症例は33歳男性.幼少期より,1時間ほどで回復する一過性の筋痛,四肢脱力を繰り返していた.30歳頃より左下腿の進行性の筋力低下,筋萎縮が出現した.筋MRIで左下腿の筋萎縮,T1WI/T2WI高信号を認め,筋病理でtubular aggregates(TA)を認めた.SCN4A遺伝子にc.2111C>T/p.T704Mのヘテロ変異を認め,高カリウム性周期性四肢麻痺(hyperkalemic periodic paralysis; HyperPP)と診断した.HyperPPは稀な疾患だが進行性ミオパチーを高頻度に呈する.日常診療において,本症例で見られたような進行性ミオパチーの存在を認識しておくことは極めて重要であると考え,その病態機序に関する検討も併せ報告する.
症例は56歳男性である.突然の頭痛,発熱,瞳孔異常を伴わない右動眼神経麻痺,意識障害で発症した.頭部MRIでT1高信号を伴う下垂体の腫大より下垂体卒中と診断した.下垂体前葉ホルモンの著明な低下と中枢性尿崩症を呈したため高用量ステロイドを開始し,2日後に意識障害と頭痛は改善した.第30病日のMRIで腫瘤の明らかな縮小と動眼神経圧迫の改善を認めた.ステロイドへの迅速な反応と下垂体病変の消失から,下垂体卒中の原因は下垂体炎と推察した.頭部thin slice MRIで海面静脈洞入口部における動眼神経圧迫を認め,動眼神経麻痺の病態として栄養血管の血流障害を考えた.
症例は43歳女性.1ヶ月の経過で異常言動,難聴,失調性歩行,過呼吸が出現した.経過中に中枢性低換気を呈したが自然軽快と再出現を繰り返した.髄液14-3-3蛋白は陰性で家族歴もないが,髄液でRT-QUIC法により異常プリオン蛋白が検出され遺伝子検査でE200K変異による家族性クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease; CJD)と診断された.経過を通してDWIでの皮質の信号変化や,脳波で周期性同期放電を認めなかった.中枢性低換気は脳幹の呼吸中枢の障害によるものと推測され,難聴も聴性脳幹反応(auditory brainstem response; ABR)所見から脳幹レベルでの障害と考えられた.CJDでは皮質症状に加えて脳幹症状が早期に出現する場合があり,DWIで異常を呈さない例もあるため鑑別に留意する必要がある.
症例は75歳女性.約2か月の経過で,四肢遠位部の異常感覚と体幹失調が進行.診察上,四肢遠位部の髄節性異常感覚,四肢・体幹部深部感覚低下,painful legs and moving toes(PLMT)を認めた.その後,小細胞肺癌の診断に至り,抗Hu抗体陽性と併せ,傍腫瘍性症候群によるsensory neuronopathyと考えた.PLMTを来した同疾患の既報例はなく,本例の特徴である.肺癌に対する化学療法,デュロキセチンはPLMTに無効だった.Intravenous immunoglobulin療法も施行したところ,moving toesの改善は得られなかったものの,足趾の疼痛には有効であった.
症例は57歳男性.4年前より緩徐進行性の遂行機能障害と言語症状があり前頭側頭型認知症にて外来加療中であった.その後4か月間で急速な認知機能障害と歩行障害を呈した.頭部MRI拡散強調像で両側大脳皮質と右尾状核に異常高信号域を認め,髄液14-3-3蛋白,総タウ蛋白が陽性であった.脳波上周期性同期性放電はなかった.プリオン蛋白遺伝子検査では,E200K変異に加えて,対立遺伝子上にコドン219Lys多型が存在し,遺伝性クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease; CJD)と診断した.本症例の臨床経過は今までの典型的なE200K遺伝性CJDとは異なり,219Lys多型の稀な合併が影響した可能性が示唆された.
35歳男性,腰痛,排尿障害が認められ,経過から脊髄炎が疑われ当院入院とした.下肢の近位筋力低下と,腱反射が著明に亢進しており,痙性対麻痺と考えられた.開口障害,後弓反張は認められず,髄液検査では細胞数が軽度上昇しているのみであった.入院後に膀胱直腸障害,痙縮が進行していたため脊髄炎としてステロイドパルスを施行したが,その後も増悪し,後弓反張,音・光過敏も出現した為に,破傷風の可能性を考慮し入院第13病日に破傷風トキソイドなどで加療を開始した.約1ケ月程度で症状の改善を認めた.破傷風では亜急性に進行し脊髄炎に類似する画像所見を呈する例もあり注意が必要と考え報告した.
症例は33歳の女性.機械工の手などの皮膚所見,四肢筋力低下,高CK血症,針筋電図所見,筋炎特異的自己抗体の同定により,抗PL-7抗体陽性筋炎と診断した.ステロイド治療と免疫抑制療法が奏功した.近年,欧米で筋ジストロフィーを対象として用いられているwhole-body MRIを実施し,体幹筋の炎症を信号変化として検出した.炎症性筋疾患において体幹筋の障害は過少評価されている可能性があり,今後の検討を要する課題と考えた.
症例は71歳男性.主訴は突然発症の右上肢麻痺,頭部MRI画像で両側頭頂部に異常信号を認め,脳血管障害が疑われ入院した.頭部CT venography(CTV)で上矢状静脈洞内に血栓を認め,脳静脈血栓症(cerebral venous thrombosis; CVT)と診断した.血栓性素因として凝固活性第8因子の亢進と甲状腺機能の亢進が明らかとなり,甲状腺刺激ホルモン受容体抗体が陽性であったため,CVTの発症にバセドウ病が関与したと考えられた.