生物学的相分離とは細胞内でタンパク質などの生体分子が液-液相分離する現象を示す.これまでに相分離性タンパク質の持つ低複雑性ドメインが相分離を駆動し,制御因子によって厳密に相分離が制御されることが分かっている.また,遺伝子異常が原因で相分離を破綻させる因子も見つかっている.以前から多くの神経筋疾患は原因タンパク質が異常な凝集体として蓄積することが知られていた.そして近年,神経筋疾患には相分離性のタンパク質が関わっており,それらの相分離制御に異常が起こることで凝集体を形成することが分かってきた.生物学的相分離はこれまで解明できなかった神経筋疾患の病態発症メカニズムを徐々に明らかにしつつある.
炎症性脊髄症と非炎症性脊髄症の鑑別は難しいことがある.年齢と性,発症のスピードと経過,全身症状,脊髄および脳MRI,自己抗体,髄液所見などの臨床情報が必要である.特に発症のスピードが鑑別に重要である.炎症性脊髄症は通常急性/亜急性経過をとるのに対して,脊髄梗塞は超急性経過,脊髄髄内腫瘍などは慢性進行性の経過をとることが多い.脊髄硬膜動静脈瘻は,通常は慢性進行性だが,初期には症状の変動があり,急性発症にみえる場合がある.炎症性脊髄症の診断には,圧迫性脊髄症を確実に否定することが必要である.かりに確定診断ができなくても,治療経過の中で適宜再検討が必要である.
本研究では,日本語版Impact of Migraine on Partners and Adolescent Children(IMPAC)とこれを基に作成した家族用設問を用い,患者・家族の両視点から片頭痛が家族に及ぼす影響を評価した.その結果,本邦でも片頭痛は患者の同居家族に影響を及ぼし,さらに患者と家族では片頭痛に対する認識が一部異なることが示された.日本語版IMPACの結果は既存の片頭痛評価尺度の結果と相関し,妥当性が示された.本研究の知見を臨床の場に還元することにより,片頭痛患者とその家族の疾病負担の改善が期待される.
症例は62歳男性.頭部外傷2日後の急性両側失明のために当科に入院した.頭部MRIでは小脳の出血性梗塞を認め,頭部MRAでは末梢動脈の描出不良を認めた.急性発症の失明で視神経炎を鑑別に挙げ診断的治療としてステロイド治療を施行したが視力に改善はみられなかった.9日後のMRA再検では,動脈の描出に改善を認め,可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome,以下RCVSと略記)が示唆された.当初,眼底検査では視神経乳頭の異常は認められなかったが約1か月後から視神経萎縮が出現し,後部虚血性視神経症の可能性が示唆され,RCVSが誘因と考えられた.
症例は84歳男性.77歳時から抗アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor,以下AChRと略記)抗体陽性の眼筋型重症筋無力症(ocular myasthenia gravis,以下OMGと略記)として加療されていた.右上腕の筋肉に硬結と疼痛が出現し四肢に広がった.血清抗AChR抗体価とCK値が高値で,MRIで複数の筋肉に炎症を示唆する信号変化を認めた.胸腺腫を認めず抗titin抗体と抗Kv1.4抗体が陽性であり,筋生検により炎症性筋疾患(inflammatory myopathy,以下IMと略記)と診断した.OMGに合併したIMは相対的に軽症である.加齢に伴う免疫寛容の低下がOMGとIMの両方の病態に関与している可能性があり,血清抗AChR抗体価による疾患活動性の評価や抗横紋筋抗体による予後予測が有用である.
末梢神経障害を合併したBAG3変異による筋原線維性ミオパチー(myofibrillar myopathy,以下MFMと略記)の1例を経験したので報告する.症例は19歳の女性で,階段昇降や歩行障害が進行した.神経学的に体幹筋と両下肢遠位筋優位の筋力低下を認め,筋生検で縁取り空胞や不整な筋線維配列を確認した.遺伝子解析でBcl2-Associated Athanogene 3(BAG3)の病的ヘテロ接合性変異(p.P209L)が判明し,MFM6と診断した.本症は小児期に発症し心筋症を合併する予後不良の稀なミオパチーであるが,軸索型ニューロパチーを合併し,尖足拘縮,体幹屈筋が弱い特徴がある.若年発症のニューロミオパチーでは本疾患を疑い,遺伝子検査を検討すべきである.
症例は25歳男性である.発熱後の間代性痙攣で発症し,てんかん重積状態となった.発症様式はnew-onset refractory status epilepticus(NORSE)の臨床像に合致し,最終的にcryptogenic NORSE(c-NORSE)と診断した.第10病日より複数の免疫抑制療法を導入したが,転帰は不良であった.髄液IL-6は脳波上の発作頻度が増加する第6病日から第11病日の間で著明に上昇しており,IL-6はc-NORSEの病初期における発作増悪に関与する可能性が示唆された.