日本呼吸器外科学会雑誌
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37 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 今村 智美, 坪島 顕司, 大橋 康太, 栗原 正利
    2023 年 37 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    一般的に原発性自然気胸(PSP)は高度虚脱症例を除けば重篤な経過をたどることが少ない.初発時には低侵襲な胸腔ドレナージ等の保存的治療が第一選択だが,その再発率は高い.そのため保存的治療の後に再発した場合には手術を施行することが多い.しかし初発時に高度虚脱を呈した症例では,胸腔ドレナージで一旦治癒しても比較的短期間で再び高度虚脱を来してしまうことをしばしば経験する.そのため筆者らは初発時の肺虚脱度を軽度・中等度虚脱群と高度虚脱群の2群にわけ,両群の再発率および再発時の肺虚脱度を比較検討した.両群の再発率はそれぞれ45.3%,51.5%であり有意差はなかったが,再発時の高度虚脱の発生率はそれぞれ9.8%,40.0%で有意差を認めた.初発時に高度虚脱を呈した症例は再び高度虚脱となることが示唆され,高度虚脱を呈したPSPでは初発時でも積極的に手術療法を考慮することが望ましい.

症例
  • 太田 澪, 松原 寛知, 佐藤 大輔, 大貫 雄一郎, 内田 嚴, 國光 多望
    2023 年 37 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は74歳女性.7年前に耳下腺腫瘍に対し手術を行い,耳下腺多形腺腫と診断された.既往にシェーグレン症候群,強皮症があり,経過観察のCTで左肺S1+2に1.0 cm,左肺S8に1.4 cm,右肺S2に0.6 cmの増大する結節影を認め,PETでも同部位に集積を認めた.まず左肺S8,S1+2の部分切除を,二期的に右肺S2の部分切除を行った.病理学的に再検討した結果, 既往の耳下腺腫瘍は多形腺腫由来筋上皮癌であり,肺病変は同筋上皮癌の肺転移と診断された.本症例において免疫染色でのKi-67の陽性率が非常に有用であり,文献的考察を加え報告する.

  • 荒木 恒太, 林 直宏, 鷲尾 一浩
    2023 年 37 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    肺気腫は通常タバコ煙への暴露に伴って進行するため若年者では稀である.また,肺気腫では肺癌の合併頻度が高いが若年での発癌は稀である.我々は高度肺気腫を有する若年者の気胸手術時の切除標本中に肺癌が発見された1例を経験したため報告する.症例は34歳男性.14歳から17歳までの4年間と20歳から34歳までの15年間に20本/日の喫煙歴があった.造船塗装業に従事し,兄に気胸歴があった.高度肺気腫を背景とした気胸に対し肺囊胞切除術を行った.広く切除した肺囊胞に2ヵ所の結節を認め,内1ヵ所が低分化扁平上皮癌と診断された.気胸には時に肺癌が合併するが高齢での報告が多く,若年では稀である.しかし,本症例のような高度肺気腫の場合には高度のタバコ煙暴露から肺癌の合併リスクが高い状況が推測されるため,若年者の気胸であっても肺癌に注意を払い診療に臨むべきである.

  • 大竹 宗太郎, 堀口 寿里安, 福冨 寿典, 小山 孝彦, 加藤 良一
    2023 年 37 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    COVID-19肺炎を契機にブラ・ブレブが新たに発生し気胸を発症した2手術例を報告する.症例1:50歳代後半,男性.喫煙歴なし.COVID-19中等症IIに対して酸素投与とレムデシビル,デキサメタゾン投与を行い回復したが,発症21日目にIII度の右気胸を発症し緊急入院した.CTで肺炎治療時に認めなかった肺囊胞を認めた.ドレナージ治療で改善せず,入院10日目に胸腔鏡下肺囊胞切除術を行った.病理診断はactiveな炎症性変化を伴ったブレブであった.症例2:60歳代前半,男性.喫煙歴なし.COVID-19中等症IIに対して症例1と同様の治療を行い回復したが,発症36日目にII度の左気胸を発症し緊急入院した.CTで肺炎治療時に認めなかった肺囊胞を認めた.ドレナージ治療で改善せず,入院20日目に胸腔鏡下肺囊胞切除術を行った.病理診断はfibroelastosisとブラ,出血・血腫の治癒過程であった.

  • 豊原 功侍, 武田 翔, 文元 聰志, 佐藤 澄, 花岡 伸治, 勝間田 敬弘
    2023 年 37 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    可逆性後頭葉白質脳症(Posterior reversible encephalopathy syndrome, 以下PRES)は意識障害,痙攣,頭痛,視力障害などを主症状とする症候群の1つで,血液脳関門の破綻を契機とした脳浮腫が誘因であると考えられている.今回,術後にPRESを発症した症例を経験したので報告する.症例は62歳女性,転移性肺癌に対して肺切除を行った.術後第2病日,疼痛誘因の高血圧(184/114 mmHg)以外は明らかな異常を認めなかった.同日,突然の全身性痙攣,視力障害を認めたため頭部MRI検査を施行した.両側前頭葉,頭頂葉,後頭葉の皮質下白質優位に高信号域を認めたため高血圧誘因のPRESであると診断した.降圧剤,抗痙攣薬にて加療を行い,後遺症なく退院となった.今回我々は同疾患についてまた肺切除後合併症の1つである脳梗塞との鑑別について,文献的考察を加えて報告する.

  • 北村 直也, 高橋 智彦, 嶋田 喜文, 川向 純, 尾嶋 紀洋, 新納 英樹
    2023 年 37 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は77歳男性.気腫合併肺線維症で通院中であったが,咳嗽後の労作時呼吸困難を主訴に胸部単純X線で左気胸と診断された.胸腔ドレナージを開始し,体動時のみごく少量の気瘻が続いた.第7病日に胸部単純X線で右上肺野に浸潤影を認め,胸部単純CTにて右上葉肺炎及び胸腔ドレーンの左上葉内留置を認めた.併発する肺炎により呼吸不全の状態であり,胸腔ドレーン留置のまま呼吸状態の改善を図った.第28病日に全身麻酔下に胸腔ドレーンを抜去した.術中所見では,胸腔ドレーンによる肺刺入部は瘻孔化し,同部位からの気瘻と,抜去に伴う出血は認めなかった.術後43日目に自宅退院となった.

    胸腔ドレーン留置に伴う肺損傷は緊急手術になることが多いが,本例のように待機的手術となる例は珍しい.呼吸状態が危惧される場合,気胸のコントロールが得られていれば,待機的な胸腔ドレーン抜去も選択肢の1つになり得ることが示唆された.

  • 内堀 篤樹, 垣淵 大地, 西村 元宏
    2023 年 37 巻 1 号 p. 42-49
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は25歳女性.既往歴はなし.健診の胸部エックス線写真で胸部異常陰影を指摘され精査目的に当院へ紹介受診した.胸部CTで後縦隔腫瘍を認め,強い造影効果を伴っていた.123I-MIBGシンチグラフィを追加で施行したところ腫瘍にMIBGの集積を認めなかったため,傍神経節腫は否定的と診断し神経鞘腫の疑いで手術の方針となった.胸腔鏡下後縦隔腫瘍切除術を施行した.腫瘍切除の途中に収縮期血圧200 mmHgを超える高血圧を認めたが,腫瘍摘出後に血圧は速やかに正常範囲に改善した.術後経過は良好で術後1日目にドレーンを抜去し術後3日目に退院となった.病理所見は傍神経節腫であった.現在,無治療経過観察中であるが明らかな再発は認めていない.後縦隔に発生する傍神経節腫は稀であるが,123I-MIBGシンチグラフィ偽陰性の可能性も念頭に置いて手術に臨むべきであると考えられた.

  • 中村 大輔, 砥石 政幸, 境澤 隆夫, 吾妻 寛之, 西村 秀紀
    2023 年 37 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.右下葉肺癌に対して胸腔鏡補助下右下葉切除+ND1b施行.術後CT検査で右胸腔内に被包化した胸水が出現し,3年間で緩徐に増大した.胸水細胞診で悪性所見を認めず,Chronic expanding hematoma(CEH)と診断し,胸郭成形術(第5~10肋骨切除)を施行した.術後5ヵ月の造影CTで右側胸部皮下に14×10 cmの液体貯留を認め,CEHの再発と診断した.OK-432による癒着術を行うも改善を認めず,開窓術を施行した.開窓術後にNegative pressure wound therapy(NPWT)を9週間施行した.創部は上皮化を得られ,開窓術後1年1ヵ月現在,CEH再々発なく経過している.CEHは稀な病態であるが,その治療方針に難渋することも多い.今回CEH再発症例に対してNPWTが奏功した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.

  • 川村 知裕, 久保 雅弘, 南 正人, 加門 千寿, 新谷 康, 池永 昌之
    2023 年 37 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    肺移植はQOL向上,救命を可能にするが,移植後も身体症状は継続する上,悪性腫瘍発症などのリスクもあり,緩和ケアが必要な患者群と考えられる.大学病院の移植後診療と在宅緩和ケアの連携で在宅生活中の症例を報告し,肺移植後診療における緩和ケアの必要性について検討する.60歳代女性.リンパ脈管筋腫症にて脳死左片肺移植施行8年後,上行結腸PTLD(post-lung transplant lymphoproliferative disorder)発症.免疫抑制調整,分子標的薬では腫瘍縮小せず.大学病院受診継続の上,在宅医による発熱・倦怠感などへの緩和ケア開始.経過中PTLDによる穿孔性腹膜炎を発症したが,保存的治療で改善.現在も在宅緩和ケアの上就労継続中である.肺移植後治療と緩和ケアの相補的介入により,肺移植の恩恵を最大化する可能性がある.肺移植後患者に緩和ケアが提供される体制を整備する必要がある.

  • 山本 耕三, 桑原 元尚, 山本 聡, 高瀬 ゆかり, 竹下 盛重
    2023 年 37 巻 1 号 p. 64-68
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    症例:69歳男性.胸痛を主訴に前医を受診した.胸部CTで左肺下葉に9 cm大の腫瘤を認めた.腫瘍マーカーはIL-2Rのみ1310 U/mlと高値であった.気管支鏡検査で確定診断は得られなかった.血液検査で炎症反応を認めており肺膿瘍が疑われ抗生剤治療が行われたが,1ヵ月後のCTで腫瘤は増大傾向にあり当科紹介となった.診断,治療目的に手術を施行したが肺門部が強固に癒着しており生検のみで終了した.病理診断はEBV陽性リンパ腫様肉芽腫症でありびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に準じた化学療法を施行後,腫瘍は縮小し左肺の含気は改善,IL-2Rは421 U/mlと正常を維持している.

    結語:確定診断に難渋した肺原発リンパ腫様肉芽腫症を経験した.肺化膿症などを疑い抗生物質を用いるものの反応に乏しい場合,本疾患の関与に留意する必要があるように思われた.

  • 大高 和人, 大竹 節之, 大野 耕一
    2023 年 37 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2023/01/15
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性.右上葉肺癌の診断でロボット支援胸腔鏡下右上葉切除術を施行した.上中葉間は自動縫合器で切離した.術後3日目の胸部X線で中葉無気肺を認めた.造影CT検査で,中葉肺動脈は開存していたが,中葉気管支,中葉静脈が途絶し,中葉のステイプルラインが下葉との葉間面に位置していた.中葉捻転と診断し,緊急手術を施行した.中葉は反時計回りに90度捻転していた.時計回りに中葉を回転させ捻転を解除した.初回手術動画を見直したところ,手術終了時に中葉のステイプルラインが下葉との葉間面に位置しており,この時点ですでに捻転していたと考えられた.右上葉切除後の中葉のステイプルラインは縦隔面に位置することが多い.術中所見,あるいは術後CT検査において,中葉のステイプルラインに着目することで,捻転を予防,あるいは診断できる可能性があると考えられた.

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