69歳男性.約1か月の経過で下肢近位筋筋力低下が亜急性に出現した.中心性肥満,水牛様肩を認め,針筋電図,筋MRI,CPK値は異常なく,高血圧や糖尿病はなかった.ACTHと尿中コルチゾール上昇,デキサメサゾン抑制試験,CRH試験,海綿静脈洞サンプリング陽性から,MRIで認めた微小下垂体腫瘤によるCushing病と診断した.一方,女性化乳房,テストステロン低値,LH・FSH上昇,陰囊・陰茎の萎縮あり,染色体検査でモザイク型Klinefelter症候群の合併が確認された.同疾患によるテストステロン低下が軽症Cushing病による糖質コルチコイド上昇で増悪し,筋力低下が亜急性に出現したと考えられた.
症例は79歳女性.2016年1月,2月に意識消失があり,6月下旬にけいれんを認めてんかんと診断された.バルプロ酸ナトリウム徐放剤 800 mg/日が開始され,3日後より食欲が低下し,6日後から傾眠となった.VPA 128.3 µg/ml,NH3 404 µmol/lと高値を認め,てんかん重積状態と全般性の脳浮腫を来した.持続的血液濾過透析,レボカルニチン投与を行ったが重篤な後遺症が残存した.バルプロ酸ナトリウムは全般てんかんに対して広く使用され,副作用として高アンモニア血症がある.多くは無症候性であるが,単剤でも脳症に至る例があり,高齢患者では適応を十分に判断した上で少量から開始するなど注意が必要である.
症例は52歳男性.発熱・頭痛と意識障害で入院した.炎症反応は軽度で,血液・細菌培養も陰性だったが,髄液の多核球優位の細胞数上昇,蛋白の著増,糖の低下から細菌性髄膜炎として,抗菌薬による治療で後遺症なく退院した.5カ月後に細菌性髄膜炎を再発し入院した.問診で断続的な透明鼻汁の存在が判明し,鼻汁の糖定性が陽性だったことから,鼻性髄液漏と診断した.頭部MRIで斜台部の骨欠損を確認して,髄液漏閉鎖術を施行し,術中に切除した蝶形骨洞粘膜組織から脊索腫と病理診断された.炎症所見も乏しく感染源が明らかでなかったが,問診から鼻性髄液漏と診断し,細菌性髄膜炎の原因を同定し得た症例である.
症例は61歳女性.突然の激烈な腰背部痛と左下肢の脱力を自覚し,同日中に頭部全体の拍動性頭痛も出現した.初診時には左下肢の筋力低下に加えて,左下方の四分の一盲と左下肢の振動覚低下も認めた.血液検査で凝固系や自己抗体の異常はなく,髄液検査で血性髄液と炎症所見を認めた.頭部MRIで複数の脳血管狭窄を伴う脳梗塞と脳表のクモ膜下出血,脊髄MRIで頸髄,胸髄,一部腰髄に多発する脊髄出血を認めた.これらは同時期に発症しており,血管炎を推定しステロイド投与を行い脳血管狭窄は改善した.原発性中枢神経系血管炎と可逆性脳血管攣縮症候群は症状や検査所見,治療が異なるが,病初期は鑑別が困難な場合があり留意が必要である.
O-157による溶血性尿毒素症候群(hemolytic uremic syndrome; HUS),急性脳症は小児に好発し成人での発症は稀である.今回成人女性で急性脳症を発症し後遺症なく回復した1例を経験した.症例は24歳女性.腹痛,下痢で発症し,便からO-157と志賀毒素が検出された.第6病日にHUS,第11病日に急性脳症を発症した.一時人工呼吸管理となったが,ステロイドパルス療法,血漿交換療法(plasma exchange; PE)を行い第53病日に後遺症なく退院した.成人女性は男性よりも志賀毒素の受容体となるGb3の発現率が高く高リスクと考えられる.治療としては炎症性サイトカインを抑制するステロイドパルス療法とPEの有効性が示唆され,積極的に施行を考慮すべきと考える.
小児期発症神経系疾患を有する患者の移行期医療における神経内科での課題を検討するために,当院内科患者の移行期医療の現状を調査した.移行例は近年増加しており,その多くは小児科医の勧めに因った.多くの患者にてんかんが合併し,また,神経難病患者もあったので,この移行期医療は神経内科医が必要とされる領域である.移行期医療には十分な診療時間が必要で,小児科と成人診療科での医学管理料が異なっていた.日本神経学会や関連学会は移行期医療改善のための対応が必要と考えられた.
症例は47歳男性である.2017年11月,左肩疼痛と左上下肢筋力低下が出現した.翌日右上下肢異常感覚と左上下肢発汗低下を自覚,その後右半身温痛覚鈍麻と左上下肢筋力低下が進行した.MRIで頸髄病変を認め,急性脊髄炎に伴うBrown-Séquard症候群と診断,ステロイド投与と血漿交換療法を行い筋力は改善した.治療中に併発した右側の腹腔内膿瘍の腹痛が左側のみで右側の腹痛が乏しかった.Brown-Séquard症候群に腹腔内痛覚鈍麻を合併していた.頸椎C3/4レベルに両側性病変を認め,同病変が左側の体性感覚経路に加えて,腹腔内の内臓性感覚経路を両側性に障害し,痛覚鈍麻がより顕在化した可能性がある.
4カ月の経過で傾眠と体幹失調が緩徐に進行した71歳男性.頭部MRIにて中脳から視床,大脳白質にかけFLAIR高信号域と点状の造影効果あり.Lymphomatosis cerebri(LC)を疑い,造影効果が明瞭化した部位より生検を行い,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と確定診断.大量メトトレキセート療法を開始,3カ月で小康状態に至った.LCは中枢神経原発性悪性リンパ腫の稀な一亜型で,画像上は感染症や自己免疫性疾患との鑑別が困難であり診断には生検が必須である.本例のような画像所見に遭遇した際LCも念頭におき,生検部位を検討の上,早期に実施することが予後の改善につながるものと考え報告した.
第226回日本神経学会関東・甲信越地方会抄録
2018年9月1日(土)
第223回日本神経学会九州地方会抄録
2018年9月15日(土)
第152回日本神経学会東海・北陸地方会抄録
2018年11月10日(土)
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