アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl transfer RNA synthetase; ARS)に対する自己抗体(抗ARS抗体)は炎症性筋疾患(inflammatory myopathies,以下,筋炎)の代表的な自己抗体であり,間質性肺炎,機械工の手,レイノー現象,多関節症,発熱など全身症状を呈し抗合成酵素症候群と称される.筋炎の統合的診断研究では,抗合成酵素ミオパチーは11%を占め,従来の報告と比べて抗OJ抗体の頻度が高く,また抗OJ抗体陽性例の筋症状は重篤であった.一般的な測定法である酵素免疫測定法やラインブロット法では抗OJ抗体が検出できない点に注意すべきである.筋病理では,筋束周辺部主体の壊死線維が特徴的である.抗合成酵素ミオパチーは特徴的な臨床像と筋病理所見を呈し,自己抗体の存在により定義される筋炎の病型である.
脳卒中リハビリテーション(以下,リハ)については,様々な新しいコンセプトや治療的介入が考案されている.その安全性と有用性が確認されている急性期リハは,さらなる普及が待たれる.脳の可塑性を高める非侵襲的脳刺激,脳内神経伝達物質に作用する薬剤,迷走神経刺激は,リハ訓練と併用されるべきである.ロボット・リハの導入により,リハ訓練の効率向上が期待される.脳卒中後片麻痺に対するニューロフィードバックは,運動イメージに対する治療的介入である.再生医療の効果を高めるためには,それに引き続いてリハ訓練も導入されることが望ましい.これらを積極的に導入することで脳卒中患者の機能予後が全般的に改善されるであろう.
アミロイドβ関連血管炎(amyloid β-related angiitis)では,皮質や皮質下の微小出血や脳表ヘモジデリンの沈着が,脳MRI上の重要な所見である.我々は,治療前にはこれらの所見を呈さなかったアミロイドβ関連血管炎を提示する.症例は75歳女性.右同名半盲と失語で発症し,昏睡に至った.脳MRIでは,びまん性の軟髄膜造影病変と散在性のDWI高信号病変を認めたが,T2*WIでは微小出血は検出されなかった.病理所見からアミロイドβ関連血管炎と診断した.ステロイド治療により画像所見,臨床症状ともに改善した.治療後のsusceptibility-weighted imaging(SWI)では多数の微小出血を認めた.アミロイドβ関連血管炎の非侵襲的診断のために,微小出血以外の画像の特徴を集積すべきである.
誤嚥性肺炎を繰り返す神経変性疾患患者3例に,喉頭レベルでの誤嚥防止術である喉頭閉鎖術を行った.術後,全例で誤嚥性肺炎は起こさなくなった.1例で,術後,気管孔を介した呼吸に変化したため気管粘膜の乾燥が強くなり,気道分泌物が付着し,内視鏡下喀痰吸引や排痰補助装置利用が必要になった.2例では気管カニューレ不要となったが,1例は栄養状態改善に伴い,気管孔が狭窄し,カニューレ留置を必要とした.経口摂取を再開できたのは1例であった.適切な手術時期の選定と術後の最適なケアや長期的な観察が重要であるが,喉頭閉鎖術は誤嚥性肺炎を繰り返す神経変性疾患患者に有効な選択肢である.
甲状腺機能低下症の既往がある初発時51歳,男性.全身倦怠,頭痛の数日後に急激に昏睡となった.入院時JCS III-200で局在症候は認めなかった.血清抗サイログロブリン抗体>4,000 IU/ml,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体265 IU/mlであった.抗神経抗体検索は不十分であったが抗甲状腺抗体陽性により橋本脳症を疑った.ステロイドパルス療法により軽快したが,プレドニゾロン漸減中に計7回再燃した.各再燃時とも髄液所見,頭部MRIでは異常なし.血漿交換,アザチオプリンを追加し発症2年で急性症候再燃は収束したが,注意,記憶障害は残存した.橋本脳症では再燃を繰り返す事があり,経過観察が必要である.
症例は53歳女性,左上肢の間代性痙攣を認め入院した.頭部MRIで大脳に複数のFLAIR高信号,磁化率強調画像(susceptibility-weighted imaging; SWI)で多発する微小な低信号病変が見られ,抗痙攣薬の内服を開始した.しかし痙攣発作が再発し,頭部MRIで大脳にさらにSWI低信号の病変が新規に出現したため,脳生検し,出血を伴った血管内大細胞型B細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma; IVLBCL)と診断した.IVLBCLは典型的な多発梗塞性病変だけでなく出血性病変でもIVLBCLを鑑別疾患の一つとして列挙する必要がある.
症例は62歳女性.全身性間代性痙攣で当院へ搬送された.脳脊髄液検査で単核球優位の細胞数の軽度増多,著明な蛋白上昇および糖低下(血糖の17%)を認め,頭部Gd造影MRIにて軟髄膜の瀰漫性,多発結節状増強効果を認めた.結核性髄膜炎,サルコイドーシス,悪性リンパ腫,癌性髄膜炎,中枢神経系血管炎などを疑い精査したが,いずれも積極的に支持する所見は得られなかった.第13病日に硬膜および脳生検を行い,神経サルコイドーシスと診断,ステロイド治療を行い画像所見の著明な改善を示した.中枢神経に限局する神経サルコイドーシスの診断は容易ではなく,早期の病理診断が必須と考える.
33歳男性.ほぼ同時発症の両側視神経炎と横断性脊髄炎があり入院した.脊髄MRIはC2~円錐部の20椎体に連続する長大な脊髄病巣を示した.抗aquaporin4抗体陰性であり,seronegative neuromyelitis optica spectrum disordersと考え,免疫治療を開始した.のちに抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体陽性が判明し,抗MOG抗体陽性神経疾患と診断した.男性例で,両側同時発症の視神経炎や視神経炎と脊髄炎を同時に示すなどDevic病の臨床像を呈する症例では抗MOG抗体を検索すべきである.
脳梗塞recombinant tissue plasminogen activator(rt-PA)静注療法の前後で四肢の動脈塞栓症を発症した3例を報告する.症例は77歳,89歳,92歳の女性で,内頸動脈系の心原性脳塞栓症と診断した.初診時に1例,rt-PA静注療法中に2例,一肢の動脈塞栓症を発症し,2例で血栓除去術を施行した.いずれも脳梗塞急性期に四肢動脈塞栓症を併発し,脳と四肢に心原性塞栓症を発症したと考えられた.心原性脳塞栓症患者では四肢にも塞栓症を生じる可能性があり,とくにrt-PA静注療法時には出血事項や脳梗塞自体の症状のみならず,他の血栓塞栓症にも留意すべきと考えられた.