運動失調は小脳由来の小脳性だけでなく,大脳から末梢神経に至るいずれかの病変によることがある.小脳由来ではない非小脳性運動失調は感覚性運動失調や後索性運動失調と総称されてきた.しかし,前頭葉病変で小脳性と区別しにくい運動失調が現れるので,小脳性運動失調を含めて小脳型運動失調と呼び,後索由来の後索性運動失調も後索ではない頭頂葉病変などによることがあり,後索性運動失調を含めて後索型運動失調と呼ぶことが提唱された(平山,2010).この提唱に従って,脊髄癆や感覚性ニューロパチーなどを概観するが,Miller Fisher症候群の運動失調は自己免疫性運動失調の国際的コンセンサス(2016)にて臨床-生理学的に小脳型とされており,感覚性運動失調に後索性/型運動失調だけでなく,Ia群線維から小脳への感覚入力障害による小脳型運動失調がありうることを強調したい.
多巣性運動ニューロパチー連続8例の臨床情報を後方視的に収集し,その特徴と長期経過を解析した.全例で一側上肢から発症し,6例で利き手から発症していた.7例で上肢への運動負荷の強い職業もしくは趣味があり,労作との関係が示唆された.脳脊髄液中の蛋白値は全例で正常から軽度高値であり,末梢神経伝導検査で伝導ブロックを4例に認めた.全例で経静脈的免疫グリブリン療法が奏功し,軽症の2例では完全寛解し維持療法が不要となった.5例で免疫グロブリンによる維持療法が長期的に有効であった.免疫グロブリン療法は治療導入と維持療法のいずれにも有効であることが示された.
症例は42歳女性,約20年前に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,以下SLEと略記)と診断された.ステロイド誘発性精神障害のためステロイド漸減中に錯乱状態を主とする神経精神SLE(neuropsychiatric SLE,以下NPSLEと略記)を発症し,MRIでは右側頭葉皮質を中心に急性期梗塞像,複数の脳主幹動脈で亜急性に変動する狭窄と拡張,右椎骨動脈瘤形成を認めた.シクロホスファミド静注療法等を早期から導入し動脈瘤は拡大なく血管狭窄は改善した.NPSLEにおける血管攣縮と拡張,動脈瘤形成は稀であるが,疾患活動性の指標となり,強固な免疫治療を検討する必要性があると考え報告した.
症例は37歳男性.意識障害で救急搬送となり,搬送時にけいれん重積状態であった.頭部MRIではFLAIR像とT2強調像にて両側内側側頭葉,大脳皮質,皮質下に異常高信号を呈し,びまん性の腫脹を伴っていた.ウイルス性脳炎や自己免疫性脳炎を疑ったが,血清と髄液の梅毒反応がともに陽性であり,神経梅毒と診断した.ペニシリンGとステロイドパルス療法で治療し症状の改善を認めた.辺縁系脳炎様の画像所見を呈する神経梅毒はけいれん発作を主訴とすることが多いとされている.病歴を聴取することが困難な場合があり,辺縁系脳炎では神経梅毒を鑑別の一つにあげることが重要である.
髄膜炎症状がなく下位脳神経麻痺を呈した水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)感染症を経験した.症例1は第IX,X脳神経障害を,症例2は第IX,X,XI脳神経障害を認めた.脳脊髄液検査で細胞数の上昇を認めたが蛋白は正常で,VZV-DNA PCR検査は陰性だった.血清VZV抗体価の上昇を認め,VZV再活性化による下位脳神経麻痺と診断した.下位脳神経麻痺を伴うVZV感染症はまれながら報告されており,咽頭麻痺や嗄声の原因としてVZV再活性化の可能性を考慮に入れることが重要である.髄膜炎症状がなく脳脊髄液の蛋白が正常な症例でVZV-DNA PCR検査が陰性となることが多く,血清学的検査の併用が有用である.