免疫介在性ニューロパチーでは副腎皮質ステロイド,血漿浄化療法,経静脈的免疫グロブリン療法が長らく治療の中心となっている.しかしながら,これらの治療においても治療抵抗例が一定数存在し,さらにmyelin associated glycoprotein(MAG)抗体関連ニューロパチーは未だ有効な治療が確立していない.近年,病態機序に直接関わる分子を標的とした新規治療の開発がすすんでいる.免疫性神経疾患において新規治療薬の臨床での使用が可能となりつつあり,免疫性介在性ニューロパチーでもこれらの分子標的薬を用いた複数の臨床試験が進行中である.本総説では,免疫介在性ニューロパチーにおける治療の現状と新規治療の今後の展望について概説する.
ヘムはほぼ全ての生物にとって必須の鉄含有分子であるが,ヘム過多は細胞毒性を起こすため,ヘムの細胞内濃度は厳密に制御されている.急性肝性ポルフィリン症(acute hepatic porphyrias,以下AHPと略記)はヘム生合成酵素のいずれかの活性低下により発症する稀少遺伝性疾患であり,様々な誘因により急性神経発作を呈する.AHPの急性発作の症状は非特異的であるため,他疾患と誤診されることが多い.AHP患者における急性発作の発現機序やヘム生合成経路の異常を理解することは,AHPの正確かつ迅速な診断や適切な治療の実施につながる.そこで本総説ではAHPの急性発作時の分子および生化学的な変化に焦点を当て,急性発作の病態生理について現時点で明らかになっていることを概説する.
レボドパ(levodopa,以下LDと略記)で治療中のパーキンソン病患者.LD/ドパ脱炭酸酵素阻害剤配合剤の変更で動きが悪化した既往があった.入院中,LDからLD/カルビドパ(carbidopa,以下CDと略記)に変更後,悪性症候群様症状(Parkinsonism-hyperpyrexia syndrome,以下PHSと略記)を呈した.LDに戻すと症状が改善した.空腸投与用LD/CDゲル(levodopa carbidopa intestinal gel,以下LCIGと略記)投与後に再びPHSを示した.敗血症と播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)を併発し,血小板減少が遷延した.LDへの薬剤変更とステロイド投与で,病状が改善した.抗PAIgG陽性とLCIGに対する薬剤誘発性リンパ球刺激試験陽性(drug-induced lymphocyte stimulation test: DLST)で,CDに対するII型,IV型の薬剤アレルギーが疑われた.LD製剤変更時の不調の際,薬剤アレルギーを考慮する必要がある.
症例1は75歳女性.左手の間欠的な感覚障害が出現,頭部MRIのFLAIR画像で右側頭葉から頭頂葉の軟膜に沿った広範な高信号域と腫脹を認め,微小出血はほとんど認めなかった.症例2は78歳男性.運動性失語で発症し,頭部MRIでは右大脳半球皮質の腫脹とヘモジデリン沈着の所見を認めた.脳生検にて症例1は脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy,以下CAAと略記)関連炎症,症例2はCAAと診断した.2例とも脳生検後に生検部位周辺の広範な白質病変を認めたが,免疫治療を施行せず改善した.脳生検が白質病変に影響を及ぼす可能性があるが,自然に改善する場合もあり,白質病変が出現した際に免疫治療が必要かどうか症例ごとの検討が必要である.
症例は36歳男性.35歳時より感覚障害を伴わない左母指筋力低下,左母指球筋と左第一背側骨間筋の萎縮が出現した.神経伝導検査で左正中神経に複合筋活動電位振幅低下とF波出現率低下,針筋電図検査で左短母指外転筋に陽性鋭波を認めた.頭部MRIで両側小脳半球は萎縮し,母方祖母と母の兄弟が脊髄小脳変性症と判明した.その後,両下肢失調が現れ遺伝子検査でATXN2遺伝子CAGリピート数の伸長(19/39)を認めた.下位運動ニューロン障害が初発症状の脊髄小脳失調症2型と診断した.ATXN2遺伝子リピート伸長を示す同一家系内で小脳失調症と運動ニューロン障害を呈することが報告されており興味ある症例と考え報告する.
33歳女性.アトピー性皮膚炎に対して加療中に右手掌の異常感覚が出現し,3ヶ月の経過で異常感覚,筋力低下が四肢に拡大し入院した.右三角筋,右第一背側骨間筋,右前脛骨筋などに筋力低下を認め,神経伝導検査では多発性単神経炎が示唆された.入院直前に前腕に小径の皮疹が出現したが,下肢には皮疹を認めず,性状や分布からは血管炎を疑いにくいとされた.しかし神経所見を考慮すれば血管性病態の評価が不可欠であり,生検の結果中径動脈の血管炎が示唆され,皮膚動脈炎に伴う血管炎性ニューロパチーと診断した.多発性単神経炎を疑う場合には全身の皮疹の検索と積極的な皮膚生検が診断に資すると考えられる.
症例は37歳女性.インフルエンザワクチン接種1か月後に,右上肢激痛と脱力を来した.徒手筋力テストでは,母指指節間関節屈曲2・示指遠位指節間関節屈曲5・手関節屈曲4・前腕回内(肘屈曲)3で,神経痛性筋萎縮症とくに前骨間神経症候群と診断した.臨床所見から,円回内筋・撓側手根屈筋への分枝より近位での正中神経の障害が予測された.神経エコーでは明らかな異常を認めず,MR neurographyで肘関節より近位に正中神経 ‘くびれ’ を認め,‘くびれ’ 近位と遠位で正中神経の神経束の腫大と異常信号を認めた.神経束間剝離など手術適応があり,神経学的局所診断とともにMRIを使った的確な病巣診断が重要である.