日本集中治療医学会雑誌
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16 巻, 4 号
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今号のハイライト
総説
  • 磯部 光章
    2009 年16 巻4 号 p. 439-445
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    心不全は,心臓のポンプ機能の低下とそれに基づく水分の体内貯留が本態である。最近の臨床的観察から,心収縮機能低下を伴わない拡張機能障害によっても心不全が惹起されることが明らかにされてきた。この病態は心不全症例の約40%を占め,予後は収縮不全症例と変わらない。背景因子としては高血圧,糖尿病,肥満が重要である。また,高齢者や女性に多く発症する。現在,救急搬送される心不全患者の多くが「拡張不全による心不全」になりつつある。従来,afterload mismatchとされてきた症例の多くが拡張不全であることが明らかとなったためである。誘因として過剰な水分摂取が多い。急性期治療は収縮不全と大きく変わるところはないが,利尿薬への反応はより速やかである。拡張機能の臨床的評価は,心エコー法や組織ドプラーにより行われる。急性期治療の後に血圧の適正化,心房細動患者ではリズムあるいは心拍数のコントロール,適切な利尿薬の使用,虚血合併例では虚血の解除が行われる。急性期を脱した後の薬物治療に関しては,十分なエビデンスがあるとは言えない。
原著
  • 山田 宏, 石井 健, 山口 修
    2009 年16 巻4 号 p. 447-452
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    細菌のDNAは炎症反応を引き起こす。免疫担当細胞は,細菌DNAに頻回に現れる塩基配列であるCpG motifをToll-like receptor 9(TLR9)を介して認識する。【目的】細菌DNAによるinterleukin-12(IL-12)産生を,マウス肺を用いて検討する。【方法】DNAまたは合成した短塩基鎖(oligodeoxynucleotide, ODN)を肺に注入し,16時間後,肺胞洗浄を行い,IL-12濃度をenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)にて測定した。【結果】細菌DNA[Escherichia coliE. coli) DNA]を肺に注入すると肺胞洗浄液中のIL-12濃度は増加した。これに対し,ほ乳類のDNA(子牛胸腺DNA)を肺に注入してもIL-12産生はみとめられなかった。一方,CpG motifを含む合成短塩基鎖(CpG ODN)を気管内投与すると,E. coli DNA投与時と同様にIL-12産生増加がみとめられた。CpG motifを含まない合成短塩基鎖投与では,IL-12産生はみとめられなかった。TLR9によるCpG motifの認識を抑制する塩基(suppressive ODN)を投与すると,E. coli DNAまたはCpG ODNによるIL-12産生は抑制された。【結論】肺において細菌DNAがIL-12産生をもたらすこと,これにはTLR9による細菌DNAの認識が関わることが実験的に示唆された。
  • 阪本 雄一郎, 益子 邦洋, 小幡 徹, 松本 尚, 原 義明, 朽方 規喜
    2009 年16 巻4 号 p. 453-458
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    【はじめに】2005年に日本救急医学会より急性期disseminated intravascular coagulation(DIC)診断基準が呈示されたが,antithrombin III(AT-III)製剤投与に関する詳細な報告はされていない。【目的】敗血症治療におけるAT-III製剤の有用性を検討する。【対象と方法】2005年7月~2007年2月に入院加療し,急性期DIC診断基準を満たした敗血症性ショック32例を,AT-III製剤投与の有無によってAT-III投与群(診断後24時間以内に投与),非投与群に分け,転帰および敗血症関係因子との関連をretrospectiveに検討した。【結果】AT-III投与群21例,非投与群11例であり,両群間においてICU入室時のAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)II score,敗血症性ショック診断時のSepsis-related Organ Failure Assessment(SOFA) score等に差はなかった。AT-III投与群において有意差はなかったが,転帰は良好な傾向を認めた(P=0.0595)。AT-III投与群において,凝固関連因子であるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)およびprotein C値はいずれも治療開始日,開始1日後と比較し,治療開始3日後には有意に改善していた。【まとめ】敗血症性ショック症例において,急性期DIC基準に基づいたAT-III製剤の早期投与は重要な治療戦略であると考えられた。
  • 石川 幸司, 岩本 満美, 吉田 亜子, 馬渕 奈津子, 坂本 弥香, 和泉 舞, 市村 香織, 高岡 勇子
    2009 年16 巻4 号 p. 459-463
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,ICUに入室した成人患者344名を対象に,再挿管に影響を与える因子を明らかにすることを目的とした。診療記録と看護記録の閲覧によってデータを収集し,再挿管の要因となりうる項目ごとにMann-Whitey検定またはχ2検定を行った。抜管後72時間以内に再挿管となった患者は33名と,全体の9.6%であった。再挿管群ではAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)II score・挿管期間・肺炎・腎不全・持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)の項目で有意に高値を示していた(P<0.05)。咳嗽力や経皮的気管穿刺針の挿入など,喀痰喀出に関係する因子においても有意差がみられ(P<0.01),再挿管に影響している可能性が示唆された。
  • 大橋 祥文, 後藤 幸子, 高橋 りょう子, 大田 典之, 平尾 収, 内山 昭則, 冨山 佳昭, 藤野 裕士
    2009 年16 巻4 号 p. 465-469
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    近年,重症患者治療におけるアルブミン製剤使用の是非が見直されている。本邦でも血液製剤の使用指針により,単に血清アルブミン値を維持するためにアルブミン製剤を使用することは不適切とされているが,大手術後にはアルブミン製剤の使用が多くみられる。当院集中治療部では2006年4月から,食道癌術後患者で血清アルブミン値3.0 g·dl−1以上でのアルブミン製剤使用制限を開始した。今回,制限前後各1年間での術後経過,合併症について比較検討した。対象患者数は制限前後各52名の合計104名だった。投与制限により術後アルブミン製剤使用量と血清アルブミン値は有意に低下した。しかし,ICU入室日数,人工呼吸時間,病院死亡率に有意差を認めなかった。制限後は,容量負荷が必要な場合はヒドロキシエチルスターチ製剤を用いたため,腎機能への影響を懸念したが,制限前後で血清クレアチニン値に差を認めなかった。今後,多施設で十分な標本数の下に再検討が必要となるものの,本研究結果は,術後血清アルブミン値をより低値に維持しても有害事象を生じない可能性を示唆している。
症例報告
  • 丹羽 英智, 橋場 英二, 大川 浩文, 坪 敏仁, 石原 弘規, 廣田 和美
    2009 年16 巻4 号 p. 471-476
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    下腿骨折術後に急激な四肢壊死を呈した毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome, TSS)の一例を経験した。症例は34歳男性。作業中,左脛骨骨折を受傷,骨接合術を受けた。術後第1病日に消化器症状,皮疹が出現,術後第3病日にショック,急性腎不全となりICUに入室した。起因菌不明の敗血症性ショックと診断し,ショック及び重症感染症に対する集学的治療に加え,持続血液濾過透析を開始したが,病期は急速に進行し四肢末端は壊死状態となった。術後第5病日に術創からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)が培養検出され,TSSと診断し治療した結果,炎症の進行は阻止することができた。しかし,後に壊死組織の感染がみられ,四肢切断を余儀なくされた。TSSの救命には早期診断,治療が鍵であり,敗血症様症状や皮疹を認めた際には,創の感染兆候の有無を問わずTSSを疑い治療を開始し,その上で診断を進めることが重要であり,その起因菌としてMRSAも考慮すべきである。
  • 西田 賀津子, 高石 和
    2009 年16 巻4 号 p. 477-480
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    2000年から2004年までの5年間に,肥満低換気症候群(obesity hypoventilation syndrome, OHS)の呼吸管理を4例行った。【症例】2例は,非侵襲的陽圧換気法(noninvasive positive pressure ventilation, NPPV)で対応可能であった。低酸素による肝腎機能障害を合併していたが,酸素化改善とともに回復した。あとの2例は気管挿管下侵襲的陽圧換気法(invasive positive pressure ventilation, IPPV)を併用した。IPPV離脱後NPPVで呼吸補助を行い,人工呼吸管理より離脱することが可能となった。【結語】OHSの急性呼吸不全に対してNPPVで管理することは可能であり,積極的に試みる価値がある。呼吸器離脱後の呼吸補助法としてNPPVを積極的に取り入れることで,再挿管を回避できる可能性がある。
  • 齋藤 豊, 柄澤 俊二, 浅野 哲, 枝窪 俊輔, 種田 益造, 加藤 啓一, 小早川 直, 本間 之夫
    2009 年16 巻4 号 p. 481-485
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    急速に心不全の進行した褐色細胞腫に対し,経皮的心肺補助(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)下に早期手術を行い救命できた一例を経験した。症例は32歳男性。高血圧発作で救急受診し,腹部CTで左副腎褐色細胞腫と診断された。降圧薬,輸液による術前管理を開始したが,うっ血性心不全が急速に進行した。救命には腫瘍からのカテコラミン遊離停止が必要と考え,酸素化改善と腫瘍摘出後の循環補助を目的にPCPSを導入し,緊急腫瘍摘出術を施行した。危惧された摘出に伴う循環変動は全く認めなかった。腫瘍には広範な出血と壊死を認め,カテコラミンは術前にほぼ枯渇していたと考えられた。術後速やかにPCPSから離脱,心機能も順調に回復し,第21病日に退院となった。褐色細胞腫における急速な心不全の進行では,過剰カテコラミンによる心筋症とともに,腫瘍壊死に伴うカテコラミン枯渇を念頭に置く必要がある。
  • 武居 哲洋, 濱 義人, 伊藤 敏孝, 竹本 正明
    2009 年16 巻4 号 p. 487-491
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2010/04/20
    ジャーナル フリー
    気腫性腎盂腎炎は,外科的治療を要する致死的感染症である。急性腎盂腎炎との鑑別は困難だが,ほぼ全例で糖尿病を合併しており,とくにコントロール不良の糖尿病患者に多く発症する。診断にはCTが最も有用とされる。69歳の男性が嘔吐と腹痛を主訴に当院に搬送され,敗血症性ショック,播種性血管内凝固症候群,急性腎不全,高血糖症を呈していた。腹部CTで左腎盂腎炎と診断した。HbA1cが12.6%と著増していたため,気腫性腎盂腎炎を疑いCT画像を見直したが,ガス像を認めなかった。集中治療により敗血症性ショックは一時的に改善したが,発作性心房細動に続いて急激な腹痛と低酸素血症の増悪をみた。腸間膜動脈塞栓症を念頭におきCTを再検したところ,偶発的に気腫性腎盂腎炎と診断され,左腎摘出術により救命しえた。重症糖尿病患者の尿路感染症に敗血症性ショックを合併した場合,たとえ初期治療に効果がみられても気腫性腎盂腎炎を念頭におきCTを再検すべきである。
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