近年,非定型パーキンソニズムを呈する自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群が報告されている.しかしどのような抗神経抗体が関与するのか,またどのようなときにこれらの疾患を疑うべきかは不明である.この臨床疑問を解決するためにスコーピングレビューを行い,38論文を選定した.この結果,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核症候群,多系統萎縮症のいずれにおいても未知の抗体を含む抗神経抗体が多数報告されていた.また若年発症,急性/亜急性の進行,腫瘍の合併,体重減少,脳脊髄液検査異常,典型的画像所見を認めないこと,非典型的な臨床徴候を認めることは自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群の可能性を示唆すると考えられた.
72歳男性.約10か月前から電子マネーカードのチャージや携帯電話の掛け方が分からないなどの症状が出現した.入院時には近時記憶障害,構成障害,失書,失計算など広汎な高次脳機能障害を認めた.頭部MRI T2*強調画像で脳表面をびまん性に縁取る低信号を認め,古典型脳表ヘモジデリン沈着症(cortical superficial siderosis,以下cSSと略記)と診断したが,小脳や脳幹へのヘモジデリン沈着がめだたない点が特徴的であった.123I-IMP-SPECT検査で左優位に前頭頭頂葉の血流低下を認めた.脳表限局性微小出血や脳表へのヘモジデリン沈着を認め,probable CAA(cerebral amyloid angiopathy:脳アミロイドアンギオパチー)と診断,CAAに伴うcSSと考えた.
症例は83歳,男性.再発性・難治性の多発性骨髄腫(multiple myeloma,以下MMと略記)に対しダラツムマブ,ボルテゾミブ,デキサメタゾンの投与(DBd療法)開始1か月後より視力低下,右上下肢の運動麻痺が出現した.血液検査ではCD4+ Tリンパ球数は132/μlと低下し,頭部MRIでは両側後頭葉,および左中心前回にFLAIR画像で高信号域を認めた.脳脊髄液JCウイルス-DNA PCR検査は85 copies/mlと陽性であり,進行性多巣性白質脳症と診断した.MMの治療薬をすべて中止し,メフロキンとミルタザピンの併用療法を開始したが効果はなかった.
症例は18歳女性.6歳時と7歳時に急性散在性脳脊髄炎の既往がある.意識障害,四肢不全麻痺,異常感覚のため当科に入院した.頭部MRIでは大脳半球・小脳・脳幹などに多発するDWI/FLAIR高信号域を認めた.後日血清抗MOG抗体陽性が判明し,抗MOG抗体陽性多相性散在性脳脊髄炎(multiphasic disseminated encephalomyelitis,以下MDEMと略記)と診断した.ステロイドパルス療法を2コース施行したが症状は増悪し,単純血漿交換療法を追加したが合併症のため中止とした.その後,免疫吸着療法で治療を継続し著明な改善を得た.抗MOG抗体関連疾患,特にMDEMに対し免疫吸着療法を行った報告は乏しく,貴重な症例と考えられた.
会話中に頻繁に笑う行動障害型前頭側頭型認知症(behavioral variant frontotemporal dementia,以下bvFTDと略記)の1例を報告した.症例は72歳,男性,右利き.自発性低下,無銭飲食などの異常行動を主訴に受診した.神経学的所見として,歩行時のすり足と速度低下を認め,会話はおうむ返しの傾向があった.また会話中に頻繁に笑う,という症状が見られ,多幸的な印象を受けた.頭部MRIで両側前頭葉萎縮,脳血流SPECTで同部位の血流低下を認め,経過,症状と合わせてbvFTDと診断した.bvFTDでは笑うことが少ないとされているが,多幸的な症例では頻繁に笑う場合があると考えられた.また,笑いの背景に,感情表現の障害,共感の喪失が関与している可能性が推察された.
髄膜炎・脳炎の急性期診療における微生物学的検査の重要性は高い.FilmArray®髄膜炎・脳炎パネル(MEパネル)は14種類の病原体(ウイルス・細菌・真菌)の脳脊髄液PCRを1時間弱で施行できる検査で,2022年9月に保険収載された.当院ではそれ以前から臨床現場で使用する機会を得たため,成人70例を対象に,同検査の有用性について検討した.何らかの微生物が陽性となったのは18例(26%),うち8例(11%)ではMEパネルの結果が急性期の治療方針変更に寄与していた.結果が陰性の症例でもアシクロビル等の経験的な治療を省けるなど利点があった.今後本邦でもMEパネルの普及が望まれる.
弓道における異常な運動(いわゆるイップス)のうち,「もたれ」は狙いを定めたときに意図したタイミングで矢を放てない状態を指す.私達は「もたれ」が動作特異性局所ジストニア(task-specific focal dystonia,以下TSFDと略記)である可能性を考え,「もたれ」を呈する3例,対照群として弓道での異なるイップスの一種「早気」3例,いずれも認めない3例に問診と表面筋電図を行った.結果,「もたれ」の特徴として,定型性,感覚トリック,早朝効果が確認されたが,「早気」ではこれらの所見は認めなかった.また検査中に「もたれ」が出現した2例中1例で,上肢の異常な拮抗筋の共収縮を認めた.以上より,「もたれ」はTSFDの特徴を有している可能性が示唆された.