重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MGと略記)の診療ガイドラインが2022年に改訂された.今回の改訂ポイントは,(1)新たにランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome,以下LEMSと略記)をとりあげた,(2)MGとLEMSの新しい診断基準を提示した,(3)漸増漸減による高用量経口ステロイド投与を推奨しないと明言した,(4)難治性MGを定義した,(5)分子標的薬として補体阻害薬をとりあげた,(6)MGの新しい分類を示した,(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した,といった点があげられる.
本邦のCharcot–Marie–Tooth病(CMT)患者レジストリであるCMT Patient Registry(CMTPR)に登録しアンケートに答えた303人(男性162人,女性141人,平均年齢45.9歳)の結果を解析した.症状を自覚した年齢は全体の45%が15歳以下,5%が60歳以上であった.遺伝子検査は65%で実施され,PMP22遺伝子重複が約半数を占めた.運動障害は上肢で15%,下肢で25%が日常動作に介助が必要と回答し,性差・年齢差はなかった.成人患者267人の18%が疾患により就労に支障があった.本研究から国内のCMT患者の生活や診療の実態,課題が明らかとなった.
症例は74歳,女性.左L5領域の帯状疱疹(herpes zoster,以下HZと略記)と汎発性HZを発症し,左下肢筋力低下と自覚的な排尿障害を来した.L5を中心とした多発神経根障害が疑われたが,前脛骨筋の筋力低下は重度であり,治療後も他のL5支配筋と比較して筋力の改善が乏しかった.水痘・帯状疱疹ウイルスによる腰仙髄領域の多発神経根障害に高度な腓骨神経障害の合併と考えた.HZに伴う運動麻痺では神経根と末梢神経が同時に病変部位となることがある.
58歳男性.両下肢近位筋の筋力低下で発症し,発症2週間後にLambert-Eaton筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome,以下LEMSと略記)と診断された.原発不明小細胞癌が判明し,LEMSに対する対症療法と放射線化学療法を施行され筋力は改善した.しかし急性心筋梗塞罹患を契機にII型呼吸不全が増悪したため気管挿管による人工呼吸器管理を要した.単純血漿交換療法,IVIg療法,ステロイドパルス療法などの即効性治療と対症療法の強化により人工呼吸器から離脱し自立歩行が可能な状態まで改善した.電気生理学的検査では増悪時と比較し退院時には全般性に複合筋活動電位の改善を認め,LEMSの病勢を反映した可能性が考えられた.
症例は78歳男性.73歳時に舌骨と甲状軟骨による機械的刺激に伴う右内頸動脈狭窄症と診断され,頸動脈ステント留置術が行なわれた.78歳時に脳梗塞を再発し,3D-CTAで頸動脈ステントの再狭窄を認めた.再発予防のために舌骨と甲状軟骨の部分切除を行い,再度頸動脈ステント留置術を行った.治療により内頸動脈走行の偏位が軽減され,ステント内の狭窄も改善が得られた.舌骨や甲状軟骨による機械的刺激が関与した内頸動脈狭窄症では治療後に再狭窄する可能性があり,安易に頸動脈ステント留置術を選択するのではなく,舌骨と甲状軟骨の部分切除も含めて治療方針を検討する必要がある.
症例は87歳女性.主訴は意識障害,最終健常確認時刻から1時間32分で搬送された.来院時神経所見は両側瞳孔散大・対光反射消失,除脳硬直肢位,Babinski徴候陽性であった.CTAで左後大脳動脈交通前部(P1)の閉塞が疑われ,脚部(P2)以遠は左内頸動脈から後交通動脈を介して描出された.MRIで両側視床梗塞を認め,P1から分岐するPercheron動脈閉塞を疑いt-PAを静注した.その後血管造影検査を施行しP1の血栓回収を試みたところ自然再開通し,症状は改善した.脳底動脈が開存しているにも関わらず両側視床梗塞を認めた場合はP1に着目し,血栓回収を企図して血管造影検査を検討する必要がある.
心肺停止で搬送された50歳女性.肺活量を維持できず人工呼吸管理からの離脱が困難だったため気管切開された.入院第17病日に抗MuSK抗体陽性と判明したが,詳細な病歴聴取ができず重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MGと略記)と確信することができなかった.患者および家族が血液製剤の使用や単純血漿交換療法の侵襲性に難色を示したため,まずはステロイドパルスを行い経過を追う方針とした.ステロイドパルスは奏効し人工呼吸器管理から離脱することができ,最終的に独歩で自宅に退院した.抗MuSK抗体陽性MGクリーゼに対し,免疫グロブリン静注療法や単純血漿交換療法を行えない場合に,ステロイドパルスは治療の選択肢になり得ることが示唆された.
症例は73歳男性.39歳時から双極性障害の治療を受けていた.入院2か月前から歩きづらさ,手の動かしづらさが出現しパーキンソン症候群が疑われ精査入院した.入院時血中リチウム濃度は正常上限程度(1.34 mEq/l)であったが徐々に食事摂取量が減少し,会話のかみ合わなさが出現・悪化したため入院6日目に再検したところ中毒域(2.44 mEq/l)に達していた.リチウム内服中止し輸液を行い,運動症状を含めた全身状態は改善傾向となり入院24日目に薬剤調整目的に精神科へ転院した.慢性中毒は治療域上限程度であっても発症し得ること,減塩が中毒の誘因となる可能性があり入院食開始時は注意することが重要である.
2023年度日本神経学会近畿地区生涯教育講演会
2023年3月5日(日)
第120回日本神経学会近畿地方会
2021年12月11日(土)
第121回日本神経学会近畿地方会
2022年3月6日(日)
第122回日本神経学会近畿地方会
2022年7月30日(土)
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