日本呼吸器外科学会雑誌
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34 巻, 6 号
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巻頭言
原著
  • 山田 響子, 清水 公裕, 小山 力, 松岡 峻一郎, 竹田 哲, 江口 隆, 濱中 一敏
    2020 年 34 巻 6 号 p. 566-571
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    降下性壊死性縦隔炎は,咽頭感染や歯科領域感染が縦隔に波及し,重篤化しやすく,致死的経過をたどることもある疾患である.今回,当科で縦隔ドレナージ手術を施行した13例の臨床経過について検討した.13例中12例で胸腔鏡下縦隔ドレナージ術を行い,12例は右側胸腔からアプローチした.また,2例は耳鼻咽喉科で頚部ドレナージを施行されたが,その後に縦隔への進展を認め,二期的な縦隔ドレナージ術を要した.術後在院期間は平均46日と長期間を要した.術後に死亡した1例は,診断までに約2週間を要した症例だった.降下性壊死性縦隔炎に対するドレナージ方法やアプローチについては見解が統一されていない部分があるが,早期診断,及び胸腔鏡アプローチによる低侵襲な外科的縦隔ドレナージが生存率向上に寄与すると考える.また,CTによる進展経路の同定により,その後の進行はある程度予測可能であり,術式検討に有効であるといえる.

  • 福井 哲矢, 南 紀久子, 若月 悠佑, 松倉 規
    2020 年 34 巻 6 号 p. 572-577
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    二次救急病院である当院で2015年から2019年に入院加療を要した肋骨骨折90例を後方視的に分析した.年齢は72.5(16-96)歳,受傷肋骨本数は4(1-10)本,在院日数は9(2-60)日,転帰は退院68例(75.6%),転院22例(24.4%)であった.合併損傷を75例(83.3%)に認めた.血気胸で35例(38.9%)に胸腔ドレナージを施行し,留置期間は3(1-13)日,受傷からドレナージ開始までの期間は2(0-17)日であった.大量血胸2例に緊急手術,フレイルチェスト2例および骨片突出3例に準緊急から待機的に手術を施行した.経過中に4名(4.4%)が肺炎を発症し,2例で気管挿管を要した.肋骨骨折はよく遭遇する外傷だが,合併損傷の診断および他科との連携,手術や胸腔ドレナージの適応判断,肺炎発症に留意した疼痛管理および呼吸ケア,退院支援など総合的なマネージメントを要する.

症例
  • 吉田 美由紀, 宮原 聡, 山本 玲央那, 佐藤 寿彦, 白石 武史, 岩﨑 昭憲
    2020 年 34 巻 6 号 p. 578-581
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    胸腺腫は,心膜や肺などの近接臓器への直接浸潤がしばしば認められるが,気管支内腔を中枢に向かって進展することはまれである.今回我々は,胸腺腫術後11年で左上葉部分切除断端に再発を認め,気管支内腔進展を来したことから,左上葉管状切除を必要とした症例を経験した.59歳男性で,11年前に他院で胸腺腫type B3に対して胸腺・胸腺腫摘出術,左上葉部分切除術および横隔神経合併切除を施行された.咳嗽を主訴に近医を受診し左上葉の8 cm大の腫瘤を指摘され,原発性肺癌の疑いで当科紹介となった.左上葉気管支はポリープ状の腫瘍により閉塞し,気管支鏡生検では診断が付かず,診断と治療のために左上葉切除を行った.術中迅速病理検査で胸腺腫再発と診断され,上葉気管支断端が陽性であったことから管状切除を行い,換気後に肺動脈の屈曲を認めたために肺動脈形成を追加した.

  • 奥谷 大介, 片岡 正文, 清水 大
    2020 年 34 巻 6 号 p. 582-587
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    診断的気管支鏡検査後の合併症である肺膿瘍が穿破して膿胸に至る症例は稀である.我々は肺癌に対する経気管支生検後,肺膿瘍から膿胸へ進展した症例を2例経験した.1例目は68歳男性.左舌区中枢に存在する47×34 mmの腫瘤とPET-CTにて有意に集積する大動脈傍リンパ節の腫大を認める扁平上皮癌c-Stage IIIA(T2aN2M0).気管支鏡生検10日後に左肺膿瘍を認め,その1週間後に左膿胸に進展した.最終的に開窓術にて感染制御が得られ,化学療法を開始することができた.2例目は69歳男性.左S4に存在する52×48 mmの腺扁平上皮癌c-Stage IIB(T3N0M0).気管支鏡生検7日後のCTにて左肺の虚脱,舌区肺実質内の液面形成,左胸腔内の液体貯留が認められた.生検12日後に左膿胸腔掻爬+左上葉切除術が施行された.肺癌に続発する膿胸に対して積極的な外科治療を念頭に置くべきである.

  • 飯田 崇博, 坂口 浩三, 二反田 博之, 山崎 庸弘, 石田 博徳, 金子 公一
    2020 年 34 巻 6 号 p. 588-594
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.47年前に左肺全摘,12年前に左膿胸に対して胸腔内洗浄を施行した.数年前より緩徐に進行する呼吸苦を認め来院した.縦隔偏位を伴う左慢性膿胸と診断し,胸腔ドレナージを施行するも培養よりメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が検出され,慢性膿胸に対して開窓術(第4-7肋骨切除)を施行した.胸腔内は易出血性の肉芽と器質化したフィブリン塊が占め,感染を伴ったChronic expanding hematoma(CEH)と診断した.CEHは被膜を含めた完全切除が最善とされるが,大量出血により致命的となる症例も報告されている.今回,我々は開窓術および内容除去に留め,周術期の管理を経て易出血性の肉芽の自然な脱落を促すことで局所の感染制御が可能であった1例を経験した.CEHの治療として侵襲の程度を考慮し,症例に応じた治療戦略が必要である.

  • 長 靖, 加地 苗人, 椎名 伸行, 野村 俊介, 本橋 雄介, 佐藤 昌明
    2020 年 34 巻 6 号 p. 595-601
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    気管支周囲に発生したRosai-Dorfman disease(RDD)の1例を経験した.症例は61歳,女性.喘鳴を主訴に気管支喘息として薬物治療を受けるも軽快せず,CT施行し,右肺中下葉中枢側を中心に気管支壁肥厚と気管支狭窄を認めた.気管支鏡検査にて中間気管支幹に全周性隆起を認め,末梢気管支の閉塞を認めた.生検するも確定診断には至らなかった.FDG-PETでは同部に集積(SUVmax 15.3)を認めた.悪性病変を否定できず,手術(右肺中下葉切除術+ND2a-2)を施行した.切除標本の病理所見上,組織球などの浸潤による気管支血管周囲の線維化や組織球によるリンパ球や赤血球の貪食(emperipolesis)を認めた.免疫染色ではCD68(+),S100(+),CD1a(-)でありRDDと診断された.術後経過は良好で5年4ヵ月再発の兆候を認めていない.

  • 武市 悠, 中村 雄介, 山田 俊介, 岩崎 正之
    2020 年 34 巻 6 号 p. 602-606
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性.乳癌治療後の定期的な胸部CT検査で小型結節陰影を認め,胸腔鏡下手術で肺クリプトコッカス症と診断した.術後1ヵ月目の胸部CT検査で前縦隔に2 cm大の腫瘤病巣が出現した.そのわずか1ヵ月後には前縦隔の病巣は急速に増大.縦隔リンパ節,肺門部リンパ節の肺,左主気管支への進展,胸水貯留と共に,腹部リンパ節へも進展を認めた.CTガイド下針生検でT細胞性リンパ腫と診断.HTLV-1抗体陽性,HTLV-1プロウィルス陽性,CCR4陽性より,成人T細胞白血病リンパ腫と診断した.治療効果乏しく,発症から4ヵ月で永眠された.

  • 池内 洋史, 服部 有俊, 福井 麻里子, 松永 健志, 高持 一矢, 鈴木 健司
    2020 年 34 巻 6 号 p. 607-611
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    肺葉切除後の動脈血栓塞栓症は稀ではあるが,致死的になりうる重篤な合併症である.今回左肺上葉切除後に同時に2ヵ所の動脈血栓塞栓症を来した症例を経験したので報告する.

    症例は76歳男性.左肺癌に対して左肺上葉切除術+ND2a-1を施行,経過良好で第7病日に退院となった.第15病日に下腹部痛を認め,症状の増悪と水様便の出現により第16病日に救急外来を受診した.腹部造影CTで上腸間膜動脈内および左腎の造影不良を認め,上腸間膜動脈血栓症と左腎梗塞の多発血栓塞栓症と診断した.明らかな左肺静脈内血栓は指摘し得なかったが,精査で他の要因も否定的であり左肺上葉切除の関与が疑われた.抗凝固療法を開始し,上腸間膜動脈内血栓の縮小と,腸管運動・腎機能の改善を得た.

    左肺上葉切除は脳梗塞だけでなく多様な動脈血栓塞栓症を来す可能性が示唆され,術後合併症に注意を要する.

  • 檜山 紀子, 柳谷 昌弘, 松本 順
    2020 年 34 巻 6 号 p. 612-616
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    横隔膜交通症の外科的治療では確実な瘻孔の同定が必要である.今回我々はコントロール不良な肝性胸腹水を伴う横隔膜交通症に対して,インドシアニングリーンの腹腔内注入を併用し,赤外光観察可能な胸腔鏡を用いて瘻孔を同定し,良好な経過を得た1例を経験したので報告する.症例は50歳代男性,腎硬化症で維持血液透析中,肝硬変による大量腹水貯留で経過観察中に咳嗽・息切れを自覚した.精査の結果右大量胸水の貯留を認め,横隔膜交通症の疑いで審査胸腔鏡を行った.術前日に挿入した腹腔ドレーンから色素を注入しても自然光下では横隔膜に明らかな変化を認めなかったが,インドシアニングリーンを注入し赤外光下に観察すると菲薄化した瘻孔からの色素の漏出が確認できた.自動縫合器を用いて瘻孔を切除し,切除断端をポリグリコール酸シートとフィブリン糊で被覆した.本法は横隔膜交通症の瘻孔部位の同定に有用であった.

  • 藤田 顕弘, 田中 俊樹, 村上 順一, 中村 玉美, 吉峯 宗大, 濱野 公一
    2020 年 34 巻 6 号 p. 617-622
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は39歳男性.喀血で当院内科へ緊急入院となった.造影CTで左A10に仮性動脈瘤が疑われ,緊急で血管造影検査が施行された.明らかな出血源を認めなかったが,仮性動脈瘤からの出血と判断され左A10の塞栓術が施行された.7日後に再喀血を認め,再度血管造影検査が行われた.左B10に沿って蛇行する拡張した気管支動脈を認め,気管支動脈蔓状血管腫と診断された.同血管が出血源と判断され塞栓術が施行された.翌日に39度の発熱を認め,血液検査で白血球,CRP値の急激な上昇を認めた.肺梗塞,肺化膿症の発症が疑われ,緊急で胸腔鏡下左下葉切除術を施行した.今回喀血に対する緊急止血目的に肺動脈と気管支動脈の塞栓術後に,肺葉切除を要した1例を経験した.出血源が明確でなく肺動脈と気管支動脈ともに塞栓した場合は,肺梗塞,肺化膿症により急激に全身状態が悪化する場合があり,外科的治療介入の準備を早急に行う必要があると考えられた.

  • 大越 祐介, 竹尾 正彦, 勝山 栄治
    2020 年 34 巻 6 号 p. 623-627
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,男性.胆囊炎に対し胆囊摘出術を施行したが,術後胆管炎に起因する門脈血栓症を併発.その後,体重増加,腹水貯留を認めるようになった.利尿剤内服にて腹水コントロールを行ったが,術後1年目から腹水のみならず胸水貯留を認めるようになり,胸水の増加による呼吸困難を主訴に当院内科に緊急入院した.胸部X線写真で右側に著明な胸水を認めたため,胸腔ドレナージを行った.経過より横隔膜交通症と診断し手術を施行した.胸腔鏡下に右横隔膜に小孔を確認できたため,同部を含めるように補強材付き自動縫合器を用いて切除した.切除部を中心にフィブリン糊を散布し横隔膜を補強した.病理組織学的に炎症細胞の浸潤が認められ,悪性所見はなかった.術後経過は良好で現在,再発は認めていない.補強材付き自動縫合器を用いた横隔膜縫縮術は交通部の確実な閉鎖を行うのに有用な手技であると考えられた.

  • 川本 常喬, 井野川 英利, 沖田 理貴, 古川 公之, 林 雅太郎, 岡部 和倫
    2020 年 34 巻 6 号 p. 628-634
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は37歳女性.高Ca血症,intact PTH高値を契機に,CT検査で前縦隔腫瘤を指摘された.99mTc-MIBIシンチグラフィーで異常集積を認め,縦隔内異所性副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症(以下:PHPT)と診断された.胸腔内炭酸ガス送気併用右胸腔鏡下前縦隔腫瘍摘出術を施行した.術後1病日に低Ca血症および四肢の痺れを認めた.カルシウムを補充し,以後血清Ca値は正常下限で推移したが,四肢の痺れは術後9病日まで持続した.PHPTの治療は腫瘍の外科的切除が推奨される.血清Ca値は術後早期から低下し,術後2-4病日目に最低値となる症例が多いが,4-24%の症例では低Ca血症が遷延するとされる.近年,胸腔鏡手術が普及し入院期間が短縮可能となったが,PHPTの術後は低Ca血症の遷延を念頭に置いた身体所見や血清Ca値の慎重な経過観察が必要である.

  • 竹下 伸二, 村松 高
    2020 年 34 巻 6 号 p. 635-641
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は,50歳代の女性.健康診断で左下肺野に心陰影と重なる辺縁整な腫瘤影を指摘された.胸部造影CTおよびThree-dimensional CTで胸部下行大動脈から分岐し,左肺底区に直接流入する最大径8.5 mmの異常血管を認めた.左下葉は正常肺であり,明らかな分画肺は認められなかった.以上より肺底動脈大動脈起始症(Pryce I型)と診断した.異常血管の分布環流域がほぼ限局していた為,胸腔鏡下に自動縫合機を用いて,異常血管切除のみを施行した.術後6ヵ月後の胸部造影CT上,異常血管の分布環流域における肺静脈の流量減少を認めた.比較的稀な肺底動脈大動脈起始症(Pryce I型)に対し,異常血管切除のみで良好な経過を経験したので,診断,術式について若干の文献的考察を加え報告する.

  • 下山 孝一郎, 佐野 功, 安倍 邦子, 重松 和人, 谷口 英樹
    2020 年 34 巻 6 号 p. 642-647
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    我々は10代女性に発生した,組織学的に稀な胸腺過形成を伴った胸腺脂肪腫の一例を経験したので報告する.症例は16歳女性.高校入学時健康診断の胸部レントゲン写真で心拡大を指摘され当科紹介受診となった.自覚症状は認めず,その他明らかな理学的所見も認めなかった.胸部CTと胸部MRIでは前縦隔に17 cm大の巨大腫瘤影を認めたため,胸腔鏡補助下胸骨正中切開前縦隔腫瘍および胸腺摘出術を行った.術後病理組織検査では脂肪組織と胸腺過形成組織の混在を認めた.病理診断コンサルテーションを行ったところ,胸腺脂肪腫が胸腺過形成を伴うことは非常に稀であるが存在するとの報告があり,胸腺過形成を伴う胸腺脂肪腫の最終診断となった.胸腺脂肪腫は比較的稀な疾患であるため,典型的ではない組織の混在を呈している場合は診断に難渋することがある.非常に稀な胸腺過形成を伴った胸腺脂肪腫を経験した.

  • 仲田 庄志, 竹中 賢, 永田 憲司, 福田 郁恵, 細井 慶太, 奥村 好邦
    2020 年 34 巻 6 号 p. 648-653
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    目的:間質性肺炎や巨大肺囊胞を伴う気胸では治療に難渋することがある.両者を合併し,再発を繰り返した気胸に対して,全身麻酔下に治療を行った.症例:75歳,男性.60歳代に皮膚筋炎と診断され,間質性肺炎(膠原病肺)の急性増悪を繰り返し,ステロイド製剤や免疫抑制剤の投与のほかに,在宅酸素療法を受けていた.突然の呼吸困難を主訴に当院を受診し,左気胸と診断した.保存的に行われた治療で効果が見られなかったため全身麻酔下に手術を行った.手術では広範囲な癒着を剥離し,巨大肺囊胞を開放して底部に酸化セルロースを充填し,その上に傍心膜脂肪組織を留置して肺囊胞壁を縫縮した.術後1年8ヵ月経過したが,気胸の再発やブラ新生を認めなかった.結語:難治性気胸に対する治療選択は個々の症例により検討すべきで,今回は巨大な肺囊胞に有する気胸に対し傍心膜脂肪組織を用いて治療した.

  • 石川 成美, 岡田 悟, 加藤 大志朗, 常塚 啓彰, 下村 雅律, 井上 匡美
    2020 年 34 巻 6 号 p. 654-660
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    ソマトスタチン類似物質111In-ペンテトリオチドを用いたソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS,オクトレオスキャン)が本邦では2015年に保険収載され,ソマトスタチン受容体を発現するカルチノイド腫瘍に対して使用できるようになっている.症例1は77歳男性,肺定型カルチノイド(stage IA)に対して右肺中葉切除後,術後6年8ヵ月のCT検査で気管分岐下リンパ節腫大を認めた.FDG-PET/CTでは淡い集積のみであったがSRSで強い集積を認めたためカルチノイドの転移再発と判断し,縦隔リンパ節郭清を施行した.症例2は76歳男性,胸部CT下検査で右上葉肺腫瘤とそれに連続し上葉気管支入口部に至る病変を認め,気管支鏡検査で肺異型カルチノイドと診断した.SRSでFDG-PET/CTでは指摘し得なかった右腸骨の病変を認めたため,MRIを追加し肺カルチノイドの骨転移と診断した.SRSは,肺カルチノイドの再発・病期診断に有用な可能性があると考えられた.

  • 木谷 聡一郎, 谷口 大輔, 土谷 智史, 石田 佳央理, 福岡 順也, 永安 武
    2020 年 34 巻 6 号 p. 661-665
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    症例は,63歳,男性.膵頭部癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行された12年後に,胸部単純CTで右肺上葉に胸膜陥入像を伴う充実性結節影とその近傍の小結節影を指摘された.PET/CTで同部位と左鼠径リンパ節に強い集積を認め,経気管支肺生検では腺癌の診断で膵癌の肺転移の可能性も示唆された.しかし,臨床経過と画像所見から原発性肺癌も否定できなかったため,診断的治療を目的として胸腔鏡下右上葉切除術と左鼠径リンパ節切除を施行した.病理組織診断結果は,いずれも膵癌の肺転移であった.術後化学療法を行い,術後12ヵ月間無再発生存中である.膵癌は一般に進行が早く,遠隔転移があれば通常切除適応はなく,化学療法が選択される.しかし,膵癌においても一部進行の緩徐な集団があり,切除適応となる膵癌オリゴ転移に相当する症例がある.慎重に検討すれば,膵癌の肺転移に対する外科的切除は有効な治療選択肢の一つになると考えられた.

  • 福井 麻里子, 鈴木 未希子, 松永 健志, 高持 一矢, 王 志明, 鈴木 健司
    2020 年 34 巻 6 号 p. 666-670
    発行日: 2020/09/15
    公開日: 2020/09/15
    ジャーナル フリー

    76歳男性.右肺癌(腺癌)cT3N0M0に対し右肺上葉切除,胸壁合併切除を施行した.

    術後,leakの増悪と右肺野透過性低下を認めたため断端瘻が否定できず,第6病日に気管支鏡検査を施行.検査中に嘔吐,誤嚥しMendelson症候群をきたした.急速に進行する呼吸不全に対し人工呼吸管理を行い,ステロイド投与を開始した.急性期治療は奏功したが第66病日に血栓症併発と思われる心肺停止をきたし逝去した.

    Mendelson症候群は致死率が高く,また,術後という特殊な状況での治療は副次障害をきたしうる.病態や周術期の特徴を理解した治療選択が重要である.

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