前壁梗塞 (MI) における運動時ST上昇の意義を解明する目的で, MIにて運動時ST上昇を認める上昇群20例, ST上昇を認めない不変群11例, 労作性狭心症 (EA) 12例および健常者 (N) 13例に症候限界性の多段階運動負荷試験を行ない, 空間速度心電図のQRS間隔, QRS環描記速度 (ρ
1, ρ
2波高) の変化を検討した.
N群に比べてMI群では, 安静時QRS時間の延長, ρ
1, ρ
2の減少を認めた.上昇群では不変群に比べて心室瘤を多く認めた.運動により, N群ではORS間隔は短縮し, ρ
1, ρ
2は増大したが, EA群ではQRS間隔は延長し, ρ
1, ρ
2の増大はみられず, 心筋虚血のために心室内興奮伝播が遅延したためと考えられた.MI群では運動によりQRS間隔は変化せず, 不変群ではρ
1, ρ
2は増加したが, 上昇群では増加せす, ρ
1の変化とST上昇の程度が逆相関した.このことは梗塞周辺部が運動中にさらに伸展され, 同部への興奮伝播が遅延し, ST上昇をきたしたものと推察された.
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