日本呼吸器外科学会雑誌
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37 巻, 6 号
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巻頭言
原著
  • 田中 諒, 神崎 隆, 渡 洋和, 川岸 紗千, 大村 彰勲, 馬庭 知弘, 岡見 次郎
    2023 年 37 巻 6 号 p. 502-507
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    非小細胞肺癌術後再発時に肝転移のみを認めた11例の検討を行った.男/女:9/2例,手術時年齢中央値73(45-78)歳,術式は葉/区切:10/1例.組織型は腺癌(Ad)/扁平上皮癌(Sq)/他:6/4/1例.肺切除から肝転移再発までの期間は,中央値7(3-12)ヵ月.再発時治療は,肝切除1例,化学療法10例.肝転移再発後全例で進行を認め,再発治療後のPFS中央値は5(1-23)ヵ月,OS中央値は21(8-47)ヵ月であった.肝転移後経過中4例(内Sq3例)で肝以外に再発を認めず,7例(Ad/Sq:6/1例)で肝以外の再発を認め,肝以外に再発を認めない症例はSqが多い傾向であった.全例で肝転移と脳転移の病勢制御が困難で,最終転帰は担癌生存4例,原病死7例であった.本検討と文献的考察を合わせ,肺癌術後肝転移再発に対してはSqが局所治療の適応と考えられるが,今後更なる症例集積が望ましい.

  • 柚木 健太朗, 坪島 顕司, 大橋 康太, 栗原 正利
    2023 年 37 巻 6 号 p. 508-514
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    【はじめに】原発性自然気胸(Primary spontaneous pneumothorax:PSP)はしばしば対側肺にも発症するため,患者は対側気胸について不安を抱えることになる.しかし,再発リスクについて研究論文がほとんどない.【対象と方法】PSPに対し2018年1月から2021年3月に胸腔鏡下手術を施行した227例を対象として対側気胸発症に関与する因子を検討した.【結果】年齢の中央値は22歳で,対側ブラ最大径の中央値は9.8 mmであった.対側気胸は27例(11.9%)で発症した.単・多変量解析共に25歳未満,対側ブラ最大径10 mm以上が対側気胸発症に関する有意因子であり,特に2因子の共有例は25.7%の割合で対側気胸を発症した.【結論】PSP初回手術時に25歳未満かつ対側ブラ最大径10 mm以上であると対側気胸発症が起こりやすい.

症例
  • 仲田 庄志, 堂阪 啓起, 瓜生 拓夢, 神宮 達也, 石井 達也, 出射 由香
    2023 年 37 巻 6 号 p. 515-520
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    関節リウマチに対してメトトレキサートは重要な治療薬であるが,稀にメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorder,以下MTX-LPD)を起こすことがある.79歳の女性.関節リウマチに対してメトトレキサートを内服中であった.200X年に左乳癌に対し乳房温存手術を行い,200X+11年に左腋窩リンパ節腫大を認めた.リンパ節生検の結果,明らかな悪性所見を認めず.200X+12年にCTで右肺下葉に2個の腫瘍(29 mm,9 mm)と右肺上葉の陰影が指摘された.経気管支肺生検では確定的な病理診断が得られず,右肺下葉切除を施行した.病理でMTX-LPDと乳癌肺転移の合併と診断された.メトトレキサート中止後に右肺上葉の陰影は消失した.メトトレキサート内服の患者ではMTX-LPDを発症する可能性があり注意を要する.

  • 高桑 佑佳, 井上 玲, 飯村 泰昭
    2023 年 37 巻 6 号 p. 521-526
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    胸部外傷の中でも鋭的外傷による気管・気管支損傷は稀であり,周囲臓器損傷の合併により死亡率の高い外傷である.今回我々は鋭的胸部外傷による気管損傷に対して緊急手術を行い救命し得た1例を経験した.症例は59歳,女性.右鎖骨上より尾側方向に包丁の刺入を認め緊急手術となった.包丁が刺入したままだったため体位変換が困難であり,仰臥位・胸骨正中切開で手術を開始した.気管右壁に損傷を認めたが,周囲臓器損傷は認めなかった.途中で肋間開胸を追加することで良好な視野を確保することができ,肺動脈・肺静脈を確保した上で安全に包丁を抜去,気管の修復が可能であった.術後重篤な合併症はなく経過良好であった.気管損傷の基本は外科的修復だが,気管損傷部位によってアプローチは異なり,症例ごとにアプローチ方法を検討する必要がある.また大血管や心臓などの周囲臓器損傷の合併を常に考慮して手術を行う必要がある.

  • 吉野 流世, 吉田 奈七, 上小倉 佑機, 湯澤 明夏, 谷野 美智枝, 北田 正博
    2023 年 37 巻 6 号 p. 527-532
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性.42歳時に左乳癌に対し,術前薬物療法後に乳房温存手術を施行しypT1aN0M0(ypStageIA)であった.術後補助療法としてホルモン療法+抗HER2療法を施行後,経過観察中であった.10年目検査のCTで右肺上葉に10 mm大の小結節が出現し乳癌転移と考え,確定診断のため胸腔鏡補助下に肺部分切除を施行し平滑筋肉腫の診断であった.その後のPET検査で右後腹膜,骨盤上部にSUV max 4.6の腫瘤性病変を認め,後腹膜腫瘍疑いで後腹膜腫瘍・右腎尿管切除術を施行し,肺と同様の病理診断であった.以上より後腹膜平滑筋肉腫原発転移性肺腫瘍の診断となった.本症例より,転移性の孤立性肺結節を疑った際に,想定外の腫瘍からの転移も念頭におくべきである.

  • 加藤 雅人, 山本 聡, 小島 勝雄
    2023 年 37 巻 6 号 p. 533-538
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,男性.定期健診の胸部エックス線写真で左肺下葉に結節病変を指摘された. 胸部CTで左肺下葉に2.5 cm大の腫瘍を認め,気管支鏡検査で原発性肺癌(組織型は不明,T1cN0M0 cStageIA3)と診断された. 肺機能検査で肺胞拡散能(diffuse capacity of lung for carbon monoxide:DLCO)の低下(%DLCO-42.5%)を認め,手術のリスクが高いと判断され,定位放射線照射(48 Gy)を受けた.腫瘍は著明に縮小したが,治療終了12ヵ月後のCTで腫瘍の再増大を認めたため,胸腔鏡下左肺下葉切除+リンパ節郭清術を施行した. 術後病理検査で肺類基底細胞型扁平上皮癌と診断され,術後2年8ヵ月の現在,無再発生存中である.

  • 栃井 祥子, 長野 裕充, 根木 隆浩, 栃井 大輔, 須田 隆
    2023 年 37 巻 6 号 p. 539-544
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性.咳嗽,喀血,胸痛を主訴に来院.胸部造影CTを施行したところ,以前から指摘されていた左胸腔内腫瘤の増大を認めた.画像所見よりChronic expanding hematoma(CEH)と診断し,術前に腫瘤への流入血管を塞栓した後に手術に臨んだ.右側臥位にて左第5肋間から肋骨弓下につなげる弧状切開とし第6-10肋軟骨融合部を切断し,跳ね上げるようにして開胸した.これにより,肺門と横隔膜周囲の良好な視野を確保することができた.腫瘤は胸壁,肺,横隔膜と強固に癒着していたが,左肺下葉と左舌区,横隔膜とともに血腫を破らずにen blocに切除できた.残存肺は小さく,術後肺捻転や術後肺瘻を危惧したため,Polytetrafluoroethylene sheet(ePTFEシート)により胸腔内に隔壁を形成し横隔膜は再建した.現在,術後1年2ヵ月再発なく経過観察中である.

  • 大熊 真理, 松永 健志, 福井 麻里子, 服部 有俊, 高持 一矢, 鈴木 健司
    2023 年 37 巻 6 号 p. 545-550
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    今回我々は,右主気管支を一度離断することで視野を確保し,安全に完全切除した巨大中縦隔腫瘍の1例を経験したので報告する.神経線維腫は縦隔神経原性腫瘍の約20%を占め,20-30代に好発する腫瘍である.症例は53歳,男性.前医整形外科で骨盤内悪性末梢神経鞘腫・ダンベル型後縦隔神経節細胞腫の切除歴あり.中縦隔に増大する腫瘍を指摘され,当科へ紹介.造影CTで主座は中縦隔であったが,腫瘍は上縦隔から下縦隔にかけて存在し,左房,右主肺動脈を圧排する巨大な腫瘍であった.手術は左側臥位,ロボット支援下で開始したが,左房,右主肺動脈近傍での浸潤傾向が強いことから後側方開胸へコンバートした.さらに大動脈,左主肺動脈近傍での剥離に難渋したため,視野確保のために一度右主気管支を切断することで視野を確保,腫瘍を摘除した.切離した右主気管支を吻合し手術を終了した.術後は左反回神経麻痺を認めたが,その他の合併症なく経過良好に退院,外来経過観察中である.病理診断では神経線維腫の診断であった.巨大中縦隔腫瘍に対して右側からアプローチする際,右主気管支を一時的に切断することで良好な視野を得ることができた.

  • 井手 祥吾, 椎名 隆之, 髙砂 敬一郎
    2023 年 37 巻 6 号 p. 551-557
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    子宮筋腫組織が転移する良性転移性平滑筋腫が閉経後の経過で増大するのは稀である.閉経後の経過で増大する両側多発肺結節を呈した良性転移性平滑筋腫の一例を報告する.

    症例は72歳,女性.5年前に子宮腫瘤と左肺S6の類円形孤立性結節を認めた.子宮肉腫および肺転移が疑われ,子宮全摘術,両側付属器切除術を施行したが子宮筋腫の診断であり肺結節は経過観察していたところ,CTで左肺S6結節の増大,両肺に新規結節を認めた.FDG-PETで肺結節,遠隔部位に異常集積は認めなかったが,悪性腫瘍の肺転移を否定できず,診断目的に胸腔鏡下左肺部分切除術を施行した.肺結節は悪性所見を認めず,既往の子宮筋腫と酷似しており良性転移性平滑筋腫と診断した.術後半年のCTで結節の増大を認めたが無症状であり,経過観察中である.

    良性転移性平滑筋腫は閉経後の経過で増大する症例も稀にあり,肺結節の鑑別診断目的の外科切除が有用と推察された.

  • 岩本 拓也, 村西 佑介, 河野 朋哉, 宮原 亮
    2023 年 37 巻 6 号 p. 558-562
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    54歳女性.肺癌に対するロボット支援胸腔鏡下右上葉切除後1日目のX線で右上肺野縦郭側の透過性低下を認めた.術後2日目に施行した造影CTで中葉の無気肺が疑われた.血液検査,全身状態に問題なく慎重に経過観察したが透過性の改善を認めず術後5日目に再手術を行った.術中所見では中葉うっ血壊死を生じていた.下葉の拡張により中葉静脈が頭側へ牽引されたために静脈還流障害を生じていた可能性があると考えられた.極めて稀な合併症と考えられ,その機序について若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 後藤 まどか, 市川 靖久, 坪内 秀樹, 川角 佑太, 内山 美佳, 森 正一
    2023 年 37 巻 6 号 p. 563-568
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    形質細胞腫には種々の病型があり,その多くは多発性骨髄腫である.多発性骨髄腫は骨髄での形質細胞増殖と全身の臓器障害を特徴とし,骨髄外に腫瘍を形成することもある.骨髄に形質細胞増殖を認めず,髄外に孤立性増殖を認める疾患が孤立性形質細胞腫である.肺原発は稀で,非特異的な所見を呈し他疾患との鑑別が困難である.症例は72歳,女性.肝細胞癌の経過観察中に右上葉に腫瘤を指摘され,X年に右上葉部分切除術を施行し,病理所見で形質細胞の増殖を認めた.骨髄検査で形質細胞増殖を認めず,血清M蛋白や尿蛋白・Bence-Jones蛋白も検出されなかったため,肺孤立性形質細胞腫と診断した.肺形質細胞腫を認めた場合,多発性骨髄腫の髄外病変である可能性があるため,それを除外する必要がある.孤立性形質細胞腫では30%程度で多発性骨髄腫への進展が見られ,血清蛋白を含む生化学検査による経過観察が必要である.

  • 徳永 拓也, 今村 信宏, 上田 和弘, 梅田 翔太, 梅原 正, 佐藤 雅美
    2023 年 37 巻 6 号 p. 569-574
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    稀に自然気胸を契機に原発性肺癌を指摘されることがある.気胸の手術中に原発性肺癌の可能性が指摘されるのは更に稀である.今回,気胸の手術所見から生検を行い肺癌の診断を得た症例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.呼吸困難感を主訴に当院を受診した.7日間の胸腔ドレナージで気胸の改善が得られなかったため,手術を行った.胸腔内には炎症によると思われる胸膜肥厚と癒着を認めたが,肺癌を疑う結節性病変を認めなかった.囊胞性病変のない肺表面からのリークを複数箇所に認めた.悪性疾患の可能性を考慮し壁側胸膜と肺を生検し,原発性肺腺癌による癌性胸膜炎と診断した.術前画像検査や術中肉眼所見で異常がない場合でも,不自然な難治性気胸に対して組織生検を考慮することが重要である.

  • 鈴木 克幸, 遠藤 誠, 中塚 真里那, 塩野 知志
    2023 年 37 巻 6 号 p. 575-579
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    Transmanubrial osteomuscular sparing approach(TMA)における術後創部合併症の1例を経験した.症例は48歳男性.右肺尖部肺癌に対し術前導入化学放射線治療後にTMAによる右腕頭静脈合併切除を伴う右上葉切除を施行し,胸骨はワイヤーで固定した.術後の経過は良好で,日常的に肉体労働に従事していた.術後2年9ヵ月にワイヤーの離断が原因と思われる創感染と胸骨骨髄炎を発症し,ワイヤー抜去及び洗浄ドレナージを施行した.破損したワイヤーは2ヵ所で完全に離断していた.TMAでは胸骨の固定が不安定になる可能性があり,特に活発な活動の可能性のある若年者では術後ある程度経過しても,創部合併症を発生しうることを念頭に置く必要がある.

  • 大湯 岳, 髙橋 有毅, 高瀬 貴章, 宮島 正博, 渡辺 敦
    2023 年 37 巻 6 号 p. 580-584
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル フリー

    気道損傷はロボット支援下(RATS)肺葉切除の術中合併症の約0.2%と報告されている.RATS肺葉切除術中気道損傷に対してRATSで修復を行った2例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例1は71歳,女性.右上葉肺腺癌に対してRATS右上葉切除+2a-1リンパ節郭清(ND)を施行し,上下葉間剥離の際右主気管支膜様部を損傷した.症例2は68歳,女性.左上葉肺腺癌に対してRATS左上葉切除+ND2a-1を施行し,リンパ節剥離や気管支切離の際に気管支断端近位膜様部を損傷した.ともに初期の症例で,1例目は気管支周囲組織の剥離の際に展開不良と解剖学的誤認が,2例目は鉗子の通電およびStapler挿入が原因と考えられた.ともにRATS下で瘻孔を縫合閉鎖した.RATS肺葉切除においては気道損傷を回避すべく注意が必要である.RATS施行中の気道損傷に対してのRATS下修復は,安全に施行可能である.

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