される左S8,S9,S10と一致せず左S6に不染域を認めなかった.不染域の分布から左肺底区切除は必要と判断し左肺底区脈管処理後に再度ICG静脈内投与を行った.左S6に不染域がなく胸腔鏡下左肺底区切除を施行した.

    肺葉内肺分画症に対し異常血管処理後と切除区域の脈管処理後にICG静脈内投与を行い,左肺底区切除で分画肺切除を行った症例を経験したので報告する.

  • 賀来 良輔, 益本 貴人, 余田 誠, 大塩 麻友美, 橋本 雅之, 澤井 聡
    2023 年 37 巻 2 号 p. 118-123
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は50歳女性.当科受診の11年前に偶発的に左肺腫瘤を指摘されるも,陰影が葉間にあり,局在が変化していたため胸水と診断されていた.今回,健診胸部単純X線で異常陰影を指摘され,胸部CTで左肺舌区に石灰化を伴う腫瘤影を認め,左肺腫瘍疑いとして当科紹介となった.病変の局在が変化することから孤立性線維性腫瘍を疑い,手術を施行した.腫瘤は肺門部を根部とする有茎性病変で,正常肺との連続性はなく,肺静脈および肺動脈と交通する血管を1本ずつ認めた.これらの異常血管を一括して切離し,病変を摘出した.摘出病変は一部に肺実質を認め,手術所見と合わせて肺葉外肺分画症と診断した.流入動脈が肺動脈,還流静脈が肺静脈の肺葉外肺分画症は極めて稀であり,報告する.

  • 北岡 秀太, 岡田 悟, 石原 駿太, 下村 雅律, 加藤 大志朗, 井上 匡美
    2023 年 37 巻 2 号 p. 124-130
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    間接熱量測定法を用いた安静時エネルギー消費量の推定は栄養療法におけるエネルギー投与量の決定に際して最も推奨された手法である.またHarris-Benedict式から導かれる基礎代謝量と比較し得られる推定ストレス係数は病態の把握と理解にもつながる.我々は肺癌術後に気管支断端瘻を発症した3例(2例は開窓術後に二期的に根治術,1例は一期的根治術)で間接熱量測定を行い,客観的に必要エネルギー量を設定し根治することができた.算出された推定ストレス係数は,急性期で1.5(中等症感染症以上に相当)程度,開窓術施行後の症例では慢性期で炎症が落ち着いている時期であっても根治術を行うまでは1.2-1.6と代謝の亢進が確認された.術後合併症として重篤である気管支断端瘻や,開窓術後という特殊な病態におけるストレス係数に関する報告はこれまでなくこれらは間接熱量測定を行えない場合の栄養療法において指標のひとつとなりうる.

  • 川原田 康, 木村 愛彦, 藤嶋 悟志
    2023 年 37 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は60歳代男性.検診の胸部X線写真で左下肺野の結節影を指摘され,精査のCTで左肺下葉S10に2.1 cm大の不整形結節影を認めた.気管支鏡による確定診断は困難と判断し,手術による確定診断の方針とした.病変を含めた肺部分切除術を施行し,免疫組織化学染色で肺類上皮血管内皮腫(pulmonary epithelioid hemangioendothelioma:PEH)の診断を得た.単発例ながら術後早期に多発肺転移・多発骨転移をきたしたが集学的治療を行い,病勢コントロールを得られた.本症では多発症例や再発症例に対し放射線照射,化学療法,ステロイド療法などの奏効例も見られるが確立された治療方法はなく,急速な増悪を認めた場合には治療に難渋することが多いとされ,厳重な経過観察が必要である.

  • 川口 瑛久, 伊藤 温志, 金田 真吏, 川口 晃司, 島本 亮, 髙尾 仁二
    2023 年 37 巻 2 号 p. 137-141
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    59歳男性.交通事故後に腹腔内出血を指摘され当院搬送となった.脾損傷,回腸動静脈損傷に対してダメージコントロール術,IVRで脾動脈塞栓術が施行された.術後に人工呼吸器の離脱が困難となり,既往の左横隔膜挙上症が一因と考え,手術の方針となった.手術時間は162分,出血は少量.CO2送気で視野を確保し,弛緩した横隔膜を牽引し,ポリエチレン糸4針で縦隔側から胸壁側へ連続縫合で縫縮した.術後から呼吸状態は安定し,術翌日には人工呼吸器を離脱した.2日目にドレーンを抜去した.その後も呼吸状態は安定しており,8日目にリハビリ目的に転院となった.横隔膜挙上症を有する外傷性呼吸不全の患者に対して横隔膜縫縮術を施行し,劇的に呼吸状態が改善した貴重な症例を経験したため報告する.

  • 笹本 晶子, 松本 卓子, 高圓 瑛博, 片桐 さやか, 清水 俊榮, 前 昌宏
    2023 年 37 巻 2 号 p. 142-145
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    中縦隔発生囊胞の摘出術では,周囲組織との強固な癒着により完全切除が困難で,再発が危惧される場合がある.2008年9月から2020年10月までに当院で外科的治療を施行した中縦隔発生囊胞7例のうち,残存囊胞壁に対して焼灼を行った3例を提示する.

    不完全切除症例は男性1例,女性2例,平均年齢は57歳であった.病理診断では気管支原性囊胞2例,起源不明囊胞1例.全例胸腔鏡下縦隔囊胞切除術が行われ,残存囊胞壁に対しエネルギーデバイスによる焼灼を施行した.3例では観察期間内に再発は認めなかった.術後長期的な経過を観察出来ていないが,中縦隔発生囊胞の残存病変に対する処置の1つとして囊胞壁へのエネルギーデバイスによる焼灼は再発を予防できる可能性があると考えたため報告する.

  • 黒木 将英, 猪俣 麻佑, 綾部 貴典, 前田 亮
    2023 年 37 巻 2 号 p. 146-151
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    完全内臓逆位に合併した左上葉肺癌に対する胸腔鏡下左上葉切除術の1例を経験したので報告する.症例は74歳男性.検診の胸部X線で左上肺野に異常陰影を指摘された.胸腹部CTでは,左上葉の結節影と胸腹部内臓の完全逆位が認められた.胸腔鏡下に部分切除を行ったところ,術中迅速で腺癌と診断されたため,完全鏡視下に縦隔リンパ節郭清を伴う左上葉切除術を施行した.切除手技は右上葉切除術の手順と全くの鏡像であった.術前に通常の右上葉切除術の手術動画を左右反転させて,完全内臓逆位合併肺癌に対する左上葉切除術の仮想手術動画を作成した.通常手術の鏡像となる手術のイメージを視覚化することで,術前に手術スタッフ間で手術のイメージの共有化を行うことができ,安全かつ円滑に手術を完遂することができた.

  • 堀本 かんな, 片岡 瑛子, 一瀬 増太郎, 元石 充, 澤井 聡, 花岡 淳
    2023 年 37 巻 2 号 p. 152-157
    発行日: 2023/03/15
    公開日: 2023/03/15
    ジャーナル フリー

    症例は77歳女性.胸部単純X線で異常陰影を指摘され当院に紹介となった.胸部造影CTで気管分岐部背側に25 mmの結節影を認め,奇静脈との連続性や上大静脈,奇静脈と同程度の造影効果を示すことから奇静脈瘤と診断した.胸腔鏡下に静脈瘤摘出術を施行した.まず瘤内血栓による肺血栓塞栓症のリスクを考慮し,奇静脈瘤中枢側を先行して剥離,切離した.病理検査では,壁の菲薄化と肥厚部が混在した囊状拡張を呈する静脈を認め,静脈瘤内の一部に器質化血栓と新鮮血栓が確認された.術前の胸部造影CTでは血栓を指摘できず,無症状の症例であっても早期の手術施行および術中は中枢の処理を先行することが望ましいと考えられた.

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