日本呼吸器外科学会雑誌
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巻頭言
症例
  • 森 恵利華, 分島 良, 石沢 遼太, 籠橋 千尋
    2024 年 38 巻 4 号 p. 326-332
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,男性.肺気腫合併あり.左上葉肺癌に対して胸腔鏡下左上葉切除を施行した.術後3病日,胸腔ドレーンのクランプテスト中に急激な皮下気腫の拡大を認めた.CT検査では残下葉S6に5.5 cm大の肺気瘤の形成を認め,エアリークが持続したため術後7病日に再手術を施行した.残下葉S8に著明なエアリークを伴う肺裂傷を認め修復を行ったが,肺気瘤からのエアリークはなく処置は行わなかった.再手術後の経過は良好で,肺気瘤は縮小傾向を認めた.術後補助化学療法を開始後,X線検査で左横隔膜上に9.5 cm大の肺気瘤の新出を認めた.一時的に血痰を伴ったが軽快し,以降化学療法は中止として経過観察の方針とした.術後1年時点で肺癌の再発はなく,いずれの肺気瘤も自然経過で消退を認めた.術後肺気瘤は非常に稀であり治療方針は定まっていないが,保存加療で治癒が得られる可能性が示唆された.

  • 竹内 真吾, 吉野 直之, 臼田 実男
    2024 年 38 巻 4 号 p. 333-337
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    部分肺静脈還流異常症(Partial Anomalous Pulmonary Venous Connection:PAPVC)は一部の肺静脈系が左心系に流入せず,右心房・上大静脈・下大静脈・奇静脈・左腕頭静脈などの右心系に流入する稀な先天奇形である.PAPVCに肺癌を合併すると切除肺葉と異常流入血管との位置関係が治療方針に重要となる事がある.症例は50歳男性,検診で胸部異常影を指摘され,精査の結果左肺腺癌と診断された.その際の術前胸部CTでPAPVCを指摘されたが,切除肺葉からの異常血管であった.肺癌に合併するPAPVCでは切除肺葉から還流する場合は特別な処置を必要としないが他肺葉に合併する場合には右心不全の懸念が生じ,慎重な手術戦略の検討を要する.今回我々は術前に診断し得たPAPVCに合併した肺癌を,術後合併症なく安全に肺葉切除を施行できた一例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

  • 後藤 英典, 中西 浩三
    2024 年 38 巻 4 号 p. 338-342
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    患者は30歳男性.フットサルのプレー中に呼吸困難と右胸痛を自覚したため当院を受診した.右特発性血気胸の診断で胸腔ドレナージが行われ,血性胸水が認められた.持続性の血性排液であったため,緊急手術の方針となった.搬入途中でショック状態を呈したため,細胞外液の急速投与が行われた.手術は右第6肋間中腋窩線部に挿入された胸腔ドレーン刺入部を利用した単孔式胸腔鏡手術で行われた.胸腔内に血腫と胸腔頂部壁側胸膜面に血管様索状物が認められ,同索状物が出血源と同定された.手術開始後約8分で,同部に対してバイポーラによる焼灼止血が行われた.血腫除去後,肺尖部の破裂ブラの切除が行われ,手術終了となった.手術時間63分,術中出血量41 ml.術後経過良好で,術後3日目に胸腔ドレーンを抜去,入院8日目に退院となった.胸腔ドレーン刺入部を利用した単孔式胸腔鏡手術は速やかに胸腔内の観察・止血を容易に行える点で有用である.

  • 脇 翔平, 久保 友次郎, 田尾 裕之
    2024 年 38 巻 4 号 p. 343-348
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は50代女性.前医で右乳房に12 mm大の腫瘍を指摘され,生検で浸潤性乳管癌と診断された.胸部CTで両肺に多発するすりガラス結節影を認め,多発肺転移の疑いで生検目的に当院紹介となった.肺結節に対して気管支鏡検査を行うも診断を得られず,切除生検目的に左S3区域切除術を施行した.病理診断はnodular lymphoid hyperplasia(NLH)で,悪性所見は認めなかった.その後乳癌に対して右乳房全摘出術および術後補助化学療法が施行された.乳癌加療開始から半年後の胸部CTで,すりガラス結節影は全て消退傾向を示した.NLHは稀な病態であり,本症例は肺生検および乳癌治療後に消退傾向を示すという特異的な経過を示したため,文献的考察を加え報告する.

  • 伊藤 大介, 鈴木 仁之, 庄村 心, 島本 亮
    2024 年 38 巻 4 号 p. 349-353
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    今回我々は囊胞性腫瘤像を呈した限局性悪性胸膜中皮腫の1手術例を経験したので報告する.症例は78歳男性.胸部異常陰影を指摘されたため,当院紹介となった.胸部CT検査では,左胸壁に接する12 cm大の囊胞性腫瘤影と,左胸水貯留を認めた.胸水検査では悪性所見は認めなかった.診断および治療目的で手術を施行した.手術は第6肋間中腋窩線上の開胸で行った.腫瘍と胸壁・肺との癒着は鈍的剥離可能であったが,心膜とは強固に癒着して剥離不能であったため,腫瘍に固着していた心膜も含めて腫瘍を摘出した.病理診断は肉腫型の悪性胸膜中皮腫であった.

  • 田中 伸佳, 懸川 誠一, 村上 眞也, 塚山 正市
    2024 年 38 巻 4 号 p. 354-358
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    背景.濾胞樹状細胞肉腫は,リンパ濾胞内の胚中心に存在する濾胞樹状細胞に由来する稀な悪性腫瘍である.症例.75歳,女性.左胸部の疼痛を自覚し,当院を受診した.胸部CTで前縦隔やや左側,胸骨に接する3.3 cmの腫瘤影を指摘された.胸腺腫を疑い,胸腔鏡下腫瘍切除を行った.術中所見として,腫瘍は胸骨~左肋軟骨部の背面にいびつな隆起性病変として確認された.病理組織検査では,硝子血管型Castleman病の組織の一部に核異型を伴う腫瘍細胞の増殖を認め,免疫染色ではCD21,CD35が陽性であり,濾胞樹状細胞肉腫と診断した.術後放射線照射40 Gyを施行し,術後約5年が経過し,無再発生存中である.結論.濾胞樹状細胞肉腫は稀な疾患であり,Castleman病との併存・移行例が報告されている.外科的切除によりその予後は比較的良好とされるが,局所再発や転移も報告されており,今後も経過観察が必要と考えられる.

  • 本田 貴裕, 田内 俊輔
    2024 年 38 巻 4 号 p. 359-364
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は27歳,女性.12歳時,15歳時に他院で左気胸の治療歴あり.左胸痛,呼吸困難を主訴に当院を受診し,左気胸を指摘され脱気で改善するも再発したため当科紹介となった.胸部CT検査で両側下葉縦隔側優位に多発する小さな肺囊胞と左下葉肺底部に45 mmの多房性肺囊胞を認めた.この多房性肺囊胞を病態の主座と考え胸腔鏡下左肺底区切除術を施行した.特徴的な画像所見や気胸の家族歴などから,Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群を疑った.術後に遺伝子解析を行いFLCN遺伝子変異が検出され,BHD症候群と確定診断した.小児気胸は稀であるが,家族歴や画像所見を詳細に検討し,背景疾患としてBHD症候群を考慮する必要がある.

  • 荒木 修, 有賀 健仁, 梅田 翔太, 井上 尚, 中島 崇裕, 千田 雅之
    2024 年 38 巻 4 号 p. 365-370
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は65歳の男性.重篤な慢性心不全,間質性肺炎の既往あり.左難治性気胸のため当院に手術検討目的に紹介となった.全身麻酔は困難と判断され鎮静を併用した局所麻酔で非挿管下に胸腔鏡下手術(囊胞結紮術)を施行した.

  • 安田 幸司, 恩田 禎子, 佐々木 将貴, 岸本 彩奈, 森脇 義弘, 山口 智之
    2024 年 38 巻 4 号 p. 371-376
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    【症例1】81歳男性.呼吸苦を主訴に受診.COPDの既往あり,胸部CT検査では右肺下葉肺野での浸潤影と右胸腔内での膿瘍腔を認めた.胸腔ドレナージが施行され,右下葉への肺内挿入となった.全身状態を考慮し待機的に開胸による気管支鏡併用で膿胸掻爬,胸膜剥皮を行った.術後は集中治療管理を行い,全身状態の改善を認めた.【症例2】80歳男性.胸膜炎にて他院で入院加療中,膿胸へと増悪し加療目的に転院.胸部CT検査では左胸腔内に膿瘍腔と左下葉無気肺所見を認めた.胸腔ドレナージが施行され,左下葉への肺内挿入となった.緊急で体外式膜型人工肺併用による開胸膿胸掻爬,肺縫縮術を行った.術後は速やかに炎症反応と呼吸症状の改善を認めた.【まとめ】今回我々は胸腔ドレーンによる医原性肺損傷で手術治療を要した2症例を経験した.肺損傷では既往や肺の病態に応じた術式選択や対応の工夫が必要と考えられた.

  • 奥谷 大介, 坂本 美咲, 片岡 正文
    2024 年 38 巻 4 号 p. 377-380
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    47歳,女性.44歳と46歳時にそれぞれ右気胸を発症するも保存的治療にて治癒した.46歳の気胸発症時に子宮内膜症と診断されて以降,子宮内膜症に対して婦人科にて黄体ホルモン療法を受けていた.子宮内膜症の治療開始後,月経なし.今回,突然の右胸痛を自覚し,右II度気胸と診断された.胸部CTでは,右上葉に肺囊胞やその周囲の胸膜肥厚が認められたが,横隔膜に明らかな異常所見は認められなかった.発症7日目の時点でも右気胸の改善は得られなかったので手術の方針となった.手術では,横隔膜腱中心に存在する多数の欠損孔から肝表面が視認できた.横隔膜腱中心はポリグラクチン縫合糸にて縫合閉鎖された.また上葉の肺囊胞と胸膜肥厚を伴う病変は切除された.術後2日目に退院し,退院後も子宮内膜症に対してホルモン療法を継続している.術後約3年経過したが気胸の再発は認めていない.

  • 堀 哲雄, 元石 充, 山下 直己
    2024 年 38 巻 4 号 p. 381-386
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    症例は2型糖尿病の既往がある79歳男性.COVID-19,間質性肺炎および菌血症(Klebsiella pneumoniae)等に対して前医で入院治療されていた.退院後すぐに腰背部痛を認め,当院で精査の結果下行大動脈周囲の中縦隔膿瘍が認められた.入院で点滴抗菌薬治療を1ヵ月行い改善したため退院となった.退院後2ヵ月で同部位に膿瘍再発を認め再度点滴抗菌薬治療を行い改善した.再治療後は長期間内服抗菌薬を投与していたが,5ヵ月後に同部位に膿瘍の2度目の再発が認められた.難治性と判断し胸腔鏡下膿瘍ドレナージを施行した.膿瘍よりKlebsiella pneumoniaeを検出,前医で検出された菌と同じであると考えられた.術後4週間の抗菌薬投与を行い,以後2年経過したが再発は認めず治癒を得たと考えられる.本症例のように縦隔膿瘍は難治性となることがあり,外科的ドレナージを考慮する必要がある.

  • 岡田 和大, 藤原 俊哉, 松原 慧, 平野 豊, 牧 佑歩
    2024 年 38 巻 4 号 p. 387-395
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    脂肪肉腫は全悪性軟部組織腫瘍中で16-18%で,縦隔発生の割合は約0.5%と非常に稀である.症例は50歳,男性.健診で胸部異常陰影を指摘され,当院に紹介となった.CTで後縦隔に最大径14 cm大の巨大腫瘤を認め,気管支動脈が腫瘍の栄養血管として発達していた.MRIで脱分化型脂肪肉腫疑いと診断した.呼吸器外科,消化器外科,心臓血管外科,放射線科でCancer Boardを行った.まず手術時の出血リスク低減と大動脈への浸潤に備え,胸部大動脈にステントグラフト内挿術を先行し,5日後に腫瘍摘出術を行う方針とした.手術は両側開胸で腫瘍摘出術を施行した.食道と腫瘍は一塊となっており,食道を合併切除したが,肺は温存可能であった.永久病理診断は脱分化型脂肪肉腫であった.術後27日目に胃管再建を行い,44日目に退院となった.複数診療科による臓器横断的な連携が奏効した症例を経験したため,報告する.

  • 小来田 佑哉, 三竿 貴彦, 森 俊介, 鹿谷 芳伸, 青江 基, 吉川 武志
    2024 年 38 巻 4 号 p. 396-401
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    喀血の治療には,気管支動脈塞栓術,気管支鏡下止血術,気管支充填,外科手術など様々な手段がある.今回,気管支動脈塞栓術では制御困難な肺Mycobacterium avium complex症(肺MAC症)による喀血に対し,EWSによる気管支充填術を追加することによって安全に外科的治療を遂行できた症例を経験した.症例は57歳男性.大量喀血を主訴に受診.胸部CT検査にて右肺上葉に47 mm大の空洞性病変と両肺下葉に斑状のすりガラス影を認め,喀痰検査で肺MAC症と診断した.緊急的気管支動脈塞栓術を行ったが,4時間後に再出血をきたし,気管支充填術を追加施行し止血を得た.再出血を懸念して翌日に右肺上葉切除術を行い,合併症なく良好な結果を得た.

  • 久野 真人, 宇野 友規, 法華 大助
    2024 年 38 巻 4 号 p. 402-409
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/15
    ジャーナル フリー

    後天性血友病Aに起因する重篤な胸壁筋層血腫の1例を経験したので報告する.症例は74歳男性で,労作時の呼吸困難感を主訴に受診され,高度気腫肺を背景とした右続発性気胸と診断された.入院時の血液検査所見にてPTは正常範囲で,APTTが61.2秒と延長を認めたが,ドレナージ開始後も多量のエアリークが持続し,入院後8日目に胸腔鏡下肺囊胞切除術を行った.手術時間は1時間6分,術中出血量は10 g未満の少量であった.術翌日にドレーンを抜去したところ,抜去創部直下に膨隆が出現し,胸壁筋層内血腫と診断された.輸血,胸帯圧迫を行い,血腫の拡大を制御した.血液検査にて血液凝固第VIII因子活性低下,第VIII因子抑制因子が検出され,後天性血友病Aと診断された.ステロイド投与を開始し,2週間後にAPTT,VIII因子活性の正常化を認め,投与開始後3週間で抑制因子の消失が確認された.後天性血友病Aは比較的稀な疾患ではあるが,術後出血性合併症で診断される報告も増えており,致死的な転機を辿る例も認める.早期診断及び治療介入が予後を左右するため,呼吸器外科領域においても知識を有しておくべき疾患である.

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