日本集中治療医学会雑誌
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28 巻, 3 号
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編集委員会より
2020年度論文賞受賞者のことば
総説
  • 水野谷 和之, 森本 裕二
    2021 年 28 巻 3 号 p. 173-179
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide, ANP)は,心不全治療や心臓手術周術期など様々な場面での臨床効果を検討されてきたが,現在でも定まったエビデンスは得られていない。一方で,ANPには血管透過性を制御する作用があることはあまり知られていない。ANPによる体液量および心前負荷の調節には,利尿作用,血管拡張作用とともに,血管透過性亢進作用が強く関与していることが示されている。さらに,ANPには傷害された血管内皮細胞の透過性亢進を抑制する作用も報告されている。これらに加えて,近年,ANP が血管内皮上に存在するグリコカリックスを傷害する因子であることが疑われている。このように,ANPは血管内皮細胞やグリコカリックスに影響を与え,生体内での血管透過性の制御を担う重要な役割を持つ可能性がある。

  • 小谷 祐樹, 川口 敦, 志馬 伸朗
    2021 年 28 巻 3 号 p. 180-188
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:よく計画された調査研究からは,将来の研究につながるresearch questionなどの重要な情報が得られる。得られた情報は量的なものも質的なものもあり,内容は臨床家の意見から患者による報告まで多岐にわたる。技術の発達により,調査研究が広く容易に実施されるようになったため,普段から調査研究実施の招待を受ける機会や,研究目的のアンケートに招待される機会が増えた。他の研究デザインと同様に,調査研究を批判的吟味する方法を知ることは,結果解釈だけでなく,堅牢な研究実施にも必須である。調査研究は,コストや方法論の点で容易な研究手法と思われがちだが,質の高い研究を実施するのは難題と言える。 したがって,臨床家は調査研究の参加者として,知識の利用者として,研究者として,頑健な方法論を理解する必要がある。本総説では,調査研究の実施や批判的吟味の必須となる事項に関して,研究計画書執筆から論文出版に至るまで記載した。

解説
  • 木村 政義
    2021 年 28 巻 3 号 p. 189-195
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:人工呼吸器からウイルスや細菌の放出を阻止するために,呼吸回路フィルタ(吸気フィルタ・呼気フィルタ)や人工鼻フィルタが使用される。フィルタは,「機械式フィルタ」と「静電式フィルタ」に分けられる。機械式フィルタは疎水能力が高く,湿潤状態でも高い濾過効率を維持する。静電式フィルタは疎水能力が低いものがあり,湿潤状態では濾過効率が低下する恐れがある。よって,加温加湿器使用時の呼気フィルタは,機械式フィルタを使用する。 機械式フィルタは死腔量が大きいため,人工鼻フィルタには静電式フィルタが多く用いられる。静電式フィルタを用いた人工鼻フィルタは,人工鼻側から混入した水分がフィルタ側にも侵入すると濾過効率が低下するため,呼気フィルタと併用することが望ましい。フィルタの交換間隔を延長する必要がある時は,特に呼気抵抗増加に注意し,フィルタハウジング内への水分混入を軽減する工夫が必要である。

原著
  • 平川 功太郎, 齊藤 正和, 有光 健, 岩井 景吾, 山形 泰士, 長尾 工, 原口 剛
    2021 年 28 巻 3 号 p. 197-204
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:【目的】急性非代償性心不全(acute decompensated heart failure, ADHF)患者における心腎症候群タイプ1(cardio-renal syndrome type 1, CRS-1)と入院関連能力低下(hospitalacquired disability, HAD)の関連を検討する。【方法】2013年から2018年に入院期リハビリテーションを実施したADHF患者958例(女性45%,年齢77±13歳)を対象とし,入院前Barthel index(BI)得点に比べて退院時BI得点が5点以上の低下を認めたHAD群とnon HAD群に分類した。CRS-1の定義はKidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)の血清クレアチニンによる急性腎傷害基準に準じた。HADの有無を従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析を実施した。【結果】HAD群は,non HAD群に比べて,CRS-1発症率が高値であり (21.2 vs. 11.6%, P=0.002),HADを従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析の結果,年齢,アルブミン,早期離床の可否とともに,CRS-1が独立した関連因子として抽出された(OR:2.064, 95%CI:1.160〜3.675, P=0.014)。【結論】ADHF患者において,CRS-1はHAD の独立した関連因子である。

症例報告
  • 松田 卓也, 相賀 咲央莉, 林 勇佑, 北村 宏之, 粒良 昌弘, 冨田 健太朗, 佐藤 光則, 川崎 達也
    2021 年 28 巻 3 号 p. 205-209
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:可逆性後頭葉白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome, PRES)は,予後良好な疾患とされていたが,神経学的後後遺症や死亡に至る例も報告されている。小児例でのまとまった報告は少なく,小児科医の中でも認知度が高くない疾患概念であり,診断・治療介入の遅れをきたす可能性がある。小児患者でのPRESの臨床像を明らかにするため後方視的検討を行った。症例は13例。年齢は1歳~17歳(中央値8歳),全例で意識障害を認め,9 例に痙攣,11例に高血圧を認めた。11例で免疫抑制剤・抗がん薬が使用されていた。全例基礎疾患を有し,大半が腎疾患と血液疾患であった。全例神経学的後遺症なく経過している。 今回の検討では,過去の報告と同様の臨床像であった。小児では,意識障害・痙攣を認める患者での適切な血圧評価がPRESの早期診断・介入・予後改善につながる可能性がある。

  • 奥村 滋邦, 織田 順, 三浪 陽介, 平山 優, 会田 健太
    2021 年 28 巻 3 号 p. 210-213
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:鈍的腹部外傷による肝損傷は頻度が高く,その中でも治療を要する胆管損傷は4~23%に合併する。今回我々は,胆管損傷を伴ったⅢb型(日本外傷学会分類)の肝損傷を認め,endoscopic nasobiliary drainage(ENBD),経皮的肝被膜下ドレナージで保存的に治療し得た症例を経験した。ENBDの利点として胆管造影が容易で, ステント抜去が不要なため追加のendoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)が必須ではない点が挙げられる。 外傷性胆汁漏の治療に関して乳頭切開術や胆管ステント留置の報告は多く約90%で保存的治療が可能である。しかし,ENBDは治療、侵襲面で上記の治療より少ないため第1選択となりうる。また,胆汁漏のコントロールが不良な場合は,経皮的に肝被膜下へドレナージを追加することで開腹手術を避けることが可能となりうる。

短報
レター
委員会報告
  • 日本集中治療医学会集中治療PT・OT・ST委員会, 集中治療に従事する理学療法士等の能力要素検討ワーキンググループ
    2021 年 28 巻 3 号 p. 237-254
    発行日: 2021/05/01
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    要約:日本の集中治療領域で働く理学療法士(physical therapist, PT)のためのミニマムスタンダード(MS)を合意形成することを目的として,集中治療に関して十分な経験を持つPT,医師,および看護師(それぞれ54名,44名,42名)を対象に,修正Delphi法を用いた調査を実施した。調査項目は,集中治療に関する潜在的な知識と技術272項目とし,すべての項目について,集中治療領域で働くPTのMSとして“必須である”,“必須でない”,“わからない”のいずれかで回答するように求めた。3職種のそれぞれにおいて70%以上が“必須である”と回答した項目をMSに合意したとし,PTのみ合意の場合は,MSの予備的項目として合意したと定義した。MSとして合意されたのは141項目,MSの予備的項目として合意されたのは58 項目であった。本調査で合意形成されたMSは,集中治療に関わるPTの質を担保し,チームでの診療を円滑かつ効果的なものにすると考えられる。

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