日本呼吸器外科学会雑誌
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37 巻, 7 号
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巻頭言
原著
  • 標 玲央名, 岡田 悟, 下村 雅律, 常塚 啓彰, 石原 駿太, 岩﨑 雅, 井上 匡美
    2023 年 37 巻 7 号 p. 586-593
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    我々はcN0肺癌における病理学的リンパ節転移と臨床病理学的因子との関連を解析した.対象は2015年7月~2020年4月に肺葉切除または肺全摘+系統的縦隔リンパ節郭清(ND2a-2)を施行したcN0非小細胞肺癌213例.腫瘍局在は主座によってUpper(右上葉/左上区),Middle(中葉/舌区),S6,Basal(底区)に大別した.Consolidation tumor ratio(CTR)=1ではpN1:10.8%/pN2:8.1%,0.5<CTR<1ではpN1:7.8%/pN2:2.0%,0≦CTR≦0.5では全例pN0であった.腫瘍局在ごとのpN2頻度はUpper/Middle/S6/Basalで5.1%/5.0%/13.2%(第2群リンパ節2a-2領域:7.9%)/3.6%であった.S6肺癌は他局在に比較してpN2,特に2a-2領域の潜在的リンパ節転移の頻度が高い可能性がある.

症例
  • 小林 政雄, 石田 大輔, 坂巻 靖
    2023 年 37 巻 7 号 p. 594-599
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は79歳女性.直腸Gastrointestinal stromal tumor(GIST)に対し原発巣切除後,補助療法としてイマチニブが投与されたが,Grade2有害事象のため術後1年6ヵ月で中止された.術後4年6ヵ月のCTで右中葉に1.4 mmの小結節が出現し,術後7年時点で6.4 mmに増大したため,悪性腫瘍を疑われ当科紹介となった.右肺中葉部分切除を施行し病理検査の結果,GISTの肺転移と診断された.術後はイマチニブ投与なしで経過観察されたが,4ヵ月で右第11肋骨,左腸骨に転移を認めたため,同月からイマチニブ減量投与が開始され,肺転移切除後12ヵ月の現在,イマチニブ投与継続し新規の転移巣出現なく骨転移もstable disease(SD)で経過している.直腸GISTの単発肺転移に対する切除例の報告は少なく,切除で確定診断を得た場合,他病変の早期出現を想定した対応が必要である.

  • 北川 崇, 壁村 慎作, 熊谷 遼介, 大坪 巧育, 小島 史嗣, 板東 徹
    2023 年 37 巻 7 号 p. 600-604
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,女性.3年前乳癌のため当院紹介,術前MRIで前縦隔囊胞を認め胸腺囊胞疑いとなった.経過観察中,CTで囊胞の増大,壁肥厚,周囲脂肪織濃度上昇を認め囊胞内感染を疑い手術方針とした.囊胞により左腕頭静脈は広範囲に圧排されており,同部位に多方向からの操作を行えるよう術式を検討した.剣状突起下および両側胸腔アプローチのロボット支援下手術を行い,囊胞を左腕頭静脈から剥離,内容物が流出することなく切除し得た.病理検査では胸腺囊胞の診断となり,囊胞壁に炎症と線維化を認めた.術後経過は良好であり,術後6ヵ月の時点で再燃は認めない.

    縦隔囊胞に炎症を来した場合は,縦隔炎を回避し周囲重要構造物を温存することが重要である.本例は感染を疑った胸腺囊胞に対し,剣状突起下および両側胸腔アプローチロボット支援下手術により安全に手術を施行し得た.

  • 三股 頌平, 稲田 一雄, 川野 大悟, 佐藤 寿彦
    2023 年 37 巻 7 号 p. 605-610
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は68歳男性.64歳時に右中葉肺癌(pTis)に対し胸腔鏡下右中葉切除術を行われた.術後3年,左肺上葉S3縦隔側にpart solid noduleが出現.その後増大傾向であり,原発性肺癌が疑われ手術の方針となった.

    術前の3D-CTで左上区支は舌区支と独立して分岐する転位気管支の形態であり,気管支鏡検査でも同様の所見であった.また,A6が通常よりも近位(A3レベル)より分岐しA1+2b,A1+2cと共通幹を形成する肺動脈の走行異常も認めた.左上区域の転位気管支は主肺動脈の背側を走行していた.

    術中所見では上区と舌区は過分葉を認め,腫瘍はcT1a相当の小型肺癌疑いであり上区域切除の方針とした.術前の想定通りA1+2b,A1+2cとA6の共通幹を認め,A6を温存しそれぞれ自動縫合器で切離した.上区気管支は気管支鏡下に確認し,切離した.病理診断は微少浸潤性腺癌であった.

  • 我喜屋 亮, 嵩下 英次郎, 川畑 大樹, 照屋 剛, 仲地 厚, 山内 素直
    2023 年 37 巻 7 号 p. 611-616
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は42歳男性,胸痛を主訴に当院へ救急搬送された.胸部X線にて左肺野の透過性低下を認めた.造影CTにて血胸,陳旧性肋軟骨骨折,左内胸動脈の拡張,およびその周囲の血腫を認め,左内胸動脈仮性瘤破裂が疑われた.胸腔ドレーンを留置し約800 mlの血性排液を認めた.血管造影検査を行い左内胸動脈仮性瘤からの活動性出血を確認し,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;TAE)を施行した.塞栓術後は再出血を認めず,第12病日に退院となった.退院後2年経過した現在も再発なく健在である.

    鈍的胸部外傷後の内胸動脈仮性瘤破裂は稀である.今回6年7ヵ月前の鈍的胸部外傷に起因すると考えられる内胸動脈仮性瘤破裂の症例を経験した.TAEは内胸動脈仮性瘤破裂に対し低侵襲で効果的な治療法であった.

  • 桑原 博昭, 羽田 光輝, 木内 静香, 鈴木 昭
    2023 年 37 巻 7 号 p. 617-622
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    前立腺癌の肺転移は他臓器への転移を伴うことや多発性であることが多く,孤立性転移は稀である.前立腺癌のマーカーとしてPSAが知られているが,PSA陰性での孤立性肺転移は原発性肺癌との鑑別に苦慮する.症例は72歳の男性.PET-CT健診で右肺中葉の結節に異常集積を指摘され当院呼吸器内科を紹介となった.他医で14年前に前立腺癌に対し前立腺全摘が行われ,以降はPSA値と5年間のみの画像診断で経過観察されていたが特に異常は指摘されていなかった.1年間のCT経過観察で右肺結節の増大を認め当科紹介となった.右肺中葉部分切除を行い迅速診で腺癌と診断されたが,原発性肺癌と前立腺癌の肺転移との鑑別は困難で,右肺中葉切除とリンパ節郭清を追加した.病理検体のPSA染色は陰性だったが,前立腺癌の癌抑制遺伝子で低分化前立腺癌や転移病変に特異度が高いことで知られるNKX3.1が陽性で,前立腺癌の肺転移との診断となった.

  • 本田 貴裕, 土井 健史, 田中 雄悟, 法華 大助, 小松 正人, 眞庭 謙昌
    2023 年 37 巻 7 号 p. 623-628
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    骨肉腫は小児および青年の長管骨に好発する.高齢者の肋骨に発生することは稀で,血胸で発見される肋骨原発骨肉腫はさらに稀である.症例は80歳,男性.労作時呼吸困難を主訴に前医を受診し,右血胸と胸壁腫瘍を認めたため胸腔ドレナージ後に当院へ転院した.胸部造影CT検査で右血胸と右胸壁に7.5 cm大の造影効果を伴う腫瘤を認めた.腫瘤は第7肋間から胸腔内外の両側へ隆起していた.緩徐な貧血の進行を認め,腫瘍からの持続性出血があると判断し,出血制御目的に胸壁腫瘍切除術を施行した.病理組織診断で肋骨原発骨肉腫と診断されたが,高齢のため術後化学療法は施行せず追加治療として放射線照射を施行した.術後1年経過し再発は認めていない.肋骨原発骨肉腫は稀であるが,胸壁腫瘍の鑑別の一つとして考慮する必要がある.

  • 藤川 遼, 小澤 広輝, 小林 淳
    2023 年 37 巻 7 号 p. 629-634
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    完全内臓逆位に合併した肺癌に対してfissureless lobectomyを施行した1例を報告する.症例は完全内臓逆位を指摘されている67歳女性.血液透析のシャント瘤増大を主訴に受診し,CTで偶発的に左上葉結節影を指摘された.気管支鏡検査を含む全身評価でcT1aN0M0,cStageIA1,腺癌と診断し,手術を行った.小開胸によるhybrid VATSアプローチで手術を開始,左肺は3葉に分かれていたが,分葉不良でありfissureless lobectomyを行うこととした.鏡面像であったが術前の3D-CTで解剖を把握していたため,通常の右上葉切除術と同様の手順で左上葉のfissureless lobectomyを完遂した.完全内臓逆位患者においても,術前に3D-CT等で綿密な計画を立てることでfissureless lobectomyは安全に施行可能であった.

  • 小林 萌, 熊谷 陽介, 平山 安見子, 尾田 博美, 長 博之, 黄 政龍
    2023 年 37 巻 7 号 p. 635-639
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    縦隔に発生する血管腫は比較的稀であり,全縦隔腫瘍の0.5%以下とされ,術前診断は困難である.症例は61歳女性.健診で心電図異常を指摘され当院循環器内科を受診した.冠動脈CTで前縦隔に腫瘤影を指摘され,当科を受診した.CTで造影効果があるため胸腺腫を疑い,診断および治療目的に手術を行った.左胸腔よりアプローチし,暗赤色で弾性軟の腫瘤を認め,胸腺左葉の一部と共に摘出した.病理組織検査で海綿状血管腫と診断した.縦隔腫瘍の診断においては,血管腫の存在も念頭に置く必要がある.

  • 沖 智成, 山下 貴司, 望月 孝裕
    2023 年 37 巻 7 号 p. 640-645
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は44歳の男性で健診の胸部X線写真で異常を指摘され当科に紹介となった.胸部CT,MRIで大動脈遠位弓部背側に胸管に接する囊胞を認め,胸管囊胞の疑いで手術を施行した.頭側の胸管は左鎖骨下動脈,食道,椎体の間で確保して結紮切離した.尾側の胸管は肋間動静脈を切離して下行大動脈を腹側へ授動することにより視野が得られ,下行大動脈,食道,椎体の間で確保して結紮切離した.大動脈,食道,椎体に囲まれた組織を一塊に切除することにより,胸管を含む胸管囊胞を摘出した.術中および術後に乳びの流出は認めなかった.胸管囊胞を疑って手術をする場合,胸管を適切に処理する必要があるが,左胸腔から胸管にアプローチする機会は少なく,手技は定型化されていない.今回,下行大動脈の授動と縦隔臓器を剥離面とした縦隔組織の一括摘除により,縦隔左側に生じた胸管囊胞を囊胞および胸管を損傷することなく安全に切除可能であったため報告する.

  • 高梨 碧, 大橋 千裕, 田内 俊輔
    2023 年 37 巻 7 号 p. 646-649
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は44歳男性.健康診断の胸部異常陰影で発見された左上葉原発性肺癌(cT1cN0M0,cStageIA3)に対し,ロボット支援下左肺上葉切除およびリンパ節郭清を施行した.病理診断は腺癌,pT1cN0M0,pStageIA3であった.術後2日目に発熱,右下腹部痛が出現し,白血球上昇,逸脱酵素(LDH,AST,ALT)上昇,腎機能低下を認め,腹部造影CTで右腎梗塞の診断に至った.塞栓源となる心房細動等の既往はなく,術前に凝固系異常を認めなかった.発症後の経胸壁心臓超音波でも異常は認めず,原因としては手術に伴う左上肺静脈断端の血栓形成が考えられた.抗凝固療法を開始し,発症時低下した腎機能は経時的に改善を得た.左肺上葉切除後の腎梗塞の発症は非常に稀であるが,今回経験したため報告する.

  • 丸山 来輝, 山﨑 宏継, 佐藤 之俊, 井上 準人
    2023 年 37 巻 7 号 p. 650-654
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    自動縫合器は組織の安全な切離,閉鎖のために多用されている.今回,肺切除断端のステープルが大動脈外膜を損傷し術後出血をきたした症例を報告する.症例は63歳,女性.転移性肺腫瘍に対して胸腔鏡下左下葉部分切除術を施行した.術後1日目にドレーンを抜去,術後2日目に退院となった.術後4日目に呼吸苦を自覚し救急搬送となり,左胸腔内出血を認め緊急手術を施行した.左胸腔内には血腫が充満し下行大動脈の外膜が頭尾側方向に欠損し血餅が付着していた.同部位からの出血と判断し修復を行った.欠損部位に接する肺にステープルの突出を認め,大動脈の拍動と呼吸性変動による摩擦で大動脈外膜損傷に至ったと考えられた.自動縫合器のステープルによる大動脈外膜損傷の術後出血報告例はなく,肺部分切除後のステープルが大血管に接する症例では,ステープルを人工被覆材や脂肪組織等でカバーリングする必要性が考えられた.

  • 安達 剛弘, 四倉 正也, 吉田 幸弘, 中川 加寿夫, 渡辺 俊一
    2023 年 37 巻 7 号 p. 655-660
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    症例は20歳代女性.健診を契機として約2 cm大の右肺下葉気管支内の腫瘍を指摘された.気管支鏡下生検によって定型カルチノイド腫瘍と診断され,根治目的に手術を施行した.術中,気管支鏡で腫瘍の位置を確認し,腫瘍の中枢側で下葉気管支入口部をメスで切開した.腫瘍の基部がB6気管支内に存在することを確認し,B6入口部から下葉気管支にdeep wedgeに切り込み楔状気管支形成を行い右肺S6区域切除術を施行し,腫瘍の完全切除を行った.術後,中葉および底区の気管支内腔は開存良好で,合併症なく無再発生存している.楔状気管支形成を伴うS6区域切除は,気管支内に発育する定型カルチノイド腫瘍に対して,根治性を維持しつつ肺実質を可及的に温存する術式として有用な選択肢の一つであると考えられた.

  • 野中 裕斗, 武田 亜矢, 横枕 直哉, 狩集 弘太, 上田 和弘, 佐藤 雅美
    2023 年 37 巻 7 号 p. 661-665
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/15
    ジャーナル フリー

    術中に#3aリンパ節腫大を認め,摘出したところ混合型大細胞神経内分泌癌のスキップ転移であったにも関わらず,長期生存を得た症例を経験したので報告する.

    症例は45歳, 男性.右S1の原発性肺癌に対し,胸腔鏡下右上葉切除術ならびに肺門縦隔リンパ節郭清を施行した.術中,上大静脈前方に炭粉沈着を伴う腫大した#3aリンパ節を認め,追加で摘出した.病理診断は混合型大細胞神経内分泌癌で,#3aリンパ節のみに転移を認め,pT2a(pl1)N2M0,pStageIIIAと判定した.術後補助化学療法を施行し,術後5年7ヵ月の現在,無再発生存中である.

    一般的なリンパ節郭清範囲外へスキップ転移する症例もあり,胸腔内の観察と適切な切除が重要である.

手技の工夫
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