臨床神経学
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49 巻, 5 号
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総説
  • 横田 修, 土谷 邦秋
    2009 年 49 巻 5 号 p. 235-248
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    現在Pick病は病理学的にはPick球の存在で定義される.Pick球を有すPick病とそれを欠く葉性萎縮例の間で組織変性の分布や臨床像はことならないとの見解が歴史的に支持されてきたが,最近の研究ではPick病とTDP-43陽性封入体を持つ前頭側頭葉変性症の初期症状,症候群の進展形式,更に大脳皮質,基底核,錐体路の変性はことなる可能性が示されている.背景病理の生前予測と将来の疾患特異的治療の方針決定に寄与する前頭側頭葉変性症の臨床情報の蓄積が必要である.
  • 西澤 正豊, 下畑 享良
    2009 年 49 巻 5 号 p. 249-253
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル 認証あり
    本小論では,多系統萎縮症MSAの臨床に関する最近のわれわれの研究結果を紹介する.まず新潟大学脳研究所病理学分野に集められた連続剖検例の後方視的解析から,日本人MSAの特徴として,小脳症状が優位であるMSA-Cが3分の2を占めること,自律神経症状が早期から出現するほど進行も早く,自律神経症状の出現時期が進行の指標となることを示した.また,MSAに多いとされる夜間の突然死の実態を検証し,その予防を目的として行っている睡眠負荷喉頭内視鏡検査をふくむ包括的な臨床研究の結果から,声帯外転麻痺による声帯部の閉塞以外にも,上気道の狭窄・閉塞は披裂部や喉頭蓋などでも生じていること,MSAではAaDO2が拡大していることなどを明らかにした.さらに,マスクによる非侵襲的持続陽圧換気や人工呼吸器の適応を決め,突然死を防ぐためのわれわれの試みについても紹介する.
  • 太田 恵美子, 長坂 高村, 新藤 和雅, 当間 忍, 長坂 加織, 三輪 道然, 瀧山 嘉久, 塩澤 全司
    2009 年 49 巻 5 号 p. 254-261
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    ニューロフェリチノパチーは,フェリチンL鎖遺伝子変異に起因する常染色体優性遺伝の神経疾患で,脳全体の広範な鉄,フェリチン沈着を特徴とする.6つの病因遺伝子変異が報告されており,そのうち1つは日本の家系での報告である.ジストニアと舞踏運動を主症状とするが,小脳症状や認知機能低下など,多彩な臨床像を呈する.頭部MRIでは鉄沈着を反映したT2強調画像,T2*強調画像低信号と,淡蒼球を中心とした嚢胞化が特徴的である.血清フェリチン低値もしばしばみられる所見である.ニューロフェリチノパチーは欧米を中心としたまれな疾患と考えられていたが,日本での症例が報告されたことで,日常臨床で鑑別すべき錐体外路系疾患の1つとして注目すべきと考えられた.
症例報告
  • 柏村 陽子, 川井 元晴, 小笠原 淳一, 古賀 道明, 根来 清, 神田 隆
    2009 年 49 巻 5 号 p. 262-266
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    顔面をふくまない半身の温痛覚障害のみを呈した67歳男性例を報告する.左半身の激痛とびりびり感があり,左C3髄節レベル以下に温度覚低下と著明な痛覚過敏をみとめたが,通常の頭部・脊髄MRIでは明らかな異常信号域を指摘できなかった.顔面の感覚障害やめまい,構音障害,歩行障害はなかったが,左半身の激痛とびりびり感といった特徴的な感覚症状から延髄外側症候群をうたがい,thin sliceで再検した頭部MRIでT2強調画像で右延髄外側に直径1mm大の高信号域をみとめ,延髄外側梗塞と診断できた.本例は顔面をふくまない半身の感覚障害が唯一の症状であり,椎骨動脈系の分水嶺にあたる外側脊髄視床路のみが障害されたと考えた.痛みにはカルバマゼピンが有効であった.
短報
  • 岩中 行己男, 岡田 和将, 赤松 直樹, 魚住 武則, 足立 芳樹, 辻 貞俊
    2009 年 49 巻 5 号 p. 267-270
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    症例は34歳の男性である.小児期より体幹のバランス不良が緩徐に進行し,18歳頃よりろれつ不良が出現した.33歳時より右上下肢の異常感覚と脱力,運動性失語,健忘症状,嘔気をともなう左側頭部の激しい拍動性頭痛発作をくりかえした.発作間欠期の神経学的所見では軽度の失調性構音障害と体幹失調のみをみとめ,頭部MRIでは小脳上虫部から前葉に中等度萎縮をみとめた.頭痛発作間欠期の脳波では左前頭側頭部に間欠性δ波をみとめた.本例の頭痛発作は片麻痺性片頭痛の臨床的特徴と合致し,家族歴がなく,小脳性運動失調をともなう孤発性片麻痺性片頭痛(SHM)と診断したが,小脳性運動失調は孤発性ではきわめてまれであり,CACNA1A遺伝子異常による家族性片麻痺性片頭痛(FHM1)の約50%にみとめられるため,本例は臨床像の類似性よりFHM1と共通の病態機序を有することが推測された.
  • 福永 真実, 藤木 亮輔, 三田 洋, 加藤 彰, 由村 健夫
    2009 年 49 巻 5 号 p. 271-274
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    症例は71歳女性である.入院前日に行動がおかしくなり,翌日進行したため入院した.遺伝性毛細血管拡張症で上部消化管出血をくりかえし,69歳で胃全摘を受けている.入院時,落ち着きがなく高次脳機能障害をみとめた.脳波で3相波,頭部MRIのT1強調画像で淡蒼球の高信号をみとめた.食後のNH3高値,腹部CTで肝内血管異常をみとめ,肝性脳症と診断された.低蛋白食,ラクチトール,分枝鎖アミノ酸製剤で臨床症状,NH3値と脳波は正常となった.遺伝性毛細血管拡張症で全身の血管形成異常をきたすが,門脈大循環短絡はまれで,それに起因する肝性脳症の報告は少ない.しかし高齢になればシャント量も増えるため,門脈大循環短絡脳症発症の可能性を考慮する必要がある.
  • 佐久嶋 研, 新野 正明, 秋本 幸子, 矢部 一郎, 佐々木 秀直
    2009 年 49 巻 5 号 p. 275-277
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    髄液乳酸値は細菌性髄膜炎と無菌性髄膜炎の鑑別に有用である.しかし,乳酸値を24時間体制で測定できる施設は多くない.最近の血液ガス分析装置では乳酸および糖を迅速かつ簡便に測定できるものがある.そこでわれわれは血液ガス分析装置にて各種疾患の髄液検体の乳酸および糖を測定し,臨床検査部測定値と比較してその信頼性について検討した.51症例から集めた62検体で血液ガス分析装置による乳酸および糖,検査部門での細胞数,蛋白,糖の測定をおこない,更にそのうち17検体は臨床検査部で乳酸を測定した.乳酸および糖の値は,血液ガス分析装置による測定と臨床検査部での測定でほぼ一致していた.血液ガス分析装置による髄液乳酸および糖の迅速測定は,日常診療において十分な信頼性がある.
  • 鈴木 幹也, 大矢 寧, 村上 善勇, 小川 雅文, 川井 充
    2009 年 49 巻 5 号 p. 278-280
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    筋強直性ジストロフィー1型(DM1)とDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)で,鼻翼呼吸と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)との関係を検討した.鼻翼呼吸は,DMDではSpO2が95%以下で生じたが,DM1ではSpO2が82%でも生じなかった.DMDは鼻翼呼吸があれば,低酸素血症への対応が必要だが,DM1では鼻翼呼吸で低酸素血症の有無は判断できず,診療の際に注意を必要とする.DM1対象患者では鼻翼を随意的に動かせなかったが,DM1で低酸素血症時に鼻翼呼吸がみられなかったのは,呼吸困難感の知覚に異常があるためか鼻翼を動かす筋の筋力低下のためかは明らかではなく,今後の検討が必要である.
  • 岡崎 周平, 坂口 学, 杉山 幸生, 大江 洋史, 北川 一夫, 佐古田 三郎
    2009 年 49 巻 5 号 p. 281-284
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性である.右片麻痺,全失語にて発症し,入院時の頭部CTでは出血性病変や早期虚血変化をみとめなかったが,左中大脳動脈領域に点状の石灰化塞栓を多数みとめた.発症3時間以内であり血栓溶解療法の適応と考えt-PAを経静脈的に投与したが,投与後も明らかな症状の改善はえられなかった.後日撮影した頭部CTでは点状の石灰化塞栓に一致して多発性の梗塞巣の出現をみとめ,頸動脈エコーおよび頸部CT血管撮影では左内頸動脈起始部に潰瘍をともなう石灰化病変をみとめたため,calcified cerebral emboliと診断した.頸動脈の石灰化病変に起因したcalcified cerebral emboliの報告はまれであるが,特徴的な画像所見を呈する病態であり,血栓溶解療法の適応についても検討を要すると考えられる.
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