日本呼吸器外科学会雑誌
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38 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 福永 亮朗, 幾島 拓也, 出口 琢人, 青木 佑磨, 桒原 尚太, 山本 和幸, 西上 耕平, 市村 龍之助, 真名瀬 博人
    2024 年 38 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    横隔膜交通症は腹膜透析や肝硬変など腹水が貯留する病態に合併するまれな疾患である.症例報告は散見されるが,標準的治療は未だ定まっていない.当科で2018年から2022年の間に経験した7例の横隔膜交通症に対する手術について検討した.男性6例,女性1例,平均年齢は56.4歳であった.原因疾患は慢性腎不全による腹膜透析2例,肝硬変による肝性胸水5例で,全例が右側病変だった.術中横隔膜交通部同定はインジゴカルミンによる色素法またはCO2による気腹法で行い,同定率は57.1%であった.治療は交通部が同定できた症例では交通部の切除または縫縮を行いポリグリコール酸シートとフィブリン糊で補強,同定できなかった症例では同材料で横隔膜全体を被覆した.全例で再発を認めなかった.文献的考察も加え,標準的手術治療について考察する.

症例
  • 熊谷 遼介, 分島 良, 馬場 峻一, 瀬戸 克年, 石橋 洋則, 大久保 憲一
    2024 年 38 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は80歳男性.5 cm大の腰背部腫瘤を自覚し,以後5ヵ月で18 cm大までの急速な増大を認め,当院に紹介となった.MRIでは左腰背部皮下に170×140×80 mmの腫瘤を認めた.生検で脂肪肉腫疑いの診断となり,形成外科と合同で腰背部腫瘤を含む広範胸壁切除再建を計画した.壁側胸膜を温存し,皮膚,筋層,第8-12肋骨切除を伴う腫瘍切除を行った.胸壁再建にはチタンプレート2本とポリプロピレンメッシュ,遊離広背筋皮弁を使用し良好な術後経過であった.術後病理診断では多形性肉腫の診断が得られた.今回我々は広範囲な胸壁切除を伴う巨大胸壁原発悪性軟部腫瘍に対して,プレートを要する骨性胸郭再建と遊離広背筋皮弁を用いる軟部組織の再建を行い,切除し得たので報告する.

  • 大坪 巧育, 小島 史嗣, 北川 崇, 末吉 国誉, 矢田 圭吾, 板東 徹
    2024 年 38 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    14歳女性.発熱・呼吸困難で受診されCTで右胸壁に長径15 cmの腫瘍を認めた.小切開下に生検し右胸壁原発限局型Ewing肉腫と診断.術前化学療法で腫瘍の縮小が得られ根治切除可能と判断,胸壁切除(第7~10肋骨全長切除,第6・11肋骨部分切除)及び横隔膜の一部,生検部位の皮膚・皮下組織を一塊に切除した.欠損部位は広範囲であったが,残存肋骨を寄せて胸壁の筋群を授動し胸壁欠損部を被覆することで人工物を使用せずに再建した.術後病理診断で切除断端は陰性であり根治切除が得られた.経過良好で術後1ヵ月より自家末梢血幹細胞移植を行い再発及び再建部位の脆弱性,著明な側弯を認めることなく術後36ヵ月経過している.広範囲の欠損であっても切除範囲によっては自家組織のみでの胸壁再建も可能であるため,特に小児悪性疾患では可能な限り自家組織で再建し感染への懸念を低減させる意識が重要である.

  • 髙橋 秀悟, 齋藤 芳太郎, 松崎 郁夫
    2024 年 38 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    気管支内肉芽腫は,様々な要因で発生する.治療方法については保存的治療や内視鏡的治療,外科的治療など様々な報告があるが,コンセンサスの得られた治療方針は未だ無い.今回我々は,肺癌術後に発生した気管支内肉芽腫に対してステロイド吸入が奏功した1例を経験した.症例は80歳男性.右上葉肺腺癌に対して右上葉切除+リンパ節郭清術を施行した.術中に右主気管支膜様部を一部損傷し,プレジェット付きの4-0非吸収性モノフィラメント糸で縫合し修復した.術後1年3ヵ月に血痰が出現したが,止血剤で改善し経過観察とした.術後1年5ヵ月に血痰の再燃を認め,気管支鏡検査を施行し,右主気管支内腔にプレジェットおよび縫合糸の露出,肉芽腫の形成を認めた.異物による肉芽腫としてトラニラスト内服およびフルチカゾン吸入を開始し,1ヵ月で肉芽腫は消失した.気管支内肉芽腫に対して吸入ステロイドが有効と考えられた.

  • 野中 裕斗, 狩集 弘太, 酒瀨川 浩一, 上田 和弘
    2024 年 38 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    非常に稀な右縦隔型底区肺動脈(A7+8b+9+10b)を有する右中葉肺癌の切除症例を経験したので報告する.症例は61歳,男性.検診胸部X線異常の精査CTで,右肺中葉S4に結節が認められた.術前の3次元CT(Three-dimensional computed tomography:3D-CT)にてA7+8b+9+10bが右主肺動脈から直接分岐し,上肺静脈の背側を通り中葉気管支の縦隔側を走行して下葉に流入する肺動脈の解剖学的破格が認められた.手術は中葉切除+ND2a-2を施行した.術中にA7+8b+9+10bより中葉に流入する細枝を2本認め切離した.縦隔型底区肺動脈に対する中葉切除例は本例を含め,本邦2例の報告に留まる.術前3D-CTで術前に血管走行を確認することで破格を的確に把握し,安全に手術を行うことができた.

  • 中村 晃史, 竹ヶ原 京志郎, 中道 徹, 橋本 昌樹, 近藤 展行, 長谷川 誠紀
    2024 年 38 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は55歳男性.血痰,左胸背部痛精査の胸部X線検査で異常影を認め当院紹介受診となった.胸部造影CTで下行大動脈から左肺底区に流入する異常血管を認め肺底動脈大動脈起始症と診断し,手術の方針となった.手術は左肺底区域切除を企図して開始した.下行大動脈からの異常血管,A8,底区気管支を切離した.続けて下肺静脈を剥離したところ,下肺静脈から直接分岐するV6を認めずすべて底区側から下肺静脈へ還流していた.S6からはsuperior basal veinの末梢から下肺静脈に還流する枝と,上下葉間を渡ってV1+2cに還流する枝の二本の肺静脈を認めた.底区域切除ではsuperior basal veinに還流する肺静脈は温存できないと判断し,左肺下葉切除を施行した.肺静脈の破格を伴った肺底動脈大動脈起始症は稀であり報告する.

  • 平岩 七望, 石田 大輔, 坂巻 靖
    2024 年 38 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は27歳男性.検診で胸部異常陰影を指摘され当科紹介となった.CTで前縦隔に最大径46 mmの腫瘤を認め,血清HCG-βは24.1 ng/mLと高値,抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体は0.4 nmol/Lと軽度上昇していた.セミノーマまたは抗AchR抗体陽性の胸腺腫を疑い,胸腔鏡下拡大胸腺摘出術を施行した.病理組織診断ではセミノーマが主体で一部に絨毛癌成分を認めた.術後補助療法は行わず経過観察としたが,HCG-βは陰性化し抗AchR抗体は術前と同程度で経過した.術後9年7ヵ月,無再発および重症筋無力症未発症を確認した.一般に絨毛癌の予後は不良であり,術後に長期生存を得られた例は稀である.

  • 星島 一允, 高森 聡, 鈴木 潤, 渡辺 光, 佐藤 開仁, 塩野 知志
    2024 年 38 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    呼吸器外科領域では高度の黄疸を合併した肺癌症例の手術を行うことは非常に少ない.今回我々は稀な体質性黄疸であるCrigler-Najjar症候群II型に合併した肺癌の手術症例を経験したので報告する.症例は80歳女性,検診胸部X線で異常影を指摘された.CTで右中葉S4に3.5 cmの充実性腫瘤を認め,気管支鏡検査で腺癌と診断され当科に紹介された.生下時より原因不明の体質性黄疸を認めており,精査にてCrigler-Najjar症候群II型と診断された.極めて稀な疾患であり,他科合同で周術期管理について検討し手術可能と判断した.全身麻酔下,硬膜外麻酔併用で胸腔鏡下右中葉切除術およびND2a-2リンパ節郭清を施行した.術後経過は良好で,術後1日目に胸腔ドレーンを抜去し,術後4日目に経過良好で退院した.術後補助化学療法としてUFT内服を2年間行い,術後4年無再発生存中である.

  • 土橋 亮太, 石原 駿太, 下村 雅律, 常塚 啓彰, 池部 智之, 井上 匡美
    2024 年 38 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は31歳男性.左大腿部骨肉腫の両側多発肺転移に対して原発巣切除,化学療法後に肺転移切除を施行した.その後再発し化学療法が再開されたが,効果が乏しくパゾパニブ(600 mg/日)が開始された.投与4日目に経過観察していた左気胸が増悪し胸腔ドレナージ・癒着療法(タルク,OK-432)を行った.保存的治療で改善を認めず手術適応とした.癒着療法により胸膜は肥厚していたが,癒着は軽度であった.腫瘍近傍から著明な気漏を認め部分切除・気漏修復術を行った.手術後は気漏を認めず術後9病日に退院した.組織学的に,腫瘍周囲の臓側胸膜が壊死に陥り腫瘍が胸膜外に露出していた.また胸膜肥厚部にシリカの沈着と肉芽形成を認めたが腫瘍近傍の胸膜破綻部には胸膜の増生を認めなかった.このように軟部腫瘍肺転移に対しパゾパニブ投与中に発症した遷延性気漏では臓側胸膜が破綻している可能性があり,外科的治療の適応を考慮する必要がある.

  • 高田 直哉, 中根 茂
    2024 年 38 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    60歳,男性.X-7年12月,両側多発結節及びすりガラス陰影(ground-glass opacity;以下GGO)を指摘され,X-6年2月,同年6月に二期的手術を施行し,同時性両側多発肺腺癌と診断した.X-4年6月,左縦隔リンパ節再発に対して,アファチニブ投与を開始した.その後,両側多発GGOの出現を認めたが,増大は緩徐であった.X年10月,右肺S9のGGO,S10の結節及び右肺S1楔状切除断端陰影が急速に増大し,最大の予後規定因子と考えられ,サルベージ手術として右肺下葉楔状切除及び右肺S1区域切除,ND1aを施行した.病理検査では,異時性両側多発肺腺癌,楔状切除断端再発と診断された.術後10ヵ月現在,アファチニブ投与中で遺残病変の進行なく,生存中である.

  • 山下 直樹, 宗 哲哉, 吉松 隆, 小山 倫浩
    2024 年 38 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    症例:64歳,男性.左肺尖部に菌球を認め,単純性肺アスペルギローマ(SPA)の診断で近医にて加療されていた.徐々に増大傾向であったため,手術目的に当院紹介となった.術前検査よりSPAの診断で,左肺上葉切除を行うこととした.術中所見にて左上葉S1+2から左無名静脈に流入する索状物を認めた.肺門部を検索し,上葉から左房へ流入する上肺静脈が欠損していることが判明した.左上肺静脈が左無名静脈に流入する部分肺静脈還流異常(PAPVC)の診断となり,術前CTを再評価すると,左上肺静脈が左無名静脈に流入する還流異常を確認することができた.今回は切除肺葉内のPAPVCであり,重篤な合併症にはつながらなかったが,術前評価の重要性を確認した症例であった.

  • 松岡 永, 溝渕 海, 山田 亮, 吉田 光輝, 谷田 信行
    2024 年 38 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    75歳,男性.腹部膨満感,食欲不振で来院され,CTで左胸水貯留と第7肋骨浸潤を疑う腫瘤を認めた.胸腔ドレナージにて血性胸水を認め,原発性肺癌疑いで,診断目的に胸腔鏡下左肺部分切除+肋骨針生検を施行した.肺腫瘤は血腫であったが,肋骨病変の針生検から血管肉腫と診断された.PET-CTでは胸壁腫瘍部と左腋窩リンパ節に集積を認めた.根治手術として左胸壁腫瘍切除+腋窩リンパ節郭清術を施行した.組織診にて胸壁に最大径2.1 cmの類上皮血管肉腫を認め,多数の左腋窩リンパ節転移を確認できた.術後左腋窩・鎖骨上リンパ節に追加放射線治療として50 Gyを照射した.術後3ヵ月のPET-CTで左傍胸骨リンパ節にFDGの集積を認め,転移と判断して左内胸骨領域にも放射線治療50 Gyを施行した.以後再発兆候を認めず5年間経過観察中である.血管肉腫のリンパ節転移に対して放射線治療は有効な治療手段になると考えられる.

  • 仲川 知樹, 鍵本 篤志, 石田 聖幸, 松浦 範明, 倉岡 和矢, 三村 剛史
    2024 年 38 巻 1 号 p. 74-78
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    Communicating Bronchopulmonary Foregut Malformation(CBPFM)は,食道または胃と気道に先天的な交通が存在することと定義される稀な先天性異常である.このたび成人期に発症し,診断に苦慮したCBPFMの一例を経験したため報告する.

    症例は30歳代男性.数年前より出現すると約30分治まらない咳嗽や喀痰を自覚していた.胸部CTで気管分岐部下の食道左側に沿った軟部陰影を指摘され当院紹介となった.PETでも異常集積は認められなかったが,悪性腫瘍の否定もできないため手術を行った.胸腔鏡では,正常肺とは独立した無気肺状の構造物を認めた.根部を剥離すると食道を起始とした気管支様の構造物が確認できた.自動縫合器で切離し摘出,病理組織学的検査で気管支・肺胞構造を確認し,食道と交通したCBPFM,Srikanth分類のGroup IIIと診断した.

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