日本呼吸器外科学会雑誌
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30 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 黒崎 毅史, 森山 重治, 葉山 牧夫, 橋本 好平, 宮原 一彰, 池谷 七海
    2016 年 30 巻 2 号 p. 128-135
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    肺切除術後の肺瘻遷延に対して,癒着療法や再手術が行われているが,その必要性や適切な治療介入の時期は明らかではないため,Pulmonary Air Leak Score(PALS)を用いて検討した.当科で施行した肺葉/区域切除術157症例のうち,術後4日目までにドレーン抜去が不可能であった46症例を対象とした.治療介入を行った群:A群(n=24)と,治療未介入であった群:B群(n=22)の2群に分けた.気漏の程度を5段階にスコア化(0~4)し,4段階の持続吸引圧(0,-5,-10,-15 cmH2O)における気漏スコアを表記するPALSを用いた.その結果,術後4日目でPALSの合計点が4点以上の場合に術後肺瘻が有意に遷延し(p<0.001),治療介入を要した.PALSを用いて肺瘻をスコア化することは,肺切除術後の肺瘻に対する治療介入の判定基準として有効である可能性が示された.
  • 氷室 直哉, 南方 孝夫, 大島 穣, 片岡 大輔, 山本 滋, 門倉 光隆
    2016 年 30 巻 2 号 p. 136-142
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    大腸癌肺転移は原疾患の増加,ならびに化学療法の進歩によって治療の機会が増加しており,その適応については大腸癌治療ガイドラインにも示されている.しかし,結腸癌と直腸癌とでは解剖学的に転移の機序は異なると考え,肺切除後の予後予測因子に関する詳細な解析によって,より明確な治療法選択の指針が得られると考えた.そこで,当科における大腸癌肺転移に対する肺切除53例を結腸・直腸癌別に比較検討を行った.肺転移切除後の5年生存率は大腸癌全体が56.8%,結腸癌55.0%,直腸癌59.1%であり,結腸癌では多発肺転移で有意に予後不良であり,直腸癌では肺腫瘍最大径20 mm以上,肺切除前Carcinoembryonic antigen(CEA)値上昇例,肺切除後化学療法施行例で有意に予後不良であった.以上より手術適応についてはこれらの因子をふまえて十分な検討が必要と考えられた.
症例
  • 丸井 努, 村川 眞司
    2016 年 30 巻 2 号 p. 143-147
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)は,低血糖をきたすことがある.今回我々は低血糖による意識消失発作を契機に発見された巨大SFTの1手術例を経験したので報告する.症例は50歳代,男性.早朝意識消失があり他院に搬送された.点滴を施行され意識は回復したが胸部CTで異常陰影を認めたため当院に紹介された.胸部CTで左胸腔内に境界明瞭な30 cm大の腫瘍を認め,腫瘍のため縦隔が右側に偏位し左肺は無気肺となっていた.針生検を施行しSFTの疑いであった.入院後の空腹時血糖は30 mg/dl前後と低値であり,意識消失発作の原因は低血糖だと思われた.手術は,胸骨正中切開に第5肋間,第8肋間開胸を追加し,腫瘍を摘出した.腫瘍は41 cm大で重量は4.5 kgであった.病理検査ではSFTの診断であった.腫瘍摘出後に意識消失,低血糖は認めなかった.
  • 万木 洋平, 鈴木 喜雅, 中村 廣繁
    2016 年 30 巻 2 号 p. 148-152
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,女性.12年前に胸部CTで左肺下葉に18 mm大の腫瘤を指摘され,厳重フォローの方針となるも受診は途絶えがちであった.今回は再度検診で異常影を指摘されて受診した.腫瘤は30 mmに増大しており,原発性肺癌が疑われて手術の方針となった.術中迅速組織診断で肺腺癌と診断され左肺下葉切除+リンパ節郭清を施行したが,術後の病理組織診断は甲状腺乳頭癌の肺転移であった.その後の超音波検査で甲状腺右葉に小結節影を認め,甲状腺全摘+頚部リンパ節郭清を施行.最終病理組織診断は甲状腺乳頭癌,pT1aN1bM1,Stage IVAであった.甲状腺乳頭癌の孤立性肺転移と原発性肺腺癌の鑑別はしばしば困難とされる.緩徐に増大する確定診断の得られない孤立性肺結節は,甲状腺癌の肺転移も念頭に置くべきと考えられた.
  • 石田 恵子, 賀来 良輔, 堀 哲雄, 川口 庸, 花岡 淳, 寺本 晃治
    2016 年 30 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    肺多形癌には根治術後でも早期に再発や転移を来し,予後不良な転帰を辿る症例がある.症例は63歳,男性.心不全と糖尿病性神経障害による腎後性腎不全で入院中,胸部CTで右肺下葉S9に最大径33 mmの腫瘍を認めた.2ヵ月後,画像検査で腫瘍径は56 mmに増大していたが,遠隔転移を疑う病変を認めないため,右肺下葉切除術+ND2aを施行し,肺多形癌pT2bN0M0 stage IIAと診断した.術後31病日よりテガフール・ウラシル配合剤を開始したが,術後49病日に腰背部痛と,胸腹部CTで腹水と腹膜に多発小結節を認めた.内視鏡検査で多発胃腫瘍を認め,病理組織検査で肺多形癌の胃転移と腹膜播種による癌性腹膜炎と診断したが,術後63病日に死亡した.本症例は,腫瘍倍加時間が28日と極めて短いのが特徴的であるが,このような症例では,術後早期に再発を来し,不幸な転帰を辿る可能性があることを認識しておく必要がある.
  • 直海 晃, 親松 裕典, 成田 久仁夫
    2016 年 30 巻 2 号 p. 159-163
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は39歳,男性.ステロイド治療中にネフローゼ症候群が悪化し,ステロイドミニパルス療法施行後に有瘻性膿胸を合併した.胸腔感染制御のため開窓術を施行したが,経過中に胸腔内よりMRSAを検出した.連日の包交で腔内の浄化に努め,有茎広背筋弁充填術による死腔閉鎖を施行したが,創部感染を併発したため洗浄を開始した.それでもなお,半閉鎖腔となった死腔のMRSA無菌化を得られず,殺菌作用を有する0.1%ピオクタニン溶液での創部洗浄に切り替えた.有瘻性ではあったが,肺炎を併発することなく,洗浄開始13日後にMRSA陰性化が得られ,創部縫合閉鎖を施行でき軽快退院となった.治療困難な有瘻性MRSA膿胸に対し,0.1%ピオクタニン溶液による洗浄が非常に有用と考えられた.
  • 尾高 真, 柴崎 隆正, 浅野 久敏, 丸島 秀樹, 山下 誠, 森川 利昭
    2016 年 30 巻 2 号 p. 164-168
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性.胸部異常陰影を指摘され精査を目的に当科を受診した.胸部CT,MRIでは左肺下葉に20 mm大腫瘤と気管分岐下に35 mm大腫瘤を認めた.FDG-PETでは肺腫瘤にFDG高集積を認めたが縦隔腫瘤には集積を認めなかった.術前画像診断の結果から左肺癌および縦隔腫瘍を疑った.肺腫瘤に対して左肺下葉切除術と縦隔リンパ節郭清術を行い,縦隔腫瘤に対しては摘出術を施行した.病理診断で左肺癌と神経鞘腫と診断した.左肺癌と稀な気管分岐下発生の神経鞘腫に対して手術を施行した1例を経験した.
  • 中島 由貴, 木下 裕康, 中 麻衣子, 濱畑 淳盛, 齋藤 喬, 浦本 秀隆
    2016 年 30 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は70代男性.右下葉扁平上皮癌,cT3N1M0 stage IIIAに対して右肺中下葉切除術,ND2a-2を施行した.手術直後の胸部レントゲン写真は問題なかったが,術後1日目より右肺上葉の透過性低下がみられ,術後2日目の気管支鏡検査では上葉枝がほぼ閉塞していた.上葉の容積は保たれていることから静脈還流不全による肺うっ血と,浮腫による上葉枝閉塞と診断した.一旦改善し,術後31日目に退院したが,その後肺化膿症を生じ,穿破による膿胸を併発したため,術後47日目に開窓術を施行した.術後100日目に残存肺全摘術を試み,その6ヵ月後に胸郭成形にて閉創した.初回手術後12ヵ月,膿胸腔閉鎖後4ヵ月無再発生存中である.右肺中下葉切除後の膿胸は通常所謂気管支断端瘻が原因となりうるが,本症例は断端瘻ではなく肺化膿症が原因の膿胸である点,また手術や管理に対する改善点を加えて報告する.
  • 小田 梨紗, 矢野 智紀, 森山 悟, 羽田 裕司, 奥田 勝裕, 中西 良一
    2016 年 30 巻 2 号 p. 177-181
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は72歳女性.労作時の動悸を主訴に近医受診した.胸部X線写真で縦隔陰影の拡大を指摘され,当院に紹介された.CT,MRIでは脂肪と同程度の濃度,強度を示す巨大な縦隔腫瘍が,広範囲に右肺門から横隔膜に接していた.診断として縦隔発生脂肪肉腫を疑った.手術は,まず仰臥位で炭酸ガス送気を用いて胸腔鏡下に観察を行った.腫瘍は縦隔から突出し頭尾側方向に長く,横隔神経は一部腫瘍に巻き込まれていた.そのため,左側臥位側方開胸に移行した.腫瘍の迅速病理診断で脂肪肉腫が強く疑われたため,横隔神経を腫瘍と共に合併切除した.さらに横隔膜の縫縮を追加し手術を終了した.最終病理は高分化型脂肪肉腫であった.術後経過は良好で9日目に退院となった.現在,術後1年経過し再発の徴候なく,経過観察中である.
  • 清水 奈保子, 橋本 章太郎, 森本 真人, 良河 光一
    2016 年 30 巻 2 号 p. 182-186
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は77歳男性.検診の胸部CTにて前縦隔腫瘍を指摘され精査目的に当院紹介となる.造影CTで左前縦隔に53×33 mmの表面平滑な腫瘤を認め,胸腺腫の疑いで手術を施行した.腫瘍は胸腺左葉に存在し,左胸膜,左横隔神経に強固に癒着していた.肺への浸潤,胸膜播種は認めなかった.拡大胸腺摘出術(左壁側胸膜,横隔神経合併切除),リンパ節郭清術を施行した.術後乳び胸,左横隔神経麻痺,反回神経麻痺を合併した.病理組織ではIgG4陽性形質細胞を多数認め,IgG4/IgG比は90%,血中IgG4が167 mg/dlと上昇しておりIgG4関連疾患と診断した.呼吸器領域におけるIgG4関連疾患の報告は近年増えているが胸腺原発の報告は未だに稀である.本疾患を念頭に置くことで拡大手術を回避できる可能性があると考え,若干の文献学的考察を加えて報告する.
  • 石橋 史博, 椎名 裕樹, 松井 由紀子, 守屋 康充, 飯笹 俊彦
    2016 年 30 巻 2 号 p. 187-192
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    原発性肺癌の同側腋窩リンパ節転移は規約上遠隔転移とみなされる.一方,胸壁近傍に発生した肺癌は胸壁を介して同側腋窩リンパ節転移を起こすことがある.術前PET-CTにて同側腋窩リンパ節転移が疑われた原発性肺癌の切除例を2例経験した.症例1は70歳女性.検診にて胸部異常陰影を指摘され,右上葉肺腺癌と診断.PET-CTでは右腋窩リンパ節に異常集積を認めた.右上葉切除+リンパ節郭清に加え同側腋窩リンパ節を摘出.腋窩リンパ節は慢性関節リウマチに随伴する過形成であった.症例2は46歳女性.右腋窩から上腕にかけての疼痛を主訴に来院し,精査の結果,胸壁浸潤を伴う右上葉肺腺癌の診断,PET-CTでは右腋窩リンパ節に異常集積を認めた.右上葉切除,胸壁合併切除,およびリンパ節郭清に加え同側腋窩リンパ節を摘出,腋窩リンパ節は転移の診断であった.術前に同側腋窩リンパ節転移が疑われた症例の手術適応に関し考察を行った.
  • 福原 光朗, 木下 裕康, 飯島 慶仁, 中島 由貴, 鈴木 弘行, 浦本 秀隆
    2016 年 30 巻 2 号 p. 193-197
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例1は70歳男性.前胸部痛を主訴に前医受診.胸部CTで右S2に13 mm,右S10に19 mmの結節.上縦隔リンパ節に有意腫大あり.上葉結節は良性腫瘍の疑い,下葉結節はcT1aN2M0 Stage IIIAの肺癌疑いで手術の方針とした.術前3-dimensional computed tomographic angiography(3D-CT Angiography)で右V6の上肺静脈への流入を認めた.術中,肺底静脈は左房,V6は上肺静脈への流入を確認し,右肺上葉部分切除術,右肺下葉切除術+ND2a-2施行.症例2は65歳男性.他疾患観察中,右肺中葉に25 mmの結節出現.術前3D-CT Angiographyで右V6の上肺静脈への流入を認めた.cT1bN0M0 Stage IAの肺癌疑いで右肺中葉切除術+ND1b施行.V6走行異常を術前に把握し,安全に手術しえた2例を経験したので報告する.
  • 田内 俊輔, 杉山 博信, 戸部 智, 佐野 暢哉
    2016 年 30 巻 2 号 p. 198-202
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は46歳男性.検診で胸部レントゲン異常を指摘され当院受診となった.胸部CTで右肺上葉に23 mm大の境界明瞭な結節を認めた.結節に対して気管支鏡を施行したが確定診断に至らず,FDG-PETでも有意な集積は認めなかったため経過観察されていた.その後,結節は約2年6ヵ月で35 mm大と徐々に増大傾向を示したため,胸腔鏡下右肺上葉切除術+リンパ節郭清(ND2a-1)を施行した.組織学的所見上,腫瘍は不規則な紡錘形ないし不整形細胞の充実性増殖を呈していた.免疫染色ではSTAT6等で陽性を示し,肺内solitary fibrous tumorと診断された.さらに,腫瘍は細胞密度が高く,多数の核分裂(>4 mitoses/2 mm2)を認めたため,病理学的に悪性と判定された.FDG-PETで有意な集積を認めなくても,増大傾向を示す腫瘍には,偽陰性例の存在を念頭におき手術を考慮すべきである.
  • 清水 奈保子, 内野 和哉, 奥田 祐亮, 多根 健太, 西尾 渉, 吉村 雅裕
    2016 年 30 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.健診の胸部X線で右上葉腫瘤影を指摘された.CTでは右S2に46×30 mm大の腫瘤を認め,さらに右S2腫瘤の尾側に小結節(14×13 mm)があり,同一肺葉内転移が疑われた.気管支鏡検査では右B6入口部と末梢につづく隆起性病変を発見し,生検にて右S2腫瘤は腺癌,右B6入口部病変は扁平上皮癌が検出された.またTBACにて#4Rに腺癌の転移を認め,右上葉腺癌(c-T3(pm1)N2M0,stageIIIA)と右下葉扁平上皮癌(c-T1aN0M0,stageIA)の同時多発肺癌と診断し,楔状右上葉切除術,楔状S6区域切除術,リンパ節郭清術を施行した.経過は順調であり,術後化学療法を行った.気管支鏡検査により発見された中枢型扁平上皮癌と末梢型腺癌の同時多発肺癌に対する,同側2ヵ所の気管支形成術は根治性と肺機能温存を考慮した術式と考えられたため報告する.
  • 鈴木 仁之, 庄村 心, 井上 健太郎, 矢田 真希, 島本 亮, 近藤 智昭
    2016 年 30 巻 2 号 p. 209-213
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    縦隔腫瘍のなかでリンパ管腫は稀な疾患である.特に,海綿状の形態を呈するものはさらに稀であり,術前診断は困難である.今回,完全胸腔鏡下に摘出した縦隔海綿状リンパ管腫の1例を経験したので報告する.症例は16歳,女性.咳嗽を主訴として近医を受診したところ胸部異常陰影を指摘され,精査のために当院紹介受診となった.胸部CTでは前縦隔に10×4 cmの腫瘍を認めていた.左半側臥位として完全胸腔鏡下に手術を施行して腫瘍を摘出した.永久病理組織所見では海綿状リンパ管腫と診断された.再発予防のためには完全切除が重要であるが,術前および術中診断で最低限の切開創で摘出可能であると考えられる場合には,完全胸腔鏡下手術も許容されると考えられた.
  • 大月 康弘, 亀山 耕太郎, 松岡 智章, 木村 賢司, 奥村 典仁
    2016 年 30 巻 2 号 p. 214-217
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は81歳男性.58歳時に重症筋無力症と診断され,64歳時にクリーゼを認めた.67歳時に拡大胸腺摘出術を施行し,術後病理組織は退縮した胸腺組織のみで胸腺腫は認めなかった.その後はステロイドと免疫抑制剤の内服で重症筋無力症は良好にコントロールされた.81歳時に他疾患の精査目的に撮影されたCTで,上行大動脈左側にφ17 mm大の結節影を指摘され当科再紹介となった.遡及的には78歳時に同様にφ7 mmの結節を認め,抗アセチルコリンレセプター抗体も78歳時から再上昇を認めていた.81歳時に胸腔鏡下縦隔腫瘍摘出術を施行,心囊浸潤が疑われ合併切除を行った.病理組織診断は浸潤型胸腺腫,正岡2期,WHO分類type B3であった.胸腺腫を合併しない重症筋無力症に対する拡大胸腺摘出術14年後に胸腺腫を切除した極めて稀な症例であり報告する.
  • 西川 仁士, 中村 龍二, 荒木 恒太, 岡田 真典, 藤原 俊哉, 松浦 求樹
    2016 年 30 巻 2 号 p. 218-222
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    骨髄脂肪腫は主に副腎皮質に発生する成熟脂肪細胞と正常骨髄系細胞からなる良性腫瘍で,縦隔発生は非常に稀である.画像上は脂肪性成分を伴うことが特徴であるが,今回我々は画像上内部に脂肪性成分を認めず,摘出標本の病理組織学的検査によって診断に至った非典型的な後縦隔骨髄脂肪腫の1例を経験したので報告する.症例は65歳男性.高血圧,骨粗鬆症のため近医通院中の胸部X線写真で異常陰影を指摘された.胸部CTで後縦隔に27 mmの腫瘤を認め,MRIでは筋組織と同程度の低信号を呈し,脂肪抑制画像で目立った低信号化はみられなかった.神経原性腫瘍などが疑われ,胸腔鏡下腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的に後縦隔骨髄脂肪腫と診断した.術後14ヵ月,再発や血液学的異常を認めていない.
  • 荒木 修, 苅部 陽子, 田村 元彦, 小林 哲, 千田 雅之, 三好 新一郎
    2016 年 30 巻 2 号 p. 223-228
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は55歳の男性.数年前から近医で両側巨大肺囊胞症と診断され在宅酸素療法が導入されていた.労作時呼吸困難がさらに悪化し手術目的に当院紹介となった.%肺活量38.7%,一秒量470 mlと高度の低肺機能を呈していたが,残存肺血管床は温存されていると考え,経皮的心肺補助装置使用下に2期的に囊胞切除術を行った結果,肺機能は著明に改善した.
  • 原田 洋明, 若原 誠, 三隅 啓三, 坪川 典史, 鳥居 剛, 山下 芳典
    2016 年 30 巻 2 号 p. 229-235
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は46歳女性.検診で胸部異常陰影を指摘され来院.胸部CTにて右肺上葉に0.7 cm大の結節影を認め,診断と治療を兼ねた肺部分切除術が施行された.病理組織学的検査にて,炎症性肉芽組織に被包されたクリプトコッカス結節が認められたが,結節外に菌体は認めず.血清学的に免疫機能正常,血清クリプトコッカス抗原は術後3週目に陰性だったため補助療法は行わず経過観察となった.術後4ヵ月目に頭痛と発熱を主訴に来院.胸部CTで右肺に径5 cm大の結節影を認め,血清および髄液中のクリプトコッカス抗原価も上昇しており,肺クリプトコッカス症の再燃および髄膜炎と診断された.抗真菌薬治療後,右上葉切除術を施行.術後も抗真菌薬投与を1年続け,その後再発なく経過中である.本例は基礎疾患を有さず,単発の肺結節病巣を切除後の抗原価も陰性であり,補助療法不要と判断されたが,術後比較的早期に再燃・髄膜炎を来した稀な症例であり報告する.
  • 高森 信吉, 諸富 洋介, 高田 和樹, 田川 哲三, 岡本 龍郎, 前原 喜彦
    2016 年 30 巻 2 号 p. 236-242
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    肺底動脈大動脈起始症は,大動脈から肺循環系に異常動脈が流入する疾患である.正常肺と気管支による交通を有する点で,肺分画症とは異なる.症例は23歳男性.3ヵ月前頃から血痰と咳嗽を認め,前医にて施行された胸部CTで左肺底区に流入する異常動脈を指摘された.胸部CTなどにより,肺底動脈大動脈起始症と診断され,当院入院となった.手術は胸部下行大動脈から左肺底区に流入する異常血管を同定し,2-0絹糸にて中枢側を結紮した後に自動縫合器を用いて切離した後左肺底区域切除を行った.術後は合併症なく経過し,術前にみられた血痰などの症状は消失した.肺底動脈大動脈起始症は比較的稀な症例であり,その治療法について文献的考察を加え報告する.
  • 福原 光朗, 木下 裕康, 飯島 慶仁, 中島 由貴, 鈴木 弘行, 浦本 秀隆
    2016 年 30 巻 2 号 p. 243-247
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は48歳,女性.左副甲状腺癌術前精査中に中縦隔腫瘍を指摘され,当科紹介.CTで気管右側に接して右鎖骨下動脈から右肺動脈本幹まで72 mmの腫瘤影を認めた.壁肥厚や充実成分は認めず,内部は均一な単房性で造影効果なし.FDG-PETで病変部集積なし.喉頭内視鏡で左声帯麻痺あり.囊胞性疾患を疑い,増大傾向を示すこと,悪性が否定できないことより手術の方針とした.腫瘍は奇静脈から上大静脈に沿って存在し,胸腺と連続する囊胞性病変として確認された.右反回神経麻痺を回避するために可及的切除にとどめた.囊胞壁は単相の立方上皮で裏打ちされ,構造異型や細胞異型は見られなかった.囊胞と連続する萎縮性の胸腺組織が散見されることと免疫染色から胸腺囊胞と診断した.中縦隔発生の胸腺囊胞は報告例が少なく,異所性胸腺の関与が推察されているが,本症例では胸腺由来の囊胞が中縦隔に進展したと考えられる.
  • 鈴木 聡一郎, 坂口 浩三, 二反田 博之, 山崎 庸弘, 石田 博徳, 金子 公一
    2016 年 30 巻 2 号 p. 248-254
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性.アスベスト暴露歴あり.検診で右胸部異常影を指摘され当院受診.胸部CTで第2-4肋骨に接する右胸壁腫瘤を認め経皮生検にて肉腫型悪性胸膜中皮腫と診断された.全身検索にて遠隔転移を認めず,CDDP+PEMを6コース施行後,CT上110×99から80×60 mmと腫瘍径の縮小および右胸水の消失とFDG-PETで異常集積の低下を認めPRと判断し,右胸膜肺全摘出術を施行.病理組織学的には限局性肉腫型悪性胸膜中皮腫(pT2N0M0)と診断され切除断端陰性であった.術後放射線治療を施行し現在無増悪生存中である.限局性悪性胸膜中皮腫は稀な疾患であり,化学療法が奏功し完全切除し得た症例報告は少ないため考察を含め報告する.
  • 宮城 淳, 永吉 盛司
    2016 年 30 巻 2 号 p. 255-258
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/03/15
    ジャーナル フリー
    ファーストトロッカーが横隔膜を貫いて腹腔内に達するという比較的まれな合併症を報告する.右下葉の肺腫瘤生検のため第7肋間よりトロッカーを挿入したが,横隔膜を損傷したため小開胸を行って修復した.下葉底部と横隔膜の間に索状物が存在していたため,切離した後に胸腔鏡下に腫瘤を摘出した.迅速病理検査にて悪性腫瘍ではなかったため手術を終了した.術後に腹腔内出血を発症したため緊急で開腹手術を行った.トロッカーが横隔膜を貫通して肝臓を損傷していた.ファーストトロッカー挿入時の横隔膜損傷が報告されているが,原因として胸壁と横隔膜の癒着が指摘されてきた.本症例は胸腔内に癒着はなく,肺底部と横隔膜の間に索状物が存在していた.手術時の肺虚脱に伴って,肺底部の索状物が横隔膜を挙上したため,横隔膜が通常より高い位置に引き上げられた事が横隔膜損傷の原因と考えられた.
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